ハードモードな異世界を征け！

第97話 ヨアバルグ要塞内攻防戦

“双鬼”ケルニクスとその一味が要塞上階バルコニーから内部へ侵入するのを私は困惑しながら見上げていた。

「連中……何故、要塞内に侵入したのだ？」

　てっきり指揮官である私を討つ為に強引な突破を図ったものだと思っていたが、読みが外れた。

　これが仮に王の居城などであれば相手の行動にも理解できる。雑兵は捨て置いて先に王を討つのも一つの戦略だろう。

　しかし、ここは軍事要塞だ。しかも名目上の頭である元帥の私は外に居るのだ。こちらを無視してわざわざ内部に入る意図は何かと私は考えた。

「ちぃ！ 中に逃げられたんじゃあ、鞭が扱えないよ！」

「俺の長槍も不利だな……」

　今回雇った緑柱石（ベリル）級傭兵団“グリーンフォース”の幹部である鞭使いチェーテと槍使いロイドが二人同時にぼやいていた。

（……奴らは狭い場所での戦闘を望んでいるということか？）

　そういえば連中の中には弓士や神術士らしき姿が見えなかった。それに屋内戦だとこちらの数の利も生かし辛くなる。

　そうか、それが理由か！

　しかし、これは……かなり面倒な事態になってきた。

「メービン元帥、如何致しますか？」

「むぅ……」

　相手の思惑に乗るのは癪だが、今ここで追わねば兵士たちの命を犠牲にしてまで連中を疲弊させた意味が無くなってしまう。

「まさか、こちら側が要塞を攻略する羽目になるとはな……。アデル！ 屋内戦の得意な者たちを率い、至急内部へと向かってくれ！ こちらも特武隊を出す！」

「了解した。メービンの旦那！」

　主力であるチェーテとロイドの得物は屋内戦向きではないので、兵士たちと共に要塞の外側で待機となる。

　他の主力メンバーである剣士アデルと短剣使いのラシャード、武闘家のハインベアーは部下の傭兵たちを引き連れてケルニクス一味の捜索及び排除だ。

　そのサポートを我が軍の精鋭、特武隊が受け持つ形となる。

　少し予定と違ってきたが、ここからは精鋭同士による決戦だ。

「メービン元帥！ 余分な兵士たちは今の内に南へ出兵させては如何でしょうか」

「む？ もう南へ出すのか？」

「何時までもパラデイン侵攻軍を放置しておくのは拙いかと……」

　本来ならケルニクス一味を完全に抹殺し、後顧の憂いを断ってから南部に出兵させたかったが……連中に時間を掛け過ぎれば、中央政府から文句を言われかねない。

　対パラデイン勢力の防衛責任者は私なのだ。ラタニア方面の敵侵攻軍を放置するのは大問題だ。

　しかし……

「いや、まだだ！ パラデインの兵士は侮れん！ 精鋭隊抜きで援軍に向かわせても数の有利だけでは押し切れまい！ ここは足並みを揃え、”双鬼”を討ってから南部へ向かうとしよう！」

