第118話 ホイホイ作戦2

 伝令の指示通りにサンハーレ港付近に向かおうとしていたネーレス艦隊は、その途中で襲撃に見舞われた。



「敵船だと!? 何処のどいつだ!?」

「あの旗は……パラデインだ! パラデイン艦隊が攻めて来やがった!!」

「ぐっ!? 完全に背後を付かれていやがる……! リューンめ! しくじりやがったな!!」


 恐らく伝令役である飛竜の後でも付けられていたのだろう。


 空を飛ぶ飛竜に船で追い付けられるのかは甚だ疑問だが、そうとしか考えられない。艦隊の位置を事前に知らなければ、こうも簡単にこちらの背後は取れないからだ。


「お頭! どうしやす!?」


 慌てた手下の一人が俺に尋ねてきた。


「ああん? どうもこうも……こうなったら逃げの一手だろうがよ!! この態勢じゃあ不利だ! このままサンハーレに向かって、あとはリューン艦隊に任せる!」


 元々そういう約束だったのだ。俺たちが馬鹿正直に戦う必要など全くなかった。


「俺たちは海賊船だぜ? スピードには自信があるんだよ!」



 ネーレス艦隊の真骨頂は小柄な船での船速を活かした近接戦闘にこそある。ほとんど体当たりに近い形で相手船に接舷し、乗り込んで白兵戦を仕掛ける……のだが、今は完全に後方を取られてしまっている。


 これでは相手に突撃も何もない。かといって、このまま180度旋回しては良い的だ。


(こっちは神術士が少ねえんだ! 撃ち合っていられるか!)


 このまま全速力で相手を一旦引き離し、そのまま逃亡するか、船の向きを変えて反撃するしか手段が無い。


 それなのに……



「お、お頭……駄目だ! 全然振り切れねえよ!」

「くそったれ! なんだ、あの船の速度は!?」


 こちらはスピードに特化した小型船や中型船のみで編成している艦隊だというのに、相手艦隊は大型船を伴って余裕で追走してきていた。


 しかも、小型船に至っては海賊船顔負けの機動力でこちらに迫って来ているのだ。


「まさか俺たちに白兵戦で挑むつもりか!? 舐めやがって……!」

「返り討ちにしてやらぁ!!」


 見た事もない異様な小型船から複数の敵兵がこちらへと乗り込んできた。驚いたことに、その連中は互いの船を接舷していない状態で海を越えて飛び移って来たのだ。


 敵海兵の身体能力の高さに驚愕する。


「こいつら……全員闘気持ちか!」

「油断するなよ! 複数でかかれ!」


「大人しく投降せよ。抵抗しなければ海賊といえども生かしておいてやる」


 乗り込んできた黒装束の男の物言いに対し、手下どもは鼻で笑った。誰もそんな戯言に応じるつもりはなかった。


「そうか……愚かな……!」


「馬鹿はテメエだよ!!」

「こちらも全員、それなりの闘気使いなんだよ!」

「この人数差で勝てると…………へ?」


 不敵な笑みを浮かべていた手下の首があっさり跳ね飛ばされた。


「だから愚かだというのだ。それなり・・・・の闘気使い如きが、我らシノビ衆に勝てると思ったのか?」


「こ、こいつ……!」

「殺せー!! 生かして返すな!!」



 そこからは凄惨な戦いが繰り広げられた。


 数はこちらが勝っているものの、力量はあちらが遥かに上である。


 俺の艦隊はすっかり連中に取り囲まれ、これ以上の逃亡は不可能であった。


 このままでは拙い!


「…………おい。この船をあの大型船に近づけろ!」


 俺は一隻の大型船を指した。


 恐らくあれが敵の旗艦だ。油断しているのか、思いのほか近い位置にある。



「へ、へい!」


 俺の指示通りに手下どもが操船し、混戦状態の中を利用して上手い具合に船を近づけさせた。


 あちらも漸くこちらの存在に気が付いたようだが……この距離ならもう十分だ。


「行け!! 相手の頭を取って、この戦況をひっくり返す! 野郎ども……俺に続けぇ!!」

「「「おおおおおおおおっ!!」」」


 俺たちは大型船の横に船を付けると一斉に飛び移った。


 船長である俺の周りはA級闘気使いを幾人か用意してある。俺自身も白兵戦には自信があったので、この戦力なら十分堕とせるだろう。


(なんならこのままこの船を乗っ取っても良いしな、ククク……!)


