第111話 氷剣

 ドルニャンを討ち、当初の目的であった魔剣“魂魄剣”を手に入れた。


 ついでに何故か襲撃してきた飛竜騎士団も撃退し、イヴレフたち“蒼のハウンド”も味方につけた。


 今回の旅は得るモノが多く、意気揚々と凱旋しようと思っていたのだが――――




「――――なるほど。そういう理由で交戦になったと……」

「うむ!」


 現在、俺はレイシス王国の兵士から尋問を受けていた。


 俺だけでなくイヴレフたち傭兵も全員、レイシス軍の施設内に身柄を預けていた。




 あの時、俺たちが交戦していた場所は人里から離れている山岳地帯であった。


 だが、それでもあれだけ派手に爆撃していれば嫌でも人目に付くというものだ。


 結果、騒ぎを聞きつけて急行したレイシス王国軍と俺たちは鉢合わせ、今はポーラが待機中である麓の街まで連行されてしまったのだ。



 とは言っても、なにも荒っぽい尋問や酷い扱いを受けているわけではない。寧ろ、賓客待遇ですらある。それというのも、最初に俺が自分の身分を明かしたからだろう。


 これでも俺はパラデイン王国の元帥であり子爵でもある。


 レイシス王国とパラデイン王国は同盟こそ結んでいないが、ゴルドア帝国という共通の敵を抱え持つ国同士である。そんな他国の要人を雑には扱えないのだろう。


 また、ヤマネコ山賊団を俺たちが討伐したという事実も味方した。


 ドルニャン一味はレイシス周辺を拠点とし、好き勝手な殺戮と略奪を繰り返していたらしい。そんな状況で、何故か他国の貴族が現れて厄介な山賊どもを撃退してくれたのだ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはない。


 同じ理由で討伐に貢献してくれたイヴレフたち傭兵団の扱いも悪いものではなかった。


 そして、更には飛竜騎士団の存在が大きかった。




「……あれは本当にリューンの飛竜騎士団なのでしょうか?」


 昨日から同じ質問を何度も繰り返されるも、俺の回答はずっと同じだ。


「さぁな。多分……いや、十中八九そうなんだろうが、何も言わねえんだよ、あいつ。団長様らしいんだけど…………」


 飛竜騎士団が去り際、ランス持ちの手強かった騎士を「団長」と叫んでいたのを俺は聞き逃さなかった。


 その団長らしき人物を含め、五人の騎士と三匹の飛竜を捕らえていた。



「そちらはあいつから何か聞き出せなかったのか?」

「いえ、やはり口を割りませんね…………」

「そうか……」


 彼らの装備にはリューン王国の国章や身分に繋がるようなモノは一切見当たらなかったのだ。恐らく事前に外しておいたのだろう。これで口を割らなければ、リューン王国と断定するのは不可能であった。


(いや、飛竜を部隊規模で乗り熟すなんて、絶対リューンなんだろうけどさ!!)


 それを根拠にリューンに抗議しても、”そいつらは自国の飛竜騎士ではない”と返答されてしまえばそれまでだ。


 今回の一件はレイシス王国領土内で起きた襲撃事件だ。リューンもこれ以上、余計な敵は増やしたくなかったのだろう。だからこその物証を残さない配慮だと思われた。


 その証拠に――――


「拷問して口を割らせればいいのでは?」

「と、とんでもありません! いや……失礼。そんな野蛮な真似、我々にはとても…………」


 ――――このように、確実な証拠が無い状況ではレイシス王国側も及び腰なのだ。


 ただでさえレイシス王国はカウダン商業国との戦時中な為、これ以上の厄介事はご免なのだろう。その点はリューン側の思惑とも一致していた。


 故にレイシス王国は、俺たちパラデイン王国の存在も無碍にはできないが、リューン所属と思われる飛竜騎士の捕虜たちにも配慮せねばならない立場なのだ。



「……分かった。なら、後は俺たちが引き継ごう。飛竜と騎士の身柄、パラデイン王国で預からせてもらう」

「なっ!? あの者たちを連れて帰るおつもりですか!?」

「このまま口を割らないのであれば、あれはどの国の所属でも無い、ただの賊ということだ。そちらの領土内の襲撃とはいえ、パラデイン王国の貴族である俺を暗殺しようと目論んだ賊連中だ。ならば我が国に護送して、しかるべき措置を取らさせて頂く」


