第109話 猫騙し
飛竜に乗った騎士二人をあっさり撃破したドルニャンが地上へと戻ってきた。
俺が投げ飛ばし続けた木が空中にあるとはいえ、自由落下している木々を足場に、よくあんな立ち回りができるものだ。
「すっげー……」
「ニャハハー! それほどでもあるニャ!」
素直に感心しているとドルニャンがぽっこりしたお腹を突き出しながらドヤ顔していた。
(こいつ、デブ猫の癖に……思ったより厄介だ)
ヤマネコ山賊団の前団長ライオスと蒼狼の牙の団長ベルクを騙し討ちしたと聞いていたので、少なくともドルニャン本人には真正面から戦えるだけの実力が欠けているのだと勝手に思い込んでいた。
だが、よくよく考えてみれば相手は、方や大陸一と名高い山賊の長で、もう片方も“石持ち”傭兵団の団長である。そんな連中を不意打ちとはいえ、ドルニャンは二人同時に始末しているのだ。弱い訳がなかった。
今は仕方なくコイツの家来を演じているが、ドルニャンは本来倒すべき相手だ。空を飛ぶ厄介な飛竜騎士団を倒した後は必ず仕留めてやる。
「おい、新入り! 連中、まだ懲りずに上空をうろついているニャ。もっと高く木を投げ飛ばすニャ」
「え? もっと……?」
地上からの奇襲を警戒してなのか、飛竜たちは互いの距離を開けながらも、先ほどより少しだけ高い位置で旋回し続けていた。
相変わらず空からの爆撃もあるが、あの高度では命中精度も落ちる上に、こちら側も逃げられるだけの猶予がある。正直、今の高さでの空爆なら全く怖さがない。
それは向こうも承知の筈で、実際に爆撃の頻度は落ちている。
と、いうことは……
(……連中、空で迎え撃つ気だな)
寧ろ、こちら側が来るのを待っている。先ほどと同じように木を利用して飛び込もうものなら、身動きが取り辛い空中で集中砲火を浴びる危険性が高かった。
だが、調子に乗っているドルニャンはその事実に気づいていないようだ。
「さぁ、さっさとするニャ! あいつら全員、返り討ちにするニャ!」
(コイツ……馬鹿だ)
このままではドルニャンは倒されるだろう。
それは全く構わないのだが、そうなると空に対する反撃手段が失われてしまう。
(うがー! なんだ!? この面倒なシチュエーションは……!?)
しかし、ここで倒す順番を間違えたら、より面倒な事態に陥ってしまう。
まずは飛竜騎士団、その次にドルニャン……これがベターの筈だ。
仕方がないので、俺はドルニャンに警告した。
「……お頭、あいつら何か企んでいるかも――――」
「――――問題ないニャ! オレ様とこの剣があれば無敵ニャ! 攻撃さえ届けば倒せるニャ! 早くしろニャ!」
「…………了解ニャ」
こいつ、腹立つぅ……!
せいぜい痛い目を見ろだニャ!
俺は言われた通り、更にパワーを込めて近くの樹木を投げ飛ばし始めた。
「――――来たぞ!」
地上から再び木が飛んで来た。
一体どうやってあんな大きな木をこの高さまで投げ飛ばしているのかは謎だが……空は我々の領域だということを思い知らせてくれる!
「各員、警戒! 手筈通りにな!」
「「「了解!」」」
部下たちは木に当たらないよう飛竜を飛ばした。その際、なるべく一塊にならないよう各員が留意して飛行している。
「ニャニャーッ!!」
飛んで来た木の陰から猫族の剣士が再び姿を現した。先ほどと同様、近くを飛んでいた飛竜へと飛び移る算段のようだ。
「ロランのところへ行ったぞ!」
「よし! 迎撃態勢!」
飛竜騎士団では空戦はあまり想定されていない事態だが、全く訓練を行っていないかというと、そんな事はなかった。空を飛ぶ魔獣は他にもいるし、鳥族の獣人たちもある程度の高さまでは飛べるのだ。
それにこの先、我々のように飛竜を飼い慣らして乗り物にする勢力が現れるかもしれない。それを危惧していた陛下が対空戦闘の訓練も怠らないようにと申されていたのだ。
猫剣士に狙われた騎士は急いで飛竜に指示を出し、急上昇し始めた。
その他の飛竜は猫剣士を取り囲むように展開した。
「ニャ、ニャアアッ!?」
これには猫剣士も慌てていた。
足場にする筈の飛竜がいなくなり、更には大きな隙を見せてしまったからだ。
「――――間抜けめ! やれ!」
私の指示で神術を扱える騎士たちが一斉に猫剣士へ砲撃を始めた。
(――――取った!)