「ハッ！ 了解であります！」

　この選択で……間違いない筈だ。

　何とか熊さんから逃れた俺は、仲間たちの後を追った。

　俺たち一行はソーカを先頭に要塞内部を走り回っていた。道中、何度か帝国兵と遭遇するも――――

「オラァ！ どっか行け！」

「ぶち殺すぞ！」

「「「ひぃいいいいっ！？」」」

　――――うちの悪党面メンズたちが相手を脅して退散させていた。

　要塞内部には生粋の軍人だけでなく、非戦闘員も配備されているのだ。戦時とは言え、流石にそんな連中を斬り殺すのは寝覚めが悪いので、極力穏便に済ませているのである。

「あ！ この部屋から良い匂いがします！」

「よし！ この部屋で立て籠もろう！」

　俺たちが選んだ場所は兵士用の食堂であった。

　調理室にいた料理人や給仕らしき者たちを追い出し、ここで休むことにした。ついでに残っていた料理にありついて体力回復を図る。

「美味い……！」

「良い肉食ってるなぁ。帝国兵は……」

「ワインもありますよ！」

「すっげー！！」

　要塞内の食堂にしてはやたら豪勢であった。

「ここ、士官用の食堂じゃねえか？」

「確かに……この規模の要塞にしては小さい食堂ですもんね」

　成程、道理で美味しい料理が揃っているわけだ。

　俺は作りかけの料理を口にしながらシェラミーに尋ねた。

「もぐもぐ……あのグリンフォースって連中、知り合い？」

「ああ、何人かは見知った顔だね。私と同じ、ゴルドア帝国の元専属傭兵どもさ」

　リーダーである剣士のアデルを筆頭に、鞭使いのチェーテ、短剣使いのラシャード、槍使いのロイド、この四人は何れも元金級上位や中位の傭兵であったそうだ。

　彼らは更に上を目指すべく、アデルが帝国から抜ける際に有能な傭兵たちをスカウトし、そして結成されたのが緑柱石（ベリル）級傭兵団グリーンフォースらしい。

「私も誘われたんだけどねぇ。アデルの下に付く気にもなれなかったし、断ったんだよ」

「ふーん……」

　その際にちょっとだけ揉めたらしく、多少の因縁がある相手らしい。

　ちなみにあの熊の御仁はシェラミーも知らないそうだ。

「おい！ 誰かこっちに向かって来るぞ！」

　肉を齧りながらエドガーが通路の方を見てそう告げた。早速追っ手が俺たちの居場所を嗅ぎつけてきたようだ。

「そう簡単に休ませてはくれないねぇ……」

「誰かが入り口で防衛して、残りは休むのはどう？」

「「「さんせーい！！」」」

　ジャンケンをした結果……俺が見張りをする羽目になった。

「……いや、おかしくね？」

（俺、団長様やぞ！？ しかも、殿まで受け持って、最後まで戦ってたんだぞ！？）

「師匠、宜しくお願いします」

「三十分くらい寝るから、まぁ耐えてくれや」

「あまり騒がしくするなよ」

「え？ マジで？ 本当に寝るの！？」

　騒がしくするなって何だよ！？ 起こさないよう静かに戦えってか！？

　無茶ぶりしてきたイブキを筆頭に、なんだかんだ言ってシェラミーも限界近かったようで、ほぼ全員が既に船を漕いでいた。

「マジで全員寝ていやがる……。いや、最初にそう提案したの、俺だけどさぁ！？」

　というか、なんで俺たち、敵の要塞内部で休んでいるの？

　改めて冷静に考えると、とても正気とは思えない。馬鹿なの？

「いたぞ！ 食堂だ！」

「敵将ケルニクスだ！」

「うるせえ！ 仲間が寝てんだよ！！」

　俺は疲労困憊な身体に鞭打って、極力闘気を節約するよう心掛けながら敵兵たちをぶっ飛ばした。

「オラァ！」

「ぐはっ！？」

　今向かって来ている連中は功に焦った一般兵らしく、大した実力でもなかった。闘気を用いずグーパンだけで軽々とぶっ飛ばしていく。

　しかし、少し経つと毛色の違う集団が姿を現した。