 俺がそう発言するとレイシスの兵士は慌てた。


「お、お待ち頂きたい!! 今回の件は我が国の領土内で起きた事件! よって、我が国の法で裁くのが適切ではないでしょうか?」

「……じゃあ尋ねるが、アンタらの国の法で、他国の要人を暗殺しようと企てた一味の扱いは、通常ならばどうなる? 一切素性を喋ろうとしない賊の場合だ」

「っ!? それは…………死罪です」


 まぁ、そうなるわな。


「だったら刑が確定するまで待つから、そいつらも同じ対応でよろしく」

「…………至急、上に確認を取ります!」


 うむ……少し意地悪だっただろうか?


 レイシスとしては板挟みの状態なのだろう。


 悩むくらいなら、いっそ俺たちに賊を引き渡してしまい、後は知らぬ存ぜぬを貫けば良いものを……






 それから二日後、どうやら“上”とやらの確認が漸く取れたらしい。


 賊に関しては俺たちパラデイン王国預かりとなり、ただちに国外へ護送するようにとお願いされてしまった。あちらもリューン王国の恨みは買いたくないのだろう。


 レイシス上層部は厄介な人物全員を早急に国外へ追い出すことを選択したようだ。


 その見返りとしてなのか、生きた飛竜を拘束できるだけの鎖と搬送用の大きな馬車や護送車、それに最上級の隷属の首輪を複数用意してくれた。これだけの備えがあれば闘気使いや飛竜の護送も可能だろう。








「やっと釈放だー! シャバの空気はうめー!!」


 俺が大声を上げると隣にいるイヴレフはため息をついた。


「三食昼寝付きで楽だったんだがなぁ」


 イヴレフもだいぶ良い性格をしていた。俺とは気が合いそうだ。


「アンタたち……やっと出てきた!」


 街の宿で待ち惚けていたポーラも合流した。一人だけ待たされていた身であるポーラは不満をあらわにしていた。



 そんな俺たちの元へ一人の兵士が声を掛けてきた。


「あのぉ……ケルニクス殿。準備が整いましたら、一刻も早く御出立を…………」

「おっと! そういう約束だったな」


 レイシスの兵士に促されてしまった。


 彼らは道中までの護送のお手伝いだ。レイシスとしては少しでも早く俺たちに国外へと出て欲しいのだ。


 まぁ、お手伝いというより、寧ろ見張り役である。


「いやぁ、申し訳ない。なかなか口を割らない厄介な捕虜をこちらに回して頂いて。その上、素早く出国できるよう手配までしてくれるとは……! パラデイン王国はこの御恩を決して忘れないでしょう! そう上層部にも、お伝え頂きたい!」


 皮肉を込めた挨拶を述べると監視役の兵士は表情を真っ青にしていた。


「っ!? ぅ、あ……はい……」


 うん、これ以上苛めるのも可哀想なので、そろそろ止めておこう。彼らにも彼らの都合があるのだ。それに末端の兵士には何の罪も無いのだから……




 俺たちはその日のうちにレイシス王国を出立し、再びザラム公国の地へと踏み込んだ。








 ――――レイシス王国北東部



 俺は麓の街から去っていく黒髪の青年の後姿を遠くから睨みつけていた。


 その青年は“双鬼”という二つ名の由来通り、二振りの剣を身に着けていた。


 問題はその内の一本だ。


“魂魄剣”――――その伝説の神器を監視し、管理するのが俺の役目であるのだが……


(畜生!! なんだって“双鬼”がやって来やがるんだ!?)


 俺は“草影くさかげ”に所属する諜報員だ。これでも組織の中では古参な方で、かなりの実力者だと自負していた。


 特に隠密能力に秀でた俺だからこそ、今回の任務に抜擢されたのだ。


“魂魄剣を与えたドルニャンと魔剣の監視をせよ”


 それが上からの命令だ。


 仮にドルニャンが魔剣を譲渡するか死亡した場合、ただちに剣を回収するようにとも命じられていた。あれだけ腕の立つ獣人の監視には骨を折らされたが、それでも俺にはやれないことはない任務であった。


 だが――――


(あいつから剣を回収? 無理だ! まだこちらの存在はバレてはねえが……手を出せば確実に気付かれちまう!)


