第110話 ケルニクスvs飛竜騎士団&ドルニャン
「総員! 第零警戒ライン、用意!」
私の命令に騎士たちが息を吞んだ。
第零警戒ライン……すなわち、地上スレスレを飛行しながらの近接戦闘戦である。
「「「――――っ! 了解!!」」」
もう先走るような真似をする愚かな部下はいない。残されたのは正真正銘、精鋭の飛竜騎士たちだ。
そんな部下たちを相手に、本当はこんな命令なんぞ出したくなかったのだが……あの手練れの猫剣士とケルニクスがやり合っている今こそが絶好の好機なのだ。
「我々の狙いはケルニクス、只一人に絞る! 後衛の三班を第一警戒ラインに残し、他は近接戦を仕掛ける! 総員、心して掛かれ! ――――突撃ぃ!!」
「「「うおおおおおおおおおおっ!!」」」
私の命令に従い、長年付き添ってくれている飛竜“レクス”はほぼ真っ逆さまに地上へと急降下した。そんな私たちの後を、近接戦闘に長けた騎士たちも続いて降下していった。
(今度こそ決めてやるぞ!)
俺とドルニャンが対峙していると、何やら頭上が騒がしくなってきた。
「ちぃ! 飛竜騎士……もう動いたか!?」
「っ!? ――――じゃあニャ!!」
俺が一瞬目を離した隙に、なんとドルニャンはこの場から立ち去ってしまった。片腕を失ったドルニャンは自らの不利を悟ったのだろう。逃げ出したのだ。
「おまっ!? 逃げるのか!?」
慌てて俺は奴の後を追った。
「ついて来るニャ!! お前、完全にあいつらに狙われてるニャ!」
ドルニャンの言う通りだ。俺の方に目掛けて頭上から神術弾がしこたま落ちてきた。俺はそれを気配だけで避けながらもドルニャンを追う。
「ぐっ!? ちょっ!? …………うわああっ!?」
さっきまでとは違い、かなり高度を下げて爆撃しているのか、命中精度に威力も相当高い。全ての攻撃を躱し切れず、俺は吹き飛ばされてしまったのだ。
慌てて立ち上がり周囲を確認する。
「ちぃ……! くそっ! ドルニャンを見失った!!」
奴はまだ僅かに残っている林の中へと姿を消した。
すぐに周辺の捜索をしたかったが、そんな余裕は無さそうだ。既に上空から脅威が迫っていたからだ。
「――――双鬼ぃ!! 覚悟ぉおお!!」
かなりの闘気を纏ったランス持ちの騎士が飛竜と共に突撃してきた。
(槍使いか!? 凄まじい気迫だ……!)
いくら力自慢の俺でも、飛竜ごと上空から突撃して来られては押し負けるかもしれない。
エース級闘気使いの一撃を正面から受けるのは得策ではないと判断した俺は回避を選択した。
(一旦後ろに下がって、やり過ごしてからカウンターを……!?)
そう思ってバックステップした俺であったが、飛竜はそんなこちらの動きを予測でもしていたのか、あっという間に軌道を変え、地面スレスレでこちらへと迫ってきた。
「なっ!?」
「貰ったぁああああ!!」
俺の態勢はまだ整っていない。バックステップ中で地に足が付いていないのだ。そんな状態の俺に槍使いの渾身の一撃が迫る。
これを躱すことは難しく、かといって受ければ無事では済みそうにない。
(……いや、いける!)
「ぐっ!?」
俺は咄嗟に左手の剣を手放し、代わりにその手で相手の突き出したランスを瞬時に掴む。この騎士の得物は円錐状になっており刺突専用のランスとなっていた。その為、刃が無いので掴むことが出来たのだ。
だが、この勢いの突撃を片手で押さえるのは俺でも無理だ。
ランスを掴んだのはパワーで抑えつける為ではない。あくまで回避するための前準備であった。
「なにぃ!?」
俺が行動に移すと騎士は目を見開いた。
「んらぁ!!」
俺は左腕に力を籠めると自身の身体を持ち上げ、そのまま逆さまになってから回転し、相手の頭上を飛び越えるように回避した。
空中で器用に回避した俺であったが、苦難はまだまだ続く。
「団長に続けぇえええ!!」
「うおおおおおおおおおおっ!!」
「――――っ!?」
すぐに後続の騎士たちが襲ってきた。
未だ空中にいる俺に二騎の飛竜が迫っていた。
「――――【
「うぎゃあああっ!?」
先に来た騎士を遠距離斬撃【風斬り】で倒す。
こいつも並みの闘気使いではなかったので致命傷は避けたようだが、斬られた弾みで地面へと落下する。
だが、もう一人の騎士はすぐ傍まで迫っていた。こいつも槍使いのようだ。どうやら飛竜騎士はどいつもこいつも長物を好む傾向にあるらしい。
俺の最も苦手なタイプであったが……今の俺には【風斬り】と闘気二刀流の技がある。
「――【
先ほど習得したばかりの空中蹴りで俺は相手の突きを回避した。
「なっ……!?」
呆気にとられる騎士。
(宙で動けないと思ったか? 甘いな!)
