第119話 パラデイン北部戦線

 パラデイン王国最北部、コスカス領では激戦が繰り広げられていた。



「ここはなんとしても死守せよ!! グゥの蛮族どもを、これ以上王国内部に侵攻させるな!!」


 北部の防衛を任されている、この私――――パラデイン王国第三軍団の長であり、コルラン侯爵の実弟でもあるジール・コルランの名に懸けて、これ以上グゥの狼藉を見過ごすわけにはいかない。



 私はコルラン家の三男として生まれた。それ故、家督を継ぐことも、その予備として教育される事もないまま比較的自由に過ごしてきた。


 昔はそれなりにヤンチャしたものだ。上二人の兄たちが揃って優秀だった為、劣等感を抱いていた私は親や家族に反抗的な態度を取っていたものだ。


 長男であるロニー兄上は優秀過ぎる頭脳故に、侯爵家の家督を継ぐどころか、ティスペル王国最年少の宰相にまで上り詰めてしまった。


 そんな長男ロニーの抜けた穴を次男であるオラードが埋め、隠居された父上に代わって侯爵家当主としての務めを卒なくこなしていた。


 二人の兄はティスペル王朝滅亡の際にも上手く立ち回り、生まれ変わったパラデイン王国でも爵位を維持したまま要職に就いていた。一歩間違えればコルラン家の未来は大きく変わっていたであろう。これは二人の兄上の功績だ。


 私は兄たちと比べて頭の出来は良くないが、唯一剣術だけは二人に勝っていたので成人前に領兵団に入隊した。


 それから自分なりに努力し、それなりの実力も身につけたつもりだが、半分以上は親や兄たちの権威もあってか、すぐに領兵団長への昇進が決まった。また、パラデイン王国に帰属してからは、第三軍団の軍団長という要職までも頂いた。


(私は剣でコルラン家を支えてみせる!!)


 そう息巻いて此度の戦争に挑んだ。



 現在、北部はグゥの軍勢にコスカスの防衛網を突破され、王国領内部まで浸透されていた。だが、これは事前に想定内の結果であった。


 最初の会戦では旧ティスペル時代の不穏分子どもを中心に防衛を任せ、そこで彼らを篩にかけたのだ。まぁ、分不相応の地位に金と権力だけで就いていた連中に国の防衛など到底無理難題であったので、高確率で敗北するとの予想はズバリ的中してしまった。


 つまり、その後詰めに待機させていた我が第三軍団こそが防衛の本命であったのだ。



「全軍! 敗走する味方の盾になりつつ、敵を迎え撃て!!」

「「「おおおおおおおおっ!!」」」


 グゥの軍勢に敗れ、逃げて来た兵士たちをカバーしつつ、第三軍の歩兵がゆっくりと前進する。第三軍団の兵士の殆どがコルラン家に長年仕えてくれている領兵で構成されていた。その殆どの兵士が私とも顔馴染みであり、若い頃は彼らから剣を教わったりもした。


