第80話 パーティーメンバー
〜461さん〜
話し終えたミナセは深く息を吸った。落ち着いているように見えるが、さっきから声が震えている。本当は言いたく無かったことを言ってくれたんだな。
「これが……私。鎧さん達をユイが襲ったのは私に警告する為だと思う。ハンターシティに出なかったら、私の知り合いを殺すって意味の……」
ジークがミナセの背を摩る。
「ミナセが帰って来た時、ひどい傷だった……ユイは相当な恨みを持っていたんだろう」
ミナセを見る。包帯が巻かれた腕。全身の傷。回復薬や魔法を使ってこれか……。
脳裏に盾を破壊したユイの一撃が浮かんだ。あの威力……アレは普通の威力じゃなかった。確証は無いが、通常の身体強化魔法とは異なる物のような気がした。
「中野でミナセを見た気がしたが……やっぱりそうだったのか。あれはユイの所へ?」
「うん。SNSに
殺されそうになった……という訳か。
「ごめんねみんな……こんな犯罪者のせいで危険な目に合わせて」
「ミナセさん、私に優しくしてくれたじゃない。そんなこと、言わないでよ……」
言葉を絞り出すアイル。俯いて手を震わせて……相当ショックだったみたいだな。ミナセは目を閉じ、ゆっくり首を振った。
「多分ね、アイルちゃんと仲良くしようと思ったのはユイへの後悔だと思うの。私はそんな人間じゃないよ」
「そんな……こと……」
「あのね、嫌かもしれないけどハンターシティが終わるまでシィーリアの屋敷にいて欲しいの。ユイはああ言ったけど、念押しでまたみんなを襲うかもしれないから。私が逃げないように」
ミナセもジークも深刻な表情。これは、もう答え出してる顔だな。シィーリアはジッと俺達を見つめているし……なんか、嫌だな。
「全部終わって、もし私が生きていても、もうみんなには関わらないから、だからお願い。みんなに何かあったら私……耐えられない。迷惑かけてごめ」
「なんでミナセが謝ってんだ?」
「え……」
「いや、話は聞いたけどさ、ミナセとユイの因縁とミナセが俺らと関わらないってのは別問題だろ。ミナセは俺達ともう関わりたくないのか?」
「え、え……だって私、人をいっぱい傷付けたし……」
「それってミナセのせいか? 俺は九条商会のせいだと思うが? そりゃあ襲った人には罪滅ぼししないといけないだろうけどよ、それが今、ジークとやってることなんだろ?」
「でも……その後も……人を襲ったり……してたし」
「まぁ、それもちゃんと精算しないといけないとは思うけど……でもさ、俺はミナセと縁を切るつもりはないぜ? アイルやリレイラさんはどう思う? もうミナセと関わりたくないって思うか?」
「そんな訳……無いじゃない! だってミナセさん苦しそうだし……私にできることならしてあげたいよ……」
「私も同意見だ。ミナセ君は渋谷の時に一度担当に付いている。担当した探索者を見捨てるという選択肢は私には無い」
2人がそう言った瞬間、ミナセの目にジワリと涙が浮かんだ。
「ジークも別にミナセから離れるつもりないんだろ?」
「ミナセが俺の為にやったことだ。俺は……それを知らない顔で生きて行けるほど器用ではない。それもちゃんと償うつもりだ。ミナセと一緒に」
ジークの眼は相当覚悟が決まっているように見えた。これは一生離れる気はないとか言いそうだな。
「なら、それでいいじゃん。な?」
「なんで、みんな……そんなに優しいのぉ……」
ミナセの目からボロボロと涙が溢れ出す。答えを求めるような顔。これって何か言ってやった方が良いのか?
ジークも、アイルも、リレイラさんも、シィーリアも、全員が俺を見て来る。これじゃあ俺が泣かせたみたいじゃねぇか。何か言った方がいいのか?
