第73話 毒入りフロン

 老婆が突如若い女の姿に変わり、俺は驚きで声を詰まらせた。


「――っ!? おまえっ! ババアじゃなったかのか!?」

「失礼ですね。ただ姿を変えていただけですよ」

「ちっ! そうか……スキルか神器だな……!」


 女は俺の質問に答えぬまま二振りの剣を構え、そして姿を消した。


「――っ!」


 いや、微かに女の残像を目の端で捉えた俺は、ギリギリ右手の剣で相手の斬撃をガードした。


 だが相手は二刀流、単発攻撃で終わる筈もない。


 二撃目、三撃目と超高速の連撃を畳みかけてきた。最初は辛うじて間に合った防御だが、こちらも徐々にギアを上げていく。


(いいぞ! ようやく目も慣れてきやがった! これなら対応できる!)


 しかし、このままでは防戦一辺倒だ。この女の移動速度は尋常ではない。


 魔力を感じることから、恐らく先ほどまで使っていた風の神術を利用しているのであろうが……これではこちらが反撃できる隙が無い。


「おい! テメエら! 手を貸せぇ! 毒対策の【送風】が止まってんぞぉ!!」

「この男……!」


 毒を警戒したのか、女は一旦距離を取った。


「クク、これで形勢逆転だなぁ……!」


 予め解毒薬を飲んでいるとはいえ、毒を完全に防げるわけでは無い。俺も効果範囲に入らないよう一応離れておくか……


 そう、思っていたら――――


「おや? 誰に向かって言ってんだい?」


 ――――手下どもからの返事は一切なく、代わりに返ってきたのはシェラミーの声のみであった。


 思わず俺は後ろを振り返った。


「なっ!? 馬鹿な……!」


 そこには、息を切らしながら立っていたシェラミーと、全く息をしていない手下どもの死体が転がっていた。


「まさか……! お前一人で全員やったってのか!? ……いや、違う! もう一人居やがるな!!」

「見事」


 俺の声に反応して姿を現したのは、全身黒ずくめの不気味な男であった。


「その装い……まさかウの国のシノビか!?」

「…………」


 俺の問いに背の高い黒ずくめは沈黙で返した。


「ちぃ! 潜んでいやがったのか。だが……気配を全く感じなかったぞ!」

「私の闘気を派手に出して隠していたからねぇ。私の流儀じゃあないが……一対三十九だったんだ。だったらこっちも一人くらい増えても問題ないわよねぇ?」

「クソアマどもがぁ……っ!!」


 この部屋に入った時点では、確かにあの男は居なかった筈なのだ。後から要塞の中に入ってきたとでもいうのか? それにしては救援が早いし、尾行されて気付かれないほど俺は間抜けではない。


(……そうか! あの男……事前に迷路内で潜んでいやがったな!)


 恐らくあの迷路の何処かに隠れるスペースでも設けていたのだろう。さすがの俺も壁越しで闘気を消されては見抜くのが困難だ。それに例え気配を察知したところで、あの時は別れた部下たちも迷宮内を彷徨っていた。そうなれば判別は困難だ。


