第76話 帝国の冒険者
師匠から二人組の相手を任された私は、久しぶりにフェルとタッグを組むことになった。
「神術士は私が押さえるわ! ソーカは目の前の剣士に集中して!」
「分かったよ!」
フェルの腕は信頼している。余程の神術士でない限り、ここまで距離を近づけた時点でもう何もできないだろう。
「私は……目の前の敵を倒す!」
私の相手は盾持ちの剣士だ。カカンよりも一回り小さな盾を持っている。防御よりの戦士だろうか。
師匠の方は三人で五人組の相手を強いられている。この冒険者たちはどれも強そうだ。早めに倒してあちらの応援に向かわねば……!
そう、思っていたのだが……私の初撃は相手の剣にあっさり防がれた。
「なっ!?」
「へぇ……かなり速いな!」
言葉の割に男の方は余裕がありそうだ。
続けて連撃を繰り出すも、男は剣と盾を使って全ての攻撃を難なくガードする。
しかも、それだけではなかった。
「うそっ!?」
フェルが神術士に対して放った矢も男が防ぎ切ったのだ。
お返しとばかりに女神術士の手から神術弾が放たれた。
それは氷の矢であった。
「くぅ……!」
「フェル!?」
なんとか回避したようだが、このままでは不味い!
「余所見とは余裕だな!」
「このぉ!」
この盾使い、決して動きは素早くないのに、隙が全く無いのだ。こちらがいくら攻撃を重ねても、盾か剣のどちらかですぐ弾かれてしまう。試しに彼の横を抜け出て女神術士に近づこうとするも、簡単に回り込まれてしまった。
(駄目だ! 女神術士が近すぎて……守りが硬い!)
私の連撃に合わせてフェルの矢が何発も降りかかるも、相手はこちらを捌きながらもしっかりフェルの射線までチェックしていた。
フェルの方も何度も移動を試みて狙撃するも、ここは隠れられる場所も少なく、すぐに見つかって防がれてしまう。
(ならば……こいつでどうだ!)
私は奥の手【
盾使いは私が間合い外から剣を振るったのを見て、何かが飛んでくると予想したのか盾を出していた。そこに私の遠距離斬撃が着弾する。
「なにぃ!?」
思いもしない衝撃を感じた男は初めて表情を変化させたが、そこで終わる私ではない。既に二の刃も飛ばしていた。初撃はあくまで囮、二発目の【風斬り】で相手の首を狙ったのだ。
だが、それも目敏く見ていた男は一撃目の衝撃に警戒レベルを引き上げたようで、私の素振りから着弾コースを予測したのか、首近くに剣を構えて二の刃も防ぎ切った。
(くぅ! やっぱり防がれるか! ならば……!)
私はそこから三度目、四度目と剣を振るった。
男は私の空を切る剣の動作に合わせて盾や剣を動かしたが、それはブラフであった。実は三回目以降からは全く闘気を放っていなかった。
(今度こそ!)
私は足を前に蹴り上げ、闘技二刀流蹴術【
「なんの!」
盾使いはそれすらも見切り、剣では間に合わないと判断したのか、腕に身に付けていた籠手でガードしてきた。きちんと闘気も籠めていたようで、相手は全くの無傷だ。
その直後、どんぴしゃのタイミングでフェルから怒涛の連射が繰り出されたが、男は自らの身体を張って矢に耐えた。
「うっそ!?」
「なんて硬い奴……っ!」
さすがにこの至近距離での矢は闘気が籠められており、男は無傷とまではいかないまでも、軽症で済んだみたいだ。一方、女神術士の方は未だ無傷で、代わりに長い間魔力を溜めていたのか、大技が繰り出された。
「――【氷結】!!」
その神術は確か、水属性の最上級魔法であった。
女神術士や盾使いの周囲が一気に凍り始め、それは徐々にこちらまで迫っていった。
「くぅ!? これじゃあ、更に近づけないよ!」
「一旦離れましょう!」
私とフェルは急いでその場から逃げた。
丁度いい大岩があったので、その陰に隠れて私たちは作戦会議をした。
「あれ、間違いなくS級冒険者よね……」
そうだと思う。これでも私たちはS級に近い実力だと言われていたのだ。相手が同じA級だとは思えない。
「あの盾使い……カカン以上にガードが硬いよぉ」
「あいつ……天剣白雲流の使い手よ!」
天剣白雲流……確かカカンの師匠がその門下生であったらしく、剣と盾の守りを重視した流派らしい。
ちなみに片手剣と、盾以外の組み合わせになると、天剣叢雲流と名称が変わるそうだ。
昔の私はカカンから剣を学び、天剣叢雲流という扱いだったらしいが、どうも守りの剣は性に合わない。
今の私は師匠が起こした闘技二刀流の師範代だ。こんなところで負けるわけにはいかないのだ!