うぅん……でもなんて言えば……。
あ。
そうじゃん。ミナセに言う事なんてもう決まってる。だって渋谷に挑んだ時からずっとそうなんだから。
「だってよ、ミナセは俺らのパーティメンバーだろ?」
「パーティー……メンバー……」
「またダンジョンに行こうって約束したろ? 俺は嫌だぜ。そこにミナセだけいないなんてよ」
「う、ううううぅぅぅ……」
ミナセが顔を拭いながら泣き出してしまう。それを、アイルとリレイラさんが慰める。ミナセは2人に慰められながら、声を振り絞った。
「ごめんね……ごめんねみんな……ありがとう……」
涙を流すミナセを俺はただ見つめ続けた。
◇◇◇
ミナセが落ち着いた頃、リレイラさんの提案で少しミナセを1人にしてやることにした……色々疲れただろうしな。
俺は1人バルコニーへ出た。シィーリアが2人だけで話したいと言ったから。
バルコニーは古風な石造りで、手すりには小さな柱がいくつも連なっていた。そこから。迷路のように広大な庭園が見渡せる。シィーリアは手すりの隙間から庭園を覗き込んだ。
「オヌシ、なぜミナセの素性を知った上であっさり受け入れられた?」
「そんな風に見えたか?」
「見えた。アイルもオヌシの言葉で動揺を受け止められたようじゃった。どうもオヌシは普通の人間と精神の作りが異なるように感じるの」
シィーリアが不思議そうな顔で俺を見る。精神の作り? そんなに違うだろうか?
「うぅん……ま、アレだと思うぜ? 俺もさ、ダンジョンの無い世界だったらどうなっていたかも分からないしな」
「? どういうことじゃ?」
「リレイラさんの上司なら俺の経歴知ってるだろ? 俺は元引きこもり。ダンジョンが現れたから俺は今こうやってまともな探索者になってる。ダンジョンのおかげで生きてると言っても過言じゃない。じゃあミナセは? ダンジョンさえ現れなかったら、きっとギャルにでもなってキラキラした人生歩んでいただろうぜ」
「ほう……」
「だから……ミナセが何かやったとして、俺がミナセを責めたり突き放したりする気になれない。それだけのことだ」
そう、12年前に世界は急激に変わった。それは俺に生きるチャンスをくれて、ミナセのあったかもしれない未来を奪った。俺は運が良かっただけ、それだけのことだ。それが分かっているヤツなら、誰もミナセの事なんて責められないだろう。
「それだけ……それだけのことか。ははっ。面白いヤツじゃオヌシは」
ケラケラと笑うシィーリア。彼女はひとしきり笑い終えると、真剣な表情になった。
「本当に、リレイラへあの子らを預けて良かった。あの子も、ジークも良き仲間に巡り会えた」
手すりに寄りかかったシィーリアの顔は、どことなく憂いを帯びた物のように見えた。
「ミナセの未来を奪った……か。そうじゃな」
……シィーリアは彼女なりに思う所があるって事か? 怒らせるとヤバい奴だと聞いていたが、結構良い奴なのかもな。
「ミナセの罪滅ぼしとしてジークの相棒に付けた。ジークと共に人を救えば傷も癒えるかと思うたが、それでもあの子の傷は癒えておらんかったのじゃ」
しばらく訪れる沈黙。何と言っていいか迷っていると、俯いたままのシィーリアがポツリと呟くように言った。
「あの子の罪は妾
目の前にいる少女。その少女が複雑な大人の表情を見せる。見た目は子供だが……実際には500年以上生きている存在、か。シィーリアはどんな気持ちでジークとミナセのことを見てきたんだろうか?
「少し自室に戻るのじゃ。声をかけたら客間に来てくれ。今後について話し合おう」
バルコニーを後にするシィーリア。どこからか吹いた風が、彼女の髪をそよそよと揺らした。
―――――――――――
あとがき。
次回はシィーリアの視点からお送りします。ユイの行動を推理し、今後に向けて話し合う回となります。
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