第74話 謎の作戦命令書

「僕の誘い込み変装作戦は大成功だね!」


 メノーラ軍が撤退を始め、落ち着いた頃合いになって合流したネスケラの第一声がそれであった。


 ネスケラだけでなく、ドワーフ工兵隊たちも一緒だ。彼らは戦場から離れた安全な場所で後方支援をしていたのだ。


「ステア様、これお返ししますね」

「ですの!」


 ソーカはステアから借りていた指輪型の神器“盛衰せいすい虚像きょぞう”を返却した。ソーカはこの指輪の能力で老婆に変装していたのだ。


 イブキもメイド従者としてステアの護衛に付き、シェラミーとクロガモ、それとおまけにシュオウまで要塞内に温存しておいた。ギュランたち尖晶石スピネルの主力を誘い込み、始末する為である。


 俺でも裸足で逃げ出す程の戦力を要塞内に用意しておいたのだが……


(まさか、この面子で取り逃がしそうになるとは……腐っても“石持ち”傭兵団だったか……)


 ギュラン……なかなかの強敵であった。


「師匠、毒は平気ですか?」

「んー、もう治った」

「やはり……その身体はおかしいのでは?」

「いや、だから治ったって!」

「いえ、そういう意味ではなくてですね……」


 言わんとする事は分かるが、人を変人呼ばわりするのは止めてもらいたい。


(こんな恵体でなければ、もう何度死んでいるか分かんねえな……)


「ケルニクス軍団長! 追撃戦もひと段落し、兵を引き上げさせました!」

「ご苦労様、大隊長」


 敗走したメノーラ軍を追っていたオスカー大隊長が戻って来た。


 敵側にはまだ“貧者の血盟団”の残党もおり、毒攻撃を警戒して早々に引き上げさせたらしい。賢明な判断だ。


「この後はどうされるので?」

「んー、予定通り突撃しようかと……」

「……正気ですか?」


 オスカー大隊長も失礼な奴だな。


 シェラミーといい、ソーカといい、もしかして俺は、全員から頭のおかしい奴だと思われているのではないだろうか。



 俺たちの話を横で聞いていたグィース領兵団のハーモン団長が尋ねてきた。


「まさか、このまま連中を追うのですか? ここは防備を固めた方がよろしいのでは?」

「うん、俺もそう思う。だから、サンハーレ軍はここに残すから、領兵団と協力して事に当たってくれ。ここから先は俺たち傭兵団“不滅の勇士団アンデッド”だけで動く!」

「……正気でしょうか?」


 ハーモン団長の問いに俺以外のメンバー全員が首を横に振っていた。


 …………もう、何も言うまい。








 俺たちは今、グィース領にある街道をバスで走っていた。


 そう、このファンタジー世界にバスである。20人以上乗れるオフロードバスが街道を走行していた。


 勿論、ステアの能力で生み出されたものだ。ついでにガソリンも多めに用意して車内に積んである。


 俺は疲れている団員たちを運べる乗り物が欲しく、ステアに悪路を走れる大型の車を要求したら、このバスが候補に挙がったのだ。


「こんなバスが通販で購入できるのか……。海外製かな?」


 ハンドル、左側にあるし……


 しかも、金貨500枚以上もした。


 このバスを生み出す際、金貨500枚という大金にさすがのステアも躊躇ったのだが、ネスケラの一言で購入を決めた。


「このギュランって男の懸賞金、金貨300枚相当だって!」

「俺より高いな!?」


 相当あくどい事をやって来たのだろう。それならばとステアも購入に踏み切ったのだ。何かあった時用にと金貨は大量に持ってきていた。


 さらばティスペル金貨500枚……


「じゃあ、走らせますぜい!」


 運転席にはシェラミーの手下Aが座っていた。彼はエビス邸の裏庭に死蔵してある軽トラを偶に動かして、日頃運転の練習をしていたそうだ。


(トラックとバスって同じ要領で運転できるもんなのか!?)




