第84話 ロニー・コルランの決断

 その日、サンハーレ領主館には激震が走った。


「なんだと!? 西に北、それに北東部からも王政府軍が迫っているだと!?」

「それだけではありません! シノビ集からの報告ですと、北部にある港からも多数の軍船が出航準備をしていると……!」

「まさか……ここまで大胆な行動に打って出るとは……!」


 部下から報告を聞いたオスカー大隊長は顔色を真っ青にしていた。


 一方、それをすぐ傍で聞いていた俺やステアは、まだ事の深刻さに気付いていなかった。


「あのぉ……王政府軍はそんなに兵力が残っておりましたの?」

「……そのようです。数だけなら我が軍を圧倒しているのは承知しておりました。ただ、兵の質や地の利ではこちらも負けていなかったのです! 大軍を以っての一点突破作戦なら、守り切れる自信は十分にありました。しかし、これは……!」


 なるほど。相手は数の利を最大限に活かして、南以外の全方向から攻め入る算段なのか。


「けど、その分相手も各地に散って、戦力が分散されるんじゃないのか?」


 俺が尋ねるとオスカーは頷いた。


「ええ、勿論そうですが、それはこちら側も同じなのです」

「だったら、二回目のイデール侵攻時のように、守りの陣をもっと狭めれば…………あ!」


 そこで俺も今更ながら気付かされた。


 俺たちサンハーレ勢力は昔と比べ、周辺地域を吸収合併し、広い領土になっているのだ。町ひとつ守れば良かったあの時とはもう違うのだ。


 サンハーレ傘下であるゼレンス領、グィース領など、北側にある領地を守らねばならない立場なのだから。


「で、でもですの……その分、味方の兵力も増えているのでは……?」


 俺と同じ考えに至ったステアがオスカー大隊長に問いかけた。


「ええ、他の領兵団とも合わせれば、以前より兵の数は増えております。しかし、全方位を守るのは無理です。このままでは必ず何処かの陣に穴が空き、何処かの町が襲われるでしょう」

「――――っ!?」


 これは……参ったなぁ……


 相当上手く立ち回らなければ、町に相当の被害が出そうであった。








 王都にある館で謹慎処分となっていた元宰相である私は、予想外の来訪者に驚いていた。


「オラード!? お前、どうして王都に……!?」

「ロニー兄上、お久しぶりです」


 今は東の領地に居る筈の弟、オラード・コルランが王都に来ていたのだ。


 オラードは三つ違いの弟で、数年前に私が宰相職を授かった折に家督を彼に譲り、今は侯爵家の当主となっていた。


 コルラン領は王都の真東にある港町や、その周辺地域を治めている由緒正しき貴族の末裔だ。しかし、今は戦時下であり、余程の事でもない限り領地持ちの貴族がわざわざ王都を訪れる事はあるまい。


 裏を返せばつまり、その余程の事が起こったのだ。


「聞いて驚きましたよ。兄上が宰相の職を解かれるとは……母上も心配しておりました」

「それは申し訳ない事をしたな。私が宰相に任命されて、一番喜んでいたのは母上であったからな」


 母上は元々王族の血を引く姫であった。息子が王の傍にお仕えする仕事を与えられ、さぞ誇らしかったのだろう。


(……結局、母上の期待には応えられなかったがな)


 私は宰相失格である。


「それで? わざわざそんな事を言う為に来たのではあるまい?」

「ええ、勿論。実は気になる王命が下りまして……」



 私はオラードから、王政府軍の作戦内容を告げられた。



「なんだと!? よりにもよって、多方面浸透作戦だと!?」


 その作戦は、私が一度は脳裏に過り、それでも実行できなかった悪魔の戦略だ。



 作戦立案は軍部の仕事とはいえ、宰相という立場であった当時の私は、サンハーレ軍とどう戦うべきか散々悩んでいた。その時に閃いた一つがこの作戦だ。


 サンハーレ軍は間違いなく強力だ。しかもその強さの秘密は恐らく、突出した兵士たちによる個の活躍に由るものが大きいと睨んでいた。


 故に、もし仮にこちらがサンハーレを打ち倒せるとしたら、やはり数の利を生かす戦法が望ましい。その中でも最も効果的なのが、多方面からの進軍であった。


 ただし、これは諸刃の剣だ。


 大軍を以って広く攻めて行けば、必ず何処かの部隊が抜け出て頭を取れるとは思う。いくら兵士が強かろうとも、アリステアという盟主と領地のどちらかを失えば、相手も瓦解するはずだ。


