第95話 帝国領突撃

 ほぼ予定通りの日程で帝国領との国境線付近まで来た俺たちアンデッド軍の精鋭隊ドラウグ


 しかし隠密行動をしていたにも関わらず、どういう訳か帝国軍の国境警備隊が大勢で待ち構えていたのだ。


「むむ。まさかこちらの位置を悟られるとは……」

「相手もなかなかやるじゃねえか!」

「いや、バレるに決まってるだろ……」


 俺とエドガーが敵に感心している横で、何故かイブキは呆れていた。


「どうするんだ? これでは作戦通りに行動できないぞ?」

「こっちが先に捕捉されたんじゃあ、挟撃作戦はやっぱ無理かなぁ?」

「無理だな」


 イブキにバッサリ否定されてしまった。


 本来の作戦ではオスカーたちがラタニア方面で派手に暴れ回り、ヨアバルグ要塞内にいる駐屯軍を釣り出してから、俺たち精鋭が背後から帝国軍に襲い掛かる段取りであった。


 しかし、奇襲を仕掛けるこちら側が先に見つかっては意味が無いのだ。


「うーん、どうしたものか……」


 俺は頭を抱えながら今後の対応を考えた。








(うーん、どうしたものか……)


 帝国軍元帥である私は、パラデイン侵攻軍への対処に苦慮していた。


 最新情報では、パラデイン軍の主力は既にラタニア侵攻への秒読み段階に入っているそうだ。数日前までは、もうラタニアは敵の手に落ちる前提で作戦を練っていた。


 パラデイン軍を帝国領土内に誘い込んでからヨアバルグ要塞の駐屯軍で援軍に向かい退路を塞ぐ。それと同時に相手の補給路を断ち、時間を掛けて包囲するつもりであったが、作戦を実行する前に奇妙な情報が入ってきたのだ。


 敵の大将首である“双鬼”ケルニクスとその一味が別行動をしており、ここヨアバルグ要塞方面へ向かっているとの情報だ。連中は現在、すぐ傍の国境付近で待機しているらしい。


 この地に来たということは、奴らの狙いは間違いなくこの要塞なのだろう。だが、それならば隠密行動を取って裏をかけばいいものの、何故か連中は派手な行動をしていたのだ。


 まるでこちらに捕捉してくれと言わんばかりの奇怪な行動である。


 これはきっと罠に違いない。


(罠に違いないのだろうが……この行動に一体何の意図があると言うのか!?)


 まさか“双鬼”たちの方が陽動で、南のラタニア侵攻軍が本命か。もしくは裏の裏をかいて、やはり連中はこの砦を狙ってくるのか……いくら考えても答えの出ない二者択一である。


 もうどちらも攻めて来る前提で兵を動かすべきなのだろうが、ラタニアに迫っているパラデインの軍勢は数が多くて侮れない。例え周辺の砦から兵を掻き集めて援軍に向かわせても、撃退される恐れが濃厚なので、やはりこの要塞からも兵を送らねばなるまい。


 しかし、“双鬼”率いる傭兵団アンデッドを舐めて掛かる訳にはいかなかった。


 連中はあの“尖晶石スピネル”さえも打ち破った戦力だ。例え相手が少人数だろうと全力で防衛に当たるべきなのだが、手持ちの戦力では数は足りても質の方が心許ない。


(虎の子の第三特武隊なら、多少はやり合えるかもしれぬが……)


 帝国軍特殊武装隊――通称“特武隊”


 本来武装が統一されている帝国兵だが、エース級の実力者には特別な武装が許可されている。そのエース級の兵士たちが所属している精鋭部隊が特武隊だ。


 特武隊は中央の第一、南の第二、そして北の第三部隊が存在し、その全員が推定ランクA相当の闘気使いであった。


 帝国内での彼らの評価はS級冒険者や石持ち傭兵団にも引けを取らない戦力だと謳われているが……国家の精鋭という立場から、特武隊の実戦投入は滅多に行われない。


 要するに彼らは実戦経験が乏しいエリート部隊であった。


 元特武隊所属でもある私はその点を懸念し、ヨアバルグ要塞に駐屯している第三特武隊に対しては厳しい訓練を課していた。


 他の第一、第二特武隊よりマシな実力だと思っているが……


(控え目に言って、金級上位傭兵団相当の実力、といったところだな)