 そんな訳で、今バスの中には総勢12人のメンバーが乗っている。


 俺、エドガー、ソーカ、フェル、シェラミーとその手下三名のお馴染みメンバーに加え、今回はセイシュウとハラキチ、それと珍しいことにシュオウと何故かネスケラまでも乗車していた。


 この精鋭メンバーだけでメノーラ軍を追撃するのだ。


「ネスケラ、お前もこっち来て大丈夫か?」

「へーき、へーき! 僕、結構頑丈みたいだし!」


 ネスケラも俺のように丈夫な身体の持ち主だったようだ。これも異世界の魂が混じっている影響なのだろうか?


 同じ元日本人でもエアルド聖教に召喚された五郎は魔力を有していて、俺とネスケラは魔力ゼロだ。その分、身体はこちらの方が丈夫であるようだが、ネスケラはまだ幼いので、そこまで身体能力は高くなく、闘気の扱いも平凡であった。


 しかし、腕力は相当あるようで、年上の男児にも腕相撲で完勝していた。


 ただ残念なことに、本人は前世から運動全般が苦手らしく、どちらかというとインドア派であった。今回の遠征も乗り物が無ければ付いて来るつもりはなかったそうだ。


 この幼女、よく人の肩に乗って移動しようとするので、俺も乗り物と勘違いしている節がある。


「あ! メノーラ軍を発見したよ!」


 バスの中でモニターを見ていたネスケラが声を上げた。どうやら先行して飛ばしていたドローンが敗走するメノーラ軍を捕捉したらしい。


「よぉし! この乗り物のお陰で十分休めたよぉ!!」

「もうひと暴れしてやるか!!」


 あれだけ疲労していたシェラミーとエドガーはバスでの移動中の間にもう復活していた。そのタフネスぶりはさすがだが……


「暴れる前に作戦の確認だ。今回は帝国兵だけを集中して狙う! 逆に元ティスペル兵には降伏を呼びかけるんだ!」


 ここで敵勢力を皆殺しにする案も浮上したが、それより連中を有効活用する方針にした。


 ネスケラが考案した、メノーラ兵と帝国兵を仲違いさせる計画である。


 今回メノーラ領は王国を裏切り帝国側に付いたのだが、それを快く思わない王国兵も少なからずいる筈だ。そんな連中を利用しようとネスケラは企んでいた。


 ただ単に暴れ回って敵軍を追い返したとしても、この先帝国の侵攻は続くだろう。俺たちも毎回遠征して防衛など面倒で仕方がない。


 だったら、他の対帝国勢力を作り上げ、その連中に戦闘を任せてみてはとなったのだ。


“貧者の血盟団”を失ったメノーラ領は、今ならこの戦力でも落とせるかもしれない。だが、今メノーラ軍を壊滅させたところで、帝国との国境沿いにある領地とその周辺を占領して維持するだけの人員が全く足りていないのだ。


 今はそれよりも、しっかり足元を固めるべきというのがサンハーレ上層部の総意であった。


 そこで、サンハーレ軍に代わり俺たちアンデッドが傭兵団として場を荒らし、まずは西部の帝国勢力を大きく削ぐことに決めたのだ。


 最大の目標は王国南部に駐屯する帝国軍を国外へ追い返すことである。しかし、北部にいる帝国軍の方はノータッチだ。北部の帝国軍が攻めている王都や王政府は、そのまま倒れてくれた方がサンハーレ側にとっては都合が良いのだ。



「よし! 出るぜ!」

「留守は任せたぞ!」


「ええ!」

「「「おっす!」」」


 留守はフェルとシェラミーの手下に任せておいた。当然ネスケラもお留守番組だ。


 俺たちはイヤホンから流れてくるネスケラ指示の下、メノーラ軍の位置を割り出し、追撃を始めた。


「て、敵襲ぅ!!」

「サンハーレ軍か!?」

「いや、傭兵のようだが……あれは!?」

「敵将、“双鬼”ケルニクスを確認!!」

「だ、駄目だぁ!? 勝てる訳ねぇ……っ!」


 俺の姿を見た途端、メノーラ兵や傭兵たちが慌てて逃げ始めた。


「ありゃりゃ。随分と名が売れてしまったか……」

「そりゃあそうだろう。お前さんは“石持ち”の団長を討ち取ったんだからな!」


 エドガーはどこか誇らしそうにしていた。


「情けない連中だねぇ……」

「西に逃げるなら一向に構わないさ。だが、帝国兵と“貧者の血盟団”の残党だけは逃がすなよ!」

「あいよー」


 先程までとは変わって、シェラミーはやる気が失せていた。逃げる相手に興味を持てないのだろう。



 今回の追撃戦は色々と気を遣う点が多かった。


 まず、下手に相手を追い込まず、狙った戦力だけを削ぎながら、メノーラ領まで無事に追い返すことを心掛けたのだ。


 あまり深く追い過ぎると、兵がバラバラに散って軍としてのまとまりに欠けてしまう。そうなると、はぐれた連中が盗賊と化す恐れもあるので、そうならないように適度に脅しながら西へと追いやった。


