第5章 東部の覇者編
第89話 パラデイン王国
パラデイン王国
オラシス大陸南東部、バネツェ湾沿岸部にある新しい国家だ。
元ティスペル王国の領地ほとんどがパラデイン王国領となり、現在は港町サンハーレが新たな王都となっている。
王国樹立宣言から一カ月、パラデインを国家として承認した国は未だ現れなかった。
そう、本日までは……
「え? 国交を結びたいという国が出たんですの!?」
「はい。女王陛下。先日一件、本日二件と、ほぼ同時に三ヵ国から書簡を持った使者が訪れました」
初代女王アリステア・パラデインにそう告げたのは、新たな王国宰相となったロニー・コルラン伯爵であった。
ロニーは元々侯爵家の当主からティスペル王国の宰相職に就いた身で、その当時の爵位も伯爵だったらしい。
サンハーレ勢力に加担した貴族は軒並み位が上がったのだが、直前で味方となったコルラン兄弟は現状維持という扱いになっていた。
よってロニーは伯爵の位を維持したままパラデイン王国の宰相となり、コルラン家も侯爵家のままである。現状のパラデイン王国では、女王の次にもっとも爵位が高いのが、コルラン侯爵となっていた。
「昨日はそんなお話、一切聞かされておりませんでしたが……」
「それは……アリステア様がどうしても早くお帰りになりたいと仰っておりましたので、報告は翌日にと持ち越されたのです」
「あぅ、そうでしたわ……」
昨日は仕事続きのステアが珍しく駄々を捏ね、一足早くエビス邸に帰宅したのだ。
ステアは女王となった今でもエビス邸で生活を送っていた。
ロニー宰相としては王城が完成するまで領主館で暮らして欲しいみたいだが、エビス邸には最強の傭兵団“
ステアの護衛には正式に近衛隊隊長に就任したエータ・ヤナックを筆頭に、金級傭兵団“
これで街までの道中も安心だ。
「それで、その三つの国ってのは何処なんだ?」
俺が尋ねるとロニー宰相が教えてくれた。
「昨日、ザラム公国の先触れから通達があり、コーデッカ王国とレイシス王国は今朝、連名での書簡が届きました」
「まあ! コーデッカも!」
コーデッカ王国とレイシス王国は仲が良いらしいので、恐らく両国が協議し、足並みを揃えて声明を送ってきたのだろう。
そんな二ヵ国よりザラム公国が一日だけ先んじたようだが、実はこの三ヵ国には、ある共通点が存在した。
「これは確実にゴルドア帝国を意識しているのでしょうな」
「ヴァイセル殿のご指摘通りでございます」
新たな王家――パラデイン家の家令となり、政務官も兼任することになったヴァイセルが口にするとロニーが頷いた。
ザラム公国を一言で表現するのなら“ゴルドア帝国版のイデール”である。
ザラム公国も元をただせばゴルドア帝国の領土で、帝国の公爵家一族が反乱を企て、独立運動を経て公国を名乗り始めたのが起源だ。
現在ではゴルドア帝国以外のほとんどがザラム公国を国家として承認している。
ザラムが独立したのはイデール独立国よりも遥かに昔で、帝国はその史実を真似てイデールを唆し、ティスペルから離反させたに過ぎない。
また、ザラム独立の際には南部にあるレイシス王国も助太刀した経緯がある。そういった過去から帝国はレイシスに対してもあまり良い感情を抱いていないので、レイシス側もゴルドアに対して距離を置いている。
そして帝国を嫌っている西隣のコーデッカはレイシスと仲良しだときた。
「この三ヵ国からの声明はありがたいですね。直ちに、こちらからも返事を送り、友好関係を築きましょう!」
「わかりましたの!」
国家樹立から一カ月、パラデイン王国はようやく国として認知され始めた。
本日もステアは政務で忙しいので、最近書類仕事の減った俺は一足先に帰らせてもらった。
ステアには悪いが、今夜の食事はラルフに誘われていたのである。
俺はサンハーレの町中にオープンした人気のレストラン“懐旧の台所”へと足を運んだ。
「ラルフ、いるー?」
「おう! もうお前以外、全員揃ってるぜ!」
ラルフの言葉通り、テーブル席には既に他の参席者が座って待っていた。
「やほー! 遅かったね、ケリー!」
「おつかれさまです!」
ネスケラと五郎である。
五郎には挨拶の前に小石を当てられたのですぐに気が付いた。
本日ここのレストラン“懐旧の台所”は、元地球人メンバーによって貸し切り状態となっていた。発案者はネスケラだ。元地球人同士、交流を深める為にも飲み会をしたいと言い出したのだ。
「それじゃあ、新たな人生に……かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!」」」
ラルフの音頭で俺たちは乾杯をした。
ネスケラと五郎はジュースである。
「ゴローはまだ成人していなかったのか?」
酒を飲みながら元アメリカ人のラルフが五郎へと尋ねた。
確かアメリカだと21才未満は飲酒禁止だったか?
