第24話 新たなる居場所

 フラガ大回廊に入って二度目の検問も無事通過した。イートンたちの言う通り、通行料さえ支払ってしまえば、入る時以外は荷の確認すら行われなかった。


 もう数日も馬車を走らせれば、一次目的地のザイツ王国へと辿り着く。そこで東部の情報を精査し、改めて過ごしやすい拠点場所を模索する予定だ。



 本日もパーキングエリア的な広場に馬車を停めて夜営の準備を始める。


 もうここは大陸の東部と呼べる位置だ。俺の祖国であるヤールーン帝国は、西隣にあるキュラース皇国に次いで二番目に西側に位置する西部だから、まるで正反対の位置までやってきた事になる。


 思えば随分遠くまで来たものだ。鉱山や闘技場から一歩も外に出られなかった奴隷時代では思いもしなかった状況の変化だ。



 食事を終えると、俺はふらふらと各テントを巡った。すると、ニグ爺の傍に座り瞑想しているステアとクー、それにソーカの姿が見えた。何れも神術の才を持つ少女たちだ。


「これは……神術の鍛錬なのか?」

「ふぉっふぉっ。まぁ、そんなもんじゃのぉ」


 魔力を感じるのが苦手な俺には、彼女たちはただ座って目を瞑っているようにしか見えない。


「もしかして、寝てるんじゃないのか?」

「違うわい! 魔力を少量ずつ放出し続ける修行じゃ!」

「……それで、神術が上手くなるのか?」

「魔力量を増やすには、魔力を長時間使用し続けるのが最も効果的じゃ! それ故の鍛錬よ!」


 流石は年の功というべきか。色々と博識な老人だ。


 ステアは魔力量が少ない事を気にしていた。その発端はイートンの発言である。



 ステアの神業スキル【等価交換】は、硬貨を使用して同等の価値ある地球通販の商品を生み出す事ができる。


 これまで多くの食べ物や日用雑貨などを生み出してきたが、その度に硬貨を消費し続けてきた。ある時イートンが「しかし、このままでは硬貨が減り続ける一方ですな」と呟いた。


 別にイートンに悪気があっての発言ではない。ステアの生み出す品々が魅力的過ぎて冗談紛いに呟いただけだ。とはいえ、確かにこれは問題かもしれないとステアは考え始めた。


 普通は店でお金を使って商品を買い、店の商人は更に儲けようと、その得たお金で品を用意する。これは一例だが、お金とは使って回してこそ価値がある。しかし、ステアが使ったお金は消えてしまう。只々消失し、後はそのままだ。


 その事を気にし始めたステアは、自分の神業スキルにあるもう一つの能力を思い出した。ステアは己の魔力と引き換えに、相応の硬貨やモノを生み出す力もあるのだ。


 だが、ステアの魔力量では全魔力を消費しても銅貨3枚分ほど……微々たる金額しか生み出せない。


 それを少しでも改善する為、彼女はニグ爺に教えを乞う事に決めた。


 ニグ爺としてもステアからの頼みは断れない。この老人の最近の楽しみはステアの生み出す日本酒を嗜む事である。それを盾にされれば、このアル中はどんな願いも頭を縦に振るしかないのだ。



「今のステア嬢なら全魔力で銅貨5枚分は生み出せよう。その分、酒も沢山生み出せるじゃろうて」

「ほう? そんなに効果のある修行なのか。クーやソーカも成長しているのか?」

「ソーカは幼い頃からやらせているからのぉ。その分魔力量は二人より多いが、これ以上伸びるのは難しいかもしれん。クーの方は…………ん?」


 ニグ爺は瞑想している筈のクーを見た。


(いや、待て……こいつ、本当に寝ていやがる!? 首が完全に舟を漕いでいる、あの動作だ!)


「こりゃあ!」


 コツン!


「ぷぎゃっ!?」


 ニグ爺の杖で頭を叩かれたクーは涙目で俺を睨んだ。


(いや、叩いたの俺じゃねえから!? あっち、あっち!)