「ここに居たか、“双鬼”ケルニクス！」

「げぇ！？ 熊さん！ と…………どちらさん？」

「アデルだ！ グリーンフォースのリーダーだ！」

　こいつが例のアデルか！

　アデルはこちらを睨みながら剣を抜いた。

　こいつもかなりの闘気使いのようだが、俺としては熊さんの方が恐ろしい。それにもう一人、ローブ姿の傭兵も只者ではなさそうだ。

　ローブ男は片手に短剣を握っていた。恐らくこいつが短剣使いのラシャードだろう。

　その他、グリーンフォースに所属する手下の傭兵たちも付いて来ており、どいつも腕が立ちそうであった。

　更に傭兵たちの奥には一般兵とは装備の違う屈強な兵士たちまで控えていた。

（これ……俺一人じゃあ完全にキャパオーバーだな！）

　要塞内部の狭い通路なので、せいぜい三人同時に戦えるくらいの広さなのが唯一の救いだろう。

（冗談じゃない！ 今の状態じゃあ、二人同時に襲われたって勝ち目が薄いぞ！？）

　そこで俺は一か八かの作戦に出た。

「アンタがグリーンフォースのリーダー？ そこの熊さんの方が随分強そうだぞ。そっちの獣人族の方がリーダーの間違いじゃないの？」

「な、なんだとぉ……！」

　おや？ 思ったより煽りが効いているようだ。

（こいつ……わざわざリーダーを名乗ったりしてきて随分プライドの高そうな奴だと思っていたが、読みは当たっていたようだな！）

　アデルと名乗った剣士は頬を引きつらせながら怒っていた。

「ぽっと出の銀級傭兵風情が……！ 相手の実力も見抜けないようだなぁ！」

「あー、すまん。弱い奴の実力って、よく分からんのよ」

「…………殺す！」

　凄まじい殺気と共にアデルが単独で襲い掛かってきた。

「アデル！ 一人で出過ぎだぞ！」

「こんな世間知らずの若僧、俺一人だけで片付けられる！ ラシャード！ お前らは他の連中を始末しておけ！」

「むぅ！」

　なんとか挑発作戦に成功してタイマン勝負にまで持ち込めたが、俺はこのまま食堂入り口を守りつつ、怒れるアデルを相手にせねばならないらしい。

（ハード過ぎんだろ！？）

　しかし、そのハードルートは突然に断たれた。

「ふん！」

　なんと熊さんが通路の壁を破壊して、食堂への出入り口を増やしてしまったのだ。

「そんなんありかよぉ！？」

　まぁ、逆の立場なら俺でもそうしたけどね……勘弁してくれ！

　これには流石の図太い仲間たちも慌てて起床した。

「な、なんだぁ！？」

「五分くらいしか休めなかったぞ！」

「し、師匠！？」

「すまん！ でも無理！ 俺も五分……いや、三分でもいいから寝かせて！」

　もう滅茶苦茶であった。

「ふざけた事を……！ 貴様は永遠に眠らせてやるぜ！」

　アデルの実力はかなりのものだ。闘気の量、それを扱う技術、剣の腕なども相当で、全体的に水準が高そうだ。

　これはかなり厄介な相手だ！

　と、思っていたのだが……

（こいつなら……少し手を抜けるかな？）

　それが俺の正直な感想であった。

　確かにアデルはパワーもあるが、エドガーほどではない。この程度なら全力を出さずとも、7割……いや、5割くらいの出力でギリ攻撃を受けられる。

　スピードもソーカやイブキほどではないので、身体全体に回す闘気の量も省エネ可能だ。

　そして剣の腕だ。こちらもセイシュウほど鋭くもないので、心身ともに負担も少なかった。

（……なんだ！ 戦いながらでも休めるじゃない！）

　俺は戦いながら休む技術を習得した！

　思えば、先ほどは雑兵ども相手に少し張り切り過ぎていた気もする。調子に乗って【風斬（かざき）り】も連発しちゃったし……反省、反省。

　一方でアデルは、なかなか倒せない俺に対して苛立っていた。

「くっ！ このぉ……！ 何故斬りかかってこない！」

「今、休憩中だから」

「な、なんだとぉ……！？」

　俺の言葉を挑発と受け取ったのか、アデルは更にムキになって襲ってきた。

　相手が闘気の量を増やし始めてきたので力加減の調整が必要になったが、その分あちらの攻撃は荒くなっていた。そこで攻撃を受けるのではなく、回避するよう立ち回った。

「おー！ こっちの方が楽だなぁ」

「このぉ！ この野郎ぉ……っ！」

　あちらも俺が手を抜いている事を悟ったようで、悔しそうに歯ぎしりしていた。あまりの悔しさから、少し涙目にもなっていた。

「ラシャード！ 手を貸せ！」

「むっ！」

　不味い！ 流石に二人掛かりでは休憩しながら戦うのは無理か？

　しかし、ラシャードと呼ばれたローブ姿の男はソーカ相手に苦戦していた。

「くっ！ それどころじゃない！ この娘……俺以上に素早い！」

「さっさと貴方を倒して昼寝の続きです！」

　ラシャードもソーカと同じスピードタイプなのか、意外にも善戦していた。アデルよりもあちらの方が手強そうだ。

（ソーカの奴、まだ寝足りないのか！？ 五分も寝れば十分だろう！？）

「ちぃ！ 熊野郎！ テメエも手を貸せ！」

「…………！」

　熊さんもアマノ兄妹と戦闘中で、アデルの救援には行けなさそうだ。流石の熊さんもあの二人を一度に相手するのは骨が折れるらしい。

「畜生……！ どいつもこいつも……！」

　アデルは悪態を付くと、なんと背を向けてその場から逃走し始めた。

「なに！？」

「アデル！？」

「……っ！」

　これにはあちらの仲間たちも意外だったようで、驚きの声を上げていた。

「おい！ 特武隊！ テメエら、俺たちのサポートだろうが！ さっさと援護しやがれ！」

　どうやら奥に控えていた兵士たちに助力を求めに向かったようだ。

（連中は特武隊というのか）

「何を勝手な！ 貴様がいきなり飛び出ていったんだろうが！」

「こんな狭い場所では援護が難しい！」

「ちぃ！ 使えねえな！ 仕方ない……一旦外に出るぞ！」

　結局、アデルはそのまま通路の奥へと撤退し、他の者たちもそれに続いた。

　しかし、熊さんだけはその場に残っていた。

「アンタは逃げないのか？」

「…………」

　少し迷った末、熊さんも彼らの後に続いた。どうやら何とか凌げたようだ。

　さっきまで熊さんを相手にしていたアマノ兄妹が揃って膝を着く。二人はかなり疲労していた。

「ハァ、ハァ……手強い相手でした……」

「あの熊族、なんて怪力なんだ！ それに体術もかなりのものだぞ！？」

　セイシュウもイブキも疲労が溜まっており本調子では無いので、あの熊の御仁にはかなり手を焼いたみたいだ。

「あいつ、そんなに強いのかい？」

　興味を持ち始めたシェラミーがアマノ兄妹に尋ねた。

「ええ。パワーもケリー殿並でしたし、体術の方も見事でした。全く隙がありません」

「あの白い籠手……ただの武器ではないな。かなりの強度だ」

「へぇ……！」

「そいつは……やべぇなぁ……」

　シェラミーは口角を上げ、反対にエドガーは顔をしかめた。

　何はともあれ、今は少しでも身体を休めたい。

　俺たちは予定通り、交代で仮眠を取った。

　要塞内部に送り込んだ傭兵たちと特武隊が戻ってきた。

「どういうことだ、アデル？」

「……ちっ！ ちょっと厄介な場所に籠られただけだ。今度は倒して見せるさ！」

「あまり時間を掛けたくないのだがな……」

　たった九人の戦力に要塞を取られたとあっては、元帥でありここの責任者である私の立場が無い。

　いや、この際私の外聞などどうでもいいが、もたもたしていては南方に侵攻しているパラデイン軍に帝国領土を荒らされ続けてしまう。報告通りの戦力であれば、そこらの部隊では恐らく歯が立つまい。