 手を出した瞬間、俺は為す術なく敗れるだろう。あいつに勝てるビジョンが見えてこない。


 まさか、あのヤマネコ山賊団頭目と飛竜騎士団を同時に相手する程、頭がイカれているとは……!


 しかもドルニャンは掠っただけでもアウトな魔剣を所持していたのだ。


 それなのにケルニクスは勝利してしまった。


(……化け物だ! 何故か魔剣も効かないようだし……くそっ! この情報だけでも持ち帰って退散するべきか? うん、そうだ! それしかねえ!)


 俺の評価は落ちるだろうが死ぬよりはマシである。



 意を決してその場を離れようとした俺であったが、不意に背後から微かな気配を感じ取った。


「――――っ!? 何者だ!」


 気配は……二つ! 右の林と左の岩陰から只ならぬ者の気配を感じ取った。


「…………私の気配を探り当てるか。やるな」


 そうして右の林から出てきたのはフード付きのローブで顔を隠した怪しい人物である。


 声からして若そうな女のようだ。


「何者だと……聞いているぞ!」

「ふん。私に名を尋ねるつもりなら、そちらも……と、言い返したいところだが、“影”の先兵である貴様相手に名を尋ねたところで、どうせ偽名が返って来るだけだろうな」


 こいつ……俺が“影”の諜報機関である“草影”のメンバーであることを知っている!?


 俺は更に警戒度を上げた。


 同時に、左の岩陰に潜伏中の気配の方にも警戒をした。恐らく目の前の女に気を取られている隙に、もう片方が奇襲を仕掛ける算段なのだろう。


(浅知恵を……!)


 俺は腰の鞘から剣を抜いた。


「……名乗る気が無いのなら、このままテメエの口を封じるまでだ」


 俺は戦闘もかなり出来る。実力的には“影”の暗殺組織である“暗影あんえい”に所属していても別段おかしくはない腕前であった。


 本当は戦わずに逃げるのがベストなのだろうが、このローブ女は何故か俺の正体を知っている。ここで見逃せば今後の裏仕事にも差し支えるので、生かしておくわけにはいかないのだ。



 やる気なのは向こうも同じなのか、ローブ女の方も静かに剣を抜いた。


(……剣士か?)


 だが、剣を持つ腕はかなり細い。闘気の扱いに長けているのかもしれないが、俺であれば楽勝だろう。


「死に逝く貴様には名乗っても別に構わないのだが……ここでは止めておこう。どうやらこの場にはもう一人、オーディエンスが隠れ潜んでいるようなのでな」

「……なに?」


 ローブ女は左の岩をチラ見した。そこはもう一つの気配がある岩だ。


(仲間ではなかったのか!?)


 俺たちに位置がバレた潜伏者は漸く姿を現した。


 その岩陰から出てきたのは、そこらにいる旅人風の装いである女であった。俺も一般人に紛れるよう平凡な格好をしているので人の事は言えないが……この女も只者では無いのだろう。


 その旅人風の女は武器を――――確か日本刀と呼ばれる短い刀を既に抜いていた。


「その武器……貴様、まさかウの国のシノビか!?」

「答えるつもりはありません。ですが……そちらの方の素性は私も気になりますね」


 女のシノビはこちらを警戒したまま、ローブ女の方へと刃を向けた。


 こいつはラッキーだ。


(この女ども……やはり別勢力だったか! 上手い具合に立ち回れば楽できそうだ!)


“一対二”が“一対一対一”になったのだ。


 この好転に釣られて俺はニヤリと笑うと、口元だけ見えるローブ女はため息をついた。


「…………シノビよ。剣を向ける相手を間違えている。私は貴様らの敵ではない。だが、その男は我々の共通の敵の筈だぞ?」

「…………顔も見せない方を信用するほど私は愚かではありません」


 そうは言うものの、シノビ女はローブ女の方だけでなく、こちらへの警戒も解いていなかった。俺を逃がさないつもりなのだろう。


(ちっ! この女……思ったより強そうだな……!)