背後に回ってから俺は剣を振るった。
「――――【風斬り】!!」
「うわあああっ!?」
こいつもしっかり闘気でガードしてきた。今度は落ちなかったがそれでも深手は負わせられた。
しかし……どうやらこちらの闘気による遠距離攻撃はバレてしまったらしい。どいつもこいつも剣の間合いの外だというのに警戒を怠らない。
(構うもんか! いずれ知られる事だ!)
【風斬り】で威力不足なら、最悪【
着地した俺はそう意気込んで飛竜騎士たちの方に目を遣った。
――――その直後。
「――――っ!?」
不意に背後から殺気を感じ取った俺は反射的に剣を振るった。
「ニャアア!?」
「ど、ドルニャン!?」
こいつ、まだ近くに居やがったのか!?
どうやら俺を騙し討ちしようと藪の中に潜んでいたようだ。
ドルニャンの攻撃を剣で凌ぐと、今度は再び飛竜騎士たちが波状攻撃を仕掛けてきた。
それを俺は【風斬り】や【不落】を用い、次々と躱していく。
「畜生! しぶとい奴だニャ!」
「あ、待て!」
再びドルニャンが姿を晦まそうとしたので俺は追いかけようとした。
だが、それは叶わなかった。ドルニャンの後を追うのを妨害するかのように空から神術の爆撃が降り注いできたのだ。
「ぐっ!? 邪魔をするな!?」
俺は爆撃で飛んで来た石礫をキャッチすると、それを上空にいる飛竜目掛けて投げた。
――――ギャウンッ!?
見事顔面に直撃した飛竜は気を失ったのか墜落していく。
「うわああああああ!?」
乗っている騎士は悲鳴を上げていた。流石の飛竜騎士も相棒が飛べないのではどうしようもあるまい。
「三班! 飛び道具に警戒せよ! 他は連携を密にせよ! 奴に反撃の機会を与えるな!」
「「「了解!!」」」
どうやら最初に突撃してきたランス持ちの騎士がリーダーのようだ。周囲の騎士に大声で指示を出していた。
(こいつら……さっき空中で殺った三人とはレベルが違う!?)
地上スレスレを飛行する騎士たちは全員、闘気の量だけを見ればエース級のそれだ。
上空で支援している飛竜騎士も練度が高い。それに加え、先ほどよりもかなり高度を落としていた。その為、再び神術を警戒しなければならなくなったのだ。
逆に言うと、今なら上空にいる飛竜に対して俺の投石攻撃が有効なのだが、地上スレスレを飛行する騎士たちがその邪魔をしてきた。
徐々にこちらの間合いや威力が見抜かれ始めてきたのか、相手側の連携が厄介になってきている。
更には……
「ニャニャア!!」
「ぐっ!? ちょこまかと……!」
なんとか隙を作って反撃しようと試みるも、絶妙なタイミングでドルニャンが奇襲を仕掛けてくるのだ。
飛竜騎士もそれを見越している節があった。
(こいつら……共闘してやがる!?)
別に二つの勢力が相談して手を取り合った訳ではない。恐らく互いの利害が一致した結果、一時的に攻撃のタイミングを合わせているだけであろう。
先程はドルニャンが何人も仲間を殺した筈だというのに……そこまでするか!?
(くそっ! ヘイトを集め過ぎたか!)