 一行は東を目指しながら大回廊を進んで行く。


 休憩時間や夜にはニグ爺による神術の特訓時間も設けていたが、その様子を見ていた子供たちが興味を持ち始めた。そこでニグ爺に、子供たちに神術の才能があるかを見てもらうと、なんと有望な子供が五人ほども現れた。


 まずはエルフ族の姉妹、テテとトアだ。まぁ、これは種族的にも納得だ。それとドワーフのツワチも神術の素養があるそうだ。


 他には人族の子供で男女一人ずつ才能持ちを発掘した。この数にはニグ爺も驚いていた。それほど神術士の才能とは稀有なモノなのだ。


「わたしはまほう、つかえにゃい?」


 猫族の獣人、ウーミが俺に引っ付きながら尋ねてきた。


「ウーミは闘気使いの才能があるな」

「わたし、トーキつかいにゃ!」


 獣人は総じて身体能力が高く、闘気の量も平均より多いと聞く。人族はどれも平凡で、エルフ族は神術全般に長けている。ドワーフ族はやや闘気よりだが、火と土の神術も得意といった具合だ。


 あくまで目安であり、個人差や環境で変わる。俺のように人族でも闘気つよつよ、魔力よわよわな者もいるしね。



 ニグ爺の神術特訓に感化されたのか、エドガーやフェルたちもそれぞれ才能のある子を見つけ、暇を見つけては子供たちに技術を叩きこみ始めた。


 イートンも頭の回転が速い子供に文字や計算を教えている。俺も文字が若干怪しいので子供たちに混じって共に習う事にした。




 そんな充実した日々を送りながら、俺たちはいよいよザイツ王国へと到着した。








 ザイツ王国


 大陸の北東部に位置する小国ではあるものの、フラガ大回廊の恩恵と隣国の大国、ユーラニア共和国の庇護下にある事から、比較的治安の安定した小国である。


 そのザイツに入国すると、俺たちは最寄りの町で、まずは傭兵団の設立と、希望者の傭兵登録を済ませた。ついでにエドガーが俺の団への移籍を申し出ると、珍しくギルドの受付嬢が話しかけてきた。


「エドガーさんは金級中位ですが、ケルニクスさんの団員という形になりますと、鉄級下位に降格しますが……本当に宜しいのですか? エドガーさんが団長なら、階級はそのまま維持されますが……」

「ああ、構わねえ。こいつが俺たちのボスだ」

「……かしこまりました」


 エドガーは長年の実績で昇り詰めた金級から鉄級へ落ちるのに何の躊躇いはないようだ。フェルたちAランク冒険者“疾風の渡り鳥”も全員俺の団員として所属すると言ってきた。


 フェルとは短期の奴隷契約を結んでいるが、別に傭兵になる必要はない。そう言ったのだが、彼女の決意は固いらしい。カカンとニグ爺、こいつらは……予想通りステアの酒で陥落済みだ。ソーカも日本のデザートで釣られた感も否めないが、別に冒険者を辞める訳ではないらしく、掛け持ちで傭兵団に入るのは問題無いと言っていた。


 俺はそんな彼らの覚悟に答える事にした。


「エドガー、フェル。今ここで、君たち二人の奴隷身分を解放する」


 俺がそう宣言すると、二人に付いていた隷属の首輪が外れた。


「おいおい、いいのか? そんなことして、土壇場でお前の寝首を掻くかもしれねえぞ?」

「そうなったら俺の見る目がなかっただけだと諦めて、返り討ちにするだけさ」

「そこは大人しく寝首を掻かれてろよ!? まあ、その……なんだ。今更お前に思うところなんかねえよ!」

「多少は信用してくれたって証よね? 悪い気はしないわ」


 奴隷から解放しても二人はそのまま団員として俺を支えてくれるようだ。


「それで、傭兵団の名前は決めたのか?」

「…………どうしよう?」


 まだ全然カッコイイ名前を決めていなかった。



 結局その場で傭兵団の申請だけは行ったものの、団の名前は無名のままで一旦ギルドを後にした。皆の所に戻ってその件について話すと、全員で熱い議論が交わされた。


「“火竜の牙団”! どうだ!? よくね?」

「いやいや、“漆黒の聖騎士団”の方が……」

「騎士団ってガラじゃあねえだろう? “金剛戦士団”とかどうだ?」

「全然可愛くないわ!ここはやっぱり “疾風の渡り鳥団”よ!」

「「乗っ取るんじゃねえよ!?」」


 アイデアは次々と出てくるのだが、どれも中二病くさい名前が多い。


 なんでも傭兵団は名前からして舐められないよう、勇ましい単語を好んで使用するそうだ。後はその傭兵団の特徴を現したような名前なんかが使われたりもする。


 子供たちも面白がって色々な名前を提案してくれるのだが、さすがに“最強無敵団”とか採用した暁には、他の同業者から笑いの種にされてしまうので却下だ。



「団長はケルニクスですの! 貴方が決めたらどうですの?」


 結局、ステアのその一言で俺が考える羽目になった。


(うーん、俺の団の名前……俺の特徴……二刀流? 転生者?)