(まるで羊飼いになった気分だなぁ)


 稀に白旗を上げる者も現れたので、武器だけ没収してグィース領に投降するよう言い含めておいた。その情報をネスケラ経由でグィース領にも共有しておく。



 そんな感じでメノーラ軍を追いやり、バスで移動してを繰り返して、三日後……遂に俺たちは敵の本丸、メノーラ領へと踏み込んだ。




 メノーラ領


 ティスペル王国最西端の領地で広さもそこそこある。サンハーレからは北西に位置する土地で、メノーラからだと王都もそれなりに近い。


 帝国軍はここメノーラ領だけでなく、ここより北にある領地からも侵攻し、王都を攻めているようだ。


 メノーラの領主はメノーラ子爵家当主で、広い領地の割には爵位が低かった。それに不満を持っての裏切り行為なのか、逆にその兆候があったからこその子爵位だったのか……どちらにせよ、きっと彼はサンハーレ子爵と同類なのだろう。


 ここに来る道中、ミルニ領を通過したのだが、対帝国、メノーラ用に建造されたというミルニ砦が完全に焼け落ちていた。ギュランたち傭兵団が派手に暴れ回った結果らしい。


 相手に再利用されなくて助かったが、逆にこちらも砦を利用できなくなっていた。


 仕方がないので、近くの森にバスを停めて、ここを仮拠点と定めた。




 その夜……



「俺たちが追ってきているのは、メノーラ側にも知られている筈。ここからは慎重に行動するぞ!」

「「「…………」」」


 俺の言葉に何故か一同無言であった。


「な、なんだよ……!」

「いやぁ、ケリーが慎重にって言っても……説得力がねぇ……」


 ネスケラの言葉に全員頷いていた。


 おかしい。俺はオラシス大陸一の慎重深い男の筈だが……


「おい、ネス公。なにか案があるなら伺おうじゃないか!」

「僕だって何時でもいい案が出る訳じゃないんだよ!?」


 今回は幼女賢者様も妙案が浮かばないようだ。


「ここは敵地。やはりまずは下見では?」


 セイシュウが当たり障りのない意見を述べてきた。


「今回シノビ集は連れて来ていないしなぁ……」

「師範殿。ちょっと待っていてください」


 セイシュウはそう告げるとバスを降り、夜だと言うのに狼煙を上げていた。



 四十分後……


「お待たせしました」

「本当にシノビが来た!?」


 まさか、あんな合図に気付くとは……


 どうもシノビたちは狼煙の合図を見逃さないよう、一定時間毎に遠くの空を確認するよう習慣づけているらしい。


(恐るべしシノビ……)


 全く見ず知らずの他人が野外でキャンプファイヤーしただけでも、その煙でシノビが引き寄せられそうだ。


 後で聞いた話だが、狼煙一つ上げるのにも、ちょっとした細工が施されているらしい。



 メノーラ領の見張りを担当していたシノビの一人がこちらの合図に気が付き、ここまで来てくれたんだそうだ。


「メノーラの現在の状況はどうだ?」

「はい。サンハーレに送った軍が壊滅状態となり、報告を聞いた領主は相当荒れております。また、ゴルドア兵の被害が大きく、領主は帝国からも問い詰められて焦っているようです」