完全に俺の包囲網が出来上がりつつあった。
だが、捨てる猫あれば拾う犬あり、だ。
俺の妨害をしてきたドルニャンが再び姿を晦まそうと林の中に逃げ込もうとした瞬間――――そこへ多数の矢が撃ち込まれた。
「ニャアアーッ!?」
これにはドルニャンも意表を突かれ、防ぎきれずに何本か受けてしまう。その内の一本はドルニャンの右太ももに突き刺さっていた。
「イヴレフか!?」
「ケルニクス殿! 遅くなった!!」
何時の間にか姿を消していたイヴレフたち“蒼のハウンド”が援護しに来てくれたのだ。
彼らの登場に飛竜騎士たちは焦り始めていた。
「ええい! 他には構うな! なんとしても、今ここで双鬼を討て!!」
まだ諦めないのかと辟易しながらも、この隙に俺は先ほど手放した剣を回収しいてからイヴレフに声をかけた。
「今まで何してたんだ?」
「ヤマネコ山賊団どもを一掃してきた。奴らは全員死んだ! あとはドルニャンだけだ!」
「おお!!」
これは地味に助かる。これ以上、邪魔者が増えるのはご免であったからだ。
「にゃ、にゃんだと!?」
一方、いつの間にか手下たちを壊滅させられていた事実を知ったドルニャンは狼狽していた。
「ドルニャン! ベルク団長の仇だ! 今日こそ貴様を……討つ!!」
「――――っ!? そ、そうか! 貴様ら……“蒼狼の牙”の残党ニャ!?」
今更イヴレフたちの正体に気が付いたドルニャンは悔しそうに歯噛みしていた。
「総員! ドルニャンには迂闊に近づくなよ? あの剣は危険だ!」
「「「おう!!」」」
「ぐっ!? 剣の事も知ってるニャ……っ!」
これでドルニャンの方はなんとかなるだろう。
いくら伝説の神器持ちでも、片腕を失い、足にダメージを負った状態でイヴレフたち全員を相手にするのは無理な筈だ。
「ふぅ。やっと飛竜騎士の方に集中できるな」
まずは……邪魔な爆撃からなんとかするか。
俺は短剣を取り出し、闘気を籠めて上空に投げつけた。
「なにか投げたぞ!!」
「回避!!」
残念、その短剣は……軌道を変えるんだ。
俺は即座に二投目を投げて、一投目のナイフの柄に掠らせ、狙い通りの軌道に変えた。
「――――【騙し
ギャオオオオオオン……!
ご立派な飛竜の翼に俺のナイフが貫通した。
神術を当てんが為に低空を飛んでいたのだろうが……それが仇になったな。
あの高度なら、俺であれば十分な闘気を籠めての投擲が可能であった。
「くっ! 直前で軌道を……!? 妙な技を……!」
「回避は危険だ。ナイフは迎撃しろ!」
俺が再びナイフを投げつけると、狙われた騎士は避けずに槍でナイフを弾くつもりのようだ。
(残念……そんな奴には……!)
俺は再び二投目を投じた。
その二本目の軌道は一本目のナイフとほぼ違わず、相手側からするとナイフが重なって視界からは完全に隠れていた。
「おらっ!」
それを知らずに騎士が一投目のナイフを弾くも、そのすぐ後ろに潜んでいた刃が襲い掛かった。高い位置に居た騎士は二投目に気付かず、油断していたところに二本目のナイフが左肩に深く突き刺さった。
「ぐああああっ!?」
どうやら闘技二刀流投剣術【隠し
俺の投剣術は二本目を隠す【隠し刃】と二本目で一本目の軌道を変える【騙し刃】の二段構えなのだ。それはどちらから始めても結構な確率で引っかかる。
ナイフを真正面から受けようとすれば二本目の餌食となり、今度は避けようとすれば直前の軌道変化で痛い目を見る……そういう仕組みだ。
「貴様ぁ!!」
「おっと!」
再び騎士たちが連携して襲い掛かってきた。
上空にばかり気を取られてはいられない。地上スレスレを飛ぶ連中も排除していかねば…………
(例のリーダーは…………居た!)
一際強い闘気を放つランス持ちの姿を目の端に捉えた。
(まずはアイツから倒す!)
それには少しばかり射程と威力を上げる必要があった。高威力の【血走り】を使う為、自らの身体を傷つけようと考えていたが、思わぬ天の恵みが降り注いだ。
「あ! あれ……使えるな!!」
地上付近を飛ぶ騎士を援護しようと目眩ましのつもりだったのか、上空から水の神術弾が飛んで来たのだ。
俺はそれを【風斬り】で撃ち落とし、辺りに大量の水飛沫を撒き散らした。それに乗じて騎士たちが一斉にこちらへと飛来してくる。やはり目晦ましか!