 手下どもはすぐに戦闘を開始した。


 だが、向こうも旗艦だけあって手練れが多いのか、想像以上に苦戦していた。


(あの黒装束だ! あいつらがヤバい!)


 何故、船上であんなおかしな格好をしているのかは謎だが、どいつもこいつも化け物じみた体幹と身のこなしをしていた。


 俺もさっさと応戦せねばなるまいが、それには周りの雑兵どもが邪魔だ。


 とりあえず近場にいた海兵の小僧を殺そうと俺は剣を振るった。


「死ねぇ!」

「うわっ! お、俺かよぉ!?」


 そいつは海兵の癖に腰が引けているようで、悲鳴を上げながらも、小癪にも俺の攻撃を防ぎ、躱しながら逃げ回っていた。


 逃げ腰の癖に一丁前の闘気を保有しているらしく、なかなか倒せない。


「クソが! 待ちやがれ!!」

「ハン! 海賊如きが……この怪盗バルムント様を倒せると思うなよー!」

「だったら逃げるんじゃねえ!!」


 これ以上の時間のロスは拙い。すぐに手下どもに加勢するべきか躊躇するも、つい熱くなってしまい、その生意気な小僧を俺は追い続けた。


 その甲斐もあり、とうとう奴を端まで追い詰めた。


 小僧の背後は操舵室の壁で退路が塞がれており、逃げる事は不可能だ。仮に横の操舵室へと続く扉を開けて中に逃げ込もうなら、その隙に確実に仕留められるだろう。


「もう逃げ場はねえぞ! 死にやがれ!!」


 俺は猛ダッシュして小僧に接近し、剣を振るった――――のだが、なんと奴は背にある壁をすり抜けて消えてしまった。


「なにぃ!?」


 俺の剣は小僧を切り捨てるつもりが、そのまま壁へと突き刺さってしまった。


「下手打ったな!」


 壁の奥へと消えた筈の小僧が再び壁越しから現れ、そのまま俺へと斬りかかった。


 慌てて俺は剣を手放し、その攻撃をギリギリで回避する。


「て、テメエ……神業スキル持ちの御子だったか!!」

「へっ! バレちまったら仕方ねえ! 死にたくなかったら投降するんだな!」


 確かにスキルは厄介だが……相手の力量自体は決して高くない。


(どうせ壁をすり抜けられる能力だろう? ネタさえ割れちまえば怖かねえ!!)


 俺は予備の剣を抜き、不敵に笑って見せる。小僧の表情は怯えが混じっていた。


「へっ! 今度は逃がさんぞ!」

「――――残念だが、時間切れだ」


 突如、背後から冷たい声が響き、俺は咄嗟に振り返った。


 そこには信じられない光景が広がっていた。


「なぁ!? お、俺の手下どもが……!」


 既に俺以外の全員が倒されていた。


(この短時間で、そんな…………!)