 それではアンデッドには恐らく届かない。


 駐屯している他の師団と合わせて全員で掛かれば倒せるだろうが……たった一桁の敵戦力に対して要塞内の全戦力を投入するなど、例え勝利を収めたとしても、私は一生笑い者にされるだろう。


 第一、それではラタニアへの援軍が滞ってしまう。ラタニアは落ちても仕方ないと思っているが、それ以上の被害は極力避けたいのだ。少数の傭兵団如きに援軍を遅らせて、内地の被害を拡大させる訳にはいかない。


 だが、下手に兵を分断すると万が一も起こり得る。すなわち敵傭兵団単独によるヨアバルグ要塞陥落という最悪のシナリオだ。それだけは許容できない。


「ぐぅ……! どうする……!」


 さっきから堂々巡りだ。


 まさか連中は私の判断を鈍らせる為、敢えて姿を見せたのではないだろうか?


 すっかり疑心暗鬼に陥っていると、副官から嬉しい報せが届けられた。


「メービン元帥! “緑柱石ベリル”が到着しました!!」

「ようやく来たか! すぐ呼んでくれ!!」


 待ちに待った援軍が到着したのだ。


 案内の兵士によって連れて来られたのは、如何にも傭兵といった風貌の男女五人組であった。


「久しいな、アデル!」

「遅くなっちまったな、メービンの旦那」


 目の前の男アデルは“緑柱石ベリル”の名を冠する石持ち傭兵団のリーダーである。


 緑柱石ベリル級傭兵団グリーンフォース


 連中はゴルドア帝国と所縁のある傭兵団であった。


「まさか帝国がティスペルから攻められるとは……正直驚いたぜ」

「ん? 違うぞ。攻めてきているのはパラデインだ」

「……は? どこ、そこ?」


 そこからか……


 グリーンフォースは長らく大陸中央北部で活動していたらしく、ここ最近の東部の情勢には疎いようだ。


 私は簡潔に現状を説明した。




「はぁ……ティスペルが無くなってパラデイン王国に、ねぇ……」

「我が帝国はパラデインを国とは認めていないがな」

「はいはい。パラデイン勢力ね」


 アデルたちにとってはどうでもいいのだろう。


「それで元帥殿。俺たちはそのパラデイン軍を倒せばいいのか?」


 アデルに変わってローブを纏った男、ラシャードが尋ねてきた。


「そうだ! だが、目下の敵はすぐ傍に迫っている傭兵団アンデッドだ。連中はここで確実に始末したい」

「「「あんでっど?」」」


 どうやらアンデッドも知らないようだ。


「パラデイン勢力が拡大する前から暗躍し続けてきた傭兵団だ。こいつらがパラデイン勢力の根幹だと言ってもいい」


 私が力説すると、この中での紅一点、女傭兵のチェーテが目を細めた。


「へぇ、そんな傭兵団が誕生していたのね。階級とランクは?」

「正確なランクは分からんが……銀級下位だ」

「…………はぁっ!?」


 私が正直に答えると、チェーテは呆れた顔をした。


「まさか……銀級下位の傭兵団を始末する為に、私たちを呼びつけたんじゃないでしょうね?」

「階級だけで甘く見るな! 連中はそこまでランクに興味が無いのか、傭兵の仕事など二の次だ! それにランクが全てではない事はチェーテ、お前なら理解している筈だろう?」

「……ちっ!」


 嫌な話を思い出したのかチェーテは舌打ちをした。彼女は昔、帝国お抱え傭兵であった頃、格下の傭兵に痛い目に遭っているのだ。


「オーケー! 相手が誰であろうと、金さえ貰えれば構わないさ。で、そのアンデッドって傭兵団は強いのか?」


 槍使いの傭兵ロイドが話題を変えようと私に尋ねてきた。


「強い。連中はあの“尖晶石スピネル”をも倒したのだ! 更に団長である“双鬼”ケルニクスは彼の白獅子ヴァン・モルゲンさえも討ち取っている危険人物だ! 決して侮るなよ?」