 その日はずっと名前だけを考え続けていたが、最終的には“不滅の勇士団アンデッド”と名乗る事にした。


 俺たちはそれぞれ図らずも、一度地に落ち再起を目指している者ばかりだ。ある者は地位を、ある者は名誉を、家族や祖国すら奪われた者もいる。


(まぁ、エドガーとフェルたちは半分俺の所為だけど……)


 だが、今ここでこうして生きていられるのは、俺たちが諦めずに決断し行動したからだ。不撓不屈、その精神こそが俺たちの持ち味だと思っている。


 そういった意味も込めて何度でも立ち上がる存在、アンデッドを名乗る事にした。


 ちなみにこの世界にアンデッドは存在しない。ギルドに団の名前を申請した際、「これで“あんでっど”と読むのですか?」と不思議がられたが、この世界の文字“不滅の勇士団”にアンデッドというキラキラネームを当てただけだ。読める筈も無かろう。


 勇士団でもアンデッドでも好きに呼んでくれと、ギルド職員にはこれで押し通した。俺はアンデッドで通そうと思っている。



 こうして俺の傭兵団“不滅の勇士団アンデッド”が誕生した。


 団員はステア、エータ、クーの元シドー王国組。それに元怪盗のシュオウと凄腕傭兵のエドガー、“疾風の渡り鳥”のAランク冒険者四人も加わった。


 イートンは団には所属せず、その支援組織として商会を立ち上げてもらう。我が傭兵団の活動資金を稼ぐ為の重要な部署となる。ついでに孤児育成施設の資金もイートンに調達し、運営してもらう。彼のサポートとしてサローネとルーシア姉妹がつく形だ。


 ステアも基本留守番だが、彼女自身も一応神術が使えるのと、既に傭兵登録もしていたので、継続して団員メンバーの一員となった。


 孤児たちの中には傭兵団に志願する子もいたが、いくらなんでもまだ若すぎるし許可できない。ある程度の実力を身に着けてから傭兵団入りするか、それかイートンの商会を手伝うか、あるいはそのどちらでもない第三の道を選択するのも良いだろう。


 もう少し大きくなったら子供たち自身に決めさせるつもりだ。




 新たな団を立ち上げてからは、平凡な依頼を幾つか熟しつつ、その傍ら東部周辺国の情勢を調べ続けた。


 ある程度情報も集まり全員で相談した結果、ザイツ王国からずっと南にあるティスペルという国が、ここ最近では戦争も少なく情勢も比較的安定しているということで、まずはそこを目指す事にした。


 何より海に面している国だというのが気に入った。


 やはり元日本人としては内陸の国だと些か物足りない。海の幸を思う存分味わいたかったし、久しぶりに海も見てみたい。


 それにステアの生み出す品には海産物の類も多いが、その出処を尋ねられた時に、沿岸部であればその言い訳も立つ。海で獲ってきたとか、商船との取引で得たとか、色々と誤魔化し易くなるのだ。




 俺たちは早速ザイツを離れ、しばらく南進した。


 ザイツを出る直前、ステアの【等価交換】で生み出した商品を使って、イートンは悪徳貴族相手にかなり派手な荒稼ぎしたようだ。なんでも日本の百均で売っていそうな安物のガラス食器を、最先端技術の食器と称して強欲貴族や商人たちに金貨数枚で取引し続けたらしい。


(最先端と言えばその通りなんだが……こいつ、マジか!?)


 イートンの悪徳貴族嫌いは相当なようだ。普段は誠実な取引をする男だが、相手によっては悪質な詐欺師へと変貌する。ちょっとやり過ぎたので何人かの貴族を怒らせてしまったようだ。当分ザイツ王国には近寄らない方が賢明だろう。


 だがイートンのお陰で軍資金がかなり増えた。これならティスペル王国へ行っても土地や建物を買うお金くらいは十分ある筈だ。




 それから二週間以上掛けて、俺たちはとうとうティスペル王国の東沿岸部にある街サンハーレに辿り着いた。


 この街はティスペルでも屈指の港が有り、オラシス大陸の東沖にある島国や沿岸部の港町との交易も盛んだそうだ。どうやら近海レベルなら航行するだけの造船技術を持っているらしい。


 サンハーレの街外れにある土地を購入し、そこに大きな建物を二棟建てた。表向きは“エビス商会”の商会長イートンの邸宅と、その彼が経営する児童養護施設となっているが、そこが俺たちアンデッドの新たな拠点となる。