 俺に声を掛けてきた黒装束の男が警告してきた。


「武器を捨てて投降せよ。それとも今すぐに死にたいか?」


 冷酷な宣告に俺は観念して剣を放り投げた。








「ふぅ。乗り込まれた時はどうしようかと思ったが……」


 味方の戦死者無しとの報告を聞いて旗艦クラーケンの船長兼艦隊の提督を任されている俺は安堵した。


 海兵隊ケートス所属のシノビ衆を統括するハガネが声を掛けてきた。


「申し訳ないな、ゾッカ提督。戦況はかなりこちらに有利そうであったのでな。訓練も兼ねて、怪しい敵船の動向を敢えて見逃し、白兵戦に持ち込んでみたのだ」

「マジかよ!?」


 ハガネの告白に俺は驚かされた。


 どうやら敵船が近づいて来るのを敢えて見逃して、兵士たちに白兵戦の経験を積ませたかったようだ。なんとも無茶な真似をする…………


 驚いたのはシュオウも同じだったらしく、彼はハガネに対して文句を言った。


「ば、バカ野郎! 危うく死ぬところだっただろうが!?」

「危なければ我らが助太刀した。シュオウ殿は折角素晴らしい神業スキルと闘力に恵まれているのだから、もっと剣の腕を磨くべきだな」

「うっ!? お、俺は争いごとが苦手なんだよ!!」


 そうは言いつつも、シュオウは戦争が起こる度に力を貸してくれている。心根は熱い男なのだ。


 なによりシュオウはその神業スキルを使い、既にリューン艦隊に対しての仕込みを済ませていたのだ。


「他の船も問題なさそうだな。よし! ネーレス海賊団を撃破した後は、いよいよサンハーレにいるリューン艦隊に打って出るぞ!」

「「「応!!」」」



 艦隊同士の初戦はパラデイン軍が圧勝した。








 一方、サンハーレに上陸したリューン海軍と乗船していた陸軍の将校たちは困惑していた。


「報告で聞いてはいたが……本当に街は無人なのか?」


「ハッ! ストレーム提督! 港だけでなく、街中にも人影が一切見られません!」

「女王の仮の王城だと言われている領主館も、既にもぬけの殻でした!」


「ううむ……」


 どうやら情報部から事前にもたらされた情報はかなり古いものらしく、女王は既に遷都予定であるケルベロス要塞のある街へと逃げたと推測される。


「どうやら情報戦で我々は二歩も三歩も遅れを取っているようだな……」


 不安そうな表情で呟く私に対し、陸軍将校は小馬鹿にするように笑い出した。


「フハハ! リューン艦隊提督であるストレーム殿がこれまた随分と弱気な発言だな! 要するに連中は我々に勝てないと踏んで、早々に逃げ出しただけだろう? 大事な港町を放り出して、な」

「スン将軍! 油断は禁物だぞ!」


 私が苦言を呈するも30代前半とまだ若いスン将軍は適当に相槌を打つのみであった。


(やれやれ……元帥にも困ったものだ…………)



 今回の陸軍における人事権はフリット・スン元帥に委ねられており、彼は次男であるケオン・スン将軍を上陸作戦の責任者に任命したのだ。


 リューンが誇る飛竜騎士団がサンハーレを爆撃し、更には大艦隊で港を制圧する。その後に陸軍が上陸して街や周辺を占拠するというのが本来の作戦であった。


 まぁ、ぶっちゃけると陸軍は全てのお膳立てが整ったところに美味しいところを頂くだけの存在に過ぎなかった。きっと元帥殿は息子に花を持たせたかったのだろう。


 結果は空軍や海軍が出張るまでもなく、サンハーレは既に放棄されていた訳だが……それでも武勲は武勲だ。これでスン将軍にも街を占拠したという実績がつくだろう。


 だが、どうやら若い彼は戦わずして得た誉に対して不満を抱いているようだ。



「……つまらん。一当たりもせず得られる功績など……幼子でも代わりが務まるわ!」

「スン将軍。その台詞はしっかり街を占拠した後に言うべきだぞ? まずは周囲を調査するのだ。相手が早々に引き上げた以上、街にどんな置き土産を残している事か……」

「むぅ。そうであったな……」


 何もする事がないからなのか、スン将軍は意外にも大人しく私の言う事に耳を傾けた。どうやらただの猪頭ではない事に少しだけ安堵した。


 スン将軍はすぐに兵士を使って街の隅々まで調査させた。




「報告! 領主邸に敵の作戦書らしき物を発見致しました!」

「井戸水から異臭が漂っております! どうやら下水が混じっているようで、これでは当分、生活用水は使用できません!」

「武器の類を発見致しましたが……どれも脆く、正直使い物になりません!」


 やはり色々と仕掛けられていたか……


 他にも備蓄庫から食料も見つかったそうだが……この調子では食べるのも躊躇われた。


「なんと悪辣な……!」

「将軍。この街の備蓄や武器は全て処分した方が賢明だろうな。恐らく残された作戦書とやらも……」

「ああ……間違いなく偽旗作戦でしょうな。偽の作戦書で我々を欺くつもりだろうが……猿知恵を働かせおって!!」


 スン将軍は怒りを露わにしていた。


「食料や水は大量に運搬してきたので当面は問題無いが……長期戦になると厄介だぞ?」

「ストレーム提督も心配性ですなぁ。すぐに周辺地域も制圧して物資を調達させる。早々にケルベロスを堕としてご覧に見せようぞ!」

「待て。ケルベロス攻略は南方からの援軍と同調して行う手筈であろう?」


 私がそう指摘するとスン将軍は顔を顰めた。


「それはそうだが……ここで女王を討てなかった以上、何時までも我々の兵力を遊ばせておく訳にもいかんだろう? それに長期戦が不利だと言ったのは貴殿ではないか。陸軍を指揮する将校として、私にも立場や責任がありますからな」


