第47話 クーデター

 エビス邸を出た俺たちは二つの班に分かれた。


 まずは俺たち“不滅の勇士団アンデッド”に所属する全メンバーは、サンハーレの町へと向かった。ステアにエータ、クーも一緒である。


 アマノ家の主力メンバーは、老兵であるゴンゾウが率いて町の郊外へと出た。迫りくるイデール独立国軍を迎え撃つ為である。


 まだ怪我が完治していないセイシュウと一部の武人たちはエビス邸に留まり、非戦闘員たちの護衛に回った。


「すまない。ゴンゾウ、イブキを頼んだぞ……!」

「拙者にお任せくだされ、若様!」

「兄上、行って参ります!」



 アマノ家には負担を掛けてしまうが、今回は秘密兵器を渡しているし、ネスケラたちのサポートもある。きっと上手くやってくれるだろう。


「さぁ、俺たちはクーデターしに行くぞ!」

「うーん、どこでわたくしの人生、狂ってしまったのでしょう?」

「これをしくじったら……今度こそ冒険者資格は剥奪ね……ふふ!」

「大丈夫、お尋ね者でも傭兵は続けられるぞ!」


 こちとら二ヶ国から賞金を懸けられても元気に傭兵やって暮らしているのだ。子爵相手のクーデターなんてイージー、イージー!



 ステアを中心に守る形で、俺たちは集団で町の方へと向かった。この辺りにステアを狙った賊はいないだろうが、万が一を考えての配置である。


 エドガーやシェラミーの手下たちと言った強面集団が武装して歩いているのを、偶々道を歩いていた農夫が見てギョッとしていた。


 町に近づくと、すかさず門番の領兵がすっ飛んで来た。


「お、おい! 貴様ら! なに堂々と武装してやがんだ!」

「布告を聞いていないのか!? ただちに武装解除しろ!」


 どこかで見た顔だと思ったら、以前に冒険者ギルドの前で俺たちと揉めた二人組の領兵である。こちらに槍を向けて武器を置くように命じてきた。


「あん? だったら何でテメエらは武装してるんだ? 大人しくイデール国に降伏するんじゃないのか?」


 俺が尋ねると領兵は怒りだした。


「俺たちは兵士だぞ! お前ら傭兵なんかと一緒にするんじゃねえ!」

「イデール軍が来る前には俺たちも武器を置く。ガタガタ言わず、命令に従え!」


 俺とエドガーは互いに顔を見合わせてから領兵たちを鼻で笑った。


「断る。どいてろ!」

「邪魔するとぶっ殺すぞ!」

「ひっ!?」

「お、お前ら……俺は領兵だぞ、領兵! い、一体……何を考えてやがる……!」


 エドガーが凄むと領兵たちは小鹿のように震えだしたが、それでもなけなしの勇気を振り絞りながら槍を向けていた。


(へぇ、思ったより根性あるじゃん!)


