本編

本編


 

【SE】数回鳴る着信音、電話をとる貴方

 

【SE】戦の音

足音、慌ただしい家老の声、焦り泣きそうな侍女じじょの声などが入り混じる

 

戦の音を徐々に小さく

ザザ、と電波の悪い状態から女性の声が入る。

声がだんだん鮮明に




(女性はいたって冷静で落ち着いた様子)

 

もしもし、聞こえますか?

あら、本当に声が聞こえるのね

面白い機械だこと


貴方……今、小倉城こくらじょうの前にいるのね

ふふふふ、どこかから見てるのかって?

違うわ

私は小倉城を見てる人へと繋がるように電話をかけたの


貴方が今見る景色は──私が見たかった景色




【SE】戦の音、遠くから聞こえる悲鳴、慌ただしい声や怒号が入り混じる




(屋敷に残っている侍女じじょに向かって)

貴方達! まだ残っていたの!

私のことは置いて早く逃げなさい



(ひとりごとのように)

……あまり時間がないわね




ひとつお願いがあるの

貴方の前にそびえる城のこと、私に教えてくださらない?

大丈夫、難しく考えないで

貴方の言葉でいいの

何が見える?



石垣……高い天守閣……それに庭園も……

きっとお洒落なのでしょう

私の愛する人が造ったお城だもの



その方は、とても嫉妬深いお方でね

私を見たという理由だけで庭師の首を斬ってしまうような御人おひと

あらごめんなさい、怖がらせてしまったかしら



もっと話を聞かせて?



ふむふむ

……銅像に、お土産屋さんまであるの?



(楽しそうな笑い声)

そう、それはきっと

多くの人で賑わっているでしょうね




(ひとりごとのように)

泰平たいへいの世……戦のない時代……

そんな未来が……




貴方のいる地が平穏で良かった

こちらはそうも──いかないみたい



【SE】戦の音が大きくなっていく



ありがとう、心優しき未来のたみ

たくさんのことを教えてくれて


何のお礼もできないけれど……



私の名前?

そうね、名乗っていなかったわね、ごめんなさい

私の名が、お礼になるかしら



私の名は、細川ガラシャ

明智光秀の娘であり、細川忠興ただおきの妻

そう、小倉城は忠興様が造ったお城

忠興様が──これから造るお城




嗚呼……この目で見たかった

もう叶わない夢



敵が迫っている……

今こそ、私の散るべきとき


敵の手に落ちるくらいならば、潔く散ってみせましょう




ありがとう、未来の御人おひと

冥土の土産ができた


散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ


【SE】炎の音、屋敷が燃えていく

【SE】ザザ、と電波が悪くなる

 

【SE】ツーツーと電話が切れる音



(微かに、ガラシャのささやき声)

ありがとう




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蛇は気高く美しく 麦野 夕陽 @mugino

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