「あいつが白雲流だとしたら、一つだけ付け入る隙があるわ!」
「え? そんなのあるの!?」
「ええ! 昔、酔っぱらっていたカカンに聞いた話なんだけど……」
酔っぱらいのアドバイスを参考にするのかぁ……大丈夫かなぁ……
「どうした! 出てこないのかー! なら、俺たちは他の兵士たちを倒すまでだ!」
盾使いの剣士が声を上げて私たちを挑発してきた。
お望み通り、私たちは姿を見せた。
「良い覚悟だ! だが……手加減はしない!」
「上等!」
私は再び盾使いの元へと走り出した。地面が凍ってしまっている為、全速力で走る事ができない。
足を滑らさないよう、注意しながらでの突撃だ。
当然、そんな私は魔法の的となってしまうのだが、今回その的は私だけではない。
「えっ!?」
「何だと!?」
女神術士と盾使いが驚いていた。
そう、フェルも共に突撃していたのだ。
突撃してくる弓士に女神術士は困惑しながらも、幾つもの氷の矢をフェルに向けて放った。彼女からしたら私の方より、弓士であるフェルの方が脅威だと感じたのだろう。
だが、フェルは巧みな動きでその矢を避けていく。氷上でそこまで動けるとは思っておらず、相手方は面を喰らっていた。
あれはフェルの流派、七草流の歩行術である。
七草流は弓士の中でも割とメジャーな流派だが、その真骨頂はどんな場所でも射撃を行なえるバランスと歩行技術にあった。七草流の使い手は、どんな悪路でも綺麗に整備された射撃訓練場並のパフォーマンスが引き出せるのだ。
「ちぃ! 今度は二人掛かりという訳か!」
盾使いは私たち二人を迎え撃つべく、剣を構える。
私とフェルは相手に接近すると……そのまま二手に反対方向へと別れた。
「くっ!?」
「あわわっ!?」
どんなに盾使いが女神術士に近い距離でカバーしていようとも、こうまで至近距離で、尚且つ高角に二方向から攻められては防ぎようがあるまい。これこそがカカンの助言を思い出したフェルの取った作戦である。
天剣白雲流は防御に特化した剣術で、しかも複数の相手も想定されている流派らしい。例え二人や三人が相手でも、正面からその守りを突破するのは至難の業だ。
だが相手も人間である以上、どうあっても死角は生まれる。
故に弓士が複数で白雲流剣士を相手にする場合、下手に距離を取るよりも、むしろ接近して回り込みながら相手の意識を散らす。それが最も有効だとカカンが口にしていたそうだ。
敵二人をほぼ挟む形になった私たちは同時に相手へ攻撃を繰り出した。フェルは至近距離から矢を、私は【風斬り】を相手に連射した。
「く、くそぉ!」
両サイドから迫りくるこちらの攻撃を男は剣と盾を使ってせわしなく防いでいたが、先ほどよりも精細さに欠けていた。この至近距離で逆方向からの同時攻撃だ。さすがにこれは厳しいらしい。
「ニコ君! 私が【氷結】で再び押し返すよ!」
女神術士も盾使いの限界を悟ったのか、先ほど見せた大技を繰り出そうとしていたが、それに対して慌てたのは盾使いの方だ。
「待て! レア! 今は大技より、牽制か防御を……!」
こんな至近距離でみすみす最上級神術を撃たせる程、私もフェルも甘くはない。
フェルは懐から短剣を三本取り出すと、それら全てに闘気を籠めて、ふわりと相手の上空へと放った。ただ慣性だけで相手の頭上に落とすだけの、威力の低い攻撃だ。
そんな攻撃、並の闘気使いには全く通用しない。
だが、相手が闘気で身体強化をしていない生身の神術士なら話は別だ。
「~~~~っ!?」
仲間の致命傷になり得る頭上のナイフを気にしながらも、盾使いは両サイドにいる私たちへの警戒を怠らない。
今までの戦いで私たちは見抜いていた。
(この女神術士は……闘気をまるで使えない!)