 折角なのでお答えしてあげよう。


「何って……クーデター」

「…………は?」

「う……ぁ……」


 俺の言葉にすっかり怯えて戦意喪失してしまった領兵たちをシェラミーの手下たちが面倒くさそうに脇へとどかした。


「おら、そこで事が終わるまで大人しく門番してな」

「痛い思いをしたくなければ、関わるんじゃねえぞぉ?」


 その後も俺たちは駆けつけてきた領兵たちを脅しながら町中を進んだ。


「お、おい。あれ……」

「傭兵団“アンデッド”の連中……だよなぁ?」


 同業者たちが遠巻きに俺たちを眺めていた。領兵の指示に従わず、完全武装したままの俺たちを不思議そうに見ていたのだ。


「見ろよ! “疾風の渡り鳥”の面子もフルメンバーだぞ!」

「また小鬼退治に行くのか?」

「あの馬鹿みたいに大きな小鬼、連中が倒したんだろう?」


 冒険者や町の人々も俺たち一行を見物しに来ていた。


 すると、今度は領兵たちが大挙して駆けつけてきた。どうやら誰かが通報したみたいだ。


「き、貴様らぁ! さっさと武装解除をせんかー!」

「領主様の布告をなんと心得る!!」


「知るかぁ! 邪魔するとぶっ殺すぞ!」

「売国奴の命令なぞ、誰が聞くかボケェ!」

「おらぁ! おらぁ! 武器持ってんぞぉ! 取り上げに来たんじゃないのかい!?」


 シェラミー一味は水を得た魚の様に領兵たちを煽り始めた。


「くっ! やむを得ん! 総員、かかれー!」

「「「うおおおおおおっ!!」」」


 突如始まった闘争に、見物に来ていた町民たちは悲鳴や喝采を上げていた。


 俺たちは襲い掛かって来た領兵たちの攻撃を防いだり躱したりすると、武器を取り上げて適当に殴り飛ばした。


「ぎゃうん!?」

「ぐげぇ!!」

「ぐぺぽっ!」


 あっという間に指示を出した兵士一人のみが残り、それ以外の兵たちは全員気絶させた。それを見ていた町の者たちは目を見開きながら驚いていた。


「嘘だろ、あいつら……」

「マジで領兵に手を出しやがった……!?」

「やっぱ、つえぇ……!」


 小鬼討伐の一件で“アンデッド”の名はサンハーレで売れ始めていたが、実際本当に強いのかは、まだまだ懐疑的な者たちも多かった。この場で見ていた連中は、改めて俺たちの実力を思い知った事だろう。


 俺は伸びて倒れている領兵たちから武器を奪い、回収して回った。


 腰を抜かして座り込んでいる偉そうな兵士が声を震わせながら叫び出した。


「き、きしゃまらー! こ、こんな真似ぇ! ゆ、ゆ、許されるわけぇ……っ!」

「ああん? 言われた通り、武装解除してるだけなんですけどねぇ?」

「ち、違う! 我々じゃない! お前らの方! お前らの方だからぁ! 武装解除するのぉ……!!」


 面白いくらいにきょどっている兵士を俺は笑い飛ばした。


「ハハハハ! 冗談はよせ。なんで、降伏する腰抜け連中が武器持って、敵に立ち向かう俺らが武装解除しなければならないんですかねぇ? 何でですかぁ?」

「え? いやいやいや! 相手は一国の軍隊なんだぞ!? 勝てるわけねえだろ! へ、下手に抵抗したら……全員皆殺しにされるんだぞぉ!!」

「無抵抗でも殺されるかもしれないぜ? お前なんて、むかつくだけの無能だから、真っ先にイデール国の連中に処刑されちまうかもしれねえなぁ」

「――っ!? そ、そんな馬鹿な……!」


 馬鹿な事だと思いたいだろうが、戦争とはそう言う莫迦ばかげたものだ。


 勝った側が好きに搾取し、負けた側はそれをただ甘んじて受け入れるだけか、死ぬ気で抵抗するしかない。俺はこの世界に来てから抗い続け、勝利を勝ち取ってきた。


 その結果が今の生活だ。


 ただ黙って見ているだけならば、きっと俺はまた奴隷に堕とされてしまう。


 だって、この世界はハードモードなのだから……


「もういい。眠ってろ」

「ぷぎゃあっ!?」


 偉そうな兵士を殴り飛ばし、俺はそいつからも武器を取り上げると、周囲で成り行きを見守っていた者たちに語りかけた。


「みんな! 俺たちは今回の一件で、裏で糸を引いている大罪人、サンハーレ卿を討ちに行く! 売国奴の甘言に惑わされて、みすみす今の生活を手放すつもりなのか!? 黙って見ているだけで、本当に平和は訪れるのか!? そんな甘い事……ある訳がない!!」


 俺が柄にもない演説をしていると、周囲はざわつき始めた。誰もが困惑し、どうしたものかと周りの目を気にし始めたのだ。


「武器を取れ! 俺たちの仲間も既に戦場へと赴いている! 自分たちの平穏を勝ち取ろうとする気概のある奴は何でもいい! とにかく動いて貢献しろ! 町を守る為、何か行動を起こせ! 戦える傭兵や冒険者は武器を拾え!!」


 そう告げて俺たちは領兵から回収した武器を町中にばら撒いた。


「傭兵どもー!! 何をやっているー!!」


 すると領兵団の第二陣が現れた。さっきの数の倍近くはいる。


「お、武器のおかわりを持ってきてくれたぞ!」

「みんなー! 領兵たちも応援してくれているようだぞー!」


 周囲の者はドン引きである。


「なにふざけたことを……ぐへっ!?」

「や、止めろー! 俺の武器返せ……ぐはぁっ!」

「お、良い武器持ってんじゃん! 使う気ねえならそれも寄こせや!」

「止めてくれー! その槍、ボーナスで買ったばかりなんだー!!」


 うん、だんだんと盗賊じみてきたな。特にエドガーやシェラミー一味は行動だけでなく、外見的にもまさしく山賊のそれだ。実に活き活きと荒事をする連中である。


(これ、うちの団員なんです……)