 だが、その代償はあまりにも大きい。


 そんな作戦を実行すれば、当然こちらの兵士にも多数の戦死者が出る上に、占領する相手側の兵士や領地にも甚大な被害をもたらすだろう。


 その状況を周辺の敵国が黙ったまま指を咥えて見ているだろうか?


 否、疲弊した王国を狙い、絶対あとで再侵攻をしてくるに違いないのだ。


 つまり、この作戦は勝っても負けても、王国の滅亡という最悪のシナリオしか用意されていなかったのだ。



「一体どこの馬鹿がこの作戦を立案したんだ!?」


 私は謹慎中の身ゆえ、今回の作戦を全く聞かされていなかった。


「どうもルーマン伯爵の入れ知恵のようです。それを聞いた陛下も大変乗り気であったとか……」

「くそっ! またあいつか!? どこまでも足を引っ張りやがって……!!」


 このままでは、例え今回の戦に勝ったとしても、次に攻めて来る帝国軍の侵攻にはとても耐えられまい。万事休すであった。


「…………いや、まだだ! 少しでも両陣営の被害を減らし、戦争を早期に終結できれば、或いは……!」

「そんな事、可能なのですか?」

「…………」


 オラードの問いに私は即答できなかった。


 最小限の被害でサンハーレ軍に勝つ。そんな一手があればとっくに私が王に進言していた。


 王政府軍では駄目だとすれば…………最早残された道は一つしかない。



 私は従者などを部屋から退室させると、弟に問いかけた。


「オラード、お前はサンハーレをどう思う?」

「――――っ!?」


 聡い弟の事だ。今のやり取りだけで私の真意が伝わっただろう。


「……まだ量りかねております。領主を名乗るアリステアはシドー王国の元王女だとの噂を聞きますが……今のところは出来過ぎなくらいに、しっかり統治を行なえております。いくら元王族とはいえ、ここまで急速に成り上がるとは……」

「……だな。私もその点が気にかかる」


 正直言って、サンハーレ領は羨ましくらいに発展を遂げていた。あちこちが戦場となっている王国内で、一体どのように食糧を賄えているのか、以前から不思議で仕方がなかった。


 私も密偵や冒険者、傭兵などを使って情報収集に当たらせているのだが、様々なワードが飛び交っており、どうにも要領を得ないのだ。


 新進気鋭の傭兵団、見たことの無い食べ物や船の存在、新たな冒険者ギルド長、ウの国の兵士やドワーフ族など……これだけの人材と物資を一体どのようにして手に入れたのか、その経路が全く分からないのだ。


 ただ、領主アリステアとその近くにいる若き軍団長ケルニクス、この二人が何かしらに関わっているらしいのだ。


(“双鬼”ケルニクス……元ヤールーン帝国奴隷兵にして今は賞金首でもあり、傭兵でもある男。この年齢で銀級下位はなかなかのスピード昇級だが……こいつが何かをしているのか?)


 ……いや、個人でどうこうできる範疇を超えている。


 この場合、考えられるのは大きく分けて二つだ。


 一つ、かなり当たりの神器や神業スキルの存在。


 二つ、背後に大国や組織が潜んでいるパターン。


 私は後者だと考えている。


 最初は人を誑かすスキルで人材を集めているのではないかと勘ぐっていたのだが、それで食糧事情がどうこうなるとは思えない。それに謎の新型船の存在も気になった。


「オラード、サンハーレには新型の帆が無い船があるらしいが、何か知っているか?」

「ええ、うちの海兵も遠目で確認しております。随分と小ぶりな船らしいですが、速度が尋常ではなかったそうです。あれはユーラニアやリューンの魔導船とも違う」


 我がコルラン家の領地は港町も保有している為、領兵がサンハーレの船を何度か目撃したそうだ。


「ふむ。ドワーフと共同開発したのか? いや、それだと時系列的におかしい」


 謎の小船はドワーフ族を見かけるようになる前には既に目撃されていたらしい。であれば、あのレベルの船を開発できる程の大国がサンハーレの後ろ盾となっているのだ。


(あの船は今まで東部には全く存在していなかった。シドーにあれを開発できる余裕があるとは思えない。消去法でいくと…………まさかヤールーン!?)