「ええと、王国法ではもう成人してはいるんですが……それでも20才近くまでは様子を見ようかと……」
「はぁー、真面目だねぇ」
ラルフは軽く酒を飲んだ後に席を立ち、自らが調理した料理の皿を丸いテーブルの上に並べ始めた。
「さぁ、今日は遠慮せず食べてくれ! 和食をメインに揃えてみた!」
「わー!! これ、餃子だよね!?」
「ラーメン!? チャーハンもあるじゃん!!」
「あのぉ……これって中華なんじゃぁ……」
五郎のツッコミにも意に介さず、俺とネスケラは地球時代では当たり前に食していた料理を前に涎を垂らしていた。
丸いテーブルを見ていて思い出したが、中華料理店で定番の回転するテーブルって、どうも日本発祥らしい。
……相変わらず、碌でもない前世の知識しか残っていない俺であったが、もしかして前世の俺は中華料理が好きだったのか?
(いやいや、大半の人は普通に好きだってば!)
俺は細かい事を考えるのを止め、まずはラーメンから手を付けた。
「美味しい!? これ、麺ってどうやって作ったんだ!?」
「エビス商会を通じてアリステア女王様が融通してくれたらしい。貴重な材料をこっそり分けてもらっているんだ」
「最近、畑の方にも地球産の作物が増えてきましたね。小麦だけでなく、蕎麦やお米も育てるようになりましたし……」
「あ、それ。俺がリクエストしといたんだわ!」
何時までもステアのスキルに頼ってばかりではいられないので、地球産の作物の種や苗などを用意し、農家の人々に配ったのだ。
見慣れぬ作物に農夫たちは試行錯誤しているらしいが、五郎の神術【豊穣】があれば、大抵はすくすく育ってくれるのだ。
「食糧の大切さは前の戦争で骨身に染みたからね。今は僕ら技術部も農耕機の制作に力を入れてるんだよ!」
ネスケラが餃子をパクパク食べながら得意げに話すと、何故か五郎の表情が青白くなった。
「あのトラクター……ネスケラさんが作られたんですか……。急にエンジン音が聞こえた時は、心臓が飛び出るかと思いましたよ……」
五郎は相変わらず乗り物全般に苦手意識を持っているようだ。
これでも最近はマシになったそうだが、白色のトラックに対する拒絶反応は今でも半端ない。魔力封じの腕輪で制限されているにも関わらず、結構な勢いで石礫を放ってきて破壊しようとしてくるのだ。
本人曰く、咄嗟に反撃してしまったらしいのだが……
(当面、五郎の近くで乗り物を運転しないように心掛けよう)
だいぶ腹が満ちた後、デザートの和菓子まで用意され、俺たちはそれを摘まみながら雑談に花を咲かせた。
「しかしお前、本当に国を興しちまうとは……とんでもねえ奴だなぁ」
「まぁ……成り行き?」
「成り行きで国が出来るか!?」
パラデイン王国樹立には俺もかなり尽力したという自負はある。だが、それ以上にステアの存在が大きかったのだ。
彼女の生い立ちにスキル、人柄と、どれを欠いてもここまではならなかっただろう。
「今やケリーも子爵、僕も男爵だもんね!」
「ふーん……やっぱ表では態度を改めた方がいいのか? ケリー子爵様」
「別にいいよ。面倒だし……」
王国樹立の際、俺やネスケラなどサンハーレ勢力で貢献し続けてきた関係者たちは軒並み爵位を授かったのだ。
まず、俺を始めとした役職持ちのサンハーレ幹部たちは総じて子爵の位を授かった。
俺は子爵の位を貰った上で軍団長から元帥に昇進、オスカーも子爵となり、繰り上がりで軍団長となった。