 今は立場が逆転し、私が彼らの上官となっている。不出来な私を支えてくれる頼もしい連中だ。


「ジール様! 弓兵と神術士の配置が完了致しました!」

「うむ。合図を待て」


 グゥの蛮族どもは調子に乗って奥地まで浸透し過ぎていた。前哨戦に過ぎない第一陣に勝利した事で勢い付いたのだろうが……調子に乗り過ぎたな。


 そんな突出した連中に向かって私は砲撃の合図を送った。


「今だ! 一斉射撃!!」


 私の号令で準備して待っていた弓兵と神術士が同時に射撃を行った。矢と神術弾を雨のように敵軍へと浴びせたのだ。


「ぐああああっ!?」

「な、なんだぁああ!?」

「ぎゃああああ……っ!」


 能天気に敗走する兵士を追いかけていた愚か者たちの大半は、今の一撃で死んだか再起不能となった。


「機を逃さず、こちらも打って出る! 歩兵隊、進軍!! 後方部隊も歩兵隊に続け!!」


 今度はこちらの攻撃の番だ。


 グゥの出鼻を挫いた我が第三軍団はゆっくりと前進し、着実に前線を押し上げていった。


 グゥの兵士どもはようやく自陣の不利を悟ったのか、今度は逆に背を向けて逃げ始めた。


「ふふ。見事に嵌りましたな!」

「ああ。蛮族ども相手ならば、この程度の戦術で十分効果も見込めるだろう」


 グゥの国は元々、好戦的なグゥ一族が周辺地域を支配して国を興したのが始まりだとされていた。


 彼らは武を尊び、腕っぷしの強い者が上に立ち、その中でも最強の男がグゥ一族を導いていく。その性質上、気性の荒い者が代々族長の座に就き、戦力を整えては周辺国に喧嘩を売るような困った国であった。



 そんな国がどうして今まで存続できたかというと、様々な要因もあるのだろうが、大きく分けて二つの理由が存在した。



 まず、今までグゥの国の周辺国に強い国家が存在しなかった事が原因だ。


 軍事力を誇るかつてのゴルドア帝国やリューン王国とは違い、グゥに隣接している周辺国はグゥの領土に侵攻して制圧出来るほどの軍事的な余裕が皆無であった。



 第二の理由は、グゥの国に攻め入るメリットが少ないからだ。


 グゥの国の多くが荒れた大地や山脈、渓谷に森などが広がっており、そこにはグゥ一族以外の部族も多数生活している。


 他の部族たちも一応はグゥの国民という扱いになっているそうだが、彼らは従属している訳では無いので、今回の戦争にも不参加だ。


 だが、そんな彼らが攻められる側になるとしたら話は別だ。


 彼らも住処を奪われるわけにはいかないので、その時は必死に抵抗するだろう。それで得られるリターンがほぼ未開拓の地ときたものだ。メリットよりデメリットの方が大きいのである。



 以上の理由から周辺国はグゥの国に対し、防衛のみに徹してきたのである。ティスペル王国の“北の盾”と称された故人コスカス辺境伯に至っては「軍事演習になって丁度いいわ!」と豪語していたとか。


 そんな豪快な人物も息子の教育には失敗したのか、謀反を起され暗殺されてしまった。先の大戦で多くの兵を失った今のコスカス領兵団に“北の盾”と称されるほどの力は残っていない。



(コスカス家に代わり、我がコルラン家の第三軍団が北部を死守せねば……!)


 戦況は完全にこちら側へと傾いていた。


「第一陣の負傷者たちを救援しつつ、ゆっくり前進するのだ! 負傷者は救えるだけ救え!」


 新王都ケルベロスの司令部から変わった命令が下されていた。


“敵味方関係なく、極力死者を減らせ”


 それがどういった意味を持つのかは私の頭では到底理解できないが、命令通りに作戦をこなすだけだ。



「よーし! このままグゥの軍勢を国境の外まで追い出せ! 深追いはしなくて良いからな!」

「ハッ!」


 そう命令したものの、今はこちらが圧倒的有利で完全なる勝ち戦だ。グゥの蛮族どもは尻尾を巻いて逃げ出しており、背後はがら空き状態だ。


 戦果を求め、少しでも敵兵を討ち取らんと味方の兵士たちは躍起になっていた。多少は進軍スピードが速まるのも致し方あるまい。


(私も若い頃は戦功を欲した身だからな…………ん?)


 味方の進軍速度が些か……いや、かなり動きが速いように思えた。


「おい。すぐに伝令を各隊に送れ! 歩兵は足並みを揃え、前に出過ぎぬように、と……」

「ハッ!」


 これ以上放置すると大きく陣形が乱れかねない。


 嫌な予感がした私は直ちに伝令を送ったのだが、目の前にぶら下っている餌が魅力的過ぎるのか、兵士たちの進軍スピードが全く落ちないでいた。


 歩兵と後方部隊……どちらかというと動きが機敏なのは前者の方だ。進軍速度が上がるとどうしても前後の部隊にスペースが出来てしまう。


「拙いな……! 伝令、もう一度――――」


 私が更に命令を下そうとした矢先――――


「て、敵襲!! 両サイドから敵の騎兵隊です!!」

「なんだとぉ!?」


(このタイミングでか!?)


