第6話 変えられる運命
私に【時戻り】の力が!?
水晶はいつ時を戻すかと私に問いかけた後、沈黙した。
「えっ、ちょっとまって……」
私は水晶が語った言葉を思い出す。
これが青白く光っているのは、ソルテラの血筋が途絶えたからだと言っていた。その状態だと【時戻り】の力が発動し、任意の時間に戻すことができるらしい。
私は水晶が言っていることがおかしいと思った。
何故なら、オリバーには弟のブルーノがいるからだ。
「う~ん、分からない」
私は三か月前にきた新米のメイド。
ブルーノの秘密なんて分からないし、彼のことなど考えたくもない。
ブルーノのことを考えると、彼にされた嫌がらせの数々を思い出す。
「ああ!! もう、難しこと考えるのやめた!!」
答えの出ない問題を放棄した私は、水晶に命じる。
「【時戻り】出来るんだったら、三か月前、私がソルテラ伯爵家に勤める日に戻してよ!」
三か月前。
”いつ”を私が定めると、水晶の輝きが増した。部屋一帯が強い光で明るくなる。
『協力者よ、時を戻そう』
その言葉が聞こえると同時に水晶が割れた。
☆
(う……ん?)
まぶしい光で目が慣れない。意識もぼんやりしている。
私は隠し部屋から一変、大勢の人がいる場所にいた。
(ここ、どこ?)
知らない場所ではない。
私はここをなぜか知っている。
「今日からここで働くことになったエレノアだ」
ぼんやりとしていた意識がはっきりとしたとき、聞き覚えのある言葉を耳にする。
ああ、思い出した。
これは私がソルテラ伯爵家にメイドとして着任する日だ。
この場にいるのは屋敷で働く同僚たち。彼らの視線は、新人メイドである私に注がれている。
「……エレノア? 意気込みを聞かせてくれないか」
「あ、はい!」
ここで私はなんと言ったんだっけ。
三か月前のことを思い出しつつ、私は皆の前で言う。
「エレノアです! あ、えっと……、メイドの仕事は初めて……、です。仕事を早く覚えたいです。よ、よろしくお願いします」
思い出しながら言葉にしたものだから、カタコトになってしまった。
ぎこちない自己紹介をし、私は皆の前で頭を下げる。
パチパチと歓迎の拍手が聞こえる。
だけど、その音はとぎれとぎれで、不安がっていることが感じ取れた。
「この子、大丈夫かしら?」
「緊張しているんだよ、きっと」
拍手と共に、ひそひそと私の事を心配する声が聞き取れる。
(先輩方、安心してください。私、ここの仕事、もう覚えていますから)
頭をあげ、私は不安がる先輩たちの顔を見て、心の中で彼らに告げる。
そして胸を張り、堂々とその場に立っていた。
「じゃあ、エレノアは――」
「まず、なにが出来るか一通り試してみましょう」
私に何をやらせるか悩んでいたところに、メイド長が割り込む。
一通りというのは、掃除、料理、洋裁をやり、私の長所を探るためのいわゆる適正試験というやつだ。
(私、本当に三か月前に戻ったんだ)
前回の適性試験は散々で、唯一まともにできた屋敷内の掃除の班に回された。
この仕事は大嫌いなブルーノに会うことが多く、その度に嫌がらせを受けてきた。
時を戻ったのだから、掃除班には回されたくない。
私はその一心で、メイド長が与えた仕事をこなす。
☆
「う~ん、料理はだめ、洋裁はそこそこ、掃除はまあまあってとこかしら」
「……」
試験内容は知っているはずなのに、散々な評価だった。
メイド長の言い方からすると、料理は不合格、洋裁は及第点、掃除は合格といった反応だろう。
「あなた、洋裁と掃除どちらがやりたい?」
「っ!?」
私はメイド長の言葉を聞いて、耳を疑った。
前は洋裁という道はなく、問答無用で掃除班に回されたからだ。
私の反応にメイド長がぎょっとする。
「洋裁です!!」
「そう。じゃあ、あなたは明日からあの子の班について。今日は屋敷と主人、その親族を紹介するわ」
「はい!」
やった!
私は心の中で洋裁の班に配属されることを喜んだ。
(ああ、これだわ)
私は適性試験を乗り越え、前と別の班に配属することが出来た。
洋裁班であれば、ブルーノと鉢合わせすることはなく、嫌がらせを受ける回数もぐんと減るだろう。
私の行動次第で、前の私を大きく変えることができる。
【時戻り】の力を使えば、本当にオリバーさまを救えるかも。
私の心に希望が芽生え始める。
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