ゾッカ大隊長もサンハーレ海軍艦隊の提督となり、その補佐官としてホセが副提督に就いた。
ただ、ヴァイセルは貴族となる事を辞退した。彼は未だにサンハーレ元子爵の愚行を止められなかった件を悔いているようだ。
その代わりにヴァイセルはステアに仕えたいと志願し、王家専属の家令と政務官を兼任するようになったのだ。
また、サンハーレ勢力の貴族たちも一つずつ爵位を上げている。
グィース男爵、フォー男爵、ゼレンス男爵、オレルド男爵は全員子爵に陞爵。また、当主が戦死し、サンハーレ勢力に組み込まれていたソーホン家、トライセン家の生き残りにも、新たに男爵の位を授けた。
一方で、サンハーレと交流の深かったキンスリー伯爵だが……彼は他の元王政府側貴族と同様、二段階の降格処分となっていた。
ステアは爵位を維持するつもりだったのだが、伯爵自らがそう進言してきたのだ。
キンスリー家は最後まで王政府勢力に加わっていたので、他の貴族たちに示しを付ける意味でも、降格は必要な措置なのだろう。それにはキンスリー伯爵自身も納得していた。
ただし、それはあくまでキンスリー家としての話であり、ステア自身はマテル・キンスリーという男を買っていた。
そこでマテルは当主の座を息子に引き継ぎ、彼自身も男爵として新たな王政府に仕える運びとなったのだ。
現在マテルは新たな経済大臣として、サンハーレに移住して職務に励んでいた。
あと忘れてはならないのがアマノ家の扱いである。
アマノ家は元々がウの国の貴族階級であったのに加え、これまでの戦争でも幾度となく戦果を挙げてきた。
特例としてアマノ家は一気に伯爵へ叙爵、他の家臣たち数名にも爵位が授けられていた。
ただし、シノビ集たちは全員爵位を持つ事を拒んだ。彼らは隠密のまま、アマノ家またはパラデイン家と俺の為に仕えることを誓ってくれたのだ。
「そういえば、ケリーさんの団員の方は、ほとんど爵位を辞退されたんですよね?」
「ああ、そうだな。貰っておけば便利なのに……」
エドガーとシェラミー一味、それと意外なことにシュオウの六人全員が辞退した。しかし、何もない平民のままだと他の貴族たちから舐められてしまうのだ。仲間が侮られるのも癪なので、いずれ何らかの役職を設けさせるつもりだ。
我がパラデイン王国では、爵位も尊重されるが、何より役職に重きを置く方針となっていた。
俺の役職は元帥となるが、これは軍部でも現在では最高位となるので、例え爵位が上の侯爵家当主のコルラン弟だろうと、決して軽んじてはならない存在……ということになっている。
ヴァイセルも貴族階級的には平民扱いだが、王家の家令兼政務官なので、宰相にも意見できる立場となっていた。能力ある平民が貴族に対して無礼打ちとならない為の、パラデイン王国ならではの体制である。
パラデイン王国ではその内、王以外の血縁による特権階級をなくしていこうと画策中なのだ。ただし、それは本当に遠い未来の話であり、今は国政をスピーディーに動かす為にも、身内同士で権力を固めている状態だ。
例えば、近衛隊隊長のエータも子爵位を授かっているし、クーも男爵でメイド長となっていた。
(あの怠け者のクーがメイド長だと!?)
それが今回の人事で一番の衝撃である。
食っちゃ寝のメイド長を見てヴァイセルは頭を抱えているらしい。
執事長、頑張れ!