 それを言われると少々弱い。


 私はあくまで艦隊の提督であり、陸での作戦にまで口を出す権限はない。私の役目は敵の海上戦力を殲滅し、本国との補給路を確保する事にあった。


「……くれぐれも無理はするなよ?」

「ハハ! そんな無理をせずとも弱小国家の軍勢など軽々と屠って見せようぞ!」



 どうしても不安は残るが……私は将軍を信じ、己の職務を全うするとしよう。




 そんな私の不安は後日、見事に的中する事になった。








「スン将軍! サンハーレ郊外にて敵戦力を確認しました!」

「連中、サンハーレ周囲を完全に包囲しております!」


「むぅ……」



 偵察の報告によると、サンハーレ郊外には即席の壁のようなもので覆われており、そこにパラデイン兵たちが配置されていた。どうやらこちら側に攻めて来るのではなく、あくまで街の周囲を包囲して待ち受ける構えのようだ。


 見たところ人数は少ない。それも当然だろう。今のパラデイン王国は東、南、北の三方向から狙われているのだ。割けられる人数にも限界があるに違いあるまい。


 故に、連中の目的は我々の足止めだと見た。



「小癪な……! 数はこちらの方が圧倒的に多いのだ! さっさと包囲網を崩し、近くの領地を占領するぞ!」

「「「ハッ!」」」


 上陸作戦の陸軍責任者である私はすぐに出陣を命じた。




 最初は容易いと思っていた敵の陣容であったが……実際に戦闘が始まり、しばらく様子を見ていると、それが間違いであったことに気付かされた。



「右翼側! 二つの部隊が全滅!」

「くっ! 後方から急いで兵を補充させろ!」

「左翼の敵防衛網も堅牢で突破できません!」

「ええい! 火力のある神術部隊を左翼側に回せぇ!!」

「敵騎兵隊が我が精鋭の遊撃隊を襲撃! 被害大!!」

「ぐぅ!? すぐに下がらせろ! 騎兵隊には弓兵を当てろ! 遠距離で遊撃隊を支援するのだ!」


 次々と我が部隊の敗報が届けられ、私は歯ぎしりしながら戦況を見つめていた。


(なんだ、この強さは……! 我々の方が5倍以上の兵数があるのだぞ!? なのに……何故負けるのか!?)


 倍以上の戦力で白兵戦を仕掛ければ簡単に押し負け、敵神術士に対して有利な弓兵部隊で応戦しても碌な戦果を挙げられず……


 そして我が軍団の切り札である精鋭部隊もあっさりと敵の騎兵隊に敗れてしまった。相手が強すぎるのだ!


(あり得んだろう!? あの遊撃隊は全員、エース級の闘気使いで構成されているのだぞ!?)


 しかし……目の前の事実はしっかり受け止める必要がある。私自身もエース級の闘気使いであり、敵の力量が尋常ではない事は既に見抜いていた。


「スン将軍……我々はどうすれば……?」

「…………退却だ! 街中まで下がり、そこで防衛して立て直す!」

「「「ハッ!」」」


 こうなったら本国からの支援を待ちつつ、サンハーレで籠城するしかあるまい。


(ストレーム提督にまた小言を言われそうだな……)


 格好をつけて打って出た手前、私は負い目を感じながら街へと引き返した。








 リューン陸軍がサンハーレに後退するのを確認した私はすぐに全軍へ攻撃停止命令を下した。


「トニア参謀長補佐。追撃しなくてよろしいので?」

「不要ですわ。このままリューン軍にはサンハーレに籠城してもらいます」


 士官からの問いに私は自信満々に答えた。



 元々、リューン軍をサンハーレ内に押し込めるのは予定通りの作戦であった。サンハーレの街中には様々な細工を仕掛けており、籠城するには不向きな街へと変貌していた。


 そこを一気に叩いて殲滅するのが当初の作戦であったのだが……我が敬愛すべきケルニクス様から作戦の変更を言い渡された。



「敵兵は極力殺さず、生かして捕えます。我々アンデッド軍はこのまま街を包囲すれば良いのです」

「ハッ! 了解であります!」



 兵数はまだまだこちら側が劣っているものの、私は王国最強であるアンデッド軍をケルニクス様よりお預かりしている。


 特に騎馬隊デュラハンはアマノ家の重鎮ゴンゾウ氏が率いており、その強さは金級上位の傭兵団に匹敵する。


 隊長格の主要メンバーは別の任務に就いて外れているが、精鋭隊ドラウグ不滅隊グール砲兵隊ワイトも、これまで厳しい戦争に生き抜いてきた精鋭たちだ。


 故に負ける筈も無かった。


「フフ。今のサンハーレで何処まで籠城できるか……楽しみですわね」


 私は兵士に交代で休息を取るよう命令を出した。








――――サンハーレ港、沖合



「ストレーム提督! 前方に艦隊! あれは……パラデイン艦隊です!」

「なんだと!? ネーレス艦隊はどうしたのだ!?」


 ネーレス海賊団からも飛竜騎士からも、未だなんの報告も届けられていなかった。


(…………嫌な予感がする)


