第100話 パワーは神をも凌駕する

「だりゃあ!!」

「ハアッ!!」


 ヨアバルグ要塞内にある修練場にて、俺と熊さん――ハインベアーは幾度も剣と拳をぶつけていた。


「くっ!」


 もうこれで二百回目くらいになる俺の斬撃は、またしても弾かれてしまった。


(あの白籠手……やたら頑丈だ。それに……妙な感じだな)


 どうも上手く力が乗らないというか、普段よりも剣に手応えを感じない。剣を白籠手に当てた際、その衝撃を別方向にでもズラされているような感覚だ。


 最初は熊さんの武術による賜物かと思っていた。それもあるのだろうが、それ以上にあの白い籠手には何か秘密があるような気がしてならない。



 こちらが白籠手を凝視していたのを察したのか、熊さんが話しかけてきた。


「随分と拙僧の武器が気になるようだな。想像通り、これは普通の武器ではない……神器だ」

「――っ!? そうか、やっぱり……!」



 神器


 神々がまだ地上に居た時代――――始霊期から存在する、神たちが利用していたとされているアイテムの総称のことだ。


 神器の性能は千差万別だが、それらの大抵の効果は、現代では再現不可能とされている。


 そして神器には特殊能力とは別に、ある特徴も存在した。


“不壊”


 それが全ての神器に共通する、もう一つの特徴である。


(神器は壊れないって聞いてるけど……本当かなぁ?)


 今は大陸歴1,527年。


 始霊期とは大陸歴0年から始まった覚明期以前とされているので、現存する神器は少なくとも1,500年以上も壊れずに存在している計算だ。


 ステアが所持している“盛衰せいすい虚像きょぞう”やエビス邸に設置されている“寄居虫やどかりしらせ”もそうだと考えると、壊れないという噂はあながちガセではないのかもしれない。


 指輪型の神器はまだしも、壊れやすそうな風鈴型の“寄居虫の報せ”が1,500年以上も綺麗なまま現存しているのだ。通常では考えられない強度があるのだろう。


 故に、神器の武器は特殊能力に関係なく、壊れない武器としても価値が高いらしい。



 目の前の武人はただ強いだけでなく、絶対に破壊不可能な武器まで両手に所持しているのだ。更にその神器の能力は未知数ときたものだ。


 久しぶりのハードな難敵に俺は不敵な笑みを浮かべた。


「アンタ、本当に強いなぁ。アデルなんかよりも数段上だ。そんな奴がなんでアイツの下にいるのか分からないなぁ」

「傭兵団の頭目という立場には興味が無い。拙僧はただ強者を……死闘を求めている。団には一時的に身を置いていただけに過ぎぬ」

「……納得」


 そういう感じの人ね。


 雰囲気的には、以前に相対した帰心流の中伝さんとよく似ている。この熊さんも根っからの武人といった感じだ。ただ、アレよりかは会話も成立するし、幾分もまともそうな御仁であった。


「なら、後日に俺が相手をしてやるから、ここは引いてくれない? その感じじゃあ、アンタは帝国の為に戦っている訳でもないんだろう?」

「断る! 拙僧が求めるのはただの野良試合ではなく、命を懸けた真剣勝負! 拙僧を引かせたければ、全身全霊で挑んでくるがよい!」

「うわぁ……やっぱ面倒な奴だった……」


 前言撤回。こいつも中伝さん並にこじらせていた。


 俺は戦うのは別に嫌いじゃないが、命までは懸けたくない。


 ただ、あの頃の奴隷生活に戻るのは御免だし、今は大事な仲間たちもいる。今の生活を守る為の戦いならば命を懸けられるだろう。


 俺は深くため息をついた。


「立ち塞がるなら仕方ない……覚悟しろ! 【風斬かざきり】!」

「むっ!?」


 これまで俺たちは至近距離で戦っていた為、遠距離斬撃【風斬り】を出すタイミングが無かった。それを今この瞬間、初披露した俺であったが、ハインベアーは右拳を前に出すと、それを軽々と弾いて飛ばした。


 しかも、今の拳には闘気を全く籠めていないように見えた。


「マジか!?」

「拙僧に遠距離攻撃は効かん!」


 成程……あの神器、白籠手は恐らくそういった能力か。


(闘気を弾く……? いや、あの口ぶりだと恐らく、神術も通用しないんだろうな)


 つまり、あの神器がある限り彼に遠距離攻撃は一切効かず、対戦相手は近接戦闘を強いられるという訳だ。


 破壊不可のつよつよ武器を持ち、更に熊族のパワーを持つ武術の達人と強制近接戦闘?


(ハハっ! クソゲー過ぎるだろう!?)


 相変わらずハードな世界だが、こんな理不尽にももう慣れた。


「武器を壊せないんじゃあ仕方ない。じゃあ、その腕を貰うぞ!」

「やれるものなら試してみるが良い!」


 俺は両手に力を籠め、更に速く強く剣を振るった。








 戦闘開始から四十分以上が経過した。


 目の前の黒髪の青年、“双鬼”ケルニクスはまだ諦めずに拙僧を討とうとしていた。


「はぁ、はぁ……くそぉ!」

「…………」


 もうニ十分以上も前から息を切らしていた“双鬼”だが、その剣戟は衰えるどころか、徐々に増していった。


 人族である青年の一体どこにそんなパワーが秘められているのかは謎だが、油断していい相手では無いのはもう十分に理解した。


(妙な男だ。攻撃は単調、剣の技術も高いわけでもない。しかし……っ!)


 闘気の扱いに関しては一級品だ。先ほどの闘気を飛ばす斬撃には驚かされた。


 そして何より闘気の量が半端ない。そこに天性の膂力も相まって、凄まじい剣速と破壊力を生み出していた。


 しかし、拙僧の白籠手“護身双手”の前では、その力は何の意味を成さない。


 神器“護身双手ごしんそうしゅ”の能力は、あらゆる攻撃を弾き飛ばす。


 防ぐのではなく弾くのだ。


 遠距離攻撃の類は思い通りの場所へと弾き返し、近距離の斬撃、衝撃なども跳ね飛ばす、まさに無敵の盾でもあった。


 そう、本来であればもう既に決着がついていておかしくなかった。


 しかし……


(どういうことだ? “護身双手”の能力が発動しない……?)


 普段はこの力に頼るのを嫌っている拙僧であったが、“双鬼”相手には本気を出すべきだと判断した。だからこそ最初から全力で挑み、不可思議な闘気の斬撃を弾き返してやろうと試みたのだが、どうも狙った方向とは別の方へ弾かれてしまった。


 その他の攻撃もそうだ。


 斬撃を受け流す事には成功しているものの、本来であれば攻撃を相手に跳ね返すという破格の効果がこの白籠手にはある筈なのだ。


 だが、先ほどからその能力が上手く機能していない。


(まさか……奴にもこちらの能力を封じる神器が!? もしくはスキルか?)


 神の武器に対抗できるのは、同じ神器か御子の“神業スキル”くらいだ。だが……どうもそんな気配は感じられない。


 奴の武器は未知の鉱石か素材でも使われているのだろう。なかなか頑丈そうではあるが、神器でないことくらいは一目見れば拙僧には分かる。


 だからこそ解せないのだ。


「くそっ! これならどうだ!」

「甘いわ!」


 そんなこちらの動揺も知らず、ケルニクスはなんとか“護身双手”の防御を躱そうと、拙僧の腕や急所を狙ってきていた。それを両手の拳で何度も弾き飛ばすが、徐々にこちらが押され始めていた。


(ぐぬっ!? こ、こやつ……!)


 まさか……神器がただの武器に押し負けるというのか!?


 あ、ありえん……!








 戦闘開始から五十分……限界などとっくに迎えている俺であったが、ここで動きを止めたらもう二度と勝機は無いだろう。


 だから俺は限界を超えて攻め続けた。



 神器が破壊不可というのは常識だ。


 だからこそ、さっきから相手の腕や首を狙っているのだが、それを悉く両手の籠手でもって弾かれてしまう。


(畜生! アイツの拳が速過ぎる!! あれを避けて致命傷を与えるのは無理か!?)


 神器の力は絶大だ。


 相手は防御する際、手の部分にほとんど闘気を籠めていない。闘気で防御力を上げなくとも、“不壊”の特性だけで攻撃を防げるからこその行為だろう。


 かといって、籠手以外を狙ってもバレバレなのか、あっさりこちらの攻撃を邪魔される。


 まさに鉄壁の守りだ。


 そして、攻撃に専念し過ぎてこちらが隙を見せると、あちらからカウンターが飛んでくる。


「がはっ!?」


 これで七度目……右肩に左ジャブを受けてしまった。単なるジャブと言っても熊族の馬鹿力に闘気と神器が合わさった攻撃だ。その衝撃は半端ない。


(ちぃ! 骨、ヒビ入ったかなぁ……)


 他の殴られた箇所も随分と痛むが、ここで手を止める訳にはいかない。


 本音を言うと、今すぐ距離を取って遠距離攻撃に切り替えたいのだが……俺の直感が、それをすると敗北するぞと告げていた。


 その直感を信じてひたすら近接戦闘を続けているのだが……未だに勝ち筋が見えてこないので心が折れそうだ。


(あの武器……邪魔だなぁ……!)


 あの神器さえ無ければ……破壊不可能な、あの籠手さえ取り除ければ……勝機はあるというのに……!


 破壊、不可能……?


 本当に……不可能なのだろうか……?


 その割には俺の剣――――クラッド鋼製の双剣は今なお健在であり、むしろこちらが押してきている気がする。


 不可能……? 本当に神器を破壊する事は誰にも出来ないのか……?


 無理、不可能、出来ない。そういった無理難題を俺は何度も切り抜けてきたではないか!


(そうか! こんな簡単な答えに気付かないとは……!9


――――神器を破壊する!


 俺の剣術ではハインベアーの武術には到底太刀打ちできない。あの白籠手の防御を突破して致命傷を負わせる? そんなの超ベリーハードモードなのだ。


(だったら……神器を破壊するハードモードの方が、まだ楽ちんじゃない?)


 うん、絶対その方が楽だ。だって壊れるまで力を籠め続けるだけだしね!


「ふんぬ!」

「なにっ!?」


 俺は更に力と闘気を高め、白籠手を狙い始めた。


 いや、俺にそんな器用な真似は出来ない。俺は単純に今まで通り、ただただ力の限り相手の身体を斬りつけようとしているだけだ。後はハインベアーが勝手に白籠手を使って防いでくれる。だからわざわざ白籠手を狙う必要は全くない。


(必要なのは武器を壊そうという強い意志と……パワーだ!!)


 それを何度も繰り返していけば、何時かは武器を壊せるだろう。


 絶対に壊れない物など、あってたまるか!



 俺の攻撃に迷いが消えたことで、相手もこちらの意図を察したようだ。


「まさか、お主……拙僧の“護身双手”を破壊しようというつもりか!?」

「へぇ……その神器、そんな名前なんだ。いかにも丈夫そうだ、な!!」


 神器と言っても所詮は1,500年物の骨董品だろう? 地球の現代技術? で生み出したこのクラッド鋼製の剣の方が頑丈……の筈だ!


 いや、知らんけど……


 俺が開き直り始めると、剣にも迷いが消え、その分威力も増したように感じる。剣による攻撃の手応えも何時も通り感じられるようになった。


 ハインベアーが目を見開いた。


「なんだと!? “護身双手”の能力が……全く効いていない!? お主は……一体!?」

「うおおおおおおおおっ!!!!」


 何やらハインベアーが狼狽え始めていたが、これがラストチャンスだと考えた俺は一気にラッシュを畳みかけた。


「ぬううううっ!?」

「砕けろぉおおおおっ!!!!」

「――――っ!?」


 気合の一撃をヒットさせると、遂に俺の剣はハインベアーの右手に装着された白籠手の破壊に成功した。籠手は大破し、俺の剣はそのままハインベアーの右手を斬り裂く。


「ぐあああああっ!? ぐぅ、離れろぉ!!」

「がっ!?」


 残った左の白籠手に振り払われ、俺は後方へと吹き飛ばされた。


 だが……神器の片方をぶっ壊してやったぞ!


「へへ、やった……ぐぅっ!?」


 振り払われた際、胸を強打されたので、笑うと骨にジンジン響く。


 俺が痛みで蹲った時――――


「――――っ!?」


 背後から僅かな異音を感じ取った。


 俺は激痛に耐えながらも、反射的に斜め前方へと回避する。その直後、俺の居た場所に何者かが剣を振るってきたのだ。


「誰だ!?」

「……死ね!!」


 俺の問いには一切応えず、その謎の乱入者は殺意をぶつけて襲い掛かってきた。


 その男? は顔を布で隠していた。


(あの身なり……暗殺者か!?)


 男は間髪入れず、今度は複数のナイフを投擲してきた。


「くっ!? ぐぅ!?」


 かなりの闘気使いらしく、この至近距離で投擲された合計七本のナイフを全て防ぐのは不可能であった。


 内一本を右太ももに、もう一本を左腕に受けてしまった。


「いってぇな!!」

「――――っ!?」


 お返しにこちらは【風斬り】をプレゼントした。


 こちらも至近距離だったので暗殺者は躱し切れず、右肩が少しだけ斬り裂かれていた。


 溜まらず謎の暗殺者は一度距離を取る。



 決闘を邪魔されたハインベアーはご立腹な様子で、その謎の暗殺者へ怒鳴りつけた。


「我らの死闘に茶々を入れるとは……何奴だ!!」

「名乗る訳なかろう。だが、そうだな……。私の依頼主は貴様と同じ勢力の者だ、とだけ言っておこうか」

「ぬぅ……!」


 つまり、この男はゴルドア帝国から依頼された暗殺者という訳か。


 (まさか”暗影あんえい”って連中か!? こんな時に面倒な……!)


「目的も貴様と同じだ。私と共闘しろ。二人で“双鬼”を殺すぞ!」

「断る! 拙僧は今、こやつとの戦闘を楽しんでおるのだ! 邪魔をするのならば……容赦はせぬぞ!」

「愚かな……!」


 その男はほとんど音を立てずに両手にナイフを取り出した。


(こいつ、目の前にいるのに気配が全く感じない……スキルか何かか?)


 その所為なのか、今まで奴の存在に全く気付けなかった。


 ハインベアーとの死闘のお陰で、妙に五感が冴えていたので助かった。


 暗殺者は俺を襲うタイミングを虎視眈々と狙っていたのだろう。


「“双鬼”……想像以上に危険な男だ。まさか神器を通常の武器で破壊するとは……。貴様だけはここで確実に抹殺する!」


 何故か謎の暗殺者は神器を破壊したことに対して、なにやら強い警戒心を抱いているようだ。だとしたら、この気配を感じない現象も神器の能力なのだろうか?


「俺に勝てるかな? こっちは俺と熊さんで二対一だぞ?」


 俺が自信満々に告げるも、ハインベアーがそれを否定した。


「む? 拙僧は複数で一人を相手にするのは好まん。どちらにも手は貸さんぞ?」

「ええ!? さっきアイツと戦う雰囲気だったじゃん!?」


 俺、もう疲れすぎてクタクタなんですけど……


 疲労と骨の痛み、それにナイフを刺されての出血が祟ってか、俺の息は更に荒くなっていた。思わず身体がよろけそうになる。


 ふらふらの俺を見て暗殺者は静かに笑っていた。


「クク、そろそろ効いてきたようだな。そのナイフには猛毒が仕込んである。いくら闘気使いと言えども、そう長くはもたないぞ?」

「あ、やべ……ナイフ抜いたら余計に血が出てきた……」


 遂に俺は膝をつくと、チャンスとばかりに暗殺者が動き出した。


「死ねい! イレギュラー!」

「……死ぬのはテメエだ!!」


 暗殺者が動き出したと同時に俺は剣を振るって闘気の刃を飛ばした。


 まさかの反撃に暗殺者はナイフに闘気を籠めて防御しようとするも、その守りごと俺の刃が男を斬り裂いた。


「ば、馬鹿な……!」

「悪いな。毒、あんまり効いてないんだわ」


 更に出血のお陰で俺の刀身には大量の血が付いていた。


 先程放った【風斬り】よりも更に破壊力のある【血走ちばしり】の発動条件を満たしていたのだ。生半可な防御では守り切れまい。


 血の刃は暗殺者を一刀両断した。さすがに即死だろう。


 これで脅威の一つを排除した。


「はぁ、はぁ……続き……やろうか?」

「…………いや、横やりで興を削がれた」


 ハインベアーは負傷した右腕と、砕け散った白籠手の残骸に目を遣った。


「此度は貴様の勝ちだ。ここは大人しく引こう。また……何処かの戦場で相見えようぞ!」


 ハインベアーはそう宣言すると、こちらに背を向け堂々と修練場から去ってしまった。



「…………もう、寝てもいいのかな?」


 いいよね? 気配消してる暗殺者とか、居ないよね?


 かなり不安ではあったが、それよりも疲労と眠気が勝ったのか、俺はそのまま意識を手放した。








 目が覚めると、全身に激痛が走った。


「いてえええ!? な、なんだぁ!?」


 余りの痛さに涙目になった俺は自分の状態に驚いた。


「なんか……ミイラ男に転生してる!?」


 全身、包帯でグルグル状態であった。


「あ! 師匠、ようやく気付きましたか!」

「ソーカか? いてて……何があった?」

「それはこちらの台詞ですよ! 修練場で見つけたと思ったら倒れてるし、全身骨折して出血までしてるし……」

「え!? 俺、骨折してたの?」

「してました! あちこち折れてましたよ!」

「ええ…………」


 よくもそんな状態で戦えたものだと我ながら感心する。


(骨折状態で腕とかって動かせるもんなの?)


「一応、治癒神術薬は飲ませておきましたが……何だか顔色が悪そうですね」

「うーん、猛毒くらったからかなぁ。少し寒気がする……」


 いくら毒の抵抗力が強いといっても、流石の俺も完全ではないのだ。


 念の為、俺は解毒神術薬も飲んだ。今の俺は担架の上に縛られており、絶対安静状態であったのでソーカに飲ませてもらった。


「ところで、あの真っ二つになった死体はなんです?」

「んー、多分”暗影あんえい”の暗殺者だな。結構強かった」


 気が抜けている状態で襲われたら、万が一があったかもしれない。俺相手に毒ナイフで仕掛けてきたのも幸運だった。お陰で相手が油断していたので、あっさりと倒せたのだ。


 気配を隠す神器でも所持しているかと思ってソーカに死体を漁らせたが、男は毒や暗器くらいしか持っていなかった。身分を明かす者や依頼者の情報なども全く無しだ。


 どうやらあの気配隠しは暗殺者の神業スキルだったようだな。




 俺以外の戦闘は既に終わっているようだ。戦争は俺たちが勝利したようで、今は停戦中らしい。


 俺は担架に乗せられたまま、シェラミーの手下AとBに担がれ、捕虜となった帝国軍の敵将や士官たちが集まっている所に案内された。








 要塞内の一室に彼らは揃っていた。


 鉄の鎖で拘束されている老兵と“特武隊”の精鋭たち、それとグリーンフォースの一員である槍使いロイドの姿があった。当然、全員武装解除されていた。


 その中の老兵こそがヨアバルグ要塞の司令官でもあるメービン元帥……つまり、今回の責任者だそうだ。


 メービン元帥と特武隊たちは激闘の末、なんとかエドガーたちが勝利を収め、こうして拘束することに成功したのだとか。


 鉄の鎖だけでは拘束は不十分だろうが、彼らも相当疲労している上、俺たちに見張られていては脱出も困難だろう。


 メービン元帥は最後まで抵抗したのか全身血だらけで、あちこちに包帯を巻いており、俺並みに痛々しそうな有様であった。


「ふ、酷い格好だな」

「貴様に言われたくはないわ!」

「だよね」


 今の俺は手下AとBに担架で担がれ、横になりながらメービン元帥を見下している格好だ。正直言って様にならない。


 元帥や特武隊ほどボロボロではないものの、同じく拘束されているロイドが尋ねてきた。


「アンタ……まさか本当にハインベアーの旦那を倒したのか!?」

「んー、倒したというか、相手が負けを認めたというか……」

「マジかよ……」


 一時的にとはいえ、ハインベアーと共に行動していたロイドは彼の強さや性格をよく理解していた。だからこそ、彼が自ら負けを認めたという事実に驚愕しているようだ。


「ケリー。そいつ……ロイドが俺たちの仲間になりたいんだってよ」


 エドガーが語り掛けてきた。


 何故かエドガーの全身は焦げていた。さっきから妙に焦げ臭いと思っていたが、シェラミーやその手下たちも、何故か全員が焦げていたのだ。


「なんでみんな焦げてんの?」

「あの爺さんの仕業だよ。雷の神術持ちだ」

「随分手古摺らされたねぇ」


 エドガーとシェラミー相手にそこまで奮闘するとは……なかなかの腕前なようだ。


「……ふん!」


 一方、敗れたメービン元帥は先程から不機嫌そうだ。



「で? 俺を仲間にしてくれんのか?」


 ロイドが尋ねるとメービンがそれに噛みついた。


「貴様! 私の前で、よくも堂々と……!」

「おいおい、メービンの旦那。俺は傭兵だぜ? アンタらと違って、こっちは身代金を用意してもらえるような身分でもないんでね。戦いに敗れた以上、相手の軍門に下るのは傭兵として常識なのさ」


 ロイドの言葉にエドガーは頷いた。


「ま、普通の傭兵ならそうだろうが……それを決めるのは団長だ」


 そう言ってエドガーは俺の方を見た。


「うーん、お前の事はよく分からんし……仲間になりたいってんなら、とりあえず研修生からな」


 俺はエドガーに目配せすると、彼は隷属の首輪を取り出した。こんな事もあろうかと、いくつか持ってきていたのだ。


「は? え!? う、嘘だろ!? 研修って、まさか……奴隷!?」

「安心しろ。俺も一通りの奴隷研修は受けてきた」


 鉱山奴隷、奴隷剣闘士、戦争奴隷と経験済みよ。履歴書に書くと評価上がるかな?


「俺やシュオウもケリーに負けて奴隷研修させられたなぁ」

「フェルも奴隷研修してましたしね」

「マジかよ……」


 エドガーとソーカの会話にロイドは顔色を真っ青にしていた。


 まさか奴隷にされるとは思っていなかったようで、ロイドは項垂れた。


「クク、残念だったなロイドよ!」

「くぅ! メービンの旦那も人の事を笑える立場じゃないだろ!!」

「ちっ……!」


 今の自分の立場を思い出したのか、メービンは舌打ちをした。


「アンタがここの大将か。……てか、他の兵士って今どうしてんの?」


 ここには将校や士官の姿しかいないようだが……


「外で武装解除させて待機させている」

「ざっと五千以上は残ってますかね」

「え!? 五千人以上の兵士が大人しく投降したの?」

「随分と力の差を見せつけたからねぇ」


 改めて言葉にすると、俺たちとんでもない事しでかしたなぁ。


「……ま、気を取り直して戦後処理といこうか」


 俺の言葉にメービン元帥は心底嫌そうな表情を浮かべていた。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


なんとか100話まで達成できました!

ここまで読んで頂いてありがとうございます!!


そして今月もギリ週一投稿出来ましたが8月は忙しく

稀に隔週投稿になるかもしれません


基本的に「ハードモード~」の方は月曜21時に

別作品「80億の迷い人」は金曜20時更新予定です


予定時刻でも更新されない場合、投稿ミスってるか翌週になりますので

ご容赦ください……

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