「……やってくれたなぁ!」


「お互い様だねぇ。さぁ、これで形勢逆転だけど……どうする?」

「シェラミーさん。今回はタイマン無しですよ!」

「この男は危険だ。全員で確実に仕留めるぞ!」


 元金級上位の“紅蓮”に、奇妙な闘気技を扱うメイド、それに超高速で動く変装女にも囲まれてしまった。更には手練れのシノビまで控えている。


 状況は最悪であった。


「ちぃ!」


 ならばここは逃げの一手だ。


 俺は唯一の出口である迷路側へと走り出した。


 それを見た四人が一斉に動き出す。だが、俺を挟んでいる陣形な為、背後にいる女二人からは、恐らく斬撃が飛んでこない。味方に誤射する危険があるからだ。


「お前如きなら瞬殺してやるよぉ! シェラミー!」

「大きく出たねぇ! 来なぁ!!」


 俺は一直線にシェラミーへ向かって行く……ふりをして、直前で奴の右サイドを抜けようとした。


「そうくると思ったよぉ!!」


 俺の行動は読まれていたらしく、シェラミーは素早く横への斬り払いに移行し、更にこちらの進路をシノビ男が塞ぐように動いた。


 そんな事はこちらも織り込み済みだ。


「あめえ!」

「なっ!?」


 俺は大きく跳躍すると、身体を回転させ天地を反転させる。天井に足を着地させ、更に跳躍して捻り、壁を蹴ってから地面へと飛び移った。


「ちぃ! 随分身軽な奴だねっ!!」


 シェラミーはこれで躱したが、まだシノビ男が食い下がって来た。


「通さん!」

「邪魔だぁ!」


 この男は気配の断ち方こそ一流だが、腕前の方はメイド女とそう変わらない。俺は強引に二本の剣でシノビの剣を押し込むと、咄嗟に力を抜き、相手の押す力を利用して互いの位置を入れ替えさせた。


「くっ!」

「わわっ!?」

「クロガモぉ!?」


 もう後ろまで迫っていた娘どもは、俺とシノビの立ち位置が変わった事に焦り、振ろうとしていた剣を寸前で止めていた。


 その隙に、俺は逃げさせてもらう。


 迷路のある通路へと入った瞬間――――


「――――うぉっ!?」


 本日、三度目ラストとなる【直感】が働いて俺は急停止した。そんな俺の目と鼻の先に、横から剣が突き出てきたのだ。


「んだとぉ!?」


 信じられない事に、壁から剣が生えてきた。


 いや、よくよく見ると壁から剣を持った腕が飛び出ており、俺へと襲い掛かってきたようだ。


「マジか!? 今のを避けるのかよ!!」


 壁越しに男の驚いた声が聞こえたと思ったら、剣を持った腕が壁の向こう側へと引っ込んだ。


 その壁に穴は開いておらず、神術による幻影かとも疑ったが、そうではなかった。避けたと思っていた先程の突きは俺の鼻をかすめていたようで、傷口から出血していたからだ。


「これは……一体……!」


 いや、今は考えている場合ではない。一刻も早くここから脱出せねばと再始動したが一歩遅かった。あの出鱈目に速い女剣士が追い付いてきたのだ。


 再びその女と交戦する。今は狭い通路内なのが幸いして、複数で囲まれる心配はなく、相手の素早さも半減していた。


 だが……


「またか!?」


 今度は逆サイドの壁から剣が突き出てきた。さっきまで気配を感じなかったが、攻撃が繰り出される直前、漏れた闘気で察知した俺は片手でその剣を弾き飛ばした。


「壁の向こう側に誰かいやがるなぁ!! 出てきやがれぇ!!」

「ひえええぇ!?」


 やはり男の声がした。


 これで確定だ。壁の向こうに潜んでいる男は恐らく、壁抜けできるスキルを有しているのだ。


(くそっ! 俺と同じ御子か……面倒な!)


 目の前の強敵とスキル持ちを相手にしながら、この入り組んだ狭い迷路を突破するのは至難の業だ。だったら……


 俺は強引に女剣士の剣を弾くと、一瞬出来た隙を利用してバックステップし、ありったけの闘気を籠めて横の壁を斬りつけた。


「オラァっ!!」


 いくら頑丈な鉄壁とは言っても、俺一人抜け出せるくらいの穴なら作り出せる。そこから俺は外に脱出した。


 女剣士が追ってきそうだったので、出入り口の穴に向かって毒を塗りたくったナイフをしこたま投擲して牽制しておいた。


(今の内だ! 馬の所まで戻って逃げなければ……!)


 とんだ誤算である。まさか、サンハーレにこれほどの使い手が揃っているとは思わなかった。こうなったら、今からでも戦場に戻り、真っ向から兵力差を利用して、あいつらを……


 そんな考え事をしていると、突如要塞の外壁が吹き飛んだ。誰かが俺と同じように内側から外壁を破壊して出てきたのだ。


「よぉ、ギュラン! 何処へ行く気だ?」

「テメエは…………双鬼!」


 もう戻っていやがったのか! よりにもよって一番厄介な奴が俺の行く手を阻んできた。


「もう逃げ場はないぞ!」


 俺の背後には要塞内で戦っていた連中までも集結していた。どうやら逃げるのはここまでらしい。


「……いいだろう。そんなにお望みなら……ここで全員ぶち殺してやる!!」


 俺は久しぶりに全力を出すことを決めた。








 最前線から引き返して、なんとか要塞まで辿り着いた俺だったが、迷路エリアに入った直後、大きな音が聞こえてきた。それと同時に強い闘気使いの気配が外に出たのを察知した。恐らくギュランという“貧者の血盟団”の団長だろう。


(壁を破壊して逃げる気か?)