あと、“疾風の渡り鳥”のメンバー全員にも、新たに誕生した騎士爵という階級を授けた。
他にも様々な人事があったが……大まかな点は以上だ。
「そういえば、ゴローは勇者なんだよな?」
突然ラルフから尋ねられた五郎は顔を赤くしていた。
「え、ええ……お恥ずかしながら……」
「聖教国には他の勇者もいるんだろう? やっぱり全員、日本人か日本に住んでいる奴らなのか?」
ここにいる前世の記憶を持つメンバーは、奇しくも全員が日本に滞在していた。ラルフもそれが気になっているのだろう。
「す、すみません。僕は他の方たちと違って、あまり一緒に行動していなかったですから……」
「ううむ、なんだか悪い事を聞いちまったか?」
「いえ……。でも、一人だけそれっぽい子がいます。僕と同い年くらいで黒髪の……日本人っぽい雰囲気の聖女です」
「「「聖女!?」」」
勇者ではなく聖女ときたか。
聖女とは治癒神術を扱える神官クラスの最上位に位置する存在だ。聖女を名乗るからには、相当の治癒神術を扱えるのだろう。
「その子の名前は? その子も隷属の首輪をしていたの?」
ネスケラが尋ねるも五郎は首を横に振った。
「すみません。本当に少し話した程度で、首輪も服の下にでも身に付けているのか、分からずじまいです」
「ん? それなのに、何故日本人だと思ったんだ?」
俺が疑問を投げかけると、五郎が教えてくれた。
「召喚直後、彼女が僕に尋ねてきたんです。『あなたは日本の記憶があるの?』と……。それっきり、その子と会うことはなかったですね」
なるほど、確かにそれだと日本人っぽいな。
「結局、転生者とか勇者って何なんだ?」
「うーん、僕も色々調べてるんだけどねぇ……」
ネスケラもそれとなく調査しているそうだが、成果は全く出ていなかった。
「あと、これはあくまで予想なんだけど、僕たちの中で五郎君だけが一番異質なんだよね」
「ええ!?」
ネスケラから異分子扱いされて、五郎は驚いていた。
「まずは魔力の有無だね。五郎君以外は全員、全く魔力を持っていない!」
ラルフにも確認したが、彼も魔力を全く持っていないらしい。
「第二に、五郎君だけ前世の姿と一緒だという点だね。これもかなり奇妙なんだよ」
「き、奇妙……ですか?」
「だって、私たち全員死んじゃったんだよ? なのに、生きているのっておかしくない?」
「え? いや、だって……転生したから……あ!」
「そう! 転生なのに、何故か五郎君だけ身体もそのままで、記憶も引き継がれてるんだよ。転生でなく転移だとしても、死んで生き返ったのは奇妙だよね?」
確かにネスケラの言うとおりだ。
「で、でしたら……ネスケラさんが赤ちゃんの頃から記憶を持っていたというのもおかしくありませんか!」
五郎は自分が異質だということを否定したかったのか、ネスケラに指摘した。
「うーん、僕もケリーもラルフさんも、覚醒した時期がバラバラなんだよねぇ。共通点と言えば……全員力が強い?」
ラルフにも確認したところ、前世の自分と比べてもあり得ないくらいに身体が頑丈で、腕力も上がったそうだ。ラルフはその腕力を嬉々として料理に利用しているのが実に平和的だ。
「そ、それじゃあ闘気は!? ケリーさんの闘気は普通じゃないですよね!?」
「うーん、確かに普通じゃないよねぇ」
「普通じゃねえな」
「おい、待て」
俺まで異分子扱いされ始めたぞ。
ちなみにネスケラもラルフも闘気の量や扱いに関しては並であった。
そこらの駆け出し冒険者や傭兵相手には、訓練無しでも太刀打ちできる運動能力を持つが……戦いを生業にするとなると……微妙なラインである。
「ごめんね、五郎君。別に君の事がおかしいと言いたかったわけじゃないんだけど、聖教国が召喚した勇者や聖女は、僕らとは違う存在じゃないかとは思ってるんだ。ま、全部僕の妄想だけどね」
「いえ……確かに、その通りですよね……」
そこら辺はネスケラもまだサンプルが少ないので確信は持てないようだが、五郎は五郎で自分の存在について悩み始めてしまった。
「ま、難しい話はそれまでにして、そろそろお開きにするか。ケリー、これはアリステア様の分だ。お土産を包んでおいたぞ」
「おお!? サンキュー!」