 だが、長年諜報員を続けていた俺の勘が告げていた。シノビ女より厄介なのは、寧ろローブ女の方なのだと……


「…………仕方がない。これも主様の命令だ。誤解されそうならば正体を明かせと言われている」


 そう呟いた女はローブのフード部分を脱いで顔を見せた。


 そいつは……薄青い髪色の美女であった。


 その可憐な姿に思わず目を奪われそうであったが、何より目を引くのは細長く尖った耳だ。


「――――っ!?」

「エルフ!?」


 この地にエルフとは珍しい。そもそも、エルフはエルフの森からは滅多に出てこない。


(……待て? 青髪のエルフ……だと!?)


 その組み合わせには覚えがあった。


「貴様……まさか、あの“氷剣”か!?」

「正解だ!」


 そう告げたエルフの剣士はあっという間に俺へと肉薄した。


 その勢いのまま女エルフは剣を振るう。


「くっ!?」


 慌てて俺は剣で相手の攻撃を凌いだ。


 なかなかの速さだが、見切れぬ程ではない。


(いや、そんな呑気な事を考えている場合じゃねえ!?)


 俺は慌てて奴から離れようとした。


 何故なら、そいつは――――


「――――【氷結】!」


 一瞬で俺とその周囲が完全に凍り付いた。


 そう、このとんでもない女の正体は剣士なんかではない……凄腕の神術士なのだ!


 ただ彼女は、神術士が好んで使う杖の代わりに剣を振るい、近接戦闘もそこそこ熟すだけ……


 故に、付いた二つ名が“氷剣”


 この女と対峙したならば、剣の間合いには絶対に入るなと、俺が新人の頃、そう先輩に教わっていた。奴に近づかれたその時は、既に氷の神術の間合いなのだから、と……


 全身を凍らされた俺は薄れゆく意識の中、初手で逃げ出さなかった自分の愚かな行動を悔やみ続けた。








 目の前で“草影”の諜報員だと思われる男が一瞬で氷像と化してしまった。


 それを目撃したシノビ衆の一員である私は、エルフに対して身構えた。


 そんな私の心情を読み取ったのか、女エルフが声を掛けてきた。


「警戒は不要だ。私に貴様を斬る理由はない」

「……それも主様とやらのご命令ですか?」


 少しでも情報を引き出そうと女エルフに尋ねた。


「……あの魔剣、悪用するなよ? 主様の信用を損なうようならば……今度はあの男を斬る!」


 そう告げて女エルフは姿を消した。


 気配は……駄目だ。私では追えそうにない。我々シノビ衆に匹敵するほどの隠密技術であった。


「……斬る? 凍らせる、の間違いでは?」


 私は氷漬けになった男の首を跳ね飛ばし、急いでケルニクス殿の元へと向かった。








 帰りの道中もなかなか大変であった。


 まず、レイシス内で諜報活動中の女シノビ―――ナタから報告があった。


 どうも俺を監視していた者が二名いたらしく、その内の一人を取り逃がしたそうだ。しかもその女は“氷剣”と呼ばれる有名人であるらしい。


「あー、あいつね。知ってる、知ってる」

「どうかご注意を……」


 必要な事を告げると、ナタは再び旅人に偽装してその場からそっと離れた。


(……“氷剣”って誰?)


 つい知ったかをしてしまったが何者だ? あとでこっそりエドガーにでも聞いてみよう。


 そんな事より今はパラデインに帰るのが先決だ。



 ザラム公国内までの旅は問題無かった。


 往路とは逆で復路では、今度はレイシス側からザラム公国に連絡してもらい、通行許可を貰ったからだ。


 問題は再び帝国領を通過する場面であった。



「……ま、あれこれ考えても仕方がない、行くか」


 俺たち一行がそのまま馬車を進ませようとすると、捕虜の身である飛竜騎士団の団長が話しかけてきた。


「待て。あれは帝国領の国境にある砦ではないのか? まさか……このまま越境する気か?」

「うん。そだけど?」

「――――っ!? 阿呆か!? そんな真似をすれば絶対に捕まるぞ!!」


 コイツは何を慌てているのだろうか?


