君に持っていてほしい
磨白
君に持っていてほしい
今日から、彼女が大阪に帰省するらしい。
「私が大阪に行ってる間に浮気とかしちゃ駄目だからね、絶対!ぜっったいだよ」
とマジな顔で念を押された。そんなに信用されていないのか……と苦笑いしてしまう。
まぁ、付き合ったばかりだし気持ちはわからんでもないが、流石に過保護というかなんというか。嫌いじゃないからいいんだけど。
「大丈夫だって、美香が居るのにそんなことしないよ」
なんだかんだあったが、彼女は割と大人しく大阪に帰省していった。これでしばらくの間(と言っても二週間)、1人きりである。
「どうしようかな、付き合ってから休日は全部彼女に連れ回されてたし、急に1人は暇っつーかやることねぇな」
どうしようか、ソシャゲでも始めてみるか?いい機会だし。でも、あぁいうのはハマると面倒くさいんだよなぁぁ。
それで結局、特に何もやることの思いつかなかった俺はベットに寝っ転がってスマホを眺めていた。外に運動でもしに行けばいいものを……現代人の悪い癖である。俺は出不精なだけかもしれんが…
「…んん、猫ミームはなんで流行ったのか未だに理解ができんな…」
上から下へと動画を流してただ眺める。そんな事をしているうちに段々と眠気が俺を襲ってきた。今日は休日にしては早く起きたからな……二度寝でもする…か…
布団を肩まで被って目を閉じた。
「そんじゃ、おやすみ〜」
…ん゙…ふわぁぁ、あぁもう朝???
「おはよう、優くん」
「うぉおお!!??」
俺はすぐさま飛び起き、声のした方向から距離を取った。
「あははは!もう優くんはビビりだねっ、何もそんなに驚かなくてもいいんじゃないかな?」
「理沙…か?」
「変なことを聞くんだね、それ以外の誰に見えるの?」
間違いない、声も見た目も顔も理沙そのままだ……、でもなにかはっきりしない。まるで海の中、いや、夢の中にいるような
「優くん?」
「あっ、悪い、ぼーっとしてた」
「えぇ〜?僕のことも忘れるくらいぼーっとするなんて。そんなに…僕の膝枕が良かったのかな?」
「え、うえぇええ!?」
「もう一回してあげよっか?」
「え、遠慮します…」
「えー、彼女の膝くらい好きに使いなよ〜。ほんと初心な奴め!」
肘で俺の脇腹をつついて来ようとする理沙を手で制する。
「もー、今日はいつにもまして釣れないな。僕のこと嫌いになったわけ?」
「いや…そんなことは……」
「ふふふ、ごめんね。ホントは言わなくても知ってるよ、優くんは僕のことが大大だ〜い好きなんだもんね」
理沙は手を広げて俺を思いっきり抱きしめた。
「こうやって夢にも出てくるくらい…ね?」
ガバッッ!!
俺は本当に目を覚ました。
「夢……か」
明星理沙、俺の元カノだ。美香と付き合う前は度々夢に見ることもあったが、付き合ってから夢に出てきたのはこれが始めてだった。
美香が帰省したからか?付き合ってから休日に会わないなんてこと今までなかったからな……
……ちょっと、外まで出るか。
俺はベットから出て少し目を覚まそうと、玄関に向かった。
「外あっっつ、まだ春なんだからもうちょい太陽も大人しくしててくれよ…」
そうぼやきながら体を伸ばす。はぁぁぁぁ、なんだったんだあの夢。
それからしばらくして美香が帰ってきて、元カノの夢を見ることも無くなった。
頭から夢のことなどすっかり抜けたときにそれはきた。
「……なんだこの茶封筒」
中身の分からないまぁまぁ大きな封筒が俺の郵便入れの中に入っていたのだ。
「ぇえ、なんだろコレ。取り敢えず開けてみるか…」
カッターを持ってきて恐る恐る袋の先をカットする。中に入っていたのは参考書だった。
「なんだ〜?こちとら最近、大学受験終わったばっかりっていうのに……ってあれこれ俺のじゃん、なんでポストに…」
そこまで考えて思い出した。そういえばコレ、元カノに貸してたんだった。別に返さなくてもいいって言ったんだけど……
今の俺にも必要ないし、捨てようと思って袋から出すと何かが落ちた。
「何だコレ、写真?」
見るとそれは修学旅行の写真だった。そういえば、カメラマンが撮った写真買えたんだっけ。
俺は案内のプリントをなくして結局買う事ができなかったんだっけ。
「全部俺じゃん、理沙俺の写真買ってたんだ…」
1枚1枚めくると、部屋の写真とか、夕食とかの写真が出てきてなんとなく懐かしい気持ちになり、楽しかった。そして、あっという間に最後の1枚になった。
「意外と写真もいいもんだな、最後は…」
写っていたのは、キーホルダーを選んでいる二人の写真だった。
「はぁぁあ、油断してた。1枚も理沙が写ってる写真ないから大丈夫だと思ってたのに」
最後の写真には黄色い付箋が貼ってあった。
〈あなたに持っててほしい、僕の宝物だよ〉
「ほんと、こんな置き土産は勘弁してほしいな」
俺はその写真を家の押し入れの奥深くにしまい込んだ。
前好きだった人の頼みだ、持っておいてやる。そう自分に言い訳をして。
これから顔も名前も、声も忘れてしまうだろうけど、この思い出だけは取っておきたいと思ったことは墓まで持っていくことにした。
君に持っていてほしい 磨白 @sen_mahaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます