第104話 帝国南部の旅
三神剣
数ある神器の武器の中でも最高峰の性能を誇ると謳われている三本の剣の総称を三神剣という。その三本はそれぞれ神剣または聖剣、魔剣だとも言い伝えられている。
三本の中でも最強だと評される“元始の剣”
血盟期の戦争で活躍したとされる“精霊剣”
そして、それら二本の剣と同格だと噂されている“魂魄剣”
現在、その三本の内の一本“精霊剣”はエアルド聖教国が管理しているが、残り二本は行方不明とされていた。
「あの三神剣の一本を山賊の頭目如きが所有していると?」
クロガモの問いにおじさんは頷いた。
「ああ、間違いない。それも、つい最近手に入れたようだね。入手ルートまでは不明だけど……」
ひとまず信じてみるかと口にしたものの、このおじさんのもたらす情報は……とても怪しい。
クロガモにハガネ、イブキのシノビたちは胡散臭そうにおじさんを観察しているが……
「ま、調べてみれば本当かどうかはすぐ分かるんじゃね?」
「……確かに。しかし、山賊と言えども、あの“ヤマネコ山賊団”が相手では、諜報活動も容易ではないでしょう」
ヤマネコ山賊団
前にエドガーがその名を口にしたことがあった気がする。確かその時は……“石持ち”傭兵団を打ち負かした連中の名を上げ、その中にヤマネコ山賊団も含まれていた筈だ。
「“石持ち”傭兵団と同等か、それ以上の山賊団か……。侮れない相手だな」
「いえ、そうとも言い切れないです」
俺の言葉をクロガモが否定した。
「ヤマネコ山賊団がその名を轟かせていたのは、もう十数年以上も昔の話。当時、その山賊たちを率いていた頭目が非常に強く優秀だったそうで、そのカリスマ性もあって一気に団の勢いをつけ、一国の軍隊すら退けるほどにまで成長を遂げたとか……」
ただし、ヤマネコ山賊団の繁栄は、そう長くは続かなかったそうだ。
クロガモ曰く、ヤマネコ山賊団は元々、特権階級を悪用する獣人貴族たちに反発する為に立ち上がった義賊だったらしい。
平民出の獣人たちが集まり、悪党を相手に大立ち回りをしていた戦闘集団がその起源であったそうだ。
それが紆余曲折あって彼らはその後、山賊団に身を落したのだとか。
団員は全て獣人族であり、その殆どが猫科タイプの獣人で構成されているらしい。しかも、団員メンバーのほぼ全員が優秀な戦士であり、闘気使いであったそうだ。
獣人の生まれ持った身体能力に加え、闘気の扱いが上手い戦士たち。ヤマネコ山賊団はそんな恐ろしい連中の集まりであったが、義賊から山賊へと堕ちたことで、彼らは周辺国に目を付けられたのだ。
結果、大勢の賞金稼ぎや傭兵団を差し向けられ、遂には“石持ち”傭兵団までも刺客として送り込まれた。それらの襲撃を山賊団は尽く返り討ちにし、勝利をし続ける。
だが、“石持ち”傭兵団との激闘の末、勝利の代償に優秀な頭目を失ってしまい、それを機にヤマネコ山賊団は一気に衰退の道を辿っていく事になるのだ。
それでも今現在、団はギリギリ存続しているそうだが、以前ほどの脅威は無いだろうというのが周囲の評価であった。
そのヤマネコ山賊団が再び牙を向き始めたのだと、おじさんは言うのだ。
「それに“魂魄剣”は非常に危険な神器らしいんだ。新頭目ドルニャンはその魔剣の力を使って、好き勝手に暴れ回っているそうだよ」
「らしい? まさか、その“魂魄剣”の能力をお前は知らないのか?」
疑問に思ったイブキが尋ねると、おじさんは申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「すまないね。私も全ての神器を知っている訳ではないんだ。ただ、伝承通りだとするのなら、“魂魄剣”は対生物用の魔剣だそうだよ」
「……対生物?」
生き物に強い剣、ということだろうか?
「うん。例えば、あの有名な神剣“元始の剣”は、どんな物体でも斬れる剣らしいし、聖剣“精霊剣”は、どんな神術や呪いでも断ち切ると言い伝えられている。実際どのくらいの性能なのかは私にも計り知れないけれどね」
「へぇ~」
色々と初耳情報である。
つまり、纏めるとこういうことか?
“元始の剣”は物理特効
“精霊剣”は魔法特効
“魂魄剣”は生物特効……ということなのだろう
「……一番ヤベー剣じゃん!? “魂魄剣”!!」
このおっさん……なんちゅうおっかないモノを俺に取りに行かせようとしているんだ!! ハード過ぎるだろうが!?
「安心してくれ。恐らくだが、ケルニクス君には“魂魄剣”の能力は通用しない……筈だ」
「筈だって……せめてそこは言い切って欲しかったなぁ」
だが、そうだった。
どうも俺たち純粋な転生者は神器の特殊効果が無効のようなのだ。
(だったら楽勝かな?)
「だが、くれぐれも慢心はしないでおくれ。君たちでも神器が完全に無効だとは限らない。実際、“護身双手”を破壊するのには君でも苦労したんだろう?」
「あー、あの熊さんの持っていた籠手ね。めっちゃ苦労した」
最初はこちらの攻撃を弾かれたりもしたしね。だが、一番苦労した理由は、単純に使い手が強かったからである。
最終的には、相手の攻撃を弾くという“護身双手”の能力を俺は無意識に無効化していたらしいのだが……今度もそう上手くいく保証はどこにもない。
「他には? なにか追加情報は無いのか?」
「うーん。斬られたら不味いって事くらいしか……“魂魄剣”の伝承は他の三神剣よりも随分と少ないんだよ」
「それ、参考にすらなってねえよ!?」
普通の剣だって斬られたらヤバイわ!!
色々考えて悩んだ末、俺はその“魂魄剣”を実際に見てみる事にした。
仮に転生者である俺が”魂魄剣”とやらを手に入れても、神器の能力は使いこなせないだろうが、非常に壊れにくい武器としては扱えるだろう……というのが、おじさんの見解である。
それに、そんな恐ろしい武器が山賊団の手の中にあると思うとぞっとする。早急に取り上げるべきだろう。
「私もヤマネコ山賊団と戦いたいです!」
「……いや、ソーカには別の任務を頼みたい。飛竜を捕獲して欲しいんだ」
「えーっ!?」
そろそろフェルも帝国領から戻って来る。現役S級冒険者であるソーカたちには、是非そちらの方をお願いしたい。
魔物の捕獲と聞いてソーカはつまらなそうな顔をしていた。だが、仲間を連れて行くのには少しだけ抵抗がある。
(今回の神器は流石にヤバそうだからな……)
まぐれ当たりでも、その魔剣でソーカが斬られれば、命の保証は出来ない。いや、伝説の神器だと考慮するならば、掠っただけでも危ないだろう。もしかしたら、射程圏内に入った瞬間にアウトな類の魔剣かもしれない。
それ程までにぶっ壊れ性能の神器も存在するらしいのだ。本当に神様は碌でもない物を残してくれたよ!
――――と、いうわけで、今回は俺一人で調査をすることにした。
パラデイン王国を出立して一週間。俺は今、ゴルドア帝国領内の街ネゼにいた。
「さて、南に行く駅馬車を探すか」
ネゼはゴルドア帝国の南東部に位置する大きな街だ。
ここまでの道のり、俺はイデール独立国内を経由して、走ったり馬車を掴まえたりしながら旅を続けていた。
パラデイン王国は周辺国とはまだ戦時下にあるので、そこから堂々と馬車を使って通り抜ける訳にはいかなかったのだ。関所などで絶対に引っ掛かる。
越境する際は身一つで塀を乗り越えるか、森の中をこっそり駆け抜けて、ようやくここまで辿り着けた形だ。
(あとは南にあるザラム公国を超えて、いよいよレイシス王国か……)
件の山賊団が活動している場所は、どうもレイシス王国近辺らしいのだ。レイシス王国は地理的に、コーデッカ王国の南方に位置している。
そのレイシス王国は現在、西に隣接しているカウダン商業国との戦争中であり、レイシスの手前――北東にあるザラム公国も、ゴルドア帝国へ侵攻中という状況だ。
(やだやだ。何処も戦争ばっかりで……)
もっとも、ザラム公国が帝国へ侵攻する切っ掛けを与えた原因は俺たちなのだが……もともと公国と帝国の仲は非常に悪いので、戦争も頻繁に行っていたらしい。小競り合いに関しては慣れっこであったのだ。
ただ、今回に関しては流石のゴルドア帝国側にも焦りが見えていた。
「おい、聞いたか? あのヨアバルグ要塞が陥落したってよ!」
「聞いた、聞いた! なんでも、たった100人の敵兵で落とされたんだって? 北の兵士どもは一体なにをしていやがったんだ!?」
(残念! 正解は9人でした!)
ここは帝都より南に位置する街なので、北部の戦況が届くのもだいぶ遅く、その内容もどこかで捻じ曲がって伝えられているようだ。
帝国民たちの噂話に聞き耳を立てていると、聞こえてくるのはどれも戦争の話ばかりであった。「今日はあそこの砦が堕ちた」だの「明日はあの街が危ない」だの……皆が不安を抱えていた。
彼らからすれば俺たちは紛れもない侵略者側……敵なのだ。彼らの噂話を俺は複雑な心境で聞いていた。
ザラム公国との距離が近づくと、戦場が近いのか、南方に出ている馬車の数もだいぶ減っていた。
(これ以上南下するには走るしかないか?)
そう覚悟を決めていた俺であったが、タイミング良く南へ行くという馬車の情報を掴んだ。
その馬車は街の外側に停車中であった。俺は御者席で帽子を顔の上にかぶせて昼寝中の御者に声を掛けた。
「なあ。この馬車、ザラム方面に行くんだって?」
「ふぁ? ん……お客さん……?」
寝ていた御者が身体を起こし、帽子のつばを摘まんで上げた。その顔を見て俺は驚く。
「む? 女か?」
女性の御者とは珍しい。
歳は俺と同じくらいだろうか? 勝気そうな女性であった。
「女だからって侮らないでよね。こう見えて私、馬車の操縦には自信があるんだから!」
「あー、悪い。特に他意はないんだ。意外だなと思っただけだ」
「ふーん? まぁ、いいけど……。ザラム公国の手前までなら、片道で銀貨8枚だよ!」
「随分と高いな!?」
これまでの道中、片道の運賃はどんなに高くても、せいぜい銀貨1枚くらいであった。
「この情勢下で、しかも場所が場所だからね。人を多く乗せる駅馬車なら兎も角、お客さん一人だけだと割高になっちゃうよ!」
「……成程。それもそうか」
道中、通過する街へと届ける荷物と一緒に俺も運ばれるようだが、これより先は更に情勢が悪化しているらしく治安も悪いので、運搬する方も命がけなのだとか。
運賃が高いのは危険手当も含まれているらしい。
「護衛を雇っていないのか?」
「今、戦える男たちの殆どは戦場に引っ張りだこさ! 傭兵ギルドに依頼しても、安い給金じゃあ碌なのが雇えないんだよ!」
女は肩をすくめながらため息をついた。
「さ、早く乗って! どうせアンタみたいな酔狂なお客はこれ以上増えないだろうし、チャチャッと出発しちゃうよ!」
「頼む」
俺を乗せた馬車はザラム公国領手前の街に向かって出立した。
女御者の名前はポーラというらしく、元々は馴染みの商会で運送業を行なっていたそうだ。
だが、急な国内の情勢悪化で商会が財政難に陥り、ポーラは運送業をクビになってしまったらしい。
「ったく! 戦争の所為で何処もかしこも不景気なもんさ!」
「……すまん」
「……? なんで謝んの?」
これ、間接的に俺たちが原因でポーラはクビになった訳か。
まぁ、俺たちも帝国にやり返しただけなので、そこまで責められる謂れは無いのだが、なんの罪も無い帝国民にまで被害が及ぶのは俺としても甚だ遺憾である。
「あー、何処もかしこもじゃなかったか。傭兵業や武器の卸問屋なんかは儲かっているらしいけれどね。私もアンタみたいな傭兵を何人も戦地まで運んだよ」
「む? よく俺が傭兵だと見抜いたな。冒険者だとは思わなかったのか?」
「なんとなくだけどね。装いで大体は分かるよ」
(馬車の操縦も上手だし度胸もある。エビス商会にスカウト出来ないかな?)
本人が乗り気な様なら、後で雇用の相談でも持ち掛けてみるか。それなら帰りも乗っけてもらえるしね。
道中、ポーラと他愛無い会話をしながら進んでいたが、浅瀬の川を渡る為に馬車の速度を落としたタイミングでそいつらはやって来た。
「その馬車、止まれぇ!!」
「止まらないと……こ、攻撃するぞぉ!!」
「――――っ!?」
突如、前方に四人の男たちが姿を現した。
彼らは鉄の農具や木の棒を持ち、馬車の行く手を阻んだのだ。
「くっ! ここじゃあ横を抜けられないか……!」
横には岩が邪魔をして迂回できそうにない。
このまま馬車を走らせれば、多分男たちを轢き殺して突破できるだろう。だが、ポーラの性格がそれを良しとはしなかったようだ。
彼女は手綱を引き、馬に足を止めるよう促した。
その様子を確認すると、今度は背後からも三名の男たちが姿を現した。どうやら襲撃者は全員で七名居たらしい。
それにしても……改めて観察すると、どいつもこいつも貧相な武装であった。
(なんだ、こいつら……?)
盗賊にしてはひ弱そうだ。男たちは震えながらも俺の方を見て叫んだ。
「つ、積み荷を全て寄こすんだ!」
「大人しく渡せば危害は加えない!」
「は、早くしろ!」
盗賊にしては随分とお優しいことだ。
指示に従えばこちらの命までは取らず、間違いなく美人の部類であろうポーラも見逃してくれるそうだ。
これが仮に下種な盗賊たちなら、問答無用で馬車や乗員に危害を加えるなどして、ポーラは慰み者にされていただろう。
「ケリー、どうする?」
本名を隠し、ケリーと名乗っていた俺は不安そうなポーラに尋ねられた。
当然、相手の言うとおりにする必要はない。
「断る! 今回は見逃してやるから、足を洗って真面目に働け!」
恐らくこいつら初犯っぽいので、ここは情けを掛ける意味でそう勧告した。
だが、当然それだけでは向こうも引かないだろう。
「お、お前! 抵抗する気か!?」
「こっちは七人もいるんだぞ!!」
「い、痛い目を見たくなければ――――」
「――よっと!」
男たちが叫んでいる間に、俺は馬車から跳躍した。前方の道を塞いでいる四人の頭上を飛び越えて、一瞬で彼らの背後を取ったのだ。
何時の間にか後ろに回り込まれていた男たちは焦り出す。
「なっ!?」
「この動き……っ!」
「ひぃ!? と、闘気使いか!?」
「今更だなぁ……」
やはりというか……こいつら全員、闘気すら碌に使えない素人の集団であった。
俺は鞘から片方の剣をゆっくり抜き、男たちを睨みつけた。
「少しでも抵抗すれば……斬る!」
「うひぃ!?」
「お、お助けぇ……!」
俺に睨まれただけで男たちは全員腰を抜かし、命乞いを始めてしまった。
なんとも肩透かしの結果に俺が困惑していると、遠くから多数の蹄の音が聞こえてきた。どうやら馬に乗った何者かがこちらに駆けつけているようだ。
徐々に姿が見えてきた。
そいつらは全員武装していた。しかもその殆どが獣人族で構成されている戦士の集団だ。出で立ちを見るに帝国兵ではなさそうだが……もしかして同業者だろうか?
獣人の騎馬隊はあっという間に俺たちを取り囲むと、その中の一人、犬族の獣人が大声を張り上げた。
「この近辺を荒らす盗賊め! 大人しくお縄につけ!」
どうやら彼らは盗賊対策でこの辺り一帯を巡回している雇われ傭兵団のようだ。
これは丁度良い!
「ラッキー! 良いタイミングだな! こいつら捕まえてくれ!」
俺が彼らに近寄ろうとすると、騎馬隊の一人が俺の方に槍の穂先を向けてきた。
「何を血迷いごとを……! 貴様、さっさと武装解除せぬか!」
「…………え?」
よく見ると、こちらを囲っている戦士たちの全員が、賊の方ではなく俺の方を睨みつけていた。
もしかして……俺が盗賊ってことになってません?
「いやいやいや! ちょっと待ってくれ!! 俺は襲われた側だよ!? ほら、よく見ろって!! 襲撃者はあっち! あの男たち!!」
俺の言い分を聞き届けた騎馬隊たちは全員、何故か眉をひそめた。
「あいつらが……賊?」
「それにしては貧相な武装だな……」
「全員、腰を抜かしてるじゃないか……」
「装いといい、立ち位置といい……どう見ても貴様の方が盗賊じゃないか!」
「そうかも!?」
思わず俺自身でも納得して頷いてしまった。
本来の襲撃者である男たちは現在、ポーラの馬車を囲っている陣形を取っている。これは一見、彼女を守っているようにも見受けられる。
片や襲撃犯である筈の賊たちは全員腰を抜かし戦意喪失、片やそんな彼らを武装した状態で剣を抜いて凄んでいる俺、という構図……
(あれ? 俺が盗賊だった!?)
この状況、どないすんねん!!