つまり、身体の頑丈さは一般人と然程変わらないのだ。
水属性なら防護神術もいくつかある筈だが、彼女は迂闊にも隙の大きい最上級攻性神術を選択した。そこに付け入った形だ。
「ハアッ!」
私は【風斬り】を相手の足下に放った。
「くぅっ!?」
それも盾使いは防ぐが、続いてフェルも低めの位置を狙い始めた。それによって盾使いは上に意識を割けないでいた。
「くそぉおおおおっ!!」
それでも女神術士の守りを優先したようで、彼はある程度の被弾を覚悟して強引に上空のナイフを全て払った。
(隙あり!!)
その瞬間――――私とフェルが一斉に相手へ肉迫した。
フェルは携帯していた短剣を抜いて女神術士に、私は相手の盾攻撃を躱して喉元に剣を突き付けた。
「ま、待った! 降参する! だから命だけは取らないでくれ!」
「うぅ……!」
フェルの方も詠唱を終えようとしていた女神術士を取り押さえていた。やはり女の方は近接戦闘がからっきしなようだ。というか、対人戦に慣れていなさそうだ。
「なら、さっさと武装を解除してください」
「あ、ああ……」
男はゆっくりと剣と盾を凍った地面に置いた。
女神術士も神術を中断し、大人しく拘束された。私の方も急いで男をロープで縛る。ニグ爺お手製の、一時的に闘気を下げる効果のある頑丈な魔道具ロープだ。これで破られるようなら仕方ないが……女神術士の方はしっかりフェルが人質に取っていた。
「ソーカ! この二人は私が見張っているから、アンタはケリーの応援に行ってきなさい!」
「うん! って……あれ? もう終わってるみたいだよ?」
「……あら、本当ね」
どうやらあちらは割と余裕だったようだ。なんか悔しい。
俺とセイシュウ、それとハラキチという異色メンバーの三人は、五人組の男たちと対峙していた。
どいつも尋常ではない闘気を持っている相手であった。
「くく。まさか、たった三人で俺たちに挑む気か?」
「俺たちゃあ、Sランク冒険者“五英傑”!」
「帝国最強の冒険者様だぜ?」
「全員がAランクの闘気使いだ!」
「あのハゲのデカブツ以外は大したことなさそうだなぁ」
「誰がハゲのデカブツだぁ!!」
相手の挑発に易々と乗ってしまったハラキチが突撃してしまった。
「ふんっ!」
「ちぃ! 結構力あるじゃねえか……!」
ハラキチの大太刀を髭の斧使いが受け止めていた。
(ほぉ、ハラキチのパワーを真っ向から受けるか!)
