ベゼルバブと末裔

松位某まつくらいぼうとゆう者が

いた。イケメンで酒タバコギャンブルはやらなかった。ポロシャツを着て、ジーンズを穿き、靴は上等な物を身につけていた。

お金はたんまりあった。他人に金を貸し、自分は豪邸に住んでいた。

松位はスキンヘッドのアベとゆう者と話していた。アベはお金がなく、また、食事すらままならない者だった。そしていつも松位の隣にいた。

「アベ、お金貸してやるよ。これで何が食べなよ」

しかし、アベはお金を借りなかった。

「松位、お金は借りない。食はままならないが、日々何かしらは食べている」

「俺たちは、そんな水臭い関係か?」

「松位、君とあったのは3年前、しかも病室。お互い癌。あちこちに癌は転移している末期の。お互いあと半年も生きられない」

だから? と松位は訊いた。

「お互い、お金の価値はもう意味をなさないのに、君は、お金を『貸す』と言う。決して『あげる』ではない」

「そりゃ、奇跡を信じているからさ」

そしてこう続けた。

「祈っているからな」

「祈り? 神にか?」

「その逆だ。ベゼルバブに祈っている」

「何でそんな事を?」

「その昔、私が16歳の頃だ。ベゼルバブに会った。悪魔だ。角が生え、山羊のようであり、まさに奇跡を起こすが、何、そんなもの、ただの呪師まじないし程度だ。しかし、私は圧倒され、私はベゼルバブと契約した。齢60で死ぬ、と。今、45歳。ベゼルバブとの契約で叶わなかった契約はない」

「相手は悪魔だろう?」

「姿はな」

ただな、と松位はこう続けた。

「私には酒タバコギャンブルはするな、聖なる書物と言われる物全てを網羅せよ、と言った。聖書は一読した。この書物だけで、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教は網羅できた。今、仏典に取り掛かっている。もちろん今までにシーク教やヒンズー教、も、聖なる書物と言われているものは全て読んだ」

アベは訝った。

「俄には信じられない。そもそも神や悪魔の類など、、、証拠は? そして相手は悪魔だろう? 何でそんな要求を?」

「わからない。悪魔教でも作りたいのかな」

アベは悩んだ。

「どこでその悪魔に会える? 私も是非会って真偽の程を確かめたい」

「後ろにいるよ」

アベはびっくりして後ろを振り向いた。確かに角の生えた山羊のような者が立っていた。

「あなたがベゼルバブか。なら話は早い。私と契約してくれ」

「良いだろう。願いは全て叶える。引き換えに魂魄の魄を死後貰う」

「良いだろう」

アベはありったけのことを書く。そうして80歳まで恙無く生き、食にも困らず、また、充分な衣服、家、富財宝、子々孫々に至るまで栄えてほしいと書いた。

ベゼルバブはこう続けた。

「そこまでの強欲聞いたことがない。では、アベよ、今お主は40歳。40年後試す」

「何を試す?」

「その時になって試す。それまで待て」

「私も聖なる、と言う書物を読むのか?」

「聖なる物たるならばそれで良し。ただし試験に受からねば、子々孫々までは面倒を見ない」

「私は酒やタバコをやめるべきか?」

「それは許す」

ほぅ、ベゼルバブも馬鹿ではないと、アベは感心した。何かある、と感じたのだ。


ベゼルバブは消え、松位とアベだけが残った。

「松位よ、お前も試験があるのか?」

「ないよ、多分1人分の願いしかきかないのに、君が『子々孫々まで』と言ったからだろう」

「目的は君でも知らんのだな?」

「ああ」

アベはここ一番の知恵を絞り、こう言った。

「ならば、聖書だけに特化しよう」

「何故だ? 試験の範囲は聖書だけじゃあるまい」

「仮に3つ設問があるとしよう、一つ33.33点だ。聖書のことは必ず訊く。でなければおかしい。そうすれば、これは野球に例えたら、三割バッターと同じ比率になる。普通だと合格だ。一か八かだ。一つに特化する」

「仮にの設問が3つ、それも聖書が出ると言う事に、君はかけるか。それも良し」

「人生は博打だ。それにこの世は地獄。ならば地獄もたかが知れている」

「ふふふ。面白い人生がおくれそうだな」

そう言う松位の顔は悪魔の様な笑みだった。

それから十数年後、60歳で松位は死んだ。その遺産は、何故かアベが引き継ぐことになった。

アベは暇があれば聖書を読み、また、神学者となって、聖書に誰よりも精通した者となった。

40年後、再びベゼルバブが尋ねた。彼はアベに試験をした。

「この人生はどうだった?」

「楽しかった」

「では、我々、悪魔に与する者は助かる?」

「主イエスを信じるならば」

「ではサタン様は?」

「主イエスを信じ、悪行をやめれば」

「私は?」

「少なくとも私を助けた。私は聖職者になった。私の研究した事を書物として私は世に広めた。それで救われた人はいる。ならば私を助けてくれたあなたは天の御国の門までは行ける。その後は知らない」

「そうか。私は善行を成したか?」

「私を助けた。その私は少なくとも、1人以上の人に感謝された。その報いはうける」

「合格だ。子々孫々まで面倒を見よう」

その後、アヘはすぐに亡くなった。

ベゼルバブは、この事をサタンに告げた。

「主イエスは信じられない。神は私を地獄の火で焼くと言われた。それより、魄はあるか? それを食せば後10000年は生きられる。アベの子孫に注目しよう。私が救われる手立てが見つかるやもしれない。ありとあらゆる富と地位と名誉をアベの子孫に与えよ。私は寝る」

暗闇の中でサタンは寝た。夢を見る事もなく。


ベゼルバブはサタンを見てこう思った。

かつてはこのお方も神に与した者であったな、と。

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