第91話 影

 ゴルドア帝国南部に位置する帝都アイナッシュ


 帝都中央にある王城の軍議室では現在、各方面の将校たちが集結していた。



「この責任、どう取るおつもりか! メービン元帥!!」

「責任? 私に一体なんの責があるというのだ!!」


 私は感情任せに机を叩いて問い返した。


「これは異なことをおっしゃる! 貴公は今回のティスペル王国侵攻作戦の総司令官ではないか!!」

「そうだ! あれだけ中央がお膳立てしたというのに、むざむざ撤退した挙句、サンハーレに王国を掠め取られるとは……情けない!」


 今の台詞だけは聞き逃せなかった。


「お膳立て……だと? ああ……そうか。貴殿が言うお膳立てとは、暗号も用いない命令書を作戦とは全く関係ない領地にわざわざ送りつけ、挙句の果て敵側にそれを露見されるということを指すのだな?」

「そ、それは……」


 例の件を問い詰めると、中央政府の高官たちは急に大人しくなった。


 その件を最初聞いた時は敵勢力のデマ情報だろうと思っていたのだが、どうやら実際にその命令書は存在していたらしい。


 それを知った私は中央に殴り込んで抗議したのだが、未だに明確な返答はなかった。


「是非、詳しい理由をお尋ねしたい。あれは一体、何処のが誰にお膳立てしたというのかな?」

「な、何を!? まさか貴公は、我々がサンハーレに内通したとでも言うつもりか!?」

「でなければ……一体どういう了見で、誰があんな愚かな真似をしたというのだ!!」


 私が再び怒声を張り上げると、王城務めのひ弱な高官たちは顔色を真っ青にしながら震え上がっていた。


「まぁまぁ、メービン元帥。そう怒鳴りつけて責めるのは感心せぬぞ」

「ブラッツ卿……」


 ギリッと私は歯切りするも、さすがにこの男の前では自重した。冷静にならなければ足元をすくわれかねない。



 ブラッツ侯爵――軍務副大臣を務める男で、中央からの物資管理や戦地へ送る兵の人事権などを持つ将校だ。最前線での指揮権を持っている私からすれば目の上のたん瘤な存在であった。


 噂によると、あのやらかし命令書も、元をただせばこの男が元凶らしいのだ。


 ブラッツ卿は欲深い男で、己の地位を利用し、懇意にしている貴族たちから金や権利を巻き上げては、彼らの子息どもに軍務の重要なポストを用意しているのだ。


 今回あの愚かな命令書をメノーラに送りつけた犯人も、どうもブラッツ卿が斡旋した人物の一人だったようだ。残念ながら、そいつが犯人だという証拠も既に揉み消されてしまった後だ。


