第98話 副団長

 ようやく一息付けると思っていたが、その平穏は長くは続かなかった。


「おい。どうやらまた攻めてきたようだぜ」


 外の様子を伺っていたエドガーがそう告げた。


「ふわああぁっ! そうか…………」


 十分間くらいは仮眠が出来た。万全では無いが、かなりの体力と闘気を取り戻せたぞ。


「どうする? このままここでやり合うか?」

「屋内戦の方がこっちも有利だろう? それでいいんじゃない?」


 少なくとも、あの鞭女はこの狭い場所では戦えまい。


 しかし、俺の言葉にセイシュウとイブキは表情を顰めた。


「逆にあのハインベアーという御仁にとっては有利になるかと」

「ああ、奴を相手に機動力が封じられるのは痛手だな」


「むぅ……」


 セイシュウとイブキ的には、もう少し動きやすい所での戦闘を所望らしい。


 少なくとも、あの熊さんとはこれ以上狭い場所では戦いたくないようだ。


「あいつ、完全なインファイターだからな。この狭い中で相性も考えると……やっぱ俺が戦うべきかな?」


 ソーカもこの狭い通路や食堂内では自慢のスピードも活かせないだろう。


「私が戦いたい! 私にやらせろ!」


 シェラミーは随分乗り気であったが……長物の武器を扱う彼女がここであいつと戦うのはかなりしんどそうだ。本人もそれは十分承知だろうが、それでも挑みたいと言ってくるのがシェラミーなのだ。本当に困ったバーサーカーだ。


 だが――――


「――――シェラミー! 私に恐れをなして何時まで引っ込んでんのさぁ! さっさと表に出てきなぁ!」


 外から女の大声が聞こえてきた。それは鞭使いチェーテの声であった。


「チェーテか……。ふん! 今更アイツじゃあ、役不足だねぇ」


 シェラミーは鼻で笑いながら無視を決め込んでいた。


 これは明らかに罠だ。


 先ほど俺がアデルに使ったような手だが、そんな単純な罠に掛かるほど、うちのシェラミーは猪突猛進ではないようだ。


 しかし、チェーテの挑発は更に続く。


「それとも私の土俵で戦うのが怖いのかい? “双鬼”の犬に成り下がった駄犬女がっ!! 威勢が良いのは新しいご主人様の威光あっての事かしらねー?」


「……ぶっ潰す!」


 はい、駄目でしたー!


 ”待て”が出来ず見事に釣られたシェラミーは手下たちの制止を振り切って食堂の窓をぶち破り、要塞の外へと出てしまった。


「ええい! あの猪女が! 俺も屋内戦は窮屈だ! シェラミーのカバーに入るぜ!」


 エドガーもシェラミーの後を追うことに決めたようだ。この光景、何処かで見たような既視感。


「オーケー、副団長! イブキもエドガーたちのサポートにまわってくれ! ここは俺たちで対処する!」

「承知した! 兄上、どうかご無事で!」

「ああ、イブキもな!」


 イブキはああ見えてバランスの良い万能タイプだ。遠近両方の様々な武器を扱い、闘気だけでなく無属性の神術すらも行使できる。イブキが裏方に徹すればシェラミーとエドガーも思う存分実力を発揮できるだろう。


「師匠! 来ましたよ!」


 ソーカが敵の接近を報せてくれた。


 アデルを筆頭に先程とほぼ同じ面子がやってきた。一人、知らない初老の男も増えているが……


(あの老兵も中々やりそうだ。面倒だなぁ……)


「俺は熊公を、セイシュウはアデル、ソーカはラシャードって短剣使いを相手してくれ! シェラミー一味はその他の露払いだが、あの爺さんには気を付けろよ!」

「御意!」

「了解です!」

「「「任せてくれ!」」」


 俺たちは各々の相手に向かって刃を向けた。








 ケリーと別れ、俺はシェラミーを追って要塞から飛び降りた。地上までそこそこの高さであったが、熟練の闘気使いならば、ほぼノーダメージで着地が可能だ。


 俺が地上に降りた時には、シェラミーは既に鞭使いの女傭兵と交戦していた。


「相変わらず……遠くからネチネチと……!」

「ハッハー! そういうアンタも相変わらず難儀な性分のようだねぇ!」


 やはり広い場所では鞭使いの方が有利なのか、あのシェラミーが攻めあぐねていた。


(鞭使いとはそれ程やり合った経験はねえが……ちぃ! 想像以上に攻撃が速い!)


 射程も厄介だが、何より攻撃スピードが尋常ではない。俺の大剣とは相性が悪そうだ。


 手元の動きはそれ程でもないのだが、鞭の特性なのか、先端部分は凄まじいスピードと威力を生み出しているようだ。しかも、チェーテという女傭兵は闘気を鞭の先端部分にまでしっかりと流し込んでいる。



 闘気使いは通常、遠距離攻撃を不得手にしている。


 仮に弓矢や投げナイフなどに闘気を籠めても、手元を離れると少しの間だけしか闘気を維持できないからだ。


 超スピードで投げるだとか近距離であれば有効だ。闘気使いの質や籠めた闘気の量に比例して、その有効射程も僅かにだが延びる。


“疾風”のフェルの凄い所は、弓を超スピードで飛ばす腕と闘気を長時間籠められる技術力にあった。故に、そこらの弓士よりも闘気の矢の射程と威力が凄まじいのだ。


 あのチェーテという女は長い得物を使うことで、射程という闘気使いの弱点を見事に克服していた。当然、誰でも会得できる戦法ではなく、鞭を自由自在に扱えるだけの技量と、闘気を常に流し続けられるだけの量も不可欠なのだ。


 単純な闘気の量だけならシェラミーよりも上だろう。



 しかし、闘気の扱いならシェラミーも負けておらず、何より彼女は戦いの天才だ。


「そこ!」

「くっ!?」


 シェラミーは音速に近い鞭の軌道を見切り、細い長剣で真横に弾いた。


 それと同時にシェラミーは相手の懐へと飛び込んだ。所詮、長過ぎる鞭は近接戦闘に弱く、近づかれるとそれだけスピードと威力も半減していく。一定以上詰め寄られた時点で勝敗は決していのだ。


 第三者の介入さえなければ……


「やらせねえぜ!」

「ちぃ!」


 同じグリーンフォースの傭兵幹部である槍使いロイドが戦いに介入し、己の武器をシェラミーに投げつけてきたのだ。


 シェラミーはそれ以上チェーテに追撃できず、一度距離を取る。


 まさか相手が長槍を手放すとは思っておらず、後ろで戦況を見守っていた俺は意表を突かれてしまった。


(クソっ! 何の為に付いて来たってんだ! 俺は馬鹿か!?)


 本来、奴の足止めは俺の役目であった。


 俺は急いでロイドの元へと駆けだした。


 今の奴は無手だ。素手の男相手に気が引けるが、そこは傭兵。卑怯だろうが何だろうが、勝機があるのなら見逃す手は無い!


 そう思ったのだが――――


「――――気を抜くな、エドガー! アイツの武器は神器だよ!!」

「何ぃ!?」


 ロイドの投げた槍が消えたと思った瞬間、奴の手元に戻っていたのだ。


「くっ! 手元に戻る神器の槍か!?」

「ご名答……それ!」


 今度は俺の方へとその槍を投げつけた。


 俺はそれを大剣で迎撃する。シェラミーの忠告もあって、そこまで接近していなかったのが幸いした。


 神器と言えども闘気が籠められていなければそこまでの威力はなさそうだ。距離があった分、槍に籠められた闘気も維持しきれず微量で威力が落ちていた。


 ロイドの方に視線を戻すと、槍は再び奴の手元に戻っていた。


「神器の武器か……厄介だな!」


 神器は基本的に破壊不可能だ。その時点で傭兵にとっては夢のような武器なのだ。


 しかも、神器の能力によっては恐ろしい効果を発揮する。


 世の中にはどんな物でもぶった切る神器の剣――三神剣なんて眉唾な代物も存在するそうだが……それらに比べたら奴の槍は可愛げのある方だ。


「すまん、シェラミー! 援護が遅れた!」

「……いや、私もあいつの槍の事を言い忘れていたからねぇ。私はチェーテをやるよ! アンタはロイドと遊んでな!」

「ああ、さっさと片付けるぞ。でないと、外野が煩そうだからな」


 ここは既に屋外だ。


 この場にはチェーテやロイドの他に、多数の帝国兵も遠巻きにこちらの様子を伺っていた。


 初めはこちらへ手出ししようと既に動き始めていた帝国軍だが、途中から参戦したイブキが目を光らせて牽制していた。


 帝国兵たちも先の戦闘で俺たちとのレベル差を思い知ったのか、恐れをなして迂闊に攻撃できないのだ。


 しかし、この牽制が何時まで持つか……



「た、隊長! 我々はどうすれば……」

「傭兵たちの動きが速過ぎて、これでは援護も難しいです!」


 下手をすると味方の援護どころか邪魔をしてしまうと思っているのだろう。


 それ程までにチェーテの鞭は常人からしたら信じられないスピードなのだ。


「ええい! このまま棒立ちでは我々が居る意味があるまい! 構わん! 傭兵たちなら上手く立ち回るだろうよ。こちらはこちらで応戦するのだ!」

「「「ハッ!」」」


 やはり、このまま静観してくれるわけでは無かったか……


 これは早いところ槍使いを倒さねば苦しくなる。



 イブキが俺たちの方へ声を掛けた。


「あの雑兵共は私が攪乱しておく。お前たち二人はさっさと傭兵どもを始末しろ!」

「任せな、イブキのお嬢ちゃん」

「全く……兄貴に似ず生意気な奴だ」

「煩い、ハゲ! 一言余計だ!」

「ハ……っ! テメエこそ一言余計だろうが!!」


 イブキはどうも俺やケリー、シュオウ辺りには辛辣なのだ。それもこれも兄のセイシュウが甘やかすからいけないのだ。


「クック……。じゃれているところ悪いが、こっちも早いところ仕事をしなければリーダーが癇癪を起こすんでねぇ。加減はしねえぜ!」

「上等だ! 掛かって来やがれ!」


 俺は槍使いロイドと刃を交えた。








 食堂前で再び敵精鋭と激突し、俺たちは各々の相手と上手い具合にばらけて対峙した。


 俺と熊さんは交戦しながら要塞内部を移動していた。


 正確には、俺が必死に逃げながら熊さんの猛攻を躱していただけだが……


「うひゃあっ!? あぶねっ!」

「ぬぅ……逃げの一手か!」


 全く戦う気の無い俺に熊さんはお怒りの様子だ。どうもこの男もシェラミーと同類らしく、戦闘を楽しんでいる節があった。


 だが、この狭い通路内で戦うのは俺も御免だ。



 小剣二刀流の俺は近接戦闘が得意だ。


 だが、それ以上に近距離戦を得意とする者たちがいる。短剣使いや素手で戦うタイプの戦士だろう。


 熊さんは正しくそれで、両手に白のガントレットを装備していた。その間合いや攻撃速度は小剣二刀流である俺よりも上だ。


 つまり、相手は極力こちらに近づいた方が得策であり、逆に俺は少し離れながら戦った方が有利な状況なのだ。だから狭い通路上では極力戦いたくはない。



 なんとか熊さんの猛追を躱しながら、俺たちは要塞内に設けられた屋内修練場へと辿り着いた。


 そこで俺は足を止める。


「ほぉ? どうやらこれ以上、逃げる気はなさそうであるな?」

「これでも傭兵団の団長と王国軍の元帥やってるんでね。あんまり無様な醜態は晒せないんだよ」


 ま、勝てないと分かった相手なら泣き叫んででも逃げ切ってやるけどね。


 プライドより命大事。


 俺は小剣を構えて静かに闘気を籠めた。


(アイツの真っ白な籠手……あれは厄介だ)


 少なくとも鉄製ではなさそうだ。恐らく魔獣由来の素材か、神器のどちらかだろう。更に熊族の遺伝によるパワーなのか、その膂力は俺並みにありそうだ。


 武器破壊は厳しそうなので、熊さんの両腕を掻い潜って相手にダメージを負わせなければならない。だが、それはそれでかなり至難の道だ。


「行くぞ、熊さん!」

「拙僧はハインベアーだ!」


 俺は双剣を握る両手に力を籠めて相手に向かった。








「ちっ! “双鬼”は臆したか……」

「…………」


 私の目の前には傭兵団グリーンフォースの団長であるアデルという男が対峙していた。


(ふ、同じ団長でもケリー殿とは大違いだな)


 両方の刀を鞘からゆっくり抜きながら不敵に笑うと、気に障ったのかアデルはこちらを睨みつけた。


「貴様、何がおかしい!」

「いや、失礼。勘違いも甚だしい貴殿の台詞に、つい……。我が主君――師範殿は貴殿を歯牙にもかけていなかったぞ? 寧ろ『あいつと戦っている最中に休憩できた』と豪語しておられたなぁ」

「き、き、貴様ぁ……っ!」


 やはり精神面はだいぶ脆そうだ。これは付け入る隙があるな。


 逆にあの熊の御仁と戦っている師範の身が心配だ。


 先程は妹イブキと二人掛かりで刃と拳を交えたが、それでも勝ち筋が見えなかった使い手だ。特に彼の白い籠手が気になった。あれには何か、恐ろしい気配を感じ取ったのだ。


「時間が惜しい。私は休憩するつもりもないのでね。早々に貴殿の首を頂くとしよう!」

「調子に乗るなよ! 若造が!」


 私の刀とアデルの剣が交差した。








 師匠たちと別れた私は、標的であるローブ男ラシャードと軽く交戦しながら、要塞の屋上へと出た。


「うん。この広さなら戦い易い!」


 私がぴょんぴょん跳ねているとラシャードは不気味な笑みを浮かべていた。


「フフ……お嬢ちゃん。広い場所が戦い易いのは私も同様なのだよ」

「ん? 貴方、短剣使いですよね? 屋内戦の方が良かったのでは?」

「並の相手なら近接戦闘で戦うが、君は強そうだからなぁ……。本来の私の戦い方でもってお相手しよう!」


 ラシャードはそう宣言すると、なんと身体を宙に浮かせ始めた。


「う、浮いた!? まさか……風の神術士!?」

「ご名答! 私は本来、短剣使いではなく神術士なのさ! 無論、闘気も扱えるがね!」


 まさか、私と同じ闘気と風属性のハイブリットだったとは……!


「……ふふ。流石は”石持ち”傭兵団の幹部といったところですね! これは戦い甲斐がありそうです!」

「ふん。舐めた口を聞けるのもそこまでだ。ズタズタに斬り裂いてくれる!」


 ラシャードも殺意をむき出しにしてきた。どうやらこれが彼の本性らしい。


 ラシャードは更に身体を高く浮かせると、その周りにナイフを数本浮かせた。それら全て、風の神術で操っているようだ。恐らく神術士としては私よりも格上の存在だろう。


「行くぞ、小娘!」

「ソーカです! “神速”のソーカとでも呼んでください!」


 なかなか二つ名で呼ばれないので、もう自らそう呼ぶことにした。


(神速……カッコイイ!)


 私の“神速”デビュー戦が始まった。








 俺と槍使いロイド、シェラミーと鞭使いチェーテによるタッグマッチが始まった。


 と言っても、正確にはタイマン勝負×2である。


 俺は兎も角、シェラミーは誰かと組んで戦うのを好む性分ではないのだ。



 鞭使いはシェラミーに任せて俺はロイドの方に集中した。


「テメエご自慢の神器も、近付いちまえばどうってことねえなぁ!」

「くっ! それはご尤もで……!」


 俺の攻撃を受けながらロイドが冷や汗を流す。


 ロイドの神器は、どうやら離れた槍を瞬時に手元へ引き戻すだけの能力らしい。であれば、俺の大剣で攻め続けていれば、通常の槍となんら変わりは無い。


(確かに強いが……俺も腕を磨いてきたんだ! 今の俺なら勝てる……!)



 かつては金級中位の傭兵団“タイタンハンド”を率いていた俺だが、ケリーに出会ってから人生がガラリと変わった。



 当時の俺は誰かの下に付くなんて思いもなく、ただ漠然と天下を狙い続けて大剣を振るっていた愚かな男であった。


 だが、きっと心の何処かでは、己の限界を受け入れていたのかもしれない。


 自分では“石持ち”どころか、金級上位にすら入れないのだと……


 しかし、ケリーに敗北し、軍門に下り、流されるように行動を共にしてきた。


 ケリーは確かに強い。才能もあるのだろう。だが、俺と戦った時はそこまでやる奴だとは思わなかった。まさか、一国の元帥となって“石持ち”傭兵団を打ち負かす程の存在になるとは思いもしなかったのだ。


 白獅子を倒したという実績はあっても、所詮老いた英雄が油断でもしたのだろうと考えていたが、それは間違いであった。


 ケリーは過酷な状況に追い込まれる度、それを乗り越えようと必死に足掻き続け、より高みへと上って行く男なのだ。


 では、今の俺はどうだろうか?


 今でも漠然と、ただ状況に流されながら生き続けてはいないだろうか?



(違う! 今の俺はアンデッドの副団長だ! 団長や団員には決して無様な姿を見せらんねえ!)


 団長がどんどん先に進むのなら、俺も必死に追いつくまでだ。あいつがずっと前だけを見続けられるよう、俺は横槍を入れてくる邪魔者たちを排除するのに徹する。


 ケリーを世界一の男にする!


 そして俺は奴と肩を並べるだけの男になる!


 それが今の俺の目標であり、新たな夢なのだ。



「悪いがそこらの“石持ち”傭兵団如きには負けらんねえなあ!」


 俺の挑発にロイドは苦笑していた。


「そりゃあ、俺たちは“石持ち”の中でも弱小だろうさ。けどよぉ……俺にもちっぽけな誇りってもんが……あんのよ!」


 ロイドは右手を伸ばしこちらに槍を突く――――素振りをして、引いていた左手の方に槍を瞬時にテレポートさせて突いてきた。


 神器の能力による時間差フェイント攻撃である。


(それを待ってたぜ!)


 槍の能力を知った時点で、俺は相手の空いている方の手には細心の注意を払っていた。そのお陰でギリギリのところで相手の槍を避け、代わりにカウンターの一撃をお見舞いする。


「なっ!?」

「貰ったぁ!!」


 ロイドは更に槍を右手に戻し、俺の大剣を辛うじて防御するも、パワーの差と体勢もあって吹き飛ばされる。


 相手が起き上がる前に駆け付け、俺は大剣の切っ先をロイドに向けた。


「降参しろ! 命だけは助けてやる!」

「わ、分かった……! 降伏す……る?」


 ロイドが槍を手放そうとした時、戦場に新たな乱入者たちが現れた。


「姉御ぉ!」

「エドガーの旦那ぁ!」


「シェラミーの手下どもか……ん?」


 こちらの応援に来たのかと思ったが、どうも様子がおかしい。


 駆けつけてくる三人の後ろに、”特武隊”と呼ばれていた兵士たちと将校らしき老兵が追いかけて来ていた。


「た、助けてくれぇ!」

「流石にこの数は無理っすよぉ!?」

「多勢に無勢っす!」


「はぁああああ!?」


 援護するどころか、こちらに敵を擦り付けに来たようだ。


 確か先ほどは格好よく「任せてくれ!」と言っていた筈なのに……このザマである。


(いや、確かに無茶だとは思ったけどよぉ……!)


 ケリーもさらりと鬼畜なオーダーを出していたが、それを考え無しに受ける方も受ける方だ。俺ももう少し考えるべきであった。


「え? 俺……助かった感じ?」


 これには投降しかけていたロイドも困惑していたが、ここでこいつを逃がすほど俺は甘くない。


「おい。ぶん殴られて気絶させられんのと、神器取り上げられんの、どっちが好みだ? 早く選べ!」

「痛いのは嫌なので、どうぞ持っていってください」


 ロイドはやけにあっさりと神器の槍を俺に手渡してきた。


(よくよく考えれば、これって取り上げても相手の手元に戻っちまわねえか?)


 俺の考えを見抜いたのか、ロイドが話しかけてきた。


「安心してくれ。そいつはかなりの尻軽でね。しっかり手に取った時点で、その槍の所有者はアンタに移っている。試しに能力使ってみ?」


 俺はロイドに言われるがままに、槍を地面に落としてから手元に戻るよう念じてみた。


 槍は見事に俺の左手に戻った。


「……成程。こりゃあ便利だ」

「だろう? 俺は大人しくしておくぜ。だからそれ、後で返してくれよ?」

「……いいだろう。交渉成立だ」


 この男は信用できそうだ。


 根拠は無いが傭兵としての俺の勘がそう告げている。


 ロイドを無力化した俺は右手に大剣、左手に槍を持って三馬鹿の元へと向かった。


「馬鹿野郎どもが! 無理なら初めから無理だといいやがれ!」


「す、すんません!」

「カッコつけました!」

「エドガーの旦那、頼みます!」


 とは言え、この数は俺が加わっただけでも少々手に余るな。


「イブキぃ! こっちも手伝えー!」

「無茶言うな、ハゲ!! こちらは雑兵共を押さえるので手一杯だ。副団長様だろ!? お前がなんとかしろ!」


 あちらも数の暴力に手を焼いているようだ。流石に余力は無いか……


「やれやれ、副団長ってのも大変だな……」


 だが……悪い気はしない。


 帝国の精鋭部隊を前にして俺は自然と笑みを浮かべていた。

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