やはり相手は侮れなさそうだ。
「なんだよリーダー。一番美味しそうな獲物を取りやがって……」
「じゃあ、俺はそっちのすかした男を相手するかぁ」
「……む? すかした男とは私の事か?」
セイシュウは襲い掛かって来た槍使いの男と戦い始めていた。
「あー! ずりぃぞ! もうガキしか残ってねえじゃねーか!?」
「誰がこいつ殺す?」
「お前やれよ。めんどくせぇ……」
うーん、これはだいぶ侮られているなぁ……
俺個人の本音としては、存分に侮ってもらった上で、そのまま地獄に叩き落すのもありだと思っている。しかし、今の俺はサンハーレ軍の軍団長という立場にある。兵士たちの前だし、ある程度は恰好をつけておきたいのだ。
それに傭兵稼業は相手に舐められたらおしまいである。みんなの団長としても、ここは大きく出ておくことにした。
「一人ずつなんて、逆にこっちが面倒だ。三人纏めて掛かってきな」
俺が挑発し返すと、三人の男たちは顔を見合わせた後、途端に噴き出していた。
「ブハハッ! こいつ、互いの実力差も理解していないのか!」
「随分と大きく出たなぁ。お前、そのタグから察するに鉄級の傭兵だろう?」
「俺たちSランク冒険者だぜ、Sランク! 傭兵なんて屑とはレベルが違うのよ! つまり、俺たちは“石持ち”傭兵団以上の実力だってことよ!」
世間一般では、Sランク冒険者と“石持ち”傭兵団はほぼ同等の戦力という認識だ。共に戦闘を生業とする職種だが、冒険者の方はそれ以外の活動も行ったりするので、一概に比較しようがないのだが……まあ、そうなっている。
ただトップレベルは拮抗していても、その下にいる上級から中級レベルでは冒険者の方が質は良いというのが世間の評価でもあった。傭兵とは冒険者にもなれないような連中が行きつく先……そう見られているのだ。
故に、冒険者は傭兵に対して、自らの方が優れているという自尊心が芽生えているのだ。
「じゃあ、どっちが強いか試してみようじゃないか。俺はつい先日、“石持ち”傭兵団をぶっ潰したばかりだからな」
「ワハハハハッ! はいはい。じゃあ、俺が相手になってやるから、“石持ち”以上の実力とやらを見せて――――」
――――そこから先の言葉は、胴体と泣き別れになった男の口からは発せられなかった。
「はい、まず一人」
俺は【
(こいつら……思っていたより随分と弱い……?)
闘気の量は確かに多いのだが……注意力が散漫過ぎた。
「なっ!?」
「テメエ!? 何しやがった!!」
「何って……今は戦争中だぞ? 相手に手の内晒すと思うのか? ほれ、次! なんなら二人同時でも構わないぞ?」
俺が指でちょいちょい招く仕草をした。
(これ、一度やってみたかったんだぁ)
強くて格好いい軍団長を演出中……しかも敵を煽るのにも有効なようだ。
「ざけんな、タコ助がああっ!」
「俺たちは、帝国最強の五英傑様だぞぉ!!」
怒り狂った帝国最強(自称)の二人が同時に攻めてきた。
相手は剣士と大剣使いであり、ほぼ同時にこちらへ攻撃してきた。それを俺は両手の剣で同時に防いだ。
「片手で!? 馬鹿な……!?」
「このガキ……なんてパワーだ!?」
「ふむ。闘気の量は多いし、パワーもあるようだが……武器に籠めるのは苦手な口か?」
彼らはただ単に闘気を発し続けて、無駄に浪費しながら強化しているに過ぎないのだ。これは闘気使いというより……最早、ただ闘気が多いだけの戦士である。
俺は闘気を腕に巡らせて相手を押し込むと、距離を取ったと同時に牽制攻撃を放った。
「ほい、【風斬り】!」
「ぐはぁ!?」
相手は闘気の斬撃も感知できなかったようで、あっさり腕を斬られていた。
「闘気をしっかり練って無いから、防御の方もお粗末だなぁ」
「ま、またぁ!? 今の何だぁ!?」
「スキルか! そうか、お前……御子だな!?」
何やら盛大に勘違いしているようだが……俺はそれほど神様には愛されていないんだよなぁ……
「不正解! 時間も惜しいし……サヨナラだ。帝国最強さん!」
「ぎゃああっ!?」
「ぐはーっ!」
俺は再び【風斬り】を放って二人を斬り倒した。
セイシュウの方を見ると……彼も既に戦闘を終えていた。あちらの相手も思ったより手応えが無かったようで、セイシュウはしきりに首を傾げていた。
「ふーむ、彼らは帝国最強らしいのだが……」
「真面目な奴だなぁ。そんなの嘘だって!」
誇大広告はゼッチュー対象なのだ!
チラリと隣の戦場の様子を伺ってみたが……明らかにあの盾使いの方が強そうだ。闘気の量だけはこいつらと然程変わりなさそうだが、剣術や闘気の技術力に天と地ほどの差があった。
(あっちを手伝った方が良さそうか……む?)