 ちなみに“エビス商会”とは日本でお馴染みの七福神、恵比須様から拝借して俺が命名した。俺の故郷の商売の神の名前だと教えると、イートンは喜んでその名前を採用した。



 こうして俺たちはサンハーレという土地で第二の人生を歩み始めたのだ。








 それから3年後…………








「ケリー! イートンさんが呼んでますのー!」


 ステアに声を掛けられた俺は剣の鍛錬を止めた。


 先ほどまで繰り返し振るっていた剣を鞘に納め、流れ出る汗を手早く拭き取った。


「イートンさんが? もしかして行商の件かな?」

「多分そうじゃないかしら? 馬車の手配もしておりましたし、わたくしにも携帯食の生成を依頼してきましたわ!」


 そう答えたステアは今年で15才となっていた。


 身体も随分と成長して、徐々に女性の色香も出始めていた。身長も伸びている筈なのだが、それ以上に俺が大きくなった為、あまり背が高くなったようには感じない。



 ステアと共に歩きながら、俺たちは雑談を交わした。


「それにしても、ケリーって本当に私と同い年ですの? もう年上にしか見えないですの……」


 最近仲間たちは俺のことをケルニクスではなく、”ケリー”と愛称で呼ぶようになった。


 イートンなどは立場上そのまま本名で呼ぶが、3年以上も一緒に居ればそれなりに仲良くなるというものだ。


「あー、俺は自分の正確な年齢を知らないからなぁ」


 そもそも気が付いたら俺は鉱山奴隷として働かされており、当時はチビガキだったので、10才ということにしておいただけだ。


 それから2年経過し、奴隷から解放されてステアたちと出会った。その時の年齢は彼女と同い年の12才ということになっていたが、まともな食事を取るようになってからは、身体がグングン大きく成長してきた。


 今では身長も180cmくらいあり、髪も大分長くなったので後ろで結っている。確かにこの見た目で15才というのも些か不自然かな?


 そもそも精神年齢はとっくにおっさんなのだ。


「じゃあ、今日から俺は18才だ!」

「いい加減ですの……」



 そんなくだらない会話をしていたら、あっという間に俺たちのホームであるエビス邸に着いた。そのすぐ隣にはエビス児童養護施設がある。去年増築したばかりで、エビス邸の三倍以上の広さがある施設だ。


 そこには三年前に保護した孤児だけでなく、俺やイートンがちょくちょく新しい孤児たちを拾ってきては、この施設で面倒を見ていた。


 いや、偉そうな事を言ったが、実際に面倒を見ているのは俺たちが雇った元シスターや未亡人の女性たちだ。全員色々と訳アリの身で、奴隷契約にも用いられる神術の契約書を使って雇用している。


 これは別に雇用者を奴隷扱いしている訳ではなく、守秘義務を課しているだけにすぎない。もし契約を破って誰かに秘密を漏らすと、その者と結んだ契約書とその写しが白紙になる仕組みとなっていた。商人ギルドでも使用されている公的なモノだ。


 契約書自体にペナルティを与える呪いなどの効力は一切無いが、白紙になった時点で契約を違反した者が判明するので、彼女らも滅多な真似は起こさないだろうと考えている。


 尤も、雇用者の人となりは最優先で事前審査をしていた。それだけ俺たちには秘密が多いのだ。その最たる機密事項は、やはりステアの神業スキルと彼女の出自だろう。


 呆れた事にシドー王国では未だに王権争いの火種が燻ぶっている状況なのだ。アリステア・ミル・シドー第三王女は現在行方不明とされ、あれ以降彼女を追う賊の姿は一切見られないが、何時こちらに飛び火するか分からない内戦状態が続いていた。



(シドー王国……その内に排除するか?)


 俺が剣呑な事を考えていると、孤児たちが俺たちの姿を見つけ集まってきた。


「あー、ダンチョーだー!」

「ダンチョー!! あそぼー!」

「ステア様もあそぼー!」


 人族の男の子に足を絡めとられ、獣人の女の子に首へ飛びつかれ、人族の少女に袖を引っ張られる。あっという間に包囲されてしまった。


「ほら、ケリーはこれから大事なご用ですの。おやつを上げますから、食堂に行きますわよ!」

「「「わー、おやつー!!」」」


 人気者の俺もおやつには勝てなかった。


 さっきまで取り囲んでいた子供たちはステアと共に去ってしまった。それに少しだけ寂しさを覚えた。



 何時までも油を売っている訳にもいかず、俺はエビス邸に入ると、イートンの執務室へと向かった。


 すると、丁度二人の少女と出くわした。


「あ、師匠マスター!」

「ん、ケリーも呼ばれた?」

「