第60話 461さん、クラスが上がる。


 〜461さん〜


 461さん達が渋谷ダンジョンを攻略した数日後。



 ──ダンジョン管理局 探索管理課 応接室。


 リレイラさんの上司に呼び出された俺はダンジョン管理局へと来ていた。俺と直々に話をしたいそうだ。渋谷ダンジョンの話だろうか?



 応接室の中に入るとリレイラさんが微笑んでくれる。彼女の隣に座ると、向かいの少女・・が声を上げた。


「お初にお目にかかるの。ダンジョン管理局、探索管理課部長、そしてジークリードとミナセの担当のシーリィア・エイブスじゃ」


 シーリィア……リレイラさんよりもずっと低い背丈、銀色の長い髪、切り揃えられた前髪に……頭に生えた鬼のような2本の角。角を除けばまるで小学生の少女のようだ。



わらわの顔に何かついておるかの?」



 シーリィアが不思議そうに首を傾げる。その仕草が子供のようで余計に俺の頭を混乱させる。何と言って良いか考えているとリレイラさんが耳打ちして来た。


(戸惑わせて申し訳無いが、彼女は確かに私の上司だ。年齢も私の倍以上は生きている。)


(全然そうは見えないなぁ……)


(失礼なことは言わないようにな。彼女、短気だから)



 短気って。上司としてそれでいいのか?



「いや、何でも無い。リレイラさんと角が違うなと思って」


「角か。妾の角は王族の血が流れる証。貴族の娘であるリレイラとは違って当然じゃ。まぁ……王族と言っても遠縁じゃがな」


 王族……というかリレイラさん貴族の娘なのか。今まで教えてくれなかったから全然知らなかった……。


 横目でリレイラさんを見ると、彼女が不思議そうな顔をした。……リレイラさんのことだから変に壁が出来ないように隠していたのかもな。



「早速じゃが本題に入らせて貰う。461ヨロイよ。其方そなたが渋谷ダンジョン内で見聞きしたことを教えるのじゃ」



 シィーリアにうながされ渋谷ダンジョンの話をする。武者に盗賊、そしてスキルイーターのことを。



 ……。



「武者に盗賊か……映像は見たがまだ信じられぬ。リレイラ、其方はどのように考える?」


 リレイラさんが端末を操作し、映像を再生する。それには俺と鎧武者が戦っている姿が映っていた。


「そうですね……分裂スライムの分裂個体は単純な動きしかできません。しかしこの武者は人間のような振る舞いをしていた。人形使いパペッターの能力で本体が操っていたのかと」


「あの見た目は幻影騎士の能力だな。恐らく、挑んできた探索者のスキルを知るため人型のモンスターをけしかけて来たんだと思う」


「ヨロイ君の説は正しいかと。人語を話したのも意思疎通によって能力を探ったと思われます」


 シィーリアがアゴに手を添え、何かを考え込む。そして再び俺を見据えた。


「しかしの、あの姿は何故じゃ? 何故あのような姿を?」


「アイツはジーク達からスキルを奪った後には俺達と同じ言葉を話した。できるなら初めからあの話し方をするはずだ。それをしなかったってことは、記憶虫が影響したんだろう。記憶虫が持っていた記憶には、あの武者達の記憶しか無かったんだと思う」


「記憶虫か。確かに妾達の世界でも記憶虫は生息する土地の記憶・・・・・を溜め込むことがあるのう」


「私も調査しました。確かに渋谷は平安時期に侍の領地だったと記述があります。盗賊も渋谷という地名の由来に関わっているという説がありました」


「ふぅん……スキルイーターが461達の能力を知る為に苦肉の策であの武者と盗賊を再現したということか」


 シィーリアがノートを取り出し何かを書き込んでいく。その様子を見ていると、リレイラさんがチラリと俺を見た。


「ヨロイ君。あのことを部長に」


 リレイラさんが何のことを言いたいのかすぐに分かった。俺も疑問に感じていたことだから。


「あのスキルイーターは女探索者・・・・に入れ知恵されたようだった……その人物を俺は鯱女王オルカのことだと考えている。あのダンジョンを最後に攻略したのが鯱女王オルカらしいからな」