そう思った直後――――猫剣士の近くに樹木が飛んできた。
しかも、その木には一人の青年が乗っていた。
「あいつは……!」
「“双鬼”か!?」
このタイミングで今回の標的が現れるとは思いもしなかった。
「ったく! 世話の焼けるお頭だニャ!」
ケルニクスはふざけた語尾でそう呟くと、二振りの剣を抜いて振るった。
「――――
すると、猫剣士の方に向かっていた神術弾が着弾する前に次々と爆発した。
「なにぃ!?」
「神術が……斬られたのか!?」
信じられない事が起こった。
剣の間合いから明らかに離れている神術が斬られたのを私は確かに目撃した。まるで見えない斬撃で神術弾が次々と切断されたような……そんな光景であった。
(一瞬、闘気を感じたが…………まさか!?)
まさか、奴は……闘気を遠距離攻撃として使う術を持っているというのか!?
あり得ない……が、もしそれが事実だとしたら……なんと恐ろしい!
(このままでは不味い!)
「全員、奴らから離れろ!!」
「「「了解!!」」」
私の号令に飛竜たちは散っていく。
しかし、三匹の飛竜だけは私の命令を無視してケルニクスの方へと向かってしまった。
「ガルドス! ヘイロー! オズマ! 奴に近づくな!!」
「へっ! 大丈夫ですよ! 団長!」
「奴らは空で身動き出来ないじゃないですか!」
「嬲り殺してやりますよ!」
あの三人は何れも実家が高位貴族の出の者たちだ。飛竜騎士になる為の課程はギリギリ修了しているものの、高慢な性格故に何かと問題行動も多い三人組であった。
飛竜と騎士の育成にはかなりの大金が掛かる為、国庫からだけでなく、金を持っている貴族からも一定金額の支援金を貰っている。
あの三人の実家は、その中でもかなりの額を支援してくれているスポンサーでもあった。そういった事情もあり、多少の実力不足や問題行動には目を瞑り、飛竜騎士団という名誉欲しさに在籍している輩も少なからず居るのだ。
あのような連中は普段なら王都防衛の為に待機させているのだが、今回は親たちからの強い圧力もあったらしく、任務に参加させるようにと軍務省からも言われてしまった。
なんでも息子たちに、今話題の“双鬼”を討ったという箔を与えたいのだとか……実にくだらない!
「これは命令だ! 今は引け!!」
「ハハ! 何言ってるんですか? 団長!」
「奴が今回の任務の標的でしょう?」
「そうそう、王命なんですよね? だったら果たさなきゃ!」
……駄目だ。功を欲するあまりに、状況がまるで分っていない。
(お前ら三人で倒せるレベルなら苦労はせんわ!)
ケルニクスは迂闊に距離を詰める三人の騎士目掛けて剣を振るった。
「――――
凄まじい剣速で振るわれたケルニクスの三連続攻撃の間合いは三馬鹿どもから離れていた。あの頭足らずたちでも、流石に剣の間合いに踏み込むほど愚かではなかったらしい。
だが、それにも拘わらず、やはり闘気による斬撃が放たれているようで、愚か者たちの首は三人ほぼ同時に切断されていた。
主を失った事に気が付いた飛竜はパニック状態になり、内の一匹は敵を討たんとケルニクスの元へと突っ込んだ。
ギャルルルッ!
敵を食い殺さんと口を大きく開けて突撃するも、ケルニクスは剣を収めると、なんと素手で飛竜の口を抑えつけた。
「うわ!? 口の中、くせぇ……そりゃ!」
閉じようとする飛竜の口を押さえながら悪態をつくケルニクス。
その状態のままケルニクスが蹴りを放ったが……私の目にはその足蹴りが空ぶっているように見えた。
(……いや、微かに闘気を感じたぞ!?)
まさか……
グギャアアアッ!?
飛竜は口の中から血を吐いた。
(やはり……! あの男……剣だけでなく蹴り技でも闘気を放てるな!?)