 長年の経験で培われた私の勘が危険信号を告げていた。


「すぐに艦隊戦の用意! それと同時に両左翼へ足の速い小型船を出せ! 敵船に事前に悟られぬよう、本国への伝令を向かわせるのだ」

「っ!? 了解です!」


 私はすぐに今の状況を本国へ知らせるよう、伝令の船を用意させた。



 間もなくして艦隊戦は始まった。


 こちらの方が大型船も多く、数の面でも有利であったが、パラデインの軍船はとにかく速かった。


「ぐっ!? なんという性能だ……! 近づかせるな!」

「だ、駄目です! 四番艦、五番艦、共に乗り込まれました」


 敵海兵の実力は相当なもので、あっという間に大型船二隻が機能停止した。


「……今だ! 伝令の船を出せ!」

「ハッ!」


 私の指示通りに足の速い小型船が二隻、この海域から逃れようと動いた。


 だが――――


「提督! 連中の小型船が動きました! 我が伝令の船は二隻とも鹵獲された模様!」

「くっ! 駄目か……!」


 だが、今の動きでハッキリした。


(連中め……! 我々をサンハーレから出さないつもりだな!)


 我が艦隊は湾内から出る入り口をパラデイン艦隊に抑えられている。敵艦隊の動きは我々を殲滅するというよりかは、そのまま湾内に閉じ込めるような動きを見せていた。


「まさか……最初からこれを狙って? こちらがサンハーレを攻めるつもりが……逆に我々がサンハーレに閉じ込められるとは…………!」


 仮にも数日前までは王都であった港町を、まさか我々の牢獄に用いるとは流石に想像の埒外であった。


 我がリューン陸・海軍はこれから敵が用意した街で籠城戦を強いられるのだ。それがどんなに拙い状況か……私は思わず頭を抱えた。








「ネスケラ参謀長! “ホイホイ作戦”はどうやら成功したようです!」

「やったね~!」


 シノビの報告にネスケラは嬉しそうにはしゃいでいた。


 だが、吉報ばかりではなかった。


「ネスケラ参謀! 北部の戦況は我が軍が劣勢! コスカス領内にグゥの軍隊が侵攻中!」

「っ!? あちゃー……やっぱ駄目だったかぁ……」



 コスカス領はティスペル王朝時代、“北の盾”と称されるほどの軍事力を有していた要所だ。


 だが、ゴルドア帝国の画策によりコスカス領当主の長男が離反。それと同時にグゥの軍勢の侵攻もあり、当時は兵にかなりの被害が出ていた。


 なんとかグゥの侵攻は防いだものの、その際にコスカス辺境伯の長男を拘束。今は代理の貴族に運営を任せているが……あの地は西のメノーラ領付近と同様、旧ティスペル派の使えない貴族たちを集めさせた“試しの地”として利用している。


 そこで真面目に国防に取り組み、心を入れ替えるのならば良し。


 だが、謀反を企てるか貴族としての務めを放棄するつもりならば処分するつもりで統治を任せ、放任していたのだ。


 結果は…………



「幾人かの貴族は必死に防衛に励んでいたようですが、大半の連中はこの機に乗じて逃亡するか、グゥの国やジーロ王国に亡命したようです」

「大方予想通りだね。真面目に取り組んだ貴族たちは極力助けてあげて。後でリストアップよろしく!」

「御意!」


 これで大手を振るって過去の膿を取り出せるというものだ。


 だが、このままグゥの軍隊を侵攻させる訳にはいかない。


「予定通り防衛には第三軍団を当たらせて。でも、それでも戦力が足らないだろうから……」


 ネスケラはチラリと俺の方を見た。


「いよいよ出番だな」

「うん。傭兵団“不滅の勇士団アンデッド”の出動だね!」


 ようやくかと、俺の仲間たちも全員息巻いていた。みんな早く戦いたくてうずうずしていた様子だ。



 さぁ……王国に敵対する連中をぶっ飛ばしに行くぞ!

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