 このまま逃がしたくなかったので、俺も外壁を破壊して外に飛び出た。やはり、そこにいたのはギュランであった。


「よぉ、ギュラン! 何処へ行く気だ?」


 俺が語り掛けるとギュランはこちらを睨みつけた。


「テメエは…………双鬼!」


 俺たちが言葉を交わしている間に、要塞内にいた仲間たちが背後に回った。ソーカたちの様子を見る限り、仲間たちは全員無事なようで安心した。


「もう逃げ場はないぞ!」


 逃げ足の速そうな男ではあったが、ここまで近づけば取り逃がす事も無いだろう。瞬間的な速力ではソーカに劣る俺だが、長距離走には自信があるのだ。


 あちらもこれ以上の逃走は無理だと悟ったのか、すぐに戦闘態勢へと移行した。さっきまでとは雰囲気も変わり、纏っている闘気が更に高まっていた。


「……いいだろう。そんなにお望みなら……ここで全員ぶち殺してやる!!」


 まさか一人でここにいる全員を相手にするつもりなのか。それはちょっとハードを通り越して、ヘルモードだろうに……


 なので、優しい俺は奴に救いの手を差し伸べてやった。


「お前を倒すのに、全員なんて兵力の無駄だ。ソーカとイブキはそのままステアの護衛に戻ってくれ。シェラミーとクロガモは悪いけど、一休みしたら戦場な」


 シュオウは遠くの壁からひょっこり頭だけ出して、こっそりと様子を伺っていた。


(あいつは……あのままでいいか)


「こいつは……俺一人で倒す!」


 既にエドガーとセイシュウも前線に戻させていた。闘気で要塞内を探った限りでは、人数的に問題なさそうだと判断していたからだ。


「は? てめぇ……俺様を舐めていやがるのか?」

「いやいや、舐めてないって。的確な判断だと思うぞ? だから団長である俺が直々に相手してやるって言ってんだよ。ま、お前くらいなら二番弟子一人でも倒せそうだがなぁ」

「師匠! 私は二番目じゃありません! 一番目なんです!」


 なんかソーカが意味分からない事を言っていたが聞き流した。


「ケリー坊や。大丈夫かい? そいつは腐っても“石持ち”の団長だよ?」


 シェラミーにしてはやけに慎重であった。大分疲労しているようで、かなり手古摺らされたようだな。


「問題ない。こっちはお前らの団長様だぞ! それに……あれだけ大勢の前で『剣一本で戦ってやる』なんて宣言しちまったからな。俺は有言実行する男だ!」


 俺がそう告げるとシェラミーは一瞬キョトンとした後、盛大に笑い出した。


「アハハハハッ! そうだったねぇ! アンタも十分頭がおかしかったんだ! 了解だよ、ケリー団長!!」


 初めて坊やと呼ばれなかった気がする。



 俺の指示通りに団員メンバーたちが散っていくと、俺は改めてギュランと対峙した。


「さ、時間も惜しいからさっさと死んでくれ」

「人をコケにするのも……いい加減にしやがれぇ!!」


 ちょっと煽り過ぎたようで、奴は鬼の形相で迫ってきた。


 さっきから気になっていたが、どうやら奴も俺と同じ小剣二刀流のようだ。


(今は俺、剣一本だけどね)


 ソーカほどではないにしても、なかなか素早い連撃攻撃だ。剣一本では守勢に回るしかなかった。


「オラ! オラァ! どうしたー! 勢いは口だけだったかぁ!!」

「そっちこそ、イキってる割にはかすり傷一つ負わせていないぞ?」


 久しぶりに一刀流を試したが、どうもしっくりこない。両手持ちな分、パワーもスピードも増している筈なのだが、馬力があり過ぎて持て余し気味なのだ。


 だが、俺の両腕分の膂力で相手の剣をガンガン弾き続けていた影響か、ギュランの表情は徐々に苦々しいものへと変わっていった。


 そろそろ腕が痺れた頃合いだろう?