そういえば、ハラキチの方はどうしただろうかと振り返ると、丁度彼の大太刀がリーダーと言われていた斧使いを斬り裂いていた。
「ば、馬鹿なぁ……!」
「ふぅ、筋肉はまぁまぁだったが、腕が足りなさすぎだな」
斧使いも似たり寄ったりだったらしい。
「おっと! 若に大将も、もう終わっちましたかい!」
「こいつら、Sランクの冒険者だったみたいだが……強さは微妙だったな」
「そのようですね。寧ろ、ソーカ師範代が戦っておられる相手の方が手強そうです」
セイシュウの言葉に俺たち三人は彼女らの方に目を向けると、あちらもようやく戦闘が終わったみたいだ。女神術士の弱点を見事についた薄氷の勝利といったところだろうか。
(あの男……殺すには惜しい実力だな。女神術士の方も、近接戦闘は残念だが、神術の方は凄いじゃないか!)
上手く捕虜にできたようだし、なんとかこちら陣営に取り込めないだろうか。
「師範殿。それよりも、早く味方の援護に……」
「おっと! そうだった! あちゃー、だいぶ押されてんなぁ……」
ヤバそうだった冒険者部隊は排除したが、それを抜きにしても、全体的に兵の質は帝国側が勝っているのだ。
今は人数差でなんとか持ち堪えているものの、何時その均衡が崩されるか分かったものではない。
「よし! あの闘気が高そうな敵左翼側に突撃するぞ!」
「「応!!」」
俺たち三人が突撃を開始すると、やや遅れてソーカも後ろから付いてきた。
「師匠! 冒険者二人を捕らえました!」
「見てたよ。あいつら……かなり強そうだったな!」
「はい!」
強敵を打ち倒したソーカはニコニコ顔であった。
「くそ! 冒険者連中め……! 負けおったか!!」
「我ら新設の帝国精鋭部隊! 冒険者如きと同じと思うなよ!!」
俺たちの戦いは帝国側も見ていたようで、やたら元気な一個中隊が纏まって襲い掛かって来た。
「よーし! 一人頭、大体10人受け持ちな!」
「造作もない!」
「任せてください!」
「おうよ!」
「ええい! 馬鹿にするなぁ!」
「帝国を舐めるなよぉ!」
「傭兵風情がぁ……くたばれぇ!」
「うおおおおっ!」
実力的には、あの帝国最強(自称)連中と遜色なかった。闘気の量は彼らより少なかったが、武装の質と武術の腕は兵士たちの方が上手だ。
ただ、俺たち“
「うぐぁ!?」
「ひいいぃぃ!?」
「こ、こいつら……強すぎる!?」
「駄目だ……勝てねえ……!」
「こらぁ! 逃げるなぁ!!」
兵の半数ほどが討たれた時点で、相手は臆したのか、徐々に後退していった。
その精鋭部隊に引きずられるような形で、他の隊も下がり始めたのだ。
「逃がすか!!」
「帝国兵どもめ! 死ねぃ!」
やがて戦況はこちら側に大きく傾き、遂に帝国軍は敗走を始めた。
「て、撤退ぃ!!」
「うわああああっ!!」
完全に背を向け始めた相手に興が削がれたのか、ソーカはこちらに声を掛けて来た。
「師匠、どうします?」
「残すと面倒な部隊だし、俺としては当然追撃するつもりだが……」
実際に総指揮を執っているブライス団長も追撃戦の指示を出していた。俺たちもそれに従い、帝国兵の後を追っていた。
(……あ! ちょっといい案を思いついたかも!)
妙案、というより悪辣な嫌がらせだが……試してみる価値はありそうだ。
俺は追撃の速度を上げると、帝国兵に向かって言葉を放った。
「残念だったなぁ、帝国軍のみなさん! 俺たちはメノーラ領から今回の作戦を
「――――っ!?」
俺の言葉を聞いた士官らしき帝国兵が動揺していた。
それからも俺は、メノーラ領から情報が流れていた事をアピールしながら帝国兵を追い回し続けた。
結局、数名には逃げられてしまったが……むしろこれでいい。
幼稚な作戦だったが、相手は引っ掛かってくれるだろうか?
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