 それからも俺たちは向かってくる領兵たちを張り倒し、武器を奪いながら演説し、町民たちに武器をばら撒き続けた。






 領主の館前まで来ると、さすがに町中での蛮行を聞きつけたのか、凄い数の領兵たちがしっかり守りを固めて待ち構えていた。


「貴様ら! 今が一体どういう状況か、分かった上での狼藉かー!!」


 隊長らしき兵士が吠えると、こちらも負けじとヤジを飛ばした。


「テメエらこそ、どういう了見で武装解除しろだなんて抜かしやがる!」

「腰抜けのテメエらに代わって、俺たちが戦ってやるって言ってんだよ!」

「おら、おら! こんな非常時に、テメエらの領兵長さんは一体何処で何やってんだ!?」


「ぐっ! これが最後通告だ! 大人しく武装解除せよ!」

「……こっちも最後だ。ここからは手加減しない。死にたくなければ引っ込んでろ!」


 さすがにこの大人数相手で手加減できる余裕はない。多少の死傷者は出るだろうが、諸悪の根源のクソ野郎を倒すためだ。何も知らず命令に従っているだけの兵士もいるだろうが、知った事ではない。彼らはただ選択を誤ったのだ。恨みは無いが、どうか俺たちの為に死んでくれ。


 まさに一触即発という雰囲気の中、互いに武器を握る手に力を籠めると――


「――待てええええい!! 領兵団、矛を収めろぉ!」


 横から何者かが怒声を放った。


 全員が声の持ち主に注目すると、そこには少しやつれた表情のオスカー領兵長が立っていた。その横には馴染みのアミントン分隊長に少数の兵士たちも付き添っていた。


「あ、あれは……!」

「オスカー領兵長だ!」

「一体、今までどちらに……?」


 どうやら末端の兵士たちには何も知らされないまま領兵長は幽閉されていたようだ。


 そんな彼を救ったのは当然この男だ。


「へへ、間に合ったな」


 領兵長たちの背後にはシュオウがいた。


 実はシュオウだけを一人先行させて、領主の館に忍び込ませていたのだ。シュオウの神業スキル【壁抜け】があれば、牢に忍び込んだり鍵を盗むのも朝飯前である。俺たちが町で騒ぎを起こしている隙に乗じて、先に領兵長を救出していたのだ。


 しかも、首尾よく分隊長たちとも合流できたようだ。


「聞けえぃ! 私は今まで、エイナル・サンハーレ子爵によって牢に閉じ込められていたのだ! 私の罪状もろくに告知せずにである! 私が投獄されたその本当の理由は……子爵が犯した大罪を私が知ってしまった為なのだ!」


 突如始まった領兵長の演説に、末端の兵士たちは困惑しながらも耳を傾けた。


「そのサンハーレ卿の罪とは、ゴルドア帝国及びイデール独立国の間諜と通じ、冒険者副支部長とその一派を使って小鬼を意図的に増殖させたことである! あろうことか、我々が仕えてきた領主自らが、此度の戦争のきっかけを作る為の工作に勤しんでいたのだ!」


「なっ!? そ……そんな馬鹿な!?」

「う、嘘だろ……!」

「まさか……本当なのか……?」


 領兵たちはひどく動揺していた。それを遠巻きに見ていた町民たちも同様である。


 無理もない。その真実を知っている者はごく一部の人間だけであった。正義は我々にあり、領主は民たちの事を思って止む無く無条件降伏を決断したのだと、そう思い込んでいた兵士たちがほとんどだったのだ。