 原因は現在調査中とのことだが……どうせブラッツ卿に目を付けられた哀れな誰かがスケープゴートにされるのがおちなので、この件はそれ以上追及しなかった。



「貴公にも言いたい事は山ほどある! 前線への補給が滞り過ぎだ! あれでは思い切った作戦など到底不可能だ!!」

「ふうむ、儂は十分な量を送ったと思うがねぇ。それに、搬送が遅れたのは輜重隊の所為ではない。警備隊の不始末が原因よ」


 急に話を振られた警備隊の将校が立ち上がった。


「な!? 今は戦時下なのだ! どこも兵は不足しがちで、予期せぬ侵攻も十分考えられただろう! 物資を守るのは輜重隊の任務だ!!」


 とばっちりを受けた将校が喚き散らした。


「であれば、そちらももっとしっかり警備してもらいたいものだな」

「くぅ……!」


 ゴルドア帝国には何かと敵が多い。


 特に南部のザラム公国、南東部のジオランド農業国、西のコーデッカ王国など、注意するべき隣国も多く、自然とそちら方面に警備の人員が割かれてしまうのだ。


「その警備の人員を削減したのはブラッツ卿……貴殿ではないか!!」

「無礼な! 儂は必要な場所に必要なだけの人員を揃えている。それで失敗するのなら、それは貴公ら現場の指揮に問題があるのだろう?」

「何だと!?」

「よくもぬけぬけと……!」


 現場の将校たちがブラッツ卿と口論を始めてしまった。


 何時まで経っても有意義な討論を行なえず、私は苛立ちながら再び机を叩きつけた。


「いい加減にせぬか!! 今は責任の擦り付け合いをする場ではない! 我々の評価は戦後にでも、皇帝陛下に委ねればよいのだ! 我々はまだ戦時下にあるのだぞ!!」


 そう、まだ戦争は終わっていないのだ。


 開戦の狼煙を上げたのはイデール独立国だが、我々もティスペル王国に宣戦布告してしまった立場だ。その王国自体は滅亡して新たな勢力へと生まれ変わったが、それで決着とはならないだろう。


「……パラデイン王国か。また、厄介なことに……!」

「おい! 連中は国家ではない! ただの賊軍だということを忘れるな!」

「おっと、失言でした。パラデイン勢力でしたな……」


 我がゴルドア帝国はパラデインを国とは承認していない。皇帝陛下は依然、東の領地占領を諦めていなかったのだ。


「しかし、連中も戦闘続きの上、最後は南北分けての内戦まで行ったのだ。さすがに兵力も疲弊していよう?」

「……楽観視されるな、ブラッツ卿。連中はティスペル兵とは訳が違う。特に“双鬼”率いる傭兵団アンデッドは強力だ。あの“尖晶石スピネル”を破り、続けて我が国の精鋭とS級冒険者との混成軍まで撃退しているのだぞ?」

「……ふん! 傭兵に冒険者など所詮、正規兵にもなれぬ連中の集まりよ。それならそれ相応の相手を用意すればいいまでよ!」

「その口ぶり……何か秘策でもあるのか?」


 私が問いかけるとブラッツ卿は憎たらしい笑みを浮かべた。


「相手が軍でも国でもなければ、真っ向から相手にしなければ良いだけなのだ! フフフ……」

「…………?」


 ブラッツ卿は最後まで不気味に笑っていた。








 屈辱的な不平等条約締結から二週間後、さっそくリューンの軍船がサンハーレ港とリプール港に来航した。


 北部の港町リプールはそのままリューン海軍の駐屯基地になり、サンハーレから南に位置するトライセン砦も明け渡す予定だ。



 俺たちサンハーレに住む者たちの目の前をリューン王国兵の隊列が堂々と行進して郊外へと通り過ぎていく。


「おいおい、ありゃあなんの集団だ?」

「見た事ねえ軍服だなぁ。パラデインの新たな軍団か?」

「リューン王国軍だってよ」

「噂じゃあ、女王様はトライセンを売り渡したらしいぜ」

「うわ、マジかよぉ……」


 国民からの評判は宜しくなかった。



「はぁ……参ったねぇ」


 あんな連中、俺一人でもぶっ飛ばせそうだが……相手を怒らせると後が怖い。俺や仲間内だけなら守れるかもしれないが、その時はパラデイン王国が一年も経たずに歴史から消え去るだろう。


 それだけは容認できなかった。



「あ、そこにいたか! ケリー団長!」

「今の人たち、一体なんですか?」


「ニコラスにレアか。遅れずに来たな」


 俺はなにも、連中の行進を見る為にわざわざ街中に突っ立っていたわけでは無い。元S級冒険者にして元奴隷兵でもあるニコラスとレアの二人と待ち合わせをしていただけなのだ。