まぁ、馬車の持ち主であるポーラによる事情説明で俺への誤解は秒で解けた。
更に俺が銀級下位の
「疑って済まなかったな。連中はこちらで引き取ろう」
騎馬隊の正体はやはり雇われ傭兵団だったらしく、驚いた事に彼らは金級上位の大物であった。
傭兵団“蒼のハウンド”
その殆どが獣人族で構成されており、リーダーを務めるのは犬族のイヴレフであった。獣人族の年齢は分かりづらいが、40手前のおっさんらしい。
「あー、あの連中なんだが……」
「心得ている。大方、食うに困って仕方なく悪事に手を染めた類の者たちだろう。まぁ、今回は未遂だったことだし、大目に見るよう私から上に取り図ろう」
かなり話の分かる御仁であった。
「我々はこの先の街の領主であるヨージャン男爵家に雇われている。済まないが、証人として二人とも街まで来てはくれぬか?」
「私は構わないわよ!」
「ああ、問題ない」
立場上、あまり長期間パラデイン王国を留守にするのは不味いのだが、これくらいの寄り道は致し方なかろう。
道中、馬車の荷台に無理やり詰め込んだ男たちを俺は軽く尋問したが、男たちの正体はやはり貧乏な村で苦しい生活を強いられていた村人たちであった。
ここ最近は戦争の影響で税も跳ね上がり、生活に行き詰った彼らは止む無く盗賊業に手を出してしまったのだと後悔しながら語ってくれた。
いくら生活が苦しいからと言って他人の物を奪うのは頂けないが、人は腹が減ると倫理やら道徳やらが失われるものなのだ。奴隷時代の俺もだいぶ性格荒れてたしね。
逆に生活に余裕がある癖に犯罪を働く連中の方がずっと
俺たちはイヴレフたち傭兵団“蒼のハウンド”の案内で、ヨージャン男爵家が治めるノージの街へと向かった。
そこで馬車の襲撃未遂犯である男たちを引き渡し、領兵たちに事情を説明したのだが……
「そうか。では、連中は犯罪奴隷兵として前線送りとなる。ご苦労だったな」
「「「え!?」」」
その判決には村人たちだけでなく、俺とイヴレフも耳を疑った。
奴隷兵扱いは死罪相当に近く、かなり重い罰である。確かに盗賊行為は死罪相当に値するのだが、彼らには情状酌量の余地があり、何より初犯で未遂でもあった。
その点を被害者である俺たちやイヴレフはしっかりと伝えたのだが、領兵はあっさりと冷酷な判決を言い渡した。
「待ってくれ! 流石にそれは……!」
「なんだ? 傭兵如きが我が領地の法に異議を唱えると言うのか?」
ギロリと領兵がイヴレフを睨みつけた。
「昨今の国内における情勢は芳しくない。特に前線を維持する兵士の数が全く足りておらぬのだ! 未遂とは言え、悪事を働くような輩は前線に送るよう、領主様から申し付けられている!」
それを聞いたイヴレフは目を見開いた。
「それじゃあ……まさか我々を巡回させて、少しでも多くの悪人を生きて捕縛せよという、あの命令は……!」
「うむ。お前らがこれまで捕らえてきた罪人たちは全員、南部の前線送りにしている。規定の兵数を軍に回し続けられ、中央政府からの覚えも良いと、領主様も大変満足しておられたぞ」
「――――っ!?」
兵士から真実を聞いてしまったイヴレフは動揺していた。
「馬鹿な……! 我々が捕まえた者の中には、軽犯罪者も多数いた筈だ! その連中も全員、無理やり戦場に送ったというのか!?」
「そうだが? 碌に税も払えず悪事を働き、領主様の足を引っ張る愚か者どもを間引きでき、寧ろ一石二鳥ではないか」
「~~~~っ!?」
これは……これでは一体どちらが悪なのだろうか。
俺たちは兵士と眩暈を覚えるような問答を続けていると、奥にある館の方が騒がしくなってきた。
どうやらここの領主とやらが出掛けるタイミングであったようだ。
派手な衣装の男が大勢の取り巻きたちに囲まれながらこちらに近づいていた。
「ふぉっふぉ。今日はどこで遊ぼうかのう。昨日の町娘は貧相であったが、反応が初心で楽しめたぞ」
「左様ですか。でしたら、西通りの近くにある酒場なんかは如何でしょう? あそこの給仕にはレベルの高い町娘たちが働いているとか」
「ほぉ? 悪くない。では、今日はその酒場を貸し切るとしよう! なあに、金なら幾らでもある。無くなれば、また税を上げ、払えぬ者を奴隷として売り払えばいいのだからな! ふぉっふぉっふぉ!」
「「「流石は領主様!!」」」
領主らしき禿げのおっさんと取り巻きたちが下品な会話をしながら歩いて行く姿を俺たちは目撃してしまった。
(……うん、あいつは要らないな)
今は対リューン王国に集中するべく、帝国領の中央や南部を放置した状態の俺たちであったが……あのゴミは要らない。不要だ。むしろ一刻も早く処分する必要がある。
何故なら悪徳領主とは、絶対に天誅を下さねばならない存在なのだから……
「悪徳領主は……ゼッチュー!!」
俺は迷うことなく、領主の首を跳ね飛ばした。
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