 私の背筋にゾクリと悪寒が走った。


「迎撃用意! 歩兵をすぐに呼び戻せ! 遊撃隊に後方部隊の護衛をさせるのだ!」

「了解!!」



 本来、盾になる筈の歩兵部隊が後方部隊を置き去りにして前に出過ぎてしまっていた。敗走する敵兵を追うのに夢中な為だ。


 そんな最悪のタイミングで足の速い敵の騎馬隊が襲撃にやってきた。


(くっ! これは意図した襲撃なのか!? だとしたら……!)


 グゥの戦士どもは基本的に猪突猛進だと伺っていたが、これは明らかに組織だった戦術的な動きだ。慢心するつもりは毛頭なかったのだが……しっかりと歩兵の手綱を握れなかった私の落ち度だ。


 敵はこちらの失策を嘲笑うかのように、歩兵隊と後方火力との間を駆け抜けて、浮いた隊を次々に襲撃して回っていた。


「全軍、陣形を立て直しつつ敵騎兵を迎撃せよ! まずは味方との合流を果たすのだ!」


 私は新たな命令を出すも味方は終始押されっぱなしだ。どうやら敵騎馬隊は尋常ではない強さのようだ。


「だ、駄目です! 全く歯が立ちません! 恐らく連中……全員A級の闘気使いです!」

「くぅ……全員、A級だと!?」


 剣の得意な私だが、闘気の量には恵まれなかったのでB級判定止まりであった。


 そんな私より格上の兵で構成された騎馬隊は次々と味方の兵士を屠っていった。作戦でも実力でも我々は劣っていたのだ。


 ここに至って私は勝つことを諦めた。


「守りを固めろ! 少しでも時間を稼いで救援を待つのだ!!」


 第一陣が突破された際、万が一を考慮して作戦指令部レヴァナントには既に応援要請を出してある。時間を稼げば王都から援軍が駆けつけて来る筈なのだ。


「ですが……救援と言っても何時来るのやら……!」

「どんなに早くても、ケルベロスからこの地まで四日以上は掛かるか……」


 要請を出したのは昨日だ。あと三日……とても耐えられそうにない。



 そう思っていたのだが…………以前ドワーフたちが整地した恐ろしく綺麗な道路の先から聞きなれぬ異音が聞こえて来た。


 あの奇妙な乗り物は……!








 リューン王国や周辺国から攻められる事を想定し、俺たちが急ピッチで進めていた事業の一つが幹線道路の整備である。


 東西南北と各地へ援軍を送るのに道が整っていれば、それだけ馬車での移動もスムーズになり、物流は勿論、部隊の輸送も速くなるというものだ。


 というか、大国は何処も似たような整備を普通に行っていた。


 道を整備する事の重要性はオラシス大陸北部の国々を結ぶフラガ大回廊が既に実証済みである。寧ろ、前王朝のティスペル王国がサボっていただけであった。


 だが、俺たちは他の国とは違い、ただ地面を平らに均すだけではない。アスファルトの立派な道路を作って見せたのだ。


(アスファルトって通販サイトで購入できるのね)


 簡易的な代物だがステアの神業スキルでアスファルトを大量購入し、それをネスケラが手直しして、ドワーフたちが協力して道を整備していった。


 そのお陰で自動車をそれなりのスピードで走行できる立派な幹線道路が完成した。


 その移動速度はなんと、南方寄りのケルベロスから最北部のコスカス領まで一日を切る速さだ。この時代の移動手段では考えられない速さである。


(そう考えると、飛竜を使いこなすリューンはかなり脅威なんだがなぁ……)