まさか援護射撃のつもりで放った水がこちらに利する行為になるとは相手も思うまい。
刃に十分な水分が付着し、水が滴り始めていた。
よし、こちらの準備は完了だ。
「いくぜ? ――――【
俺は闘技二刀流遠距離斬撃【水刃】を連発した。
【水刃】は水を媒介に発動する闘気の遠距離斬撃だ。その威力は【血走り】程はなく、スピードも【風斬り】より若干落ちてしまう。
だがその分、威力と射程は【風斬り】以上なのだ。
こちらの遠距離斬撃を見切り始めていた飛竜騎士団を欺くには丁度良い技だ。
「なにぃ!?」
「ぐわあっ!?」
「こ、これは……!?」
案の定、あちらの予想よりも射程の長い攻撃を受け、飛竜や騎士たちはパニックに陥った。咄嗟に闘気で防ごうとするも、【風斬り】より威力の高い【水刃】を前に飛竜騎士たちは次々と負傷していく。
そんな混乱に乗じて俺はある騎士目掛けて一直線に迫っていた。
当然、狙いはリーダー各の騎士だ。
「っ!? ――レクス!!」
叫んだのは飛竜の名だろうか?
向こうも俺に狙われていることに気付いたのか、慌てて高度を上げて離脱しようとしていた。
だが少し遅かった。
(……その高さは俺の圏内だ!)
俺は跳躍してランス持ちの騎士へと襲い掛かる。
「ぐっ! 舐めるなぁ!」
覚悟を決めた騎士もこちらを迎撃せんと凄まじい速度で槍を突き出すも、俺は直前で【不落】を使い、右に跳躍した。
「舐める? そんな余裕は初めから無かったよ」
更に【不落】で左に跳躍し、すれ違いざまに騎士を斬る。
「ぐああああっ!?」
直接斬り付けたにも拘わらず、その騎士を仕留めきれなかった。咄嗟に斬られる箇所に高密度の闘気を集中させて防御したのだろう。
やはりコイツは手強そうだ。
だが、それでもかなりの深手を負わせたことには間違いない。ふらついたランス持ちの騎士はそのまま地上へと落下した。
当たりどころが悪ければそのまま死んでいるだろうが……
――――グルアアアアッ!!
相棒の敵討ちのつもりなのか、飛竜が方向転換して単独で襲い掛かってきた。
「お前も堕ちろ!!」
俺は再び【不落】で空中を力強く蹴り飛ばすと、そのままクルリと前方に回転し、飛竜の頭に踵落としを食らわせた。
――――ギャウンッ!?
俺の踵がクリーンヒットした飛竜はそのまま落下する。
「だ、団長とレクスがやられた!?」
「くっ!? 撤退だ!! 撤退!!」
「ぐぅ……っ!」
「くそぉおおおおっ!!」
撤退の合図に何人かの騎士たちは躊躇するも、流石に形勢不利は否めず、飛竜騎士団は高度を上げて東の空へと去っていった。
周囲には何人かの騎士と飛竜が倒れていた。その殆どがまだ生きているようだが、すぐに復帰するのは無理だろう。
「はぁぁぁぁ…………」
俺は深くため息をつくも、のんびりしていられないことを思い出す。
「そうだ! ドルニャンは…………」
奴の姿を探すとすぐに見つかった。どうやらあちらの方も大詰めのようだ。
イヴレフたち“蒼のハウンド”に包囲され、ドルニャンは完全に追い込まれていた。
身体中に矢が刺さっており、既に死に体である。
「はぁ、はぁ……ま、待つニャ……降参だニャ……だから、命だけは……」
「…………総員、攻撃を止めろ!」
イヴレフが停止の合図を出し、ドルニャンへと近づいていく。
「ドルニャン、その剣を置け」
「ニャア…………」
言われた通り、ドルニャンは魂魄剣を地面に投げ捨てた。
「……よし。そのままゆっくり剣から離れろ」
「…………」
「どうした? 早くしろ!」
「…………分かった、ニャ!!」
あろうことかドルニャンは剣をイヴレフへと蹴り飛ばした。その際、奴は闘気を籠めていたのか、凄まじい速度で回転しながら魂魄剣が迫ってくる。
「くっ!?」
冷静に対処すれば剣を迎撃出来ただろうが、掠っただけでもアウトな魔剣である。それを恐れたイヴレフを誰も責めることは出来なかった。
