お台場ダンジョン攻略 編

第61話 天王洲アイル、お台場ダンジョンへ挑む


 〜天王洲アイル〜



「はい。では実技試験のペアを決めるからな。名前を呼ばれた者から前に来なさい。青木──」


 ブブッ。


 スマホが鳴る。コッソリ画面を見ると、投稿したアーカイブ動画にコメントが付いていた。


 ──次のダンジョン攻略も楽しみにしてます! 応援してます!


 このコメントの感じ……私より年下かな?


 461さんやジーク達と一緒に渋谷ダンジョンを攻略して数日。私達の渋谷攻略の配信はとんでもない事になっていた。あの日の同時接続数はスキルイーター戦時点で同接120万人を突破、アーカイブ動画も初めて1000万回を突破した。


 嬉しさを通り越して怖いくらい。実感が全然湧かない。


 でも、事実なんだ。1人じゃ全然だけど461さんと一緒なら……徐々にだけど私も成長してる気がする。



 461さんに、何かお返しできないかな? いつも私が貰ってばっかりだから。



 でもどうしよう? 何をしてあげたら461さん喜ぶかな……やっぱり面白いダンジョン見つけることかな? 学校終わったらリレイラに相談してみよう。


「桜田」



「あ、はい!」


 マズイ。スマホ見てたの怒られる!?


「桜田はついて来なさい」


「え?」


 幸いスマホの件は見られてなかった。その代わり、実技の真田さなだ先生に廊下に連れ出された。


 おかしいな、実技試験のダンジョン攻略はクラスメイトとペアになるはずでしょ? なんで私は廊下?



 先生と廊下を真っ直ぐ進み、突き当たりを左へ。F組の前まで来ると1人の生徒が立っていた。



「あら、誰とペアになるかと思えばアイルさんじゃない」



 う、モモチーか……。



 そこには桃園ももぞのモモが立っていた。両サイドがクルクル巻かれたピンク色の髪に、威圧感のある眼、腕を組んだいかにもお嬢様といった立ち振る舞い。しかも同じ配信者。廊下で会うたびにマウント取って来るし……正直苦手だ。


「桜田と桃園は2人とも経験豊富だ。組は違うがペアを組んで貰う」


「え〜? ワタクシが天王洲ア……桜田さんと? Cランク・・・・探索者の私がDランクの方と組むなんて実力差がありすぎますわ」


 ふふんと笑って髪を手で払うモモチー。その姿が妙に様になっていて腹が立つ。私だって……っ!



「桜田は数日前にCランクに上がった。問題無いだろう」



 口を開く前に真田先生が先に言ってしまう。クソッ! 私が言ってやろうと思ったのに。



「え゛」



(モモチー知らなかったんだ……)

(登録者数も天王洲アイルに抜かれちゃったもんねぇ……)

(モモチーが100万人で天王洲アイルが160万だろ?)

(あんなにマウント取ってたのに恥ずかしいw)

(この前の渋谷凄かったもんな〜)



 ザワザワと声が聞こえる。振り返ると数人の生徒達が顔を覗かせていた。


「だから問題無いだろう? お前達には他の者より難易度の高い台場ダンジョンを攻略して貰う」


 モモチーがいた時点で分かっていたけど、彼女と組むのか……上手くコンビネーション組めるのかな。


 急に不安になって来る。よく考えたら私モモチーの探索者スタイルとか全然知らないし、動画も見たことないな……どんな攻略するんだろうモモチー。


 モモチーはあからさまに嫌そうな顔をして私をビシリと指差した。



「嫌ですわ! こんな駅名・・を探索者の名前にする人!」



「はぁ!? 別にどんな名前付けたっていいでしょ!?」


「バカみたいですわ〜」


「探索者名『モモチー』の方がふざけた名前でしょ!?」


「お父様が付けてくれた探索者名を馬鹿にしますの!?」


 言い合っていると真田先生が大袈裟に咳払いをした。


「うるさいぞお前達。単位がいらないなら組まなくてもいいが?」


「う、分かりました……」

「仕方ないですわね……」


「今週中に台場ダンジョンを攻略し、レポートを提出すること。いいな?」


 


◇◇◇


「……という訳で今週はヨロイさんとダンジョン攻略できないわ。ごめんね」


 通話アプリでヨロイさんに連絡する。電話の向こうから少し残念そうな声が聞こえた。


『じゃあリレイラさんの依頼は俺1人でやるかぁ』


「え、リレイラから何か頼まれたの? それってCランクになったから?」


『そうだぜ。中野に現れたアイテムを回収に行くんだと。リレイラさんの護衛だよ』


 現れたってことは転移魔法の余波でアイテムが流れ着いたのか。


 授業で聞いたことがある。異世界からこの世界にダンジョンを転移させた時の魔法、その余波……歪みが残っていて、たまにアイテムやモンスターなんかが流れ着くことがあるって。それにしても……。


「ダンジョン管理局の人間がアイテム回収? 珍しいわね」


『だろ? 本当はアイルも誘うつもりだったんだけどよ〜』


 そんなこと言われたらどんなアイテム回収するのか気になるじゃない。超絶レアなアイテムだったりして。


「はぁ……私も行きたかったなぁ〜。行けないって分かってるのに何で言うのよ」


『連絡付かなくなったら困るだろ? 相棒なんだからよ』


「……え」


 急に、心臓がハネたような感覚がした。ヨロイさんが気にしてくれてる。それだけで、モモチーとの実技試験とか、憂鬱な気分が吹き飛んだ気がする。


 

『下手に心配かけたら悪いしな。アイルの台場ダンジョンの方はどうなんだよ? 渋谷みたいになってる心配はないか?』



 嬉しい。



「うん。管理局にも確認してるって。3ヶ月前に攻略した人がいて、ボスも復活したばっかりだって」


『なら生態系が変わってることは無いな。だけど気を付けろよ』


「わ、私に何かあったら……心配、する?」


『当たり前だろ。相棒のこと心配しないヤツがいるか』



 相棒……相棒……ヨロイさんに心配されてる……。



 嬉しい!


 頭の中がホワホワする。鏡を見ると、そこに映った私は笑みをこらえられないような顔をしていた。


「ありがとう……ふふっ」


『? どうした?』


「何でも無いわよ。お台場ダンジョンクリアしてヨロイさんビックリさせてあげるから……楽しみにしててよね」


『おう、お前なら冷静になれば大丈夫だからな』



「……うん。ヨロイさんも気をつけてね」



 通話を切ってもなぜか手放せない。久しぶりに私だけで挑むダンジョン。ヨロイさんが期待してくれてる。私を見てくれてる……それを考えると無性にワクワクして来た。



「よーし!! やるわよ!!」



 後でリレイラにも連絡してお台場ダンジョンの情報教えてもらお。あ、ウォタクさんの攻略情報も見て、秋葉原にアイテムも揃えに行かないと。



 頭の中は、すっかりダンジョン攻略のことでいっぱいになっていた。




―――――――――――

 あとがき。


 次回、アイルはお台場ダンジョンへ挑みます。しかしモモチーが予想外の行動を……?

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