俺はラルフから駄菓子の詰め合わせを受け取った。
「と、いうことがあってね……」
「もぐもぐ……そうなんですの……」
地球人組の飲み会を後から知ったステアは少し拗ねていたのだが、お土産の和菓子でコロッと機嫌を直してくれた。
「ステア様。今って少しだけ時間ある?」
一緒に館に来ていたネスケラがステアに予定を尋ねると、代わりにエータが返答した。
「何か用事か? ステア様は政務でお疲れになっているので、あまり夜更かしは……」
「そんなに掛からないよ」
ネスケラはそう言うと、一枚の紙きれを取り出した。
「あ、商品券……」
「そう! サンハーレの街ではすっかりお馴染みとなった、エビス商会の商品券だね!」
そういえば以前、ステアの
「そろそろ確認する良い頃合いかなと思ってね。ステア様、魔力って今どんな感じ?」
「夕方、少しだけ使ってからだいぶ経ってますので、もう全快ですの!」
「じゃあ、ティスペル金貨を生み出してくれる?」
「はいですの!」
パラデイン王国では今もティスペル金貨での取引が主流となっていた。
ステアは自らの魔力の半分ほどを使って金貨を1枚だけ生み出した。
今のステアは全魔力で2枚分の金貨を生み出せるまで成長を遂げていた。他人がそれを知ったらさぞ羨ましがられるだろう。これもステアの日々の努力の賜物であった。
「じゃあ、今度はこっちのゴールド商品券を使って魔力を補充してみて」
「ん! ……ちょっとしか補充されませんの」
ネスケラが渡したエビス商会専用のゴールド商品券は、価値にして丁度金貨1枚分となる。それで魔力が全快に戻らないということは、やはり金貨と相応の価値がないという証左であった。
「ちょっとだけ? それじゃあ、今度はこっちの商品券でも補充してみてよ!」
ネスケラは再び金貨1枚相当分になる1万5千円分のゴールド商品券を手渡した。
それを受け取ったステアは商品券を消失させ、魔力を得ようと試みるも……何故か失敗をする。
「……あれ? この券ですと全く魔力を補充できませんの」
「ふむふむ、やっぱりそうなるのかぁ。実は二枚目に渡した方、偽物の商品券なんだ」
「なるほどですわ!」
ステアの魔力補充は、あくまでお金でしか代用できないのだ。つまり、偽の商品券ではお金の代わりとは判定されず、ただの紙扱いとなっているのだ。
「ん? じゃあ、さっきの商品券はちゃんとお金として認識されているってことか?」
「そう! その通りなんだよ、ケリー君!! 前回の実験でもそうだったんだけど……やっぱり商品券はお金の代わりとなり得るんだ!」
確かに……あの時はまだ発行したばかりの商品券でも、一応はお金扱いしてくれていたのだ。紙とほぼ同じくらいの価値だったらしいけど……
「今度はこの券を使って何かと交換して。一体いくら分くらい購入できるかな?」
ネスケラは、今度は銀の商品券を持ち出した。これは前回の実験でも試したものと同じ、銀貨1枚分、日本円にして1,500円相当のシルバー商品券である。
数日前、戦勝記念として街の人々にシルバー商品券をバラまいたのだ。利用している人もかなり増えていた。
「……あ! 50円分くらいならお買い物できますの!?」
「やったー!! 実験成功だね!!」
前回はそれこそ5円くらいだったようだが、今はなんとその10倍まで価値が上昇していた。それだけ商品券が世間にお金として認識されはじめてきたということだろうか。
「じゃあ、今度から金貨を消費しなくても、商品券を印刷しまくればいいわけか!?」
「そういうこと! ただ、やり過ぎは禁物だよ! 商品券を刷れば刷るほど、その価値も薄れちゃうかもしれないからね」
その点を差し引きしても、これはとんでもない進歩である。
シルバー商品券が50円分ということは、ゴールド商品券だと500円分になる計算だ。コピー機で商品券を印刷すれば、間違いなく黒字になるだろう。
更に凄い点は、ステアの【等価交換】最大のネックである金貨の消失まで防げるのだ。
(もうこのスキル、無敵じゃないですかー!!)
かつてこのスキルをゴミだと罵った愚か者がいる件について
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