しかも、出血量から見てこれも斬撃の類だろう。
あの男をただの二刀流使いとして相対しようものなら、確実に痛い目を見るだろう。
「くっ! どう攻めたものか……!」
上空からの爆撃では効果なし。かといって中途半端に近づけば奴の得体のしれない闘気技の餌食となってしまう。
(…………ええい、それならば……! いや、しかし……!)
無謀なドルニャンの突撃に懸念を覚えた俺は仕方なく奴の後を追うことにした。
でも、そこで一つ問題がある。
「……どうやって追おう?」
空を飛べません。
誰か俺並みに木をぶん投げてくれる怪力でもいらっしゃらないかしら?
しかし、そんな都合のいい存在はいなかった。
ならば仕方がない。自分で木を投げてそれに飛び移ろう!
なんか日本時代の俺の朧な記憶では、自分で柱をぶん投げて、それを乗り物にして遠くに行く達人がいた気がした。
地球人にやれて俺にやれない訳がない!
(いける! いける! ここ、ファンタジー世界だもの!)
だったら一思いに空を飛びたいところであったが……残念。ここはハードモードのファンタジー世界なのだ。空飛ぶ魔法もスキルも無いのなら……もうパワーに頼るしかあるまい!
俺は手近の木を伐採し、それを片手で持って投げる構えを取った。
「んー…………パゥワアアァァ!!」
木を投げると同時に俺は全力で跳躍した。
格好よく飛び乗りたかったが、そんな余裕はない。ギリギリ追いついた樹木の枝に俺はしっかりとしがみ付いた。
「や、やれた! やはり力こそパワー!」
俺は自分で投げた木に乗りながら上空へと飛んでいく。
そこからは忙しかった。
空に上がると俺の睨んだ通り、ドルニャン大ピンチ。
慌てて俺が戦闘に介入し、二本同時の【
更に迫りくる騎士三人を
騎士の方は思ったより弱かった。
その後、飛竜が一匹迫ってきたが、直接殴り合いができるのなら怖くはない。
奴の口を素手で抑えつけて足技斬撃の【
(ざまあみろ!)
仕留めそこなったが飛竜を一匹負傷させた。
俺に怯えた飛竜は下降して逃げようとしたが、そこに上手い具合にドルニャンが着地した。
「逃がさないニャ!」
ドルニャンは件の魔剣“魂魄剣”で飛竜を刺突した後、跳躍して空中にいる俺の方へと飛んで来た。
二人揃って落下しながら会話する。
「助かったニャ! 新入り! お前、なかなかやるから、今日から副団長に任命するニャ!」
「あ……ありがとうございます?」
いらねぇ……俺、王国の元帥様やぞ?
しかし、飛竜の数はまだまだ半数以上も残っているのだ。
(ここは適当に媚びておくか)
「へ、へい! お頭を助けに飛んで来ました!」
「感心だニャ! ……それで? 帰りはどうするニャ?」
「え? 帰り……?」
現在、俺たちはかなりの高度を自由落下中だ。このまま落ちれば流石に痛いでは済まないだろう。
先ほどのドルニャンのように空中を飛んで落ちてくる木々を足場に地上へ降りるしか……
「……あれ? 木々は何処に?」
「…………待て。お前、どうやって飛んで来たニャ?」
「どうやってって……自分で木をぶん投げて…………」
「…………」
あれ? もしかしなくても、今って地上で木を投げる役目の人が不在?
その事実に気づいた俺とドルニャンは顔色を真っ青にした。
「ば、馬鹿野郎! にゃんでお前まで飛んで来たニャ!?」
「ハァ!? 俺が来なかったらお前、神術で集中砲火食らってただろうが!? 第一、足場になる飛竜ぶっ殺したの、テメエじゃねえか!?」
「他の奴が木をぶん投げていると思っていたニャ!!」
酷い言い争いをしている内に、いよいよ地面が近づいてきた。
(まずい! まずい! まずい! 考えろぉ……今回もパワーで解決出来る筈……)
だが、上手い力業での解決方法が見つからない。
パワーは無敵じゃなかったよ……
(いや! 俺には力以外にも闘気があった!)
俺のもう一つの才能、それは闘気の扱い方であった。
不可能だと言われていた闘気による斬撃が出来たのだ。
だったら……空くらい飛べらぁ!!
俺は試しに足に触れている空気に闘気を籠めようとした。
(……出来る! だが、これは……!)