「ようやく口を開いたと思ったら……。そんなの返り討ちにすればいいじゃない」

「うむ」


 俺の言葉に隣にいるイヴレフも頷いていた。


 それを聞いた飛竜騎士団の捕虜たちが慌てだした。


「いや……待て待て。そんな真似をすれば大事になるだろうが!?」

「え? 帝国とは既に戦争中だぞ? 既に大事になってるんだが……?」

「そ、そういう問題ではない! ええい!! 来た時は一体どうやって越境したのだ!?」

「どうって……堂々と?」

「うむ。歌いながら国境を越えたな」

「阿呆ばかりか!?」


 俺たちの返答に騎士団長さんは声を上げた。








 ――――ゴルドア帝国領内、国境沿いの砦屋上



 ここはザラム公国との最前線の一つである砦であった。


 尤も、最前線とは言っても、この辺りはだいぶ静かなものだ。実際に大規模な戦闘を繰り広げているのは、ここよりずっと西にある国境線周辺地域なのだ。


 そう、この前の騒動が寧ろ例外であったのだ。



 先日、謎の傭兵団が帝国政府や貴族を馬鹿にする歌を歌いながらザラム方面へと逃走するという事件が起きた。それを無視できなかった貴族出身の上官が命令を下し、その謎の集団を追撃したのだ。


 結果は最悪、ザラム軍の砦がある付近で我々は反転攻勢を受け、帝国部隊は壊滅状態となった。


 辛うじて生き延びた平民出身の私だが、何故かそのまま砦の責任者に任命されてしまったのだ。階級が一番高いのが偶々私であったという理由からだ。



「今日も平和っすね。隊長!」

「ああ。煩わしい貴族どもも居らんしな!」


 無茶を言う横柄な貴族士官も居なくなった。


 人員はかなり減らされたが、元々この辺りはさして重要な地ではない。防衛だけなら少数でも十分なのだ。


「……ん? 隊長……何やらおかしな一団がザラム方面からやって来ます!」

「何!? まさかザラム軍か!?」

「……いえ、武装はしておりますが……傭兵部隊でしょうか?」

「…………え?」


 なんだかとても嫌な予感がする。


 脳裏に浮かぶのは、あのふざけた歌だ。


“帝国貴族をぶっつぶせーっ!! 悪徳領主はゼッチューだ~♪”


 平民出身の私にとっては胸のすく思いのする歌であったが……あの時の戦闘はまさに地獄であった。


 現在この砦に居る兵士の大半は、運良く出撃を免れた兵士ばかりなので、あの時の顛末を彼らは知らない。


「視えてきました! ほとんどが獣人の傭兵で構成されているようです!」

「はぅああああっ!?」


 それを聞いた私はおかしな悲鳴を上げてしまった。


(やはり……あの連中だ! 間違いない!)


 あの恐ろしい連中が帰ってきたのだ!


「何故か魔物と兵士を捕虜にしているぞ!?」

「あの魔物は……まさか飛竜!?」

「嘘だろ!? それじゃあ、あの捕らわれている兵士は……リューンの騎士か!?」

「た、隊長!? どうされます!?」

「隊長!?」


 部下たちの視線が集まる中、私はぼそりと呟いた。


「…………手を出すな」

「「「…………は?」」」


 私の一言に兵士たちは唖然としていた。


「いいか! 絶対に連中には手を出すな! そのまま行かせてやれ! 門を開けろ!!」

「た、隊長!? 正気ですか!?」


 分かっている。


 今の状況下で謎の武装集団を確認もせず通すなど……下手をすれば反逆行為と見做され死罪確定だろう。


 だが、迂闊に手を出せば我々は全滅する。それを考慮すれば私一人の首で済むのだから安いものだ。


「いいな! 命令だ! 連中はそのまま通せ! 急いで下の者にも通達をしろ!」

「「「りょ、了解!!」」」



 一人の男の英断が砦とそこにいる帝国兵たちの命を救ったのだ。

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