第106話 ザラム公国へ行こう

※105話 ドルニャンをダルニャンと誤表記しておりましたにゃん。正確にはドルニャンで統一しますにゃん。……ごめんにゃさい








 ヤマネコ山賊団を探す為、俺たち一行はレイシス王国を目指していたが、そう簡単には辿り着けない。


 旅の最大の難所がここ、ゴルドア帝国とザラム公国の国境線だ。



「帝国と公国は戦争中だからな。当然、簡単には越境出来ない。このままこの大人数で向かえば、必ず何処かで兵士に捕捉されるだろうさ」



 故に、ここから先は馬車や馬を降り、少人数に分かれて越境するのがベターだとイヴレフは説明する。


 だが、俺の考えは真逆だった。



「寧ろこのまま騒ぎながら進もうぜ! 敢えて帝国兵に俺たちを発見させる!」

「むぅ……」


 隠れて潜入しても、見つかる可能性だってある。


 それにレイシス王国へと向かうにはザラム公国を横断しなければならないのだ。この情勢下だと、武装している俺たちはザラム国内でも悪目立ちをする。どう上手くやったって、絶対何処かで騒ぎになるのだ。


 ならば……


「わざと帝国兵に見つかり、そいつらをぶちのめしながらザラム入りする。それを見たザラム兵は、きっと俺たちのことを帝国に敵対している仲間だと認識する筈だ。寧ろ帝国兵をぶちのめした礼として、レイシスまでの通行許可も得られるかもしれない……どうだ!!」


 俺はドヤ顔でパーフェクトなプランを提示して見せた。


 だが、イヴレフとポーラの反応は今一つであった。


「うーむ……言いたい事は分かるが…………」

「そう上手くいくかしら……?」


「大丈夫だ! 俺の作戦は完璧だ! 不測の事態に備えたBプランもある!」


 駄目ならザラム兵も全部ぶっとばせばいいじゃない!


 B(ぶっとばせ)プランも完璧であった。



 結局、他に上手い作戦も見つからず、俺の案は採用されるのであった。








「ん? あれは何だ……?」


 見張りをしていた同僚が指し示した方角を振り向くと、遠くから一台の馬車と馬を走らせた一団がこちらに向かって来ているのが見えた。


 しかも、連中はなにやら大声で歌いながらこちら側に迫っていた。


『帝国軍をぶっつぶせーっ!! 帝国貴族は畜生だ~♪』


 その歌の内容に俺たちは度肝を抜かされる。


「な、なんだ……あいつらは……?」

「気でも狂っているのか!?」


 ここはザラムとの戦場近くにある補給地点の一つで、今現在も大勢の徴兵された者や騎士たちが駐屯していた。


『帝国貴族をぶっつぶせーっ!! 悪徳領主はゼッチューだ~♪』


 そんな場所で、あろうことか帝国政府や貴族を批判する謎の歌を合唱している武装集団が近づいてきた。


 当然、見過ごす訳にはいかない。


「あ……あ……あのアホ共を捕らえよ!! 今すぐにだぁあああ!!」

「「「ハッ!!」」」


 案の定、上官たちが騒ぎ始めた。


 特に部隊の要職に就いている貴族やその子息たちは、如何にも平民っぽい装いの男たちに虚仮にされた事に腹を立て、顔を真っ赤にしながら怒り狂っていた。



 突如、出撃命令を下された俺たちはため息をつく。


「やれやれ……。俺、あの歌ってる連中の気持ち、少しだけ分かるわ」

「だな。『悪徳貴族はぶっつぶせー!』てか? ハハッ!」

「でも……ゼッチューって何だ?」

「しっ! 馬鹿! 貴族の奴らに聞こえるぞ!?」


 自分も含め、平民出身の同僚たちは上官貴族たちに思うところが幾つもあった。能力も無い癖に態度だけは一丁前で、碌でもない命令ばかりを与えてくるのだ。


 正直、あの間抜けな歌を一緒に口遊みたい気分でもあったが……職務上、白昼堂々と貴族批判をする馬鹿共を無視する訳にはいかなかった。あいつを見逃せば俺たちにまでとばっちりがやってくるからだ。