結果、イヴレフは一歩遅れて回避を選択した。
故に、剣を蹴り飛ばすのと同時に渾身の力を振り絞って肉薄してきたドルニャンに全く対応できなかった。
しかも驚くべきことにドルニャンは残った片腕で回転している魔剣を掴み取ったのだ。
「なぁっ!?」
「貰ったニャ!!」
絶体絶命のイヴレフであったが、それを見過ごすほど俺は甘くない。
「ニャ!?」
「よう、猫助!」
一度ドルニャンに騙されていた俺は既にイヴレフたちの元へと駆けつけていた。
俺は右手の剣でドルニャンの残ったもう一本の腕も斬り飛ばすと同時に、左手で魔剣をキャッチした。
「ニギャァアアアッ!?」
俺は更に畳みかけるように魔剣でドルニャンを攻撃した。
「せいっ!」
ドルニャンは腕を斬られた痛みで叫びながらも、なんとか回避しようとしたが、完全には避けきれなかった。俺の手にした魔剣はドルニャンの太ったお腹を僅かに斬り裂いたのだ。
「フニャアアア!? ま、魔剣がああああっ!?」
「あーあ……ダイエットしないから……」
魔剣の性能はドルニャン自身が一番よく理解していた。僅かにでも斬られたらお終いの魔剣“魂魄剣”の攻撃を受けたのだ。
もう駄目だと泣き崩れるも、両腕を失ったドルニャンはしぶとくまだ生き残っていた。
「あ……あれ? にゃ……にゃんで死なにゃい……?」
「さっき言っただろう? 俺に神器は効果無いって……」
俺に対しての神器が無力なのに加え、俺が神器の能力を発揮するのも不可能なのだ。
神器博士を自称するおじさん曰く、高位の神器なら多少の影響を及ぼすのではないかという話であったが……少なくとも俺が握った魂魄剣だと即死効果は失われてしまう様子だ。
「うーん……じゃあ、これならどうだろう?」
俺は魔剣を投げてドルニャンの左足に突き刺した。
「にぎゃあああああっ!?」
「…………これも即死はしないか」
俺が投げたという結果が神器の効果を無効化しているのだろうか? なかなか厳しい判定のようだ。
俺は痛がっているドルニャンから剣を抜いた。
「うぅ……酷いことするニャ…………」
「どの口が言うよ?」
コイツに情けを掛ける理由は皆無である。コイツは魔剣の効果を検証する為なのか知らないが、無関係の村人を斬り付けて壊滅させた男なのだ。見逃す訳にはいかない。
「た、助けてぇ……」
この期に及んでまだ命乞いをするとは……厚かましいにも程があった。
「イヴレフ。この剣、ちょっと試してみてくれ」
「む? い……いいのか?」
「ああ、頼む」
俺が魂魄剣を差し出すと、イヴレフは緊張しながらそれを受け取った。
「ま、まさか……!?」
そんな俺たちのやり取りを見ていたドルニャンは己の最期を予感した。
「ドルニャン……あの世で団長たちに詫び続けるんだな」
「ま、待って――――」
既に騙されたイヴレフは一切聞く耳を持たず、魔剣の切っ先を軽くドルニャンに突き刺した。
「ぁ……あぁ…………」
ドルニャンの顔からみるみる生気が失っていき、僅か数秒足らずで絶命した。元々死にかけだったとはいえ、ちょっと刺しただけでこれとは……なんとも恐ろしい性能だ。
「こ、これが魔剣の力か…………」
「やっぱ俺が持つと効果無しなのか……」
ま、こんな恐ろしい能力は無い方が世の為である。
俺が持っている間はただの頑丈な剣なので実に平和的である。恐らくおじさんもそれを見越して俺に取ってくるよう促したのだろう。
かなりの激戦ではあったが、俺たちは無事にドルニャンを倒し、飛竜騎士団を追い払う事にも成功した。
目的の剣も手に入れた上に新たな仲間たちも加わった。結果だけを見れば満点以上だ。
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