 今、その飛竜騎士はポーラが操るドローンが抑えている。


 一度、サンハーレに空爆しにやって来た飛竜騎士団だが、幸運にもあれ以降からは偵察や伝令用の飛竜を単騎で出すのみで、部隊を送るような真似をしてこなかった。一騎だけならポーラの操るドローン部隊の餌食であり、リューンは空からの情報網を封殺されていた。


 サンハーレに敵を閉じ込める作戦の方はかなり順調である。



 問題は、その他の戦場だ。


 早速、北が突破されて拙そうだったので俺たち“不滅の勇士団アンデッド”が出動した。


 最初はポーラにバスでも運転してもらって出動しようと思っていたのだが、彼女はドローンの操作で手一杯だ。


 そこでネスケラが代わりの運転手を勧めた。




「ポーラは忙しいから代わりにエースさんにお願いしてよ」

「「「え? 誰……?」」」

「俺っすよ!?」


 シェラミーの手下Aが叫んだ。


(あいつ、エースって名前だったんだ……初めて知った)


 ずっと”手下A”だの”シェラミー一味の子分”だのと呼んでいたから分からなかった。


 エドガーやソーカたちも初耳だったようだ。


「ちなみに俺はビルっす」

「シアンっす」


「なるほどな……覚えたぞ」


 手下Bがビルで手下Cがシアンね。


 俺たちは頭の中で彼らの名前を反芻してしっかり覚えようとしていたが、先ほどからシェラミーが黙ったまま、俺たちと同じように頭をうんうんと縦に揺らしていた。


(おい! お前も名前知らなかったのかい!?)


 これは……ここで指摘するのも野暮なので、子分たちの為にも見なかったことにしよう……



 話が脱線してしまったが、手下A改めエースはパラデイン王国が所有する様々な乗り物をコソ練して一通り動かせるようになっていた。素晴らしい努力家である。


 お陰で、俺たち“アンデッド”はバス移動で楽々現地に到着したのである。








 俺たちが戦地に赴くと軍団長であるコルラン弟とその副官たちが駆けつけてきた。


「これはスズキ元帥殿! こんな早くに来援頂けるとは……」

「…………」

「……元帥殿?」

「あ! 俺か!? スズキだった!」


 スズキ元帥……聞きなれない単語に一瞬困惑してしまったが、そういえば今の俺はケルニクス・スズキ子爵でもあった。適当に家名を作ったので、どうにも呼ばれ慣れない。


(やはり普段からキチンと名前を呼ぶ行為は大切だな)


「俺の事はケルニクスで構わない。えーっと……コルラン軍団長、状況は?」


 宰相も侯爵もみんなコルランでややこしいぞ!


(確か……彼はコルランの三男だったか?)


「ハッ! 私めもジールと名前で呼んで頂ければ幸いです、ケルニクス閣下。現在、我が軍は敵の戦略に嵌り、歩兵と後方部隊が分断され、敵の騎馬隊にかき回されている状況です!」

「あー、あの奥で暴れている騎馬隊かぁ……」

「あの人たち、強そうですね!」


 ソーカが強敵を発見し、嬉しそうに笑みを浮かべていた。


「分かった。あの騎馬隊は俺たち“アンデッド”が受け持つ」

「「「おお……!」」」


 王国最強戦力である俺たちの加勢に兵士たちは沸いていた。


「他の場所も押され気味だな。シェラミー一味は左翼側を、アマノ兄妹は右翼側のサポートをしてくれ」


 俺がササっと指示を出すとシェラミーとセイシュウは表情を顰めた。


「待ちな! 雑魚の相手は御免だよ! 私も騎馬隊相手がいい!」

「ケリー殿。私も出来れば強敵の方を……」


 君たち……仮にもここは戦場で元帥様の命令だよ?