 よしよし。良い感じで火種を撒けたようだ。


 帝国側、メノーラ領主、不満を持つメノーラ兵、誰でもいいので暴発してくれれば作戦を立てた甲斐もある。


「町の様子を見てみたいのだが……忍び込めそうか?」

「可能ですが……そのままでは少々目立ちますね。特に軍団長殿のお姿は……」


 先程の開戦前の茶番劇で俺は相当悪目立ちをしていた。今では黒髪長髪の若僧はメノーラ軍の恐怖の対象となりつつあった。


「じゃ、俺がちょっくら行ってくるか?」


 この中では面が割れていなさそうなシュオウが提案してきた。


 どうやらシュオウは先の戦いでギュランを仕留め損なったのと、最後まで臆して砦内に引っ込んでいた事を気にしているようだ。


「それは助かるけど……無茶はすんなよ?」

「大丈夫だ。俺も死にたくはねえ。久々に怪盗バルムントの出番だな!」


 シュオウはシノビと共にメノーラの領都に潜入した。




 翌朝、シュオウがとんでもない情報を盗み取ってきた。


「大変だ! こいつを見ろよ!」


 シュオウが取り出して見せたのはデジカメだ。


 このデジカメはステアが用意した安物だが、問題はその中に納められていた写真だ。


「こいつは……まさか帝国の作戦命令書か!?」

「しかもこれ……暗号文すら使われてねえぞ!?」

「何処にも間抜けはいるもんだねぇ」


 こういった大事な作戦命令書は本来、前線などに送られる際、暗号などを用いるそうだが、どうやらそのままで送り届けた馬鹿がいるらしい。


「偽物や罠って線はないのか?」

「こいつは帝国指令室の金庫に大事にしまってあったぜ。わざわざそんな真似するか?」


 シュオウがスキル【壁抜け】で中身を取り出し、デジカメで写して元に戻したそうだ。


「我々の情報と合致する部分もあります。まず本物でしょう」


 シュオウの証言をシノビも後押しした。間違いなく本物の作戦命令書らしい。


 問題はその内容なのだが……どうやら帝国軍は近々、北部で大掛かりな作戦行動に移るらしい。メノーラ領やサンハーレに対してはそこまで関係のない作戦内容なのだが、ある一点だけ見逃せない部分があったのだ。


 その作戦とは、何時まで経っても攻めきれないティスペル王都に対して、その籠城作戦を手助けしている周辺の領地から徹底的に叩くという内容であった。


 どうも帝国で新設された即席の少数精鋭部隊を王国へ送りつけるらしく、その部隊が北部の領地を順次攻撃して堕としていくらしい。


 その攻撃対象はサンハーレとも親交の深いキンスリー領も含まれていたのだ。


 あそこの領地とは現在、北ユルズ川の水路を使ってこっそり交易を行なっている間柄だ。キンスリー領はあくまで王政府側の勢力だが、当主の爺さんも貴族にしては物分かりが良く、ここで失うには惜しい人材だ。


「作戦は……もう始まっているのか!?」

「ああ、このままじゃあキンスリー領が危ねえぞ!」


 シュオウもあの領地で歓待を受けた身として、キンスリー伯爵を気に入っていた。どうやら俺と同じ気持ちだったようだ。



 俺たちはメノーラ領内での工作活動を一旦諦め、バスを使って急いでサンハーレまで引き返した。








 メノーラ軍を相手にしながら進んでいた往路とは違って、復路はバスをガンガン飛ばした。お陰で僅か一日ちょっとでサンハーレに到着した。


 既にサンハーレにはステアたちも先に戻っていたらしく、挨拶もそこそこに俺たちは上層部に事情を説明し、キンスリー領に応援部隊を派遣する事が決定された。


 派遣部隊はメノーラに行った連中に加えて、今度は海兵隊にも出動命令を出した。


 イデール兵の捕虜からの情報によると、イデール海軍の保有する艦隊は先の海戦で大打撃を受けており、当分再起不能だろうと予測されていた。なので今は海軍も手が空いていた。


 そこで、ボートを15隻と動員出来る陸、海の隊員を準備させて、至急キンスリー領へと急行したのだ。


 その兵数、凡そ100名と小規模である。定員10名の小型ボートでは、物資なども積み込むことを考慮すると、この人数が限界であった。




「ゾッカ大隊長、突然無理言って悪いな」

「いやぁ、とんでもねえ! 俺たちも暇を持て余してたんでさぁ!」


 現在王国内ではどこもドンパチやり合っているが、幸いなことに沿岸部の港は王国勢力かサンハーレ側が押さえていた。海戦の機会は当分なさそうであった。


(王政府軍も俺たちに構っている余力はないだろうしな)


