第6話 変えられる運命

 私に【時戻り】の力が!?

 水晶はいつ時を戻すかと私に問いかけた後、沈黙した。


「えっ、ちょっとまって……」


 私は水晶が語った言葉を思い出す。

 これが青白く光っているのは、ソルテラの血筋が途絶えたからだと言っていた。その状態だと【時戻り】の力が発動し、任意の時間に戻すことができるらしい。

 私は水晶が言っていることがおかしいと思った。

 何故なら、オリバーには弟のブルーノがいるからだ。


「う~ん、分からない」


 私は三か月前にきた新米のメイド。

 ブルーノの秘密なんて分からないし、彼のことなど考えたくもない。

 ブルーノのことを考えると、彼にされた嫌がらせの数々を思い出す。


「ああ!! もう、難しこと考えるのやめた!!」


 答えの出ない問題を放棄した私は、水晶に命じる。


「【時戻り】出来るんだったら、三か月前、私がソルテラ伯爵家に勤める日に戻してよ!」


 三か月前。

 ”いつ”を私が定めると、水晶の輝きが増した。部屋一帯が強い光で明るくなる。


『協力者よ、時を戻そう』


 その言葉が聞こえると同時に水晶が割れた。



(う……ん?)


 まぶしい光で目が慣れない。意識もぼんやりしている。

 私は隠し部屋から一変、大勢の人がいる場所にいた。


(ここ、どこ?)


 知らない場所ではない。

 私はここをなぜか知っている。


「今日からここで働くことになったエレノアだ」


 ぼんやりとしていた意識がはっきりとしたとき、聞き覚えのある言葉を耳にする。

 ああ、思い出した。

 これは私がソルテラ伯爵家にメイドとして着任する日だ。

 この場にいるのは屋敷で働く同僚たち。彼らの視線は、新人メイドである私に注がれている。


「……エレノア? 意気込みを聞かせてくれないか」

「あ、はい!」


 ここで私はなんと言ったんだっけ。

 三か月前のことを思い出しつつ、私は皆の前で言う。


「エレノアです! あ、えっと……、メイドの仕事は初めて……、です。仕事を早く覚えたいです。よ、よろしくお願いします」


 思い出しながら言葉にしたものだから、カタコトになってしまった。

 ぎこちない自己紹介をし、私は皆の前で頭を下げる。

 パチパチと歓迎の拍手が聞こえる。

 だけど、その音はとぎれとぎれで、不安がっていることが感じ取れた。


「この子、大丈夫かしら?」

「緊張しているんだよ、きっと」


 拍手と共に、ひそひそと私の事を心配する声が聞き取れる。


(先輩方、安心してください。私、ここの仕事、もう覚えていますから)


 頭をあげ、私は不安がる先輩たちの顔を見て、心の中で彼らに告げる。

 そして胸を張り、堂々とその場に立っていた。


「じゃあ、エレノアは――」

「まず、なにが出来るか一通り試してみましょう」


 私に何をやらせるか悩んでいたところに、メイド長が割り込む。

 一通りというのは、掃除、料理、洋裁をやり、私の長所を探るためのいわゆる適正試験というやつだ。


(私、本当に三か月前に戻ったんだ)


 前回の適性試験は散々で、唯一まともにできた屋敷内の掃除の班に回された。

 この仕事は大嫌いなブルーノに会うことが多く、その度に嫌がらせを受けてきた。

 時を戻ったのだから、掃除班には回されたくない。

 私はその一心で、メイド長が与えた仕事をこなす。



「う~ん、料理はだめ、洋裁はそこそこ、掃除はまあまあってとこかしら」

「……」


 試験内容は知っているはずなのに、散々な評価だった。

 メイド長の言い方からすると、料理は不合格、洋裁は及第点、掃除は合格といった反応だろう。


「あなた、洋裁と掃除どちらがやりたい?」

「っ!?」


 私はメイド長の言葉を聞いて、耳を疑った。

 前は洋裁という道はなく、問答無用で掃除班に回されたからだ。

 私の反応にメイド長がぎょっとする。


「洋裁です!!」

「そう。じゃあ、あなたは明日からあの子の班について。今日は屋敷と主人、その親族を紹介するわ」

「はい!」


 やった!

 私は心の中で洋裁の班に配属されることを喜んだ。


(ああ、これだわ)


 私は適性試験を乗り越え、前と別の班に配属することが出来た。

 洋裁班であれば、ブルーノと鉢合わせすることはなく、嫌がらせを受ける回数もぐんと減るだろう。

 私の行動次第で、前の私を大きく変えることができる。

 【時戻り】の力を使えば、本当にオリバーさまを救えるかも。

 私の心に希望が芽生え始める。

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