「貴様ら! 馬車を止め――――ぐわっ!?」


 馬車に近づいた同僚がなぜか吹き飛ばされていた。


「な、なんだ!?」

「神術弾か!?」


 馬車に立っている黒髪の男は掌を突き出していた。恐らくはあの掌から無属性の攻性術弾【衝撃】でも飛ばしたのだろう。


 ただの馬鹿共ではなく神術を使える馬鹿どもだったようだ。


「ええい! 何をやっているか!! 平民の無能どもぉ!! さっさとそいつらを捕らえよ!! 見せしめに嬲り殺して……ぐはぁ!?」


 後ろで偉そうにしていた貴族の上官も吹き飛ばされていた。


「な、何が起こった!?」

「今のも神術か? 全く魔力を感じなかったぞ!?」

「チラッと闘気を感じたような……」

「馬鹿! 矢も無いのに闘気をあそこまで飛ばせる訳ねえだろうが!!」



 それから俺たち兵士は何度も馬車を止めようと立ち向かったが、不可視の衝撃波によって吹き飛ばされ、更には周りにいる獣人の騎馬隊に阻まれてしまった。


『帝国軍をぶっつぶせーっ!! 帝国貴族は畜生だ~♪』


『帝国貴族をぶっつぶせーっ!! 悪徳領主はゼッチューだ~♪』


 一人、音程を外しながら歌い続ける男を乗せた馬車とその一行は、そのまま補給地点横を通過してザラム方面へと去ってしまった。


「ぐぬぬぅ! ええい!! 早く連中を追えー!! このまま逃がすなぁ!!」

「し、しかし……あちらの方角は最前線ですが…………」

「構わん!! どうせ武勲を上げる為、命令が来ずとも私は向かう予定だったのだ!! このまま奴らを追跡し、最前線部隊の目の前であの不埒な輩どもを成敗してくれる!! そうすれば、上官たちへの覚えも良くなり、私も昇進できるという訳だ! 分かったら、さっさと進めぇ!!」

「「「…………」」」


 急な最前線送りに仲間たちは全員、顔色を真っ青にしていた。








「帝国貴族をぶっつぶせーっ!! 悪徳領主は――――』

「……ねえ? その下手くそな歌、もう止めない? こっちの精神力まで削られるわ」

「――――え? 中々の力作だったんだがな……」


 どストレートに下手だと言われてショックなんですけど!?