剣や手刀、蹴り技で起こした風圧に闘気を籠めて放つのが俺の闘技二刀流剣術の原点だ。だから当然というべきか、己の接触している付近の空気にも当然、闘気を籠められる。
まぁ、時間経過ですぐに霧散してしまうのだが……
だが、問題はそんなことではなく、今の俺は落下中で、その触れている部分の空気も常に移動して入れ替わっている点にある。
(一瞬だ! 瞬間的に足元の空気に闘気を籠めて足場にし、即座に跳躍する!)
もう、これしかない。
思えば斬撃の風圧なんかも剣と接触している時間はごく僅かだ。かなり難しいが……やれない筈が無いのだ!
「とりゃ!」
俺は靴底に超瞬間的な闘気による空気の足場を生成し、それを……蹴った。
「にゃんと!?」
空中を蹴って横に跳躍した俺にドルニャンは驚愕していた。
(……よし! 今ので大分コツを掴んだぞ!)
俺は二度、三度と空中を蹴りながら左右に下り、落下する速度を徐々に減速していく。
(大成功だ! この技は、そうだなぁ……【
これは空中跳躍だけでなく水の上でも駆けられそうだ。
どんな場所でも落ちない事から【
「よ、よし! 新入り! そのヘンテコな空中蹴りでオレ様も助けるニャ!」
「……む?」
折角編み出した俺の新技をヘンテコだとぉ?
この猫助がぁ!!
「悪いな、お頭。この新技、一人乗り用なんだ!」
「新入りぃいいいいっ!?」
そんなやり取りをしている間にドルニャンは森の中に落ちていった。
(さらば猫助)
一方、減速した俺は悠々と地上に着地する。
(この技があれば、ある程度の高さまでなら空中戦も行えそうだな)
だが、流石に飛竜の高さまで登りきるのには時間が掛かりそうだ。
騙し討ちで仕掛けることは出来るかもしれないが……こう警戒されている状況でノコノコ空に駆け上がっては狙い撃ちにされかねない。
それに、この技はまだ不慣れなので、出来ることなら今は多用したくない。戦いながらだとミスって落下しそうなのだ。そうなれば【
頭上を見上げると、爆撃こそ止んではいたが、飛竜たちはまだ上空を旋回していた。
「連中、諦めてくれないかなぁ……」
俺は一休みしながら向こうの出方を待った。
二度目の襲撃により、今度は騎士三人と飛竜一匹を失った。
あの三馬鹿はどうでも良いが、貴重な飛竜を失ったのは大きい。
「くっ! これ以上の損害は……」
「ランドナー団長、どうされます?」
副団長が心配して尋ねてきた。
(…………ここは撤退するべきだな)
このまま本国に戻っても私は任務失敗の責任を取らされる。最悪、団長職を下ろされるかもしれない。
かといって、このまま強行してもケルニクスという難敵を打ち破るのは難しいだろう。更には厄介な猫剣士もいるのだ。
ここは無理をせず、ケルニクスとその仲間たちの情報を持ち帰り、次戦に活かす方が賢明だろうか?
(戦果の割に犠牲が大き過ぎるが……止むを得んか……)
私が撤退を決断した、その時――――
「――――団長! 下を見てください!」
「……何?」
部下の言葉に私は言われた通りに地上を見下ろした。
そこには驚きの光景があった。
「……まだだ! まだ天は我々を見放さなかったぞ!」
これならば十分付け入れる隙がある。
ここで……ケルニクスを殺す!
飛竜騎士団の出方を伺っていた俺であったが、背後に人の気配を感じて振り向いた。
「にゃ……にゃぁ…………」
「あ!? お頭ぁ! 無事だったんすかぁ!?」
俺は白々しく声を掛けながらドルニャンの元へと向かった。
「ぜ、全然無事じゃあ……にゃいニャァ……」
出血こそしていないようだが、ドルニャンは足を引きずりながらこちらに近づいてきた。
腕も折れているのか、片方の手で押さえながら弱々しい声を出していた。
「痛いニャァ……全身の骨が折れて……死んじゃうニャァ……」
……なんか、ちょっと可哀そうになってきた。
(え? こんな状況で俺、こいつに止めを刺すの? やだなぁ……)
猫派の俺にとって、精神的にハード過ぎない?
もう、魂魄剣だけ奪ってこの場を逃走した方が良いのだろうか?
しかし、放っておいてもこいつは結局、イヴレフたちに復讐されるだろうし……ううむ。
俺が悩んでいるとドルニャンは俺の後方、そのやや頭上を指差した。
「あ、危ないニャ!」
「なに!?」
慌てて俺は振り返る。
そこには…………なにも――――
「――――ぐっ!?」
背中に激痛が走る。
悪寒を感じた俺は咄嗟に避けようとしたのだが、どうやら背中を斬りつけられたようだ。
下手人は当然、あの男である。
「ニャハハァ! 引っかかったニャァ!!」
「ど……ドルニャン……っ!」
こいつ、さっきまで弱っていたのは演技か!?
俺が背を向けた瞬間、凄まじい速度で斬り付けてきたのだ。
「猫騙しニャ! 見事に引っかかって、お前馬鹿ニャ! 猫は高い場所でも着地出来るニャ! 痛かったけど……」
「くそ……っ!」
しかし、一体何故、こいつはいきなり斬り付けてきたんだ?俺の手下ムーブは完璧だった筈……?
「お前、ケルニクスって言うんだろ? 飛竜に乗ってる騎士たちが言っていたニャ!」
猫族のドルニャンは人よりも聴覚が優れていた。先ほどの戦闘時に騎士たちの話を盗み聞きしたのだろう。
「連中の目的はお前だったニャ よくも騙してくれたニャ! でも、これでオレ様が狙われる心配はなくなったニャ!」
「ぅ……ぁ…………」
俺はそのままバタリと前のめりに倒れた。
そんな中、ドルニャンの声だけが聞こえてきた。
「ふん! オレ様を騙そうにゃどと百年早いニャ! 大方、この魂魄剣欲しさに騙し討ちをするつもりだったニャ? 馬鹿にゃ奴ニャ! ニャハハハハッ!」
「……………………」
ドルニャンの笑い声だけが辺りに木霊した。
どうやら周辺には誰もいないようだ。
「……ん? それにしてもあいつら、どこで油を売ってるニャ?」
あいつらとは恐らく、ドルニャンの手下たちの事だろう。
そういえばイヴレフたちの姿も見当たらない。
だが、奴が他の事に気を取られている今が好機だ。
「――――っ!」
俺は即座に起き上がり、ドルニャンへと急行した。
「――――ニャ!?」
あちらも寸前で俺に気付いたようだが、遅い!
そこは既に俺の間合いだ!
「おら!」
「ニャギャアッ!?」
殺しそこなったが、左腕一本は斬り落とした。
負けじとドルニャンも反撃するも、俺はもう片方の剣で軽々と防いだ。
「スピードはあってもパワーが足りないなぁ!」
「ぐぅ……お前!? ど、どうして生きてるニャ!?」
まだ生きている俺を見てドルニャンは動揺を隠しきれない様子だ。
「あ、さっきのは嘘。猫騙しだにゃー! 俺を騙そうだなんて、千年は早かったな! ワハハハハ!!」
さっきのお返しで俺が笑い返すと、ドルニャンは悔しそうにこちらを睨みつけてきた。
「馬鹿ニャ!? オレ様は確かに魂魄剣で斬ったんだぞ!? それで……なんで生きてるニャ!?」
「あ、俺……神器が効かないらしいっす」
「んにゃあ!? そんな馬鹿ニャ!?」
うん、俺も半信半疑だった。
だから、魂魄剣で斬られた時には心臓が飛び出るほど驚いたが、それでも無事だった。
(少しだけ気怠さはあるけど……問題ないな!)
出血のダメージとは違う疲労感のようなものを感じる。恐らく神器による効果だろう。
流石の俺も伝説の魔剣相手だと完全無効とはいかず、多少の生命力を持っていかれているのだと思われるが……あの剣の効果で俺を削り殺すくらいなら、直接斬られた方が多分早く死ぬと思う。
それくらいには魂魄剣の効果を無力化しているようなのだ。
「つまり……その剣は俺にとって、ただ頑丈な剣ってだけなのさ!」
「ニャニャァッ!?」
だが、俺としてはその頑丈な剣が欲しくてここまでやってきたのだ。
「さ、大人しくその剣を寄越しな!」
「ふ、ふざけるニャ! 山賊団からお宝を盗もうなどと……そうはさせないニャ!」
ドルニャンは片腕を失ってもこちらと戦うつもりのようだ。
頭上にいる飛竜たちにも動きがあった。
恐らく俺とドルニャンが仲間割れしている場面でも見られたのだろう。この機に乗じて襲ってくるに違いない。
さぁ……ここからが正念場だ!
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