尖晶石スピネル!?」

「あの血濡れのブラッディーギュランを殺ったのがそいつらか!?」


 どうやら同じ石持ちである尖晶石スピネル級傭兵団“貧者の血盟団”が壊滅した情報だけは知っていたようだ。これで少しは気を引き締める事だろう。


「双鬼……そういえば、そんな二つ名を西側で聞いた事があるな」


 双鬼の名は最近こそ有名になり始めたが、元々は西側から広まった二つ名らしい。


「……面白い。相手にとって不足無し!」


 五人の中で唯一、獣人である熊族の大男は静かに微笑んでいた。


 この男は私も知らなかった。以前は見た事が無いので、最近入団した新たなメンバーだろうか?


「つまり、その連中を倒せば俺たちグリーンフォースの名も上がるという訳か」

尖晶石スピネルなんて所詮、数が多いだけのならず者だしね」

「ああ。逆に俺たちは少数精鋭……ここで団の名を売るチャンスだな!」


 この五人以外にも“緑柱石ベリル”のメンバーはいるが、その人数は精々二十前後であった。しかし、その全員がA級闘気使いという精鋭集団だ。リーダーであるアデルの拘りなのか、メンバーは厳選しているらしい。


(腕が立つのは間違いないのだが……やや自信過剰なところが玉に瑕か……)


 だが実力だけで言うのなら確実に特武隊以上だろう。これでようやく駒が揃った。


「よし! 打って出るぞ!」


 もう迷いは消えた。


 まずは傭兵団アンデッドと“双鬼”ケルニクスを確実に討つ!








 行動するかどうか迷った俺だが、それは少しの時間だけであった。


「とりあえず戦ってから考えるか!」


 決して考えるのが面倒になったわけでは無い。


 まず一当たりしてみて、行けそうならそのまま突撃で、駄目ならその時考えればいいじゃない。


 きっと今回もパワーが解決してくれる!


「ま、そう来るだろうと思っていたぜ!」

「撤退なんてあり得ないね!」

「まだ始めないんですか?」


 エドガーとシェラミーも既にスタンバイしており、ソーカが急かしてくる。


(第一、こいつらに撤退って言っても聞きそうにないしな!)


 決して考えるのを放棄したわけでは無いぞ! 無いぞ!