 ヤールーン帝国とは西側にある四強のうちの一国だ。


 最西端で大陸一の領土を誇るキュラース皇国、そのすぐ東に隣接するヤールーン帝国とブリック共和国、そして西部でもやや中央寄りにある内陸の国、聖エアルド強国、これらが西部の四大国だ。


 いずれも我が国とは比べ物にならない領土と戦力を保有する、まごうことなき列強国家たちである。


 東部で彼の列強国家と対抗できるのは、ユーラニア共和国かラズメイ大公国……ギリギリでリューン王国くらいだろう。


 中央だとナニャーニャ連邦くらいしか思い当たらない。


 以上がこのオラシス大陸に君臨する大国だ。


 さて、この中でサンハーレの影に潜んでいる国家があるとすれば、どこが怪しいか。


 キュラース皇国と聖教国に関しては除外して問題無い。あそこは基本的に侵略をしないのだ。領土的な野心が無いのか、皇国は国を閉ざしており、逆に聖教国は周囲に寄り添い過ぎである。


 どちらも一体何を考えているのか分からない不気味な国家だ。


 ブリック共和国もない。例のケルニクスは共和国からも懸賞金を懸けられている。ブラフの可能性もあるが、それを言い出すとキリが無いので今回は除外しておく。


 ナニャーニャの獣人にあの船は……造れないだろうな。


 とすると……


「サンハーレの背後には、もしかしたらヤールーン帝国がついてるんじゃないのか?」

「や、ヤールーン帝国が!? そんな、まさか……!」

「あそこの軍団長は元々、帝国の奴隷兵らしい。シドー王国の姫との繋がりはよく分からないが……だとしたら、降って湧いた食糧や優秀な人材たちにも説明が付く」

「……いや、それではウの国の兵士とドワーフはどう繋がりが?」

「…………説明付かないな」


 駄目だ。ここでいくら頭を捻ってもサンハーレの実態が全く見えてこない。


「こうなったら……直接現地に赴けないだろうか?」

「正気ですか、兄上!? そんな真似をすれば、王に反逆した罪で処刑されるか、サンハーレに捕虜として捕まるだけですよ!?」


 弟の言うとおり、謹慎中でそのような勝手をすれば私もタダでは済むまい


「むぅ。しかし、このまま手を拱いていても、そう遠くない未来、王国は帝国に占領され、我がコルラン一族は幽閉されるか最悪処刑だぞ?」


 あの国は敵対した国には容赦がない。例え王族であっても後顧の憂いを断つために処刑すると思われる。万が一生き残れたとしても、以前のような待遇は望めないだろう。


「サンハーレ側に付く方が、まだ未来はあると?」

「このまま泥船に乗り続けるよりかは、な」


 私たちがあれこれ相談していると、二人しかいない筈の室内に突然人の気配がした。


「な、何奴か!?」


 その男はいつの間にか室内に立っていた。従者などではない。全身黒ずくめの装束を纏い、顔も目元以外は隠されていた。


 まるで刺客のような出で立ちの男を見て、私は外にいる兵士を呼ぼうとした。


「失礼、コルラン宰相殿にコルラン侯爵殿。私はサンハーレの使いです」

「な!?」

「サンハーレ……だと!?」


 今まさにサンハーレの話をしていたら、その使いを名乗る者が姿を見せたのだ。


 私は兵士を呼ぶのを止め、その使いとやらに話し掛けた。


「あまりにもタイミングが良過ぎる。本当にお前はサンハーレの使者なのか?」

「……少し語弊がありましたが、本来の私はただの密偵役に過ぎません。宰相、ここ数日間、貴方の動向を見張らせていただきました」

「……なるほど。それで今のタイミングでのご登場か」

「はい。私は主君から、ある程度の裁量権を委ねられております」

「…………っ!?」


 普通、密偵にそんな権限を与えたりはしない。彼らはただ主の命令に従いターゲットを見張り続け、その情報を逐一報告するか、やはり命令通りの行動をするだけの存在だ。