「アデル。“双鬼”は拙僧が相手をしよう」

　傭兵団の中では新参であるらしいハインベアーがそう告げると、アデルの表情は険しくなった。

「お前は黙ってろ！ あの舐めた若僧はこの俺が倒す！」

　だが、その意見にラシャードは黙っていられなかったようだ。

「アデル！ あいつらは危険だ！ お前こそ舐めて掛かるな！ 戦いには相性もある。ここはハインベアーに“双鬼”を任せて、代わりにお前は他の者を討て！」

「クソっ！ クソがぁ！！」

　アデルは癇癪を起しながら剣を地面に叩きつけた。それを私は冷ややかな目で見つめる。

（精神面はちっとも成長していないな。普段は冷静な奴なのだが……）

　恐らく“双鬼”にプライドを傷つけられたのであろう。

　アデルは前にもシェラミーと揉めて癇癪を起したと聞いている。それが原因で帝国もアデルを手放したという噂だ。

　その後、石持ち傭兵団になったと聞いてアデルの成長に感心したのだが……人はそう簡単に本性は変わらんということか。

「何でもいいから任せたぞ。“双鬼”とその一味は次で確実に討つ！ 今度は……私も要塞内部に潜り込むぞ！」

「メービン元帥自らが！？ 危険過ぎます！！」

「これ以上、無駄な時間は掛けられん！ なあに、私もまだまだ現役よ。そこらの相手には後れを取らん！」

　決して誇張ではなく、今の私はA級闘気使い並の実力がある。最近は後方に控えることも増えたが、毎日の鍛錬だけは欠かしていなかった。

“双鬼”ケルニクス……帝国の意地を見せてくれるわ！

　ラタニア方面への侵攻作戦はとても順調であった。

「思ったよりも警備は脆かったな」

「ですね。オスカー軍団長」

　堂々と進軍した割には、帝国の防衛網が薄すぎるのだ。

　最初は罠かと勘ぐっていたが、目的であるラタニア基地もあっさり堕ちたのだ。流石に基地一つを犠牲にしてまで罠を張るとも思えないが……

「それだけに気掛かりだ。本来我々は囮役で、ケルニクス元帥率いる精鋭隊（ドラウグ）が本命なのだが……北の様子はどうなのだ？」

　私が尋ねると到着したばかりの伝令兵が報告をした。

「ハッ！ ヨアバルグ要塞に所属している敵兵団のほとんどが、要塞周辺に集結しているとの事です。未だ南進する気配を見せておりません！」

「そうか……」

　これは……明らかに作戦失敗だな。

　こちらが陽動であることや、ケルニクス元帥たちの所在が向こうに知られてしまったのだろう。

　シノビ衆がいればもう少し詳細な情報を素早く入手できるのだが……。彼らは現在、アリステア女王の身辺警護と、その御身を狙う闇組織“暗影”の調査で手一杯なのだ。

　今回の帝国侵攻作戦で一番不安なのが情報戦だ。今までの様に常に最新情報を得られたり、情報操作したりなどの情報戦は期待できまい。

　私は直ちに他の軍団長や士官たちを集めて軍議を開いた。

「私は直ぐに北へ援軍に向かうべきだと思っている。ヨアバルグ要塞が健在であるのなら、これ以上この地を侵攻しても意味があるまい」

　私の意見に何人かの者が頷いていた。

　しかし、真っ向から反対する者もいた。

「私は反対です！ 寧ろこのまま先へ進み、南ユルズ川沿いを制圧して参りましょう！」

　発言したのはトニア女史だ。

「トニア参謀はヨアバルグ要塞への援軍は無視して、帝国侵攻に注力すべしという考え方なのだな？」

「その通りですわ！ オスカー軍団長」

　私が念押しするもトニアは自信満々に肯定して見せた。

　これは意外である。

　トニア参謀はケルニクス元帥の熱烈なシンパであると聞いていた。何でも自ら女王に嘆願してまで、元帥付き副官という立場と女王直属軍団作戦指令部（レヴァナント）の参謀という地位を勝ち取った女性だ。

　私はてっきり、トニア参謀はケルニクス元帥の身を案じて真っ先に要塞に向かうと進言するのかと思いきや、全く正反対の意見に驚かされた。

「ケルニクス元帥たちが心配ではないのか？」

「問題ありません！ 閣下は必ず勝利を勝ち取って見せますわ！ 我々もそれに負けないくらいの戦果を上げるべきです！」

　成程……それ程までに信頼しているのだな。

　思えば我々パラデイン勢力は何時だってケルニクス元帥の活躍によって導かれてきたのだ。ここで元帥の勝利を疑って予定外の動きを選択するのは、彼の信頼を裏切る形になってしまう。

　何時までも元帥におんぶに抱っこではいられない。我々だけで戦果を上げるのだ！

（いざとなったら撤退するように女王様も仰っていたのだ。問題あるまい）

　まさか、たった九人でヨアバルグ要塞に突撃するほど、元帥たちも馬鹿では無いだろう。

　議論を重ねた結果、我々侵攻軍はそのまま西へ攻め続ける事が決まった。