ミケの贈り物

ふるふる

ミケの贈り物

倉田家は代々農家で、今はおじいちゃん・おばあちゃん・お父さん・お母さん・高校生のみのりちゃん・小学生のゆたかくん・猫のミケの6人と1匹の家族です。

現在、猫は完全室内飼いが推奨されています。

しかし、それは農家の猫には当てはまりません。

猫には、家の中のパトロール・毛づくろい・爪研ぎ・ひなたぼっこ・人間と遊んであげるなどたくさんの仕事がありますが、ミケにはそれ以外にも大切な仕事がありました。

おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に畑に出かけて行って、鳥を追い払い、虫を捕まえる。

捕まえた虫はミケのオヤツになります。

ミケは狩りが得意な畑の守り神なのです。

そもそも自然の多い地域にある倉田家には鍵をかける習慣がありません。

戸を開けっ放しの時もあるので、ミケは外に出放題なのです。


ミケが近所の見回りをしていると、空き地にゆたかくんがいました。

ミケはしっぽをぴんっと立ててゆたかくんに近づきました。

「今、トンボ捕まえようとしてるんだよ」

ゆたかくんが小声で言いました。

ゆたかくんは柵に止まっているトンボの顔の前で人差し指をくるくる回しています。

そして、反対の手ですばやくトンボを捕まえようとしました……が、逃げられてしまいました。

「あーあ。また逃げられちゃった……」

ゆたかくんはがっくりと肩を落としました。

ミケはふんっと鼻を鳴らすと、ゆたかくんを見て短く鳴きました。

そして、身を低くして草むらの中に隠れました。

しばらくして、おしりを振って狙いを定めると、ぴょんっと跳んで見事バッタを捕らえました。

ミケはそれを口に咥えて誇らしげにゆたかくんに見せます。

「わあ、すごいなミケ」

ゆたかくんはバッタを受け取ると虫かごに入れました。

(ゆたくんはまだまだね

 でも、見込みはあるわ。

 おねーちゃんはキャーキャー鳴いて逃げちゃうからお話にならないわ。

 家族の中で虫捕りが得意なのはアタシとお父さんだけね)


みのりちゃんが朝から出かけていて留守の日、ゆたかくんが居間で何かしていました。

ミケは窓の近くの猫用ベッドに座ってそれを眺めていました。

テーブルの上にはよく洗って乾かした牛乳パックと、おばあちゃんが押し入れから出してきたはぎれ、ハサミとボンド、押し花が置いてあります。

その押し花にミケは見覚えがありました。

それは、秋の終わり頃、ゆたかくんが畑の脇の草むらで摘んでいた花でした。

ミケは工作や手芸など、人間が何かを作っているのを眺めるのが好きなので、完成するまでずっと見守っていました。


1週間後、その夜は賑やかでした。

机にはご馳走とケーキが並んでいて、みのりちゃんがロウソクを吹き消しました。

おじいちゃん・おばあちゃん・お父さんとお母さんがそれぞれキレイにラッピングされた箱をみのりちゃんに渡します。

ゆたかくんも紙袋をみのりちゃんに渡しました。

その紙袋の中にはペン立てとしおりが入っていました。

あの日ゆたかくんが作っていたものです。

「ありがとう」とみのりちゃんは言いました。

ミケは頭のいい猫なので、今日はみのりちゃんに贈り物をする日なのだとわかりました。

(アタシも何か贈り物をしなくちゃ。

 あ!隠していた宝物。

 狩りの下手なおねーちゃんにはいいんじゃないかしら)

ミケはタンスの裏にするんと入ると、ふんすふんすと鼻息を立てながら出てきました。

口に何かを咥えています。

ミケはてててっとみのりちゃんの足元に行くと、咥えていたものをそっと置きました。

「キャッ」

みのりちゃんは悲鳴をあげます。

それは20センチくらいあるトノサマバッタでした。

「あらまあ、立派なバッタだこと」とおばあちゃんが言いました。

「すげー!バッタの王様じゃない?」

はしゃぐゆたかくんにおじいちゃんは「トノサマバッタっていうバッタだから、殿様だな」と言いました。

「これって、ミケからの誕生日プレゼントっていうことなのかしら?」

お母さんが言うと「ミケは賢いからな、きっとそうだぞ」とお父さんがミケを撫でながら言いました。

「ミケ、タンスの裏から出してきたよな。最後にタンスを動かしたのはいつだ?」

おじいちゃんが尋ねると、お母さんは「ゆたかが小学校に上がる時だから……3・4年前……」と答えました。


次の日、ミケが出かけた後にお父さんがタンスを動かすと、その裏から、埃を被ったミケのオモチャ・カラカラに乾いたカエルやバッタが出てきました。

オモチャは処分して、カラカラの虫たちは畑の肥料になりました。

ミケはしばらくタンスの裏に入っては何かを探していました。


お父さんは例のトノサマバッタの横にタバコを置いて写真を撮っておきました。

飲み会の時にはその写真を見せながら、ミケがいかに優秀な猫なのかを語っています。


ミケの贈り物はこの先何十年も倉田家で語り継がれていくのでした。



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