 だが、目の前の男はそうではないと言ってきた。それだけこの男は信頼されているのか、もしくはその主君とやらの器量が大きいのだろう。


「して、その密偵殿は何故わざわざ姿を見せたのだ?」

「宰相殿が望まれるのでしたら、サンハーレとの橋渡しにご協力致しましょう。少しお時間を頂ければ援軍も呼べますので、一族揃っての亡命もお手伝いできます」

「「――――っ!?」」


 それはなんと願ってもいないチャンスではあるのだが、私にはこの密偵が何処まで本心を語っているのかの判別がつかない。


「一つ……いや、二つだけ尋ねたい。何故、私を誘うのだ? 私のような存在は、寧ろ今のサンハーレにとっては邪魔では無いのか?」


 自分で言うのもなんだが、私はそれなりに地位もあるし仕事もできると思っている。新興勢力にとって能力的にも欲しい人材だろうが、元侯爵で元宰相という高すぎる地位は、サンハーレ上層部から妬まれる存在ではないだろうか?


「そんなことはありません。主は常に優秀な人材をお求めです。貴方が加わってくれるのなら、きっと喜ばれる事でしょう。それで、二つ目の質問は?」

「もし、この誘いを断ったら……私をどうするのだ?」

「どうも致しません。このまま命令通りに貴方を見張り続けるか、その必要が無くなったらそのまま去るだけです。我々に牙を向かないのであれば、不要な殺生は行わない方針ですので」


 それは意外な返答であった。てっきり殺されるくらいは覚悟していたのだが……


(ふっ、私如き放置しておいても問題ないということか……面白い!)


「……いいだろう。貴殿の誘いに乗ろう!」

「兄上!? 本気なんですか!?」

「ああ。覚悟を決めろ、オラード! きっとこれがラストチャンスだ! 泥船から脱出する、最後の……!」

「――っ!? ……分かりました! 私は一刻も早く領地に戻り、亡命の準備を進めてまいります!」

「ああ、頼む…………いや、待て!」


 私は一つ、ある妙案を閃いた。


「オラード、亡命の準備はしなくていい。お前は領地に戻って進軍の準備を進めておけ」

「兄上……?」


 困惑する弟に私は笑って応えた。


「手ぶらでサンハーレに行くのもなんだろう? 私はそれなりに俗物なんでね。サンハーレでもそれ相応の地位が欲しいのだ」

「……宰相殿?」


 私の発言に不信感を募らせたのか、謎の密偵が声を掛けてきた。


「密偵殿には主君とやらに伝言をお願いしたい。我々コルラン家はサンハーレ側に付く。こちらも機を見て動くので、どうか上手く利用して欲しい……と」

「…………確認してきます」

「ああ、だがなるべく早めでお願いする」


 さすがの密偵もこれには即断できないようで、彼の主君か上司にでも伺いを立てるつもりなのだろう。


 ならば、我々はまず、行動で示さねばならなかった。


「兄上、一体どうするおつもりで?」

「我々も少しは働かんと勝ち馬には乗れないという事さ。後世の者たちに“蝙蝠宰相”と馬鹿にされたくはないからな」


 さて、謀反の準備を始めるか。ちょっとだけ楽しくなってきた。








 王政府軍出陣の報せを受けた翌日、王都の情報収集に出張していたシノビから無線で報告が届けられたようだ。


「え!? コルラン宰相と弟の侯爵が味方するだって!?」

「はい。真偽の程は定かではないですが……」

「うーむ……」


 話を持ち掛けたのはシノビからであったそうだが、会った事もない御仁が突然協力すると言ってきたのだ。


 しかも、相手は王国宰相と侯爵家当主……王国の中でもかなりの上位貴族である。


 貴族に不信感を抱いている俺はその話を聞いて怪しいと思ったのだが、なんでもその宰相は現在、国王から嫌われて謹慎中らしく、宰相の職まで失ったとか。


(動機はある訳かぁ。でもなぁ……)