 まぁ、これが“アンデッド”という傭兵団だ。団員を縛り付けるようなやり方は好きではない。


「じゃあ、シェラミーとアマノ兄妹は騎馬隊担当な。手下A……エースたちはバスの付近を警護してくれ。これを失うと痛いからな。ここを仮拠点として反撃に移る」

「「「了解!」」」


 シェラミーとセイシュウは嬉しそうに前線へと赴いていった。セイシュウの後ろを妹のイブキが付いていく。


「師匠! 私も行って良いですか!? 良いですよね!?」

「……良いですよ」

「わーい!!」


 ソーカも猛スピードで騎馬隊の方へと駆けて行った。ちょっと戦力過剰な気もするが……まぁ、これで勝ち確だろう。


「他は悪いけれど、それぞれ押されている隊のサポートでよろしく」

「しゃあねえなあ。了解だ、団長」


 代表して副団長のエドガーが答えた。


「ま、待ってください! あの騎馬隊は全員がA級闘気使いなんですよ!? たった四人だけで挑むのは危険過ぎます!」


 俺たちの会話に割って入ったのはジール・コルラン軍団長だ。


「大丈夫だ。あの四人なら敵を逃がす事はあっても負ける事だけは絶対にあり得ない。それより……あっちの方が問題だな」

「あっち?」


 俺が指差した方向をジーロ軍団長は怪訝な表情で眺めていた。遠方に土煙が立ち上っていたのを俺の視力は捉えていた。


 ジーロは目を凝らし、その土煙の正体を見てギョッとした。


「なっ!? 更に敵の援軍……だと!?」

「グゥの連中も総力戦という訳か。話に聞いていたより色々と考えているようじゃないか」


 仮に俺たちの到着が少しでも遅れているようならば、逃げずにこの場に留まっていた第三軍団は壊滅していただろう。


(グゥにこれだけの戦力があるとはな……)


 それにしても、増援に来た敵軍の装備は異様であった。


 元々グゥの兵士たちはそれぞれが十人十色の装備をしており、統一性が無かった。だが、増援に来た兵士たちは更にバラバラな武装であり、まるで野盗や山賊のような出で立ちだ。


(いや……まさか本当に野盗崩れの連中か?)


 どうも傍から見る限り、グゥ一族とは毛色が違うように思われる。もしかしてグゥ一族とどこかの野盗集団が手を結んだのだろうか?


(……あり得るな)


「ちぃ! この手薄なタイミングで……!」

「元帥殿。如何対処致しましょう?」


「仕方ない。あれは俺一人で片付ける」


 他の戦況も宜しくないので、そこまで人は割けられない。これが最適解だろう。


「元帥殿お一人で!?」

「無茶です! 野盗崩れとは言え、200人以上は居ますよ!?」

「大丈夫だ。A級闘気使いの戦力は100人分だからな。俺は二刀流だから倍で丁度の計算だ!」


 ただし、相手にも闘気使いがいればその限りではない。


 無茶苦茶な計算式だが、俺が自信満々に語って聞かせるとジールは落ち着きを取り戻した。


「げ、元帥殿の実力は存じ上げておりますが…………いえ、私如きが推し量れるような器量ではないのですね。分かりました…………閣下にお任せ致します!」

「コルラン軍団長!?」


 ジールの副官たちが「無茶だ!」とか「お止めしないと!」と慌てていたが、彼は俺を信じてくれたのか意見を曲げなかった。


「じゃあ、行って来る!」

「「「行ってらっしゃーい」」」


 ジールたちの緊迫感も意に介さず、仲間たちは散歩にでも行くかのような態度で俺を見送ってくれた。


「さあて……お前たちはどんな悪党かな?」


 山賊か傭兵崩れか蛮族か……悪党鑑定一級の俺が見極めてやろう!