 そう、二人は奴隷であり、今は晴れて平民階級に復帰した身だ。


 ステアが女王として即位した際、その恩赦としてほとんどの奴隷階級の者たちが解放されたのだ。


 その逆に、南北戦争で降伏宣言後も最後まで抵抗していた王政府軍の残党や、盗賊に身を落した者、捕虜となった冒険者や傭兵などが新たに奴隷落ちとなった。


 聞き分けよく武装解除した兵士たちは全員そのまま再雇用となっている。


 結果的に奴隷の数はあまり変化がなかったのだ。



「じゃあ、ギルドに向かうぞ!」

「おう!」

「はい!」


 今回ニコラスたちと待ち合わせた理由は、彼らを我が傭兵団“不滅の勇士団アンデッド”に迎え入れる手続きを行う為だ。


 人質になっていたニコラスたちの家族も無事帝国から救出し、全員サンハーレに迎え入れたのだ。それを知った二人は恩義を感じ、俺たちの力になりたいと言ってきたのだ。


 この前、リューン王国の使者に返答する内容を決める会議があった直前、二人はその事をエドガーに相談していたらしい。その場にはセイシュウも居合わせたのだとか。だからあの時二人は遅刻しそうになっていたのだ。


 既に副団長からの許可も貰っているとのことで、団長である俺も文句は無かった。


 こうしてアンデッドは更に豪華なメンバーを迎え入れることになったのだ。




 久しぶりに訪れたギルドで二人の手続きを見守っていると、見知らぬ男から声を掛けられた。


「なあ、兄ちゃん。もしかして……ケルニクスか?」

「ん? そうだが、アンタは――――っ!?」


 急に男は剣を抜き、俺へと襲い掛かってきた。


 俺は咄嗟に上体を逸らして相手の斬撃を躱す。


(こいつ……そこそこやるぞ!)


 思わぬ室内戦に、周りにいた傭兵たちやニコラスたちは目を見開いていた。


「ちぃ! これならどうだ!!」


 男は距離を取ると、懐からナイフを取り出して次々と俺に投げつけてきた。


(刃に液体……毒か!?)


 剣で弾いても構わなかったのだが、万が一周囲にいる者に刺さったら気の毒だ。


 俺はそれを両手の指の間に挟んで、全てキャッチする。多少掠っても、俺に毒は効かない。


「なっ!?」

「お返しだ」


 俺は奪った毒ナイフを一本投げ、相手はそれを避けようとした。


 だが残念、俺は両利きだ。


 時間差で既に二投目も投げていた。後から投じたナイフの方が速く、一投目の柄の部分に掠め、二つのナイフの軌道を直前で変化させた。これは避けられまい。


「ぐあっ!?」

「ふふ、闘技二刀流投剣術【騙しやいば】だ!」


 これ、なかなか出番が無い技なんだよねぇ。折角なので披露してみた。


 周囲で戦闘を見ていた傭兵たちが驚いていた。


「やっぱつぇぇ……」

「ああ……流石は“双鬼”だぜ」

「いくら懸賞金が金貨200枚だからって、俺は挑みたくねえなぁ」


 ん? ちょい待ち。今、聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。


「なあ。俺の懸賞金、いくらだって?」


 近くにいた傭兵たちに声を掛けると彼らはビックリしていた。


「ひえ!? お、俺たちは賞金稼ぎじゃねえぞ!?」

「命だけはお助けを……!」


「いや、そっちが手を出さなければ襲う気はないよ。それより俺の懸賞金の話、詳しく教えてくれ」



 傭兵たちに事情を伺ったところ、なんと先週辺りから俺の懸賞金が金貨100枚分追加されていたのだ。


 しかも賞金稼ぎバウンティハンター協会に金を出したのはゴルドア帝国であった。罪状は帝国内施設の破壊および放火である。


(ぐぅ!? 真実なだけに、文句も言えない……!)


 これで俺は総額金貨200枚の立派な賞金首となってしまった。


「文句は言えないけれど……帝国が消滅すれば懸賞金もパァだよなぁ?」

「いや、さすがにそれは……」

「一応、私たちの祖国なんですけどねぇ」


 あれだけ酷い目に遭わされたニコラスたちだが、さすがに懸賞金を取り消す為だけに祖国が消えてなくなるのは、ちょっとだけ抵抗を覚えるようだ。


(帝国……ゼッチューしてくれる!)


 俺のゼッチューリストにまた一つ国の名が刻まれた。








「今回の議題は、帝国侵攻作戦の是非についてです」


 本日の司会役はロニー宰相である。


 ちなみに発案者は俺だ。まぁ、動機の八割くらいは私利私欲である。


(金貨100枚分の懸賞金をチャラにする!)