 変に恩着せがましく近寄られても困ってしまう。今のサンハーレはステアを中心にほぼ独裁色の濃い政治体制なのだ。そこに上級貴族が加わると、どうなってしまうのか……


「ケリー、私はその話を受けてもいいと思いますの」

「ステアはその宰相……元宰相を信用できるのか?」

「いいえ、これっぽっちも。だってお会いした事ありませんもの!」

「だよなぁ」


 やっぱり不安だ。


「でも、勢力が拡大するにつれ、何時かはそういった人たちも取り入れなければなりませんの」

「…………それもそうか」


 よくよく考えてみれば、ステアは幼少期の頃からその手の者たちの近くで過ごしてきたのだ。サンハーレを国にする――その目的の為に、これは避けては通れない道なのかもしれない。


 それに宰相ともなれば間違いなく有能な男に違いあるまい。


「ちなみに、実際に会話したシノビさんはどう言っているのかな?」

「……今回の件に関しては利害が一致しております。信用して問題なさそうだと報告しておりました」

「なるほど。OKだ! 細かい作戦とかは聞かされてないんだよな?」

「はい。ロニー・コルランという男、思ったより頭が切れるようです。恐らく詳しい作戦を伝えても、こちらに警戒されるだけか、逆にこちら側が裏切って情報を流すことも危惧して、敢えて言わなかったのでしょう」

「はぁー、そういう事か……」


 伊達に王国宰相ではなかったというわけか。



 俺はクロガモにGOサインを出して、コルラン家と共闘する旨を伝えてもらった。








 先程いなくなったと思ったシノビが数時間後に再び現れた。


「――っ!? な、なんだ密偵殿か……! 驚かさないでくれ!」

「申し訳ありません。主からの伝言です。『共闘の件、承った。感謝する』以上です」

「も、もう確認を取ったのか……!」


 たった数時間で連絡を取れたというのか。まさか、その主とやらはこの近くに……いや、違う。恐らく何かしらの長距離伝達手段が確立されているのだ。新たな通信魔道具かもしれない。


「分かった。これでこちらも本腰を入れられる。ついては我がコルラン家の家紋を覚えてもらいたい。我が領地も領兵団や軍船を保有している為、王政府から要請されて出陣する予定となっている。間違って貴公らに沈められたくないのでな」

「心得ております。極力、目立つ場所に家紋を備えるよう徹底をお願い致します」

「ああ、勿論だ」


 これでもう後には引けなくなった。


 サンハーレ……どの程度やってくれるのか期待させてもらおう。








 クロガモ経由でシノビから報告があった。


 コルラン家は自前の軍を使って独自に動くようだが、その詳細は明かされていなかった。ただ、時間と距離を考慮しても、せいぜい後方かく乱くらいが関の山であろう。


「じゃあ、俺たちは俺たちでしっかり防衛しないとな」

「そうですね。この際、コルラン家は頭数に入れず、作戦通りに動きましょう!」


 オスカー大隊長の言うとおり、いくらコルラン家が動くといっても、それであっさり問題解決とはならないのだ。まずは相手の浸透作戦に対処せねばなるまい。


「しかし……本当にこの作戦を実行する気か?」


 エータは少し不安そうにしていた。それというのも、ステアにはまたしても無茶なお願いをしたからだ。


「大丈夫ですの! 何があってもケリーが守ってくれますの!」

「そういうことだ。エータたちは高みの見物をしていればいい」

「ううむ……」


 いよいよ王政府軍が近づいて来たので、俺たち主要メンバーは各地へと散った。今回は多方面から攻められているので、こちらの主力も分ける必要があるのだ。


「さぁ……来るなら来い!」



 ティスペル南北戦争が開始された。

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