第10話 【二度目】三つの試練
私は水晶の力で二度目の【時戻り】を行った。
「――新人のエレノアだ」
使用人とメイドたちの輪の中、新人である私が紹介される場面に戻る。
これが二度目である私は、はっきりと三か月前に戻ることが出来たのだと確信する。
「今日からソルテラ伯爵家のメイドを務めることになりました、エレノアと申します。よろしくお願いします!!」
私は皆の前でハキハキと答え、頭を下げた。
私の事を歓迎する拍手の音が聞こえる。
「やる気のある子が来たな」
「でも大丈夫か? スタイルが良くて美人だが、あの二人の好みじゃないだろ」
「まあ、根性はありそうだしな。前の子みたいにすぐに辞めないだろ」
拍手の中に、私の容姿を心配する声が混じっていた。
あの二人、スティナとブルーノ。
前回はスティナと深く関わった。だけど、私の仕事を他の人の仕事だと誤魔化すことで衝突を避けることができた。
掃除はブルーノ、洋裁はスティナと関わる。
二つの仕事は一通り、経験した。
その道を辿っても、オリバーさまが戦死するだけなのは分かっている。
ならば、今回の私が歩む道は一つ。
「まずは私が言ったことを一通り、やってもらいましょう」
「メイド長、よろしくお願いします」
メイド長から与えられる仕事、適性試験を全て通過することだ。
☆
メイド長から与えられる適性試験は三つ。
一つは客間を掃除すること。
私が掃除する客間は、試験のために散らかしているのではなく、ブルーノが招待した女性が宿泊した後のものだ。彼がその女性とこの部屋で何をしていたかは、食べ散らかした食器の跡とベッドの異様な乱れようで容易に想像できる。
(オリバーさまはブルーノの女遊びをどうして黙認してるんだろう)
私はそんなことを考えながら掃除をした。
前よりも丁寧に掃除をしたことでメイド長から絶賛された。
二つ目は使用人の破れたシャツやほつれたボタンを修繕すること。
前はボタン付けができたので”そこそこ”という評価を貰えた。それで洋裁の道が開けた。
だけど、今回は三か月間、洋裁の知識を得た私はボタンのほか、破れたシャツの修繕も出来た。
(洋裁を覚えると、これも簡単な試験ね)
前回の経験を上手く活かせている結果だ。
「合格ですね。綺麗に修繕できています。私の手を加えなくても渡せそうですね」
「ありがとうございます!」
これもメイド長から合格点をもらった。
最後は前回も合格点を貰えていない料理である。
課題はパンを焼くこと。
材料の配分は提示されており、それを正確に計量できるか、生地を生成できるか、焼き加減はどうか、この三点が問われる。
私は生地の生成と焼き加減に苦戦している。
人生で料理とは無縁の生活を送っていた私にとって、この試験は苦戦した。
(前回は生地が上手く作れなかったから不合格になった)
不合格になった理由は生地が緩く、発酵させてもうまく膨らまなかったからである。
それを焼くと固く平べったいパンになってしまうのだ。
(でも、今回は――)
前回の休日は調理場を借りてパンを作る練習をしていた。
練習のおかげで、用意されたものをそのまま入れてはいけないことに気づいた。
用意されている水が多いのだ。これを全て入れてこねると水っぽい生地になってしまう。
それを学習した私は、粉に水を少しずつ入れて、それをこねながら感触で適量を見定める。
耳たぶのような固さになったところで、水を入れるのを止めた。
発酵した生地は上手く膨らみ、それを焼いたパンはふわふわで美味しそうだ。
「形良し、味よし」
メイド長は私が作ったパンを口にし、味の感想を呟く。
「……まあ、粉が散らかっていますし、片付けの段取りが悪いですが、味はまあまあですね」
メイド長の味覚にかなうパンを作ることはできたものの、調理台は粉まみれで、器具もパンの焼き加減がどうかと石窯から離れられず、そのままにしていた。
未熟な所はあるけれど、メイド長のこの言い方だと、結果は――。
「合格です」
「ありがとうございます!!」
私はついに料理でも合格を貰うことが出来た。
「さて……」
三つの適性試験が終わった。
この結果を踏まえて、私の配属先が決まる。
「掃除と洋裁は文句なし、料理はまあまあといったところでしょう」
(料理の評価があがった!!)
私は心の中で三つ合格を貰えたことを喜んだ。
「あなた、掃除、洋裁、料理どの仕事がしたい? 私としては掃除をお願いしたいのだけど……」
「うっ」
メイド長のセリフが変わっている。
掃除を丁寧にやって高評価を貰ったからだ。
「わ、私は料理の仕事が……、したいです」
「そう。残念だわ」
私はメイド長の要望を突っぱね、料理の仕事を選んだ。
料理を選んだのには理由がある。
三つの中で経験していないことであるのと、この仕事はオリバーに深く関わることが出来るからである。
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