「ええい! 騙されるな! 元領兵長は領主様に謀反を働いた罪で幽閉されていたのだ! その男の言っている事は、全て戯言だぁ!!」


 だが、ここに一人、裏事情を知る者がいた。俺たちとは面識のない、もう一人の分隊長である。どうやら彼はあちら側の人間のようだ。


「ほぉ? 私が謀反だと? だったらどうして、周囲に隠したまま私は牢に閉じ込められていたのかな?」

「黙れぃ! この状況下で、恐れ多くも領兵長の役職を頂いた貴様が謀反を働いたと兵士が知れば、混乱すると思って秘密裏に処理したまでだ!」

「……なるほど。即席で思いついた言い訳にしてはなかなか上出来ではないか」


 敵の分隊長の弁舌にも領兵長は余裕の態度であった。


「では、貴様の言う通りに謀反を働くとしよう」

「は? はああああああああ!?」

「「「ええええええええっ!?」」」


 兵士長の言葉に周囲の者たちは耳を疑った。あの真面目な領兵長が反旗を翻すと公言したからだ。


「もはや売国奴に仕える忠義なんぞ、私は持ち合わせていない! サンハーレ卿は今日ここで……我々の手で討つ! 帝国や独立国に抗う気概のある者は……私に従えぃ!!」


 領兵長が一喝すると、兵士たちは互いの顔色を伺いながらどちらに付くか迷っていた。


 しかし、時間が立つにつれ、一人、二人と、領兵長の元に駆け付ける兵が現れ始めた。


「私は……オスカー領兵長を信じております!」

「サンハーレ卿のお考えには承伏できません!」

「お、俺も……!」

「自分も……!」


 次々と兵が離反していき、領主館の玄関前を守護する兵士たちは、あっという間に少数派となってしまった。


 これではもう碌な抵抗もできまい。先頭にいる俺とエドガーは悠々と館に向かって歩き出した。


「これが人徳ってやつだな。じゃあ、そこは通してもらうぞ?」

「それ以上抵抗する気なら……殺す」


「うっ……ああっ……!」


 エドガーが脅しの言葉を放つと、僅かに残っていた兵士たちが引いて道を空け始めた。


 俺たちを引き留めることも、立ち向かう勇気すらも持ち合わせていない敵の分隊長は、その場に崩れ落ちてしまった。


 領兵長指示の元、捕縛される敵の分隊長を尻目に、俺たちは一足先に領主の館内部へと踏み込んだ。


「さて、親玉は何処にいるのやら……」

「多分、一階左奥の部屋ね。多数の闘気を持つ者が護衛に付いているわ」


 すかさずフェルがサンハーレ卿の居場所を見抜いた。さすがである。



 言われた通りの部屋に向かうと、そこには貴族っぽい偉そうなおっさんがいた。


 こいつがサンハーレ卿だろうか?


 その周囲には四人の領兵たちが護衛に付いていた。他には執事らしき男も近くにおり、見覚えのない来訪者の姿に驚いていた。


「ひっ!? き、貴様! 一体、私に何用だ!?」


 あの怯えよう……どうやら外での騒ぎはここまである程度聞こえていたらしいな。


 これは話が早くて助かる。


「お前がエイナル・サンハーレ子爵だな? お前の首を貰いに来た」

「貴様ぁ!!」

「傭兵風情が……大きく出たなぁ!!」


 護衛の者たちが一斉に剣を抜いた。なるほど、さすがに直属の護衛ともなると腕が立ちそうだ。


 だが、俺たちの敵ではない。


「殺すには惜しい人材だが……抵抗するならぶった斬るぜ?」

「「「――――っ!?」」」


 エドガーが睨みを利かせると、彼らはそのまま黙り込んでしまった。今ので彼らも格の違いを思い知った事だろう。


「さて、サンハーレ卿。何か言い残す事はないか?」

「ま、待て待て待てぃ! 私を殺しても、何の解決にもならないぞぉ! 第一、一体誰が私の代わりにこの町を統治するというんだ! ま、まさか……賎民の貴様らが? ハハッ、お前らなんかに町民どもが従う筈もなかろうが!」

「随分とユニークな遺言だが……まぁ、お前が言う事にも一理ある。確かに平民の俺なんかじゃあ、町の皆さんは従わないかもしれないなぁ」


 俺がサンハーレ卿の言葉に同意する態度を見せると、彼は活路を見出したかのように口を滑らせ始めた。


「そ、そうだろう!? その点、私を生かしておくと便利だぞ! 私なら……もっと上手く統治してみせる! なんなら、お前らを騎士に任命してもいい! 私にはこの先、侯爵の席が用意されているのだ! 君らを貴族にすることだって、夢じゃないんだぞぉ?」


 ちょっと面白くなってきたから黙って聞いていたが、やはりというか……こいつは侯爵という餌に釣られて国を売った下種野郎なのが確定した。


 うん、もういいだろう。ゼッチューのお時間だ。


「やっぱお前は要らない。だって、代わりに彼女がここを統治するもん」


 俺は後ろにいるステアを紹介した。


「わたくし、シドー王国の王女ですの!」

「……は? 王女……様? ……え?」


 ステアの思わぬ発言に、サンハーレ卿たちは呆けていた。

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