「クソがぁ!! テメエ……どんだけ馬鹿力なんだ!」

「俺とこれだけ打ち合えるんだ。お前も相当いい線いってるだろうに……なんで真正面から戦わないかなぁ」


 正直、こいつの事を過小評価していた。ソーカたちと戦って消耗していなかったら、俺も多少は苦戦していたかもしれない。


 まあそれも、こいつ自らが真っ向勝負を避け、勝手にハードルートへ突っ込んで行った結果だ。自業自得である。


 ソーカ、シェラミー、イブキにクロガモとか……俺でも勝ち目の薄い布陣である。


「ふざけやがって……! テメエみたいな、ぽっと出の傭兵団なんかに……! 俺は……スラムの底辺から、ここまで這い上がって来たんだ! そこらの傭兵とは……生きてきた重みが違うんだよぉ!!」

「ふむ。それは大変だったな。けどこっちは鉱山奴隷スタートだぜ? スラム生活? 逆に羨ましいわ!!」


 まぁ、奴隷は最低限の食事と寝処だけは用意されていたので、飢え死にする心配だけはなかったが、過労死や事故死なんかはしょっちゅうだ。もしやり直しが出来るのなら、俺は迷わずスラム街スタートを選択するだろう。


 …………もっとマシな選択肢ありません?


「ちぃ! 死ね! クソガキ!!」


 ギュランは素早く後ろへ下がるも、次の瞬間には全速力で突撃し、右手の小剣から突きを繰り出した。それを俺は剣で受けようとしたが、それを見たギュランが笑みを浮かべた。


 カチッ


「掛かったなぁ!」

「なっ!?」


 突如、ギュランの小剣の刃が三本に割れたのだ。


 それは小剣ではなくトリプルダガーだったようで、恐らく柄にあるスイッチで両側面の刃が開くように仕掛けられていたのだろう。


 トリプルダガーにより剣を絡めとられた俺だが、力はこっちが上だ。そんな刃の薄い剣、すぐにへし折ろうと試みたが、その間にギュランは左手の小剣を突き出してきた。


 その攻撃を俺は躱そうとしたが、やはりそちらの剣もトリプルダガーだったようで、展開された刃を躱し切れず、腕に傷を負ってしまう。


 その代わり、俺は相手の剣を力任せに破壊した。


 両者、一度間合いを取る。


「クク! 油断したなぁ!」

「かすり傷程度で満足か? おめでとさん! でもそっちは片方しか武器が残ってないぜ?」


 俺が挑発しても相手はなお余裕の表情だ。


 その理由はすぐに判明した。


「……お?」


 急にぐらりと身体がふらついたのだ。


「あ、やべ。毒か」

「ようやく気付いたか。間抜け」


 相手の戦法は予習済みだったのに……迂闊だった。


 俺は用意していた解毒用の神術薬を取り出して飲み込んだ。


「よし! これで問題無し」

「クハハ! そこらの薬で解毒できるものか! この毒は少量でAランクの大型魔獣をぶっ殺せる劇薬だからなぁ!」


(なんちゅう毒を喰らわせやがる!!)


 確かに……結構効いていた。


「さて、テメエがくたばるまで見物してもいいのだが…………死ね!」


 相手はこの機に乗じて一気に殺しに掛かった。


 俺は…………闘気を一気に高め、相手のトリプルダガーをあえて受けた後、その残った武器もさっきと同じ要領で破壊した。


 反撃され、一瞬で武器を破壊されたギュランが驚愕していた。


「ば、馬鹿なぁ!? テメエ、なんでまだそんな元気なんだ!? 毒が効いてねえのかぁ!?」

「あん? 十分効いてるよ。気分最悪フラフラだ」


 両方の武器を失ったギュランは慌てて後退した。


「ふざけんな!! その毒をまともに受けて、戦える人間なんている筈がねえ!!」

「ここにいるだろうが! 残念だったな。俺は毒に慣れてんだよ!」


 最近気付いた新事実なのだが、どうやら俺は知らぬ間に毒を喰らい続けていたらしい。


 それに気付かされたのは、三日前に起こったとある出来事であった。




 サンハーレを出立して、隣のゼレンス領で夜営した際、軍から食事が配給された。ステアに頼めば美味しい食事にありつけるのだが、今回は他の兵士の手前、俺もステアもみんなと同じ食事を取ることにした。