 凡そ200人規模の武装した集団の前に俺は立ち塞がった。


 それを進軍しながら遠目で見ていた男たちが下卑た笑みを浮かべていた。


「オラオラァ! どきやがれぇ! ぶっ殺すぞぉ!」

「ギャハハッ! ま、逃げても追いかけてぶっ殺すがなぁ!」

「グゥの連中に加担するだけで街を襲いたい放題……楽な仕事だぜ!」

「俺たちはこの辺りで名うての盗賊団“強欲の蛇”だ! 苦しまずに死にたければ有り金を全部出して頭を垂れな!」


 …………驚いた。こちらが尋問する前に聞きたい事、全部言ってくれちゃったわ。


 俺は両手の剣に闘気を込めて……遠距離斬撃【風斬かざきり】を連射した。


 先頭を走る盗賊たちの手足が斬り飛ばされた。


「ぎゃああああああっ!?」

「お、俺の腕がぁあああ!?」

「ひぃいいい!? な、なんだ、これは……っ!!」


 そこでようやく盗賊団たちは俺が只者ではない事を悟った。


「二刀流!? こ、こいつ……ケルニクスだ! “双鬼”が出たぞ!」

「なにぃ!? あの金貨100枚の賞金首か!?」

「ひゃっほー!! てめえら、あいつをぶっ殺せー!!」


「……やれやれ。欲に目が眩んだな」


 金貨なんぞ、あの世では三途の川を渡る船賃くらいしか使い道が無いだろうに……


 こいつら全員の首を撥ねるのは容易いが、おじさんの“お願い”の件もある。


(なんとなくだけど……おじさんの忠告には従った方が良い気がするんだよな)


 これは勘……になるのだろうか?


 このクズたちは殺すべきだと思うし、悪党嫌いな俺もそうしたいと思っている。思っているのだが…………まぁ、裁くのは何時でも出来るか……


 代わりにこいつらの手足を一本ずつ頂くことにした。


「お前たちも街を襲うつもりだったんだろう? 人から奪うんだから……当然、奪われる覚悟もあるんだろうな?」

「んなもん……ねえよ!!」


 闘気使いらしき剣士が三人同時に俺へと襲い掛かって来た。


 一人は大剣使いで、残りはシミターとロングソードだ。


「おらぁ!!」


 大男の大剣が俺へと振り下ろされたので、こちらも片手・・で応戦した。


「ほいっと」

「……へ?」


 両手持ちで打ち下ろされた大剣の斬撃を俺の片手剣が軽々と弾き飛ばした。


 大男は理不尽なまでの膂力の差に驚愕したのか、固まったままだ。その隙を見逃すほど俺は甘くない。


「せい!」

「ぎゃああああっ!」


 もう片方の剣、魂魄剣で大男の太い右腕を斬り飛ばした。


 その直後、残りの二人が左右同時に攻めて来た。


「今なら――――」

「――――両手が使えまい!」


 確かに俺は両手の剣を振るったままの状態だ。


 どうやらこの二人の剣士は大男を囮に利用したらしい。実力はこちらの二人の方が上手だろうか?


 俺は二人の斬撃を回避するように、タイミングを合わせて宙返りした。


 丁度、上下逆さまになった俺の頭の少し下を二人の斬撃が通過していく。


「くっ! これを避けるか!?」

「身軽な奴め! だが……!」


 二人はすぐに二撃目を繰り出す準備をしていた。


 俺は未だ地面に足を付けておらず、宙に浮いたままだ。


(だが残念)


 俺は再び天地が元通りになりそうなタイミングで……地に足が付く前に空を・・蹴った。


「は?」

「え?」


 予想外の動きに二人はついてこられなかった。それがそいつらの敗因だ。


 俺は空を闘技二刀流歩行術【不落ふらく】で蹴り、そのままシミター使いの顔面に蹴りを食らわせた。


「がっ!?」


 男は十メートル以上も吹き飛ばされ、地面を一度バウンドし、更に数メートル先で地に伏した。


「やべ! 生きてるかなぁ……」


 俺が心配している背後でロングソード使いが斬りかかるも、俺は魂魄剣で奴の剣の根本から刃の部分を斬り飛ばした。


「んなあっ!?」


 武器を失った男に俺は問い質した。


「さて……お前は腕か足一本……どこがいい?」

「ひぃ!? ど、どうかご勘弁を……!」

「じゃあ……ゼッチュー!!」


 俺は加減しながらグーパンを顔面に叩き込んだ。


 ぶっ飛ばされたロングソード使いの顔面は陥没し……生きているかどうか怪しいが……ま、いいか。

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