 しかも、我が海軍は徐々に拡大している。


 先の戦闘で捕虜になったイデール兵の中から、サンハーレ兵に志願したいと言ってくる者は現在も増え続けていた。その中には元海兵隊員も多かったのだ。イデール海兵たちは今まで見たこともないボートや魔導船に興味を抱いていた。それが志願の理由の一つでもあるらしい。



 今回の遠征には、イデールの元将校だという志願兵、ホセ・アランド氏も帯同させてみた。彼は今、俺たちと一緒のボートに同乗していた。


「これは素晴らしい船だ! 海の上をこんなに速く移動できるとは……!」


 初めて体感する速度に40過ぎのおっさんが感涙していた。


 なんとも陽気なおっさんだが、こう見えてホセは前回の海戦時に敵艦隊の提督だったらしい。しかもホセは貴族の身分で、アランド男爵家の元当主でもあった。


 開戦前に家督を長男に継がせ、サンハーレ海軍とのバネツェ湾海戦で敗れ、捕虜の身となった。そんなホセだが、敵船であったプレジャーボートと新型魔導船に魅了され、サンハーレ海軍に志願したのだ。


(貴族の身なら人質交渉で本国に戻れただろうに……)


 捕虜の中には、彼を裏切り者提督と蔑み、後ろ指を指す者も少なからずいるようだが、ホセ自身は前々から海軍の扱いが不遇なのが気に入らず、イデール軍上層部に対して不信感を募らせていたようだ。


 現在ホセはサンハーレ海軍の班長補佐に就かせてある。様子を見ながら徐々に階級を上げていく予定である。


(元提督を下級士官にしたままじゃあ、勿体ないからなぁ)


 あまり新参者のホセを優遇し過ぎても駄目なのだ。既存の兵士にも気を遣わなければならない為、その辺りの匙加減が本当に難しい。


 ただし、能力のある兵士であれば、俺は迷わず階級を上げていくつもりだ。


 ホセ自身は見た事もない船に乗れるだけで満足らしく、階級はあまり気にしていないようだが、そんな彼にも一つだけ心残りがあった。それは残された家族の扱いについてであった。


 ホセが裏切った事をイデール側が知れば、男爵家が窮地に立たされるのではないかと危惧しているのだ。


 そこで、イデール国内に忍び込ませているシノビに、アランド男爵家と秘密裏に接触を図るよう指示を出していた。彼の家族にこっそりとホセの現状を伝え、もし先方が希望するのなら亡命の手配をしてもいいと伝える為である。


 その際は、このボートでホセと一緒に迎えに行っても面白いかもしれないな。



「でも、相手の少数精鋭部隊というのが不安よね。何も情報は無いんでしょう?」


 フェルがセイシュウに尋ねてきた。


 この場にシノビ集は一人もおらず、自然とセイシュウに尋ねる形になったみたいだ。


「申し訳ない、フェル殿。さすがにシノビたちも北部の隅々までには手が回らず……」

「やー、そういった意味で責めたんじゃないのよ。気にしないで!」

「作戦命令書にも精鋭部隊の詳細は書かれていなかったからなぁ……」


 そもそも、今回の作戦とやらに全く関係の無いメノーラ駐屯軍に、どうして暗号無しの命令書が届けられていたのかも不明なままだ。


 最初は偽物かと疑いもしたが、その可能性も低いらしい。しかも、あの命令書には他にも気になる事が記載されていたのだ。


 その気になる事とは、件の精鋭部隊が通る予定となっているルートだ。


 奇襲部隊のルートはどこからどう見ても、ジーロ王国領をぶった切っていたのだ。しかも、その点に関して補足事項があり、既に安全確保は済んでいる、といった内容の文章まで添えられていたのだ。


「まさかジーロが帝国軍の通行を許可したって言うの?」

「その可能性もあるな……」


 これ、結構大事な命令書じゃないの?


「こうなってくると、あの命令書……ジーロとティスペルを対立させる欺瞞作戦用の偽文書って線も考えられるぞ?」

「だよなぁ……」


 ま、行ってみれば分かるか。実際に奇襲部隊がいれば、あの命令書も本物ということだ。うん、実に分かりやすい!



 俺たち船団が北ユルズ川を上っていると、前方から川を下ってくる小型の帆船が見えてきた。

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