「行くぜ!」

「「「おおっ!!」」」


 俺たち精鋭隊ドラウグは国境を守護する砦に向かって突撃を開始した。


 前方から挨拶代わりの矢や神術弾が飛んでくるも、この距離では全く脅威にならなかった。


 今回は全員動けるメンバーを揃えているので、各自避けながら砦に迫り続けた。


 それを見た敵の隊長らしき男が舌打ちをする。


「ちぃ!? 白兵戦用意!」


 近接戦闘を行なえる帝国兵たちが一斉に闘気を纏った。


 見たところ、一人だけ強そうな奴がいた。先ほど兵士たちに指示をしていた隊長格の男だ。そいつだけ手強そうだが、後は雑魚ばかりのようだ。


「総員、戦闘準備……え?」


 指示を出そうとしていた敵の隊長がギョッとした。


 エドガーにシェラミー、ソーカにセイシュウと、今いるメンバーのほぼ半数が彼の下に猛スピードで迫っていたからだ。


「そいつは俺の獲物だぁ!!」

「ざけんじゃないよ! あたしのもんだよ!!」

「いいえ、私が倒します!」

「覚悟!」


 全員考える事は一緒なようで、戦闘狂たちは少しでも歯応えのある相手に目掛けて、まるで競い合うかのように突撃していたのだ。


 セイシュウも武人としての本能故か、強い相手と手柄を欲していたらしく、総勢四人のバーサーカーたちは隊長をタコ殴りにしていた。


 哀れ隊長……


「た、隊長ぉ!?」

「うわあああっ!?」

「駄目だぁ、勝てる訳ない……!」


 国境の守りは直ぐに瓦解し、俺たちは悠々と帝国領へと浸入した。








「なに!? もう守りを突破されたのか!」

「はい、メービン元帥」


 もう要塞のすぐ近くまで傭兵団アンデッドが迫っているらしい。


 だが、こちらもたった今準備が完了したところだ。


「要塞前で連中を迎え撃つ! 全軍、出陣!!」


 ヨアバルグ要塞に駐屯しているほぼ全戦力を投入した。それもラタニアには一切援軍を送らず、全てアンデッドにぶつけるつもりであった。


「元帥! いくらなんでもオーバー過ぎやしませんか!?」

「笑いたければ笑え。この要塞は我が帝国北部の心臓部なのだ! 一寸の油断も見せてはならん! まずは鬱陶しい目の前の敵を全力で叩き潰す! 南の敵勢力はその後に潰せばよい!」


 それでは初動が遅れ、ラタニア以外の要所も落とされるかもしれない。また、銀級の傭兵団如きに全戦力を投入した私は軍部の笑い者となるだろう。


 だからどうした。


 そんな事、この要塞が落ちる事と比べれば些事に過ぎない。相手の奇行に散々惑わされたが、どうやら私は大局を見失っていたようだ。この要塞さえ守り抜けば、帝国北部はいくらでも立て直しがきくのだ。まずは要塞に迫る外敵を確実に排除する。


「おいおい、メービンの旦那。わざわざ俺たちを呼んで、待機ってのはどういう了見だ?」


 今回の作戦に不満のあるアデルが突っ掛かってきた。


「まずはこちらの兵で連中の体力を削る。お前たちはその後の出番だ」

「私は楽出来るから構わないけどねぇ。でも、どうしてこいつらも一緒なんだい?」


 チェーテも不満そうな表情で、私の後ろで待機している兵士たちを睨みつけた。


 第三特武隊の精鋭たちである。


「お前たちの実力は疑っていない。だが、万が一があってはならない戦いなのだ。故にグリーンフォースと第三特殊武装隊との合同作戦となる。連携しろとは言わないが、お互い利用するくらいのつもりで任務に当たってくれ」

「そいつは御大層な信頼で」

「…………」


 チェーテの皮肉を私は聞き流した。


(お前たちの腕は認めているさ。だが……それ以上に相手が未知数なのだ!)


 連中を調べれば調べる程、その実態は不気味の一言に尽きる。


 そもそも団長であるケルニクス自体が稀有な存在であった。



 少年時代に奴隷剣闘士として100戦全勝を挙げ、あの大将軍白獅子の暗殺又は討伐をする。


 その後、傭兵として活動し、金級傭兵団やA級冒険者パーティを次々と吸収していき、ウの国一の勇猛さで知られるアマノ家をも取り込んだ。


 最近では帝国の元S級冒険者や新たな金級傭兵団も仲間に加えてもいるらしい。



 この辺りで潰しておかねば、これ以上は手が付けられなくなってしまう。


「神術や弓で削っていけ! 相手を倒そうとするのではなく、少しでも消耗させるのだ! 距離を取りつつ応戦せよ!」


 三個師団がたった九人を相手にするのに対し、あまりにもせこい作戦内容だが、今回の私は勝利のみに心血を注ぐ存在だ。誉れある戦いではないが、私は心を鬼にした。








「ぐぅ!? 嫌らしい戦術を……!」


 国境警備を難なく突破した俺たちであったが、要塞に到着する寸前、ついに帝国軍の主力部隊と遭遇した。


 相手は三個師団相当が出張っており、数にして一万以上の兵数だ。その全部と同時に戦っているわけでは無いが、帝国軍は常に距離を取りながら、遠距離攻撃でこちらを削りにきているのだ。


「ちぃっ! このままじゃあスタミナが持たねえぞ!?」

「突撃するしかないねえ!」

「……それしかないか」


 あの軍勢にたった九人で突っ込むのは無謀過ぎるが、かといってここは開けた平地で隠れられる場所がない。だったら敵の懐に飛び込み、帝国兵を肉壁にして戦う方が多少はマシだ。


「アンタらは私の近くにいな! 離れると死ぬよ!」

「すんません、姉さん!」


 シェラミーの手下たちにはかなり厳しい戦場だろうが、互いにフォローし合えば多少は持つだろう。


「よし! 密集しつつ突撃するぞ!」

「承知!」


 俺の合図で九人揃ってスピードを上げる。


 そこに合わせて敵火力が集中してきた。


 一際大きな火球が飛んでくる。


「【爆炎】だ!」


 火属性の最上級魔法が飛んできた。イブキが警告を発する。


「こいつでどうよ!」


 俺は離れた場所で誘爆させようと【風斬かざきり】を発動させた。上手い具合にかなり手前の方で爆発させられ、撒き散らされた炎と煙がこちらの姿を隠してくれる。


(今がチャンスだ!)