 しかし、残り二割くらいは真っ当な理由があった。


「周辺国から狙われている状況を早く改善したい。王国元帥として、ゴルドア帝国への侵攻作戦を立案する」


 俺がそう主張すると、ほとんどの者たちが考え込んでしまった。やはりそう簡単にGOサインを出せる議題ではないのだ。


「元帥殿、勝算はおありですかな?」


 真っ先に尋ねてきたのはヴァイセルである。


「負けるつもりはないし。むしろ自信しかない」


 ヴァイセルは自信満々な俺を胡散臭そうに見ていたが溜息をついた。


「はぁー……。根拠のない自信と言いたいところですが、元帥殿はこれまで実際に勝ち続けている名将です。帝国に勝てる見込みがあるのでしたら、私は賛成いたしますぞ」

「おお!! 執事長……!」

「今は家令です」


 何かと厳しい指摘をすることの多いヴァイセルであったが、今回は俺の味方になってくれるようだ。


(執事長、好き!)



 だが、ステアの後ろで眠たそうな表情をしているクーが余計な一言を呟いた。


「でも、ケリーの目的は自分の懸賞金を減らすこと」

「あ、こら! 馬鹿!」


 俺の懸賞金が上がった事は、まだこの場に居る者たちに伝えていなかったのだ。知っているのは現場に居合わせたニコラスとレアのコンビだけだと思って油断していたが、とんだ伏兵が現れた。


「……どういうことですの?」

「うちの師範は帝国から金貨100枚分の賞金を懸けられてる。多分、それが動機」


 クーの証言に幹部たちの視線が一斉にこちらへと向けられた。


 俺、ピンチ!


「な、何故お前がそれを知ってる!?」

「レアちゃんから聞いた。彼女とは昼寝友達」

「なんじゃそりゃあ!?」


 まさか、そんな横の繋がりがあるとは……


「『なんじゃそりゃあ』はこちらの台詞ですぞ! 元帥殿?」

「うっ!?」


 さっきまで賛成派であったヴァイセルに問い詰められてしまった。


「元帥殿、さすがに個人的な理由で軍を動かすのは……」


 ロニー宰相も呆れていた。


(ま、拙い!? 俺の株が大暴落!? ここはインテリジェンスな話術で挽回しなければ……!)