 幸いにも進軍初日だったので、料理に新鮮な野菜も含まれていたのだが、その中に俺の嫌いな物が入っていたのだ。


「うっ! これは……」

「ケリー? もしかして、フロンがお嫌いですの?」


 フロンとは、この世界で広く流通されているイモに似た野菜だ。奴隷剣闘士時代、ほぼ毎日振舞われていたのだが、俺はフロンの苦みが嫌いだったのだ。


「だってこれ……苦くね?」

「え? フロンが苦い……ですの? そんな事ないですの!」


 ステアは美味しそうに煮たフロンを食べていた。彼女だけでなく、他の仲間たちも同様だ。


 試しに俺も一口食べてみた。


「……あれ? 甘くて美味しい……!」

「ですの!」


 じゃあ、俺は今まで一体……何を食べさせられていたんだ?


 そこで俺の脳内には、ある仮説が浮かんだ。



 奴隷剣闘士時代の牢屋生活は、隷属の首輪による呪いの影響もあって、俺は常に体調を崩していた。だが、その事についてずっと疑問に思っていたのだ。


 あの時俺が身に付けていた隷属の首輪はお世辞にも、そこまで上等な代物ではなかった。所詮、当て馬に過ぎなかった少年剣闘士用の首輪である。


 それこそシュオウやエドガー、フェルに付けさせていた違法の首輪よりも数段劣る品質だった筈なのだ。


 にも関わらず、呪いの力とはあそこまで強いものなのだろうか? まるで五郎の首輪と同等か、それ以上の効力を発揮していた。


 推論、あれは呪いなんかではなく、恐らく毎日出されていたフロンの中に毒が仕込まれていたのだ。


 いや、もっと正確に言うのなら、多分呪いと毒のダブルパンチだったと思われる。


 あの最低なブタ主人にしては、食事の量だけはしっかり出されていたなと常々不思議に思っていたのだが、なんてことはない。あの不味い食事の所為で俺は余計に苦しまされていたのだ。


(思い出しただけでも腹が立つ! 何時か、帝国に戻ってあのブタ野郎をゼッチューしてやる!)


 あとは……鉱山奴隷の暴力看守、闘技場の槍でつんつんした兵士、帝国の馬鹿貴族と無能将官どもも全員だ! おっと、逃げ出したギルド職員も忘れてないぞぉ。


 俺は絶対に天誅を下すゼッチュー対象者全員を漏れなくメモに記してあるのだ。


 いずれ、必ず……フフフフ




「――――と、いう訳で、俺に毒は効かん!」


 いや、結構足に来てるけどね。でも、闘気を高めれば案外我慢できるよ?


「そ、そんな馬鹿な……!」


 さすがにもう打つ手がないようで、ギュランは俺に背を向けて逃走した。


「ハァ……最後までそうくるかぁ。ま、それの方が傭兵らしいと言えば、らしいのだが……」


 勝てない相手は逃げる。傭兵の鉄則らしいが逃がすつもりはない。


 俺は一本の剣に闘気を集中させた。


「闘技二刀流遠距離斬撃……【風斬かざきり】!」


 俺は威力増し増しの【風斬り】をギュランの背に向けて放った。両腕だった分、スピードも上がり、疲労困憊で避けられなかったギュランは真っ二つになってそのまま果てた。


「“石持ち”傭兵団も最後は呆気ないものだな」


 壁から生えているシュオウの生首から「それ、二刀流じゃねえから!」という声が聞こえたが……多分幻聴だろう。毒の所為に違いない。




 主力である尖晶石スピネル級傭兵団、“貧者の血盟団“を失ったメノーラ軍は脆く、半数以上の兵を失った時点で彼らは撤退を開始した。

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