「エドガー! 俺を投げろ!」

「――っ!? よっしゃあ、任せろ!」


 この隙になんとしても相手の陣形を崩したかった俺は、咄嗟の思い付きでエドガーに指示を出した。


 俺は身体を縮こまらせ、エドガーの大きな右腕に乗る。


「ふんぬ!!」


 エドガーは力一杯籠めて俺を前方へと放り投げた。


 凄まじいスピードで飛翔する俺は、爆炎の残した白煙を突破して、敵陣の真ん中へと着弾した。


「うわっ!?」

「な、なんだぁ!?」


 突然人が降って来て、帝国兵たちは目を見開いていた。


「初めまして、ケルニクスです!」


 なんだと問われたので、ひとまず挨拶してみた。


「げぇ!? け、ケルニクスぅ!?」

「敵の大将じゃねえか!?」

「やっちまえー!!」


 流石に多勢に無勢で、あちらは俺の名を聞いても臆するどころか向かってきた。


 が、すぐに逃げなかった彼らの人生はそこで終了となる。


「闘技二刀流遠距離斬撃【双連戟そうれんげき】!」


「「「ぎゃああああああ!?」」」


【風斬り】あるいは【空戟くうげき】の連続攻撃である【双連戟】だ。闘気による遠距離斬撃の連射が帝国兵たちを襲った。


 柔な闘気では俺の斬撃は防ぎきれず、それどころか鎧や肉を貫通して後ろの兵士たちをも切断していった。


 一瞬にして俺の周囲は死体だらけとなる。


「ひぃいいい!?」

「こ、殺されるぅ!?」

「た……たしゅけてぇ……っ!」


 恐怖に陥った兵士たちは俺から逃げ出した。武器を持ったままの大人たちが無秩序に逃げ出すと、それだけで死人や怪我人が増えていく。


 もはや陣の中は大混乱だ。



 そこへ更に混沌が投げ込まれた。


 先程俺が着弾したのと同じ衝撃音が奥から伝わってくる。どうやら今度はソーカが投げ込まれたようだ。


 ソーカは俺より軽い上に風の神術でも併用したのか、随分遠くの場所へ着地していた。そちらでも帝国兵たちの悲鳴が巻き起こり始めた。


 更に三投目はイブキが投げ込まれた。


「な、何故私までぇえええ!?」


 何やら悲鳴を上げながら飛んでいたが、イブキも無事に着地できたようだ。



 俺たちボール三人組が敵陣内で暴れ出し、その混乱に乗じてエドガーたちもようやく合流できた。


「待たせたな!」

「随分楽しそうじゃないのさ! 私も投げ飛ばしてくれれば先に暴れられたのに……!」


 シェラミーがエドガーに対して愚痴っていた。


「ああ? 無理に決まってんだろう? 自分の体重を考え……うおっと!?」


 見間違いかな? こんな状況でシェラミーはエドガーに斬りかかっていた。


 まぁ、俺の体重もそこまでシェラミーと変わらないと思うけど、エドガーも三人投げて肩が疲れたようだ。


「ハァ、ハァ……」

「なんとか乱戦に持ち込んだが……」

「こいつは、流石に……厳しいかもねぇ……」


 遠くから一方的に削られるのは避けられたが、ここからは常に身体を動かす必要がある。なにせ全方位に敵がいるのだ。これでは気も休められない。


「どこか休める場所はないですかね……」


 ソーカも体力がなくなってきたのか、珍しく弱音を吐いてきた。


「休める場所……あ! あそこだ!」


 俺は敵陣の更に奥にある要塞を指差した。

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