 俺が普段使わない脳みそを強制労働させていると、会議に参加していたクロガモの傍にシノビが現れた。


「失礼、至急お伝えしたい情報が……」


 クロガモは目配せで参席者たちから同意を得ると、部下のシノビに続きを促した。


「聞こう」

「はっ! ゴルドア帝国から懸賞金が懸けられた件でございます」


 おう、なんてタイムリーな報告だろうか……


 どうやらシノビ集にまで知られてしまったらしい。万事休す……


「今、丁度その話題をしていたところだ。ケルニクス様の懸賞金のことであろう?」


 クロガモに問われたシノビは困惑していた。


「え? あ、はい。それもあるのですが……それでは、アリステア様やセイシュウ様など、他の方々の懸賞金も既にご存じで?」

「…………いや、初耳だな」


 あまり感情を動かさないクロガモも、この時ばかりは目を見開いていた。


「なんだって!?」

「女王陛下にも懸賞金だと!?」

「そんなふざけた真似をしたのか!? 帝国は……!」



 シノビからの報告によれば、俺とステアが金貨100枚分、また不滅の勇士団アンデッド所属の他の団員メンバーにも金貨20枚ずつの賞金が懸けられているらしい。


 ちなみに、団員メンバーに加わったばかりのニコラスとレアは免れていたが、それ以外の全員が賞金首となってしまった。


「マジか……」

「わたくしだけでなく、エータやクーも賞金首ですの?」

「はい。誠に遺憾ながら、その通りでございます」

「……よし、引き籠ろう」

「クーは何時でも引き籠っているだろう」


 エータがクーを呆れて見ていた。


 そのエータと同じ近衛であるエーディットも眉間にしわを寄せていた。


「しかし、これは厄介だね。金貨100枚は平民からしたらかなりの大金だ。欲に釣られて馬鹿やる連中も出てくるだろうね」


 警護する側にとっては迷惑な話だ。


「ああ。さっき俺も狙われたよ。こりゃあ当分、うかうかと街中を歩けないなぁ」

「シノビさん。至急、他の団員メンバーにもその事を伝えてくださいな」

「御意!」


 ステアの命を受けたシノビが姿を消した。


 フェルやソーカが後れを取るとは思えないが、ニグ爺なんかは至近距離で不意を突かれたら危険だ。


(懸賞金を知ったら、シュオウが大騒ぎしそうだなぁ)


「ちぃ! 戦略としてはいまいちだが、質の悪い嫌がらせだな」


 俺の直属隊隊長という役職で参席していたエドガーが悪態を付いた。


 そこらの賞金稼ぎに討ち取られるメンバーではないが、煩わしいのは事実だろう。


「これは……もう元帥殿だけの問題ではなくなりましたね」

「ええ、やはり帝国へ早急に攻め入るべきでしょうか?」


 ロニーとオスカーも考え方を改め、先ほど俺が提案した帝国侵攻作戦に前向きになっているようだ。


(おお!? なんか知らんけど風向きが変わったぞ!)


 このまま俺の先ほどの失態も有耶無耶になれー!


「まぁ、元帥殿の私欲塗れな動機は置いて、早期に帝国と決着をつけるのは私も賛成ですぞ」


 執事長、一言余計ですぞ?



 結局、懸賞金の件が引き金となり、パラデイン王国は早急に帝国本土へ侵攻する方向で意見が纏まるのであった。








「ふふ、今頃パラデインの連中、慌てふためいている事だろう」


 ワインを片手にブラッツ卿がほくそ笑んでいた。


 補佐官である私は思わず尋ねた。


「しかし、この程度で瓦解するほどパラデイン勢力は脆くないのでは?」

「金に群がる賞金稼ぎどもは、あくまで保険に過ぎん。それで討てれば結構だが……本命は別にある」

「と、言いますと?」


 再び尋ねた私にブラッツ卿は声を潜めて教えてくれた。


「“影”を使う」

「“影”!? まさか……!」


 思わず大声が出そうになり、私は慌てて周囲を確認した。


 ……大丈夫、誰にも聞かれていなさそうだ。


「侯爵様はあの“影”との伝手があるのですか?」

「まぁ、少しだけな。他には言いふらすなよ?」


 言えるわけがない。



“影”とは非合法闇組織の総称である。



 暗殺を生業とする“暗影あんえい


 盗賊を生業とする“影狼かげろう


 諜報活動に長けた情報屋“草影くさかげ


 世界最大のマフィア“影者えいじゃ



 以上、四つの組織を略して“影”と人々は口にする。


 尤も、一般人には“影者えいじゃ”と”影狼かげろう”くらいしか名が知られていない、どれも闇稼業の住人たちだ。


暗影あんえい”と”草影くさかげ”はトップの名は勿論、構成員、活動範囲、どの程度の規模かも分からない謎の組織であった。


 ただし、その実力は世界でもトップクラスで、あの聖教国とも水面下でやり合っているという噂の集団なのだ。


 当然、影に関わった者たちも教会から疎まれる存在だ。


 我が帝国では教会の勢力は弱いので、ブラッツ卿も国内の何処かで伝手を得られたのだろう。


「あの影を……もしかして利用するのは……」

「ああ。当然“暗影あんえい”だな。暗殺者に依頼して、女王や目障りな傭兵どもを全員始末する!」


 どうやらブラッツ卿は本気なようだ。


 露見したら大変なことになるが、確かにこの方法なら大して労力がかからない。


 依頼料に懸賞金とかなりの金貨を失うが、ブラッツ卿は権力を笠に着てやりたい放題なのだ。喪失した資金もすぐに回収できるだろう。




 数日後、影のひとつ“暗影”が動き出した。

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