鯱女王オルカが? アヤツは……うぅん……考えにくいのう」


「なんで考えにくいんだ?」


「ダンジョンを攻略することしか興味無いからじゃ」


 ダンジョン攻略しか興味が……俺と一緒のタイプか。


「そういえば鯱女王オルカは今何処にいるんだ?」


「アヤツは今熊本に行っておる」


「熊本? 随分遠くに行ってるんだな」


「熊本城ダンジョンに不穏な動きがあるのじゃ。いずれモンスターが外に溢れ出る恐れがあっての、その対処じゃ」


「ふぅん……担当はシィーリア部長が?」


「いや、アヤツに担当はおらん。探索者スマホでヤツの行動を管理しとるだけじゃ。アヤツには色々問題があっての」


 問題?


 どういうことか考えていると言いにくそうにシィーリアが口を開いた。


「まぁ……アヤツは人と接するのが苦手じゃからな。いわゆるコミュ障というヤツじゃ。配信しとる時は調子がいいんじゃが……」


 なんか……妙に親近感持っちまうヤツだな。


鯱女王オルカの件は分かった。渋谷ダンジョンに関する報告は以上かのリレイラ」


「はい。ヨロイ君は他にあるか?」


「いや、もう無いかな」


 答えると、シーリィアが身を乗り出した。



「よし。ここからが本題じゃ。461、妾は今回の一件でオヌシと天王洲アイルを評価しておる。よってオヌシ達のランクを上げることにする」



「ランクを?」


「そうじゃ。一足飛びにA……という訳にはしてやれぬが、まずはC級に。オヌシ達なら新たな探索者の良い見本となろう」


 ランクか……正直あまり興味無いんだけどなぁ。確かC以上はジーク達みたいに管理局からの任務受けなきゃならないって言ってたし。それに……。



「担当が変わる可能性あるか? 俺はリレイラさん以外の担当は嫌なんだけど」



「オヌシがそう望むならそうしよう」


 シーリィアがニヤリと笑ってリレイラさんを見ると、彼女は顔を赤くしてうつむいてしまった。


「なら問題無いぜ。どっちにしろ拒否ってのも無理なんだろ?」



「うむ。よく分かっておるヤツじゃな!」



 シーリィアは子供のようにニヒヒと笑った。


◇◇◇


 〜ダンジョン管理局 探索管理課 部長 シーリィア・エイブス〜



 461を先に帰らせ、リレイラだけ部屋へと残らせた。釘を刺す為に。


「何でしょう?」


「リレイラ。妾は其方のことも評価しとるぞ? じゃが……今回はちぃとやりすぎじゃ」


「な、何を言っているのですか?」


 リレイラの目が泳ぐ。小娘め、妾が気付いていないとでも思ったのか?


「461達の渋谷配信の最後。妙なコメントが目に付いた。その人物は461達とは面識が無いはずの視聴者なのじゃが『良かった……』とコメントしておったのじゃ。それが今までの発言とは妙に乖離かいりがあっての」


「そう、でしょうか? そんなこと、ファンなら誰でも」


「これ以上シラを切るなら厳罰にするが?」



「……申し訳ありませんでした」



「良い。今回はイレギュラーだと妾も感じておる。責める気は無い。じゃが、見られていることは意識しておけよ?」


「……はい。失礼します」


 リレイラが部屋を出ていく。妾1人となった応接室はシンと静まり返った。


 あの娘は賢い。これでもっと慎重になるじゃろう。攻略に直接干渉しすぎるとかばい切れんからの。


 だが……。


「ふふ」


 面白い。面白くなってきたのじゃ。D級の男が渋谷を攻略するか。それも妾の大切な2人……ジークとミナセを成長させてしもうた。


「ヤツから学んだことで2人はさらに強い探索者となるの。リレイラにあの2人を預けて良かった」


 それにしても鯱女王オルカのヤツは何を考えておるのじゃ? 調査をした方が良さそうじゃな……ヤツの今の実力も知りたい。となればやることは1つ。



「呼ぶか。ハンターシティに」



 都知事は腰を抜かすかもしれんのぉ。今年の池袋ハンターシティは楽しくなりそうじゃ。




―――――――――――

 あとがき。


 次回からアイルの掘り下げ章をお送りします。学校の課題でダンジョンに挑むことになったアイル、彼女はお嬢様ダンジョン配信者とコンビを組んで試験へ挑むことに……。

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