 だが、作戦自体は上手くいったようで、後ろから帝国兵たちが追走していた。歩兵はもう追いつけないだろうが、騎乗した一部の帝国兵と馬車が追って来ていた。


「ポーラ! 適度な速度で頼むぞ! 少し追いつかれるくらいが丁度良い」

「任せて! 操縦なら得意よ! その代わり、私の護衛しっかり頼むわよ!!」

「ああ、大丈夫だ!」



 ポーラやイヴレフたち“蒼のハウンド”はわざと馬の速度を緩めていた。当然、すぐに帝国部隊に追いつかれ、並走しながらの騎馬戦へと突入する。


「くたばれ! この音痴野郎が!!」

「失敬な! お前がくたばれ!!」


 横にいる帝国騎士が馬上から槍を突き刺してきた。


 俺は穂先を避けて相手の柄を掴み取ると引っ張って、相手の槍を奪った。


「ほら、返すぜ!」

「うわあっ!?」


 奪った槍を真横のまま騎士へと放り投げた。重たい槍の柄を受けた騎士はそのまま落馬する。


「このぉ! よくも……!」


 別の騎兵が再び槍を突き出し、俺は同じように柄の部分を掴むも、今度は騎士の方も簡単に槍を手放さなかった。


「そう簡単にいくかよ!」

「へぇ? そこそこ握力あるねぇ」

「ぐぅ……絶対に放さんっ!」

「じゃあ……放すなよ?」

「え? うわああああ!?」


 俺は掴んで離さない騎士ごと槍を持ち上げて、後ろに追走していた騎士たちの方へと放り投げた。


「なにぃ!?」

「ぐへぇっ!!」


 自分ごと持ち上げられるとは思っていなかったらしく、槍を手放さなかった騎士は人間砲弾となって後ろのお仲間たちにぶつかった。



「うし! これくらいでいいかな?」


 ここで追っ手を全滅させても意味が無いので適度に手を抜かねば……


 連中を蹴散らすのはもう少し先だ。



「見えてきたぞ!! ザラムの砦だ!!」


 俺たちは国境近くにあるザラム軍の拠点近くを目指していた。


 そこには対帝国軍用の防衛網が敷かれているようで、既にこちらの騒動を捕捉したのか、ザラム兵と思われる一団が動き出していた。



 迂闊にも最前線に出過ぎた帝国騎馬隊が今頃になって慌てだす。


「た、隊長! 前に出過ぎです! このままでは……!」

「う、うむ……そろそろ戻るぞ!」



 そうはいかない! いよいよこちらも反撃の時だ!



「よし! ここらで追っ手の帝国兵をぶっ倒すぞ!」

「「「了解!」」」


 俺の合図でイヴレフたち“蒼のハウンド”は攻勢に転じた。


 今まで適当にあしらっているだけであった金級傭兵団が本気で牙を向いたのだ。ここまでしつこく追っていた帝国騎馬隊は撤退する前に、ものの数分で壊滅してしまった。



「ま、こんなもんだな」

「アンタたち……恐ろしく強いわねぇ……」


 ポーラが呆れていた。


「おい。ザラム兵がこちらに近づいて来たぞ」


 帝国兵とおぼしき部隊を一瞬で壊滅させた俺たちの方へ、ザラム兵たちは警戒しながら近づいてきた。


「貴様ら! 何処の部隊だ! 所属を名乗れ!!」

「俺たちは今現在はフリーの傭兵だ! 銀級“不滅の勇士アンデッド”と金級“蒼のハウンド”だ!」


 俺が名乗りを上げるとザラム兵たちは一層困惑した。


「銀に金!? しかもフリーだと……? そんな連中がどうしてここにいる!?」

「レイシス王国に用がある! その為、越境をしたい! 許可をくれ!」

「…………確認する。それまでは一時的にお前たちの身柄を預かる。全員、ただちに武装を解除して下馬せよ!」


 ま、軍の対応ならこんなものだろう。


 俺たちは言われた通り武装を解除して馬車や馬から降りた。その周囲を武装したザラム兵たちが取り囲んで行く。


「こちらに付いて来い!」

「あいよー!」


 俺たちはザラム兵に言われた通り、徒歩で付いて行った。どうやら砦の方で取り調べを受けるらしい。


「……大丈夫かしら」


 一人、ポーラだけは不安そうにしていた。


「心配ない。少なくとも俺たちの身は安全さ」


 仮に揉め事になったとしたら、ザラム兵の方が大丈夫じゃなくなるだけだ。


“蒼のハウンド”の皆さんは推定A級の闘気使いばかりであるらしいし、俺もこの程度の相手、素手でも問題なく応戦できる。


 俺たちへの対応を間違えれば、ザラムの砦が一つ落ちる事になる訳だが、果たして……




 俺たちは砦内にある大部屋に案内された。牢屋ではないらしいが、多くの兵士たちがこちらを見張っていた。向こうも銀と金の傭兵団とあってか慎重な対応を迫られているようだ。



 少しすると偉そうな軍服を身に纏った髭面の将校が部下を引き連れてやってきた。


「諸君らが傭兵団“アンデッド”と“蒼のハウンド”かね? 団長はどこかな?」

「俺がアンデッドの団長ケルニクスだ」

「蒼のハウンド団長のイヴレフだ」


 俺とイヴレフが名乗り出ると、髭の将校が目を見開いていた。


「ケルニクス……黒髪……まさか……貴殿はあの“双鬼”殿か!?」

「……ああ。あの“双鬼”さんだ」


 どの双鬼だろう?



 どうやらザラムの将校さんは俺の事を知っているようだ。


 まぁ、ザラム公国はパラデイン王国を最初に国として認知した国家である。一応、俺はパラデイン王国元帥という立場であり、ザラムの最前線にある砦の一つを任されている将校が俺の事を知っていたとしても、なんら不思議では無かった。


「これはご挨拶が遅れました。私はザラム公国軍副将軍のケラーと申します。ケルニクス元帥殿」


 副将軍ケラーが恭しく挨拶をすると、周囲の兵士たちは動揺し、慌てて姿勢を正した。今までは怪しげな傭兵風情に向けていた態度がガラリと変わったのだ。


 うーん、権力、万歳!


「改めてパラデイン王国元帥のケルニクスだ。宜しく、ケラー副将軍殿」

「はい。しかし……ケルニクス殿は一体どうしてこの地に……?」


 階級上はこちらが上だったとしても、この場はザラム公国領地であり、一方のパラデインは新興国家に過ぎない。


 副将軍の言葉遣いは丁寧であったが、その目は鋭く、俺がどういった目的でここに訪れたのか、その真意を探ろうと真剣であった。


 ここで下手な嘘をつく意味も無いので、俺は全てを話さず正直に答えた。


「山賊団を討伐する為に動いている。どうやらその賊はレイシスに潜伏しているようなのでザラム公国内を横断したい。通行を許可してもらえないだろうか?」

「それは……王国軍としてではなく、傭兵として、ということですかな?」


 最初に傭兵として名乗った意味を察したのだろう。ケラーは俺にそう尋ねた。


「そうだ」


 今回の俺の活動に国は関係ない。


 旅の目的は魂魄剣を手に入れる事であり、それは完全に私的な事であったからだ。


「……私の一存では決められませんな。公都に連絡を取ります。四日もあれば結果が出るでしょう。それまではこの砦内にある宿泊所でお休みください」

「四日かぁ……仕方ないか。頼む」



 俺たちはザラム公国の砦で足止めを食らうことになった。








「なに? “双鬼”ケルニクスが我が国に来ていると?」

「左様でございます。大公陛下」


 パラデイン王国元帥ケルニクスの来訪はすぐにザラムの首都である公都に告げられた。この国は王ではなく大公が統治していた。元ゴルドア帝国のザラム公爵家が大公を名乗り起こした国であったからだ。


「一体何用か? 我に謁見を申し出ているのか?」

「いえ……それがどうやら軍務としてではなく、傭兵として行動しているようでして……」


 伝令から報告を受け取った大臣はケルニクス来訪の目的を大公である我に説明した。



「なんと! 山賊団を追って一国の元帥が自ら……」

「はい。彼の御仁は元々傭兵であり、今も現役だと聞いております。しかし、あの御仁が追う山賊団となると……」

「ううむ。十中八九、ヤマネコ山賊団であろうな……」



 ヤマネコ山賊団はつい最近まで、ここザラム公国内でも活動していた厄介者であった。レイシス方面へ去ったと聞いた時、我は正直ホッとしたのだ。今は帝国との戦争に注力したかったので、余計な兵は避けなかったからだ。


「よし! 我の名で通行を許可せよ! それとレイシス方面にもその旨の書状を送ってやれ! これでパラデインとレイシス両国に貸しを作れるだろう」

「ハハッ!」








「……見事に作戦通りだったわね」

「……うむ、計画通り!」


 いやぁ、ビックリ! 驚いたね!


 最終的には、またどうせ強行突破する羽目になるんだろう? Bプランしちゃうぞ?


 そう考えていたのだが……この世界、何時の間にイージーモードへと移行したのだろうか?


(ま、楽出来るに越したことはないのでいっか!)


「しかもレイシス王国にも話をつけてくれるってさ! これで次の越境は楽だな」

「ええ! しかし……アンタ本当に貴族だったのね……」

「そうだぞー! 頭が高いぞー!」

「はいはい」


 俺が正真正銘の貴族だと知ってもポーラの態度は変わらなかった。暫く一緒に行動していた為か、そこまで気安い仲となっていたのだ。


 しかも、ポーラの秘密まで打ち明けられていた。


 なんと彼女は御子だったらしく神業スキル【操縦】を所持していると言うのだ。馬車の操縦が上手いのもその為なのだとか。


 だからポーラは御者こそが自分の転職だと思っているようだが……俺はそれだけに納まらないだろうと考えていた。


(操縦ってことは、車や船、飛行機なんかも適用されるんじゃないの?)


 この世界の平民が想像する乗り物となると、真っ先に思い浮かぶのは馬車くらいしかない。次点で小船辺りだろうか?


 ポーラの生まれは内陸のゴルドア帝国領なので、船に乗る機会は今まで無かったそうだ。だから馬車の操縦くらいにしか役に立たない微妙なスキルなのだと彼女自身も勘違いしていた。


 だが、もし仮にポーラのスキルが乗り物全般にも適用されるのだとしたら……将来的にはパラデイン王国にとっても得難い存在となり得るだろう。


(ポーラをスカウトしたのは正解だったな!)


 ザラムから正式に通行許可を得た俺たちは、その後も順調に旅を続けていた。


 うーん、実にイージー!








 リューン王国の中心地、王都フレイム


 そこでは、とある一報が告げられていた。




「なに? “双鬼”がザラム公国内に居るだと? 何かの軍事作戦か?」


 大臣の報告を聞いた余は困惑した。


 あの男の行動は何時も突発的だが、決まって何かしら大きな騒動が起こるのだ。



 我が王国は現在、パラデイン侵攻に向けて着々と準備を進めていた。


 そこらの小国であれば直ぐにでも行動に移して攻め滅ぼせるのだが、パラデインを余は決して侮ったりはしない。しっかり用意を整え、万全な体勢で挑むつもりであった。



 その準備と並行して、パラデインを始めとした各地の情報収集も欠かさなかった。


 そんな最中、帝国と公国に潜ませていた間諜からケルニクスの単独行動が余に告げられたのだ。



「奴の思惑までは分かりません。しかし、ケルニクスは現在、金級の獣人傭兵団“蒼のハウンド”と行動を共にし、レイシス方面に南下し続けているとの報告です」

「ううむ。つまり、今はパラデインにあの厄介者はおらぬのか……」


 これはパラデイン侵攻のチャンスか? と一瞬思ったが、ケルニクス単独となると、その他の主要メンバーは全員王国内に待機している筈である。連中の一味も侮れないのだ。


 対して、こちらの準備はまだまだ整っていない。


 今、戦を仕掛けても勝てはするだろうが、それで大損害を出しては意味が無い。戦争は勝利して統治した後も大変なのだ。


(ネーレスの海賊共は漸く手懐けられたが……バネツェ王国やユーラニア共和国の艦隊を警戒せねば…………ここは無理をすまい)


 空に敵無しのリューン王国だが、海軍に関してはまだまだこれから発展途上の段階であった。


 東の海の勢力図は現在、南の我が国リューン、そのすぐ北の領海にバネツェ王国、そして中央から北部全ての海をユーラニア共和国が支配していた。


 目下、リューンにとって目障りなのはバネツェ諸島の領有権を巡って競い合っているバネツェ王国である。バネツェは島国なので占領がとても難しいのだ。


 飛竜騎士団ならば容易に相手へと打撃を与えられるが、飛竜ではあまり重たい物は運べないので、物資や人員の運搬には不向きなのだ。国を占領するとなれば、どうあっても歩兵の数がいる。つまりは陸路か大型船での移動が必須となるのだ。



 同じくバネツェ諸島に存在するネーレス首長国の海賊共を支配下には置いたが、首長国全てを傘下に収めた訳ではない。


(慌てる事はない。まずはパラデイン王国からだ。あそこの沿岸部を制圧し、バネツェ内海を支配する! その次はバネツェ王国だ!)


 そこから先の海はユーラニアの支配海域が残るのみだが、あの国とは本格的に揉めるつもりはなかった。我が国の領土は大陸東部の最南端であちらは最北端……陸路だと遠すぎるので互いに不干渉を維持するのが賢明だろう。


 更に沿岸部の領土拡大を狙うとしたら、今度は西側のレイシス方面だろうが……その頃には余の息子――王太子か、その次の世代の仕事になるだろう。


 余が成さねばならない仕事はバネツェ近海の完全征服までだ。その為にはパラデイン……いや、ケルニクス! 奴を始末せねば……!



「…………“蒼のハウンド”とやらが邪魔だが……パラデインを離れているこの機にいっそ仕掛けるか?」

「陛下? まさか……!?」

「……ああ、飛竜騎士団を出動させる! ”双鬼”一味と離れ、奴が単独行動をしている今が好機! ケルニクスを……討つ!」



 余は我が国最強の部隊であるリューン王国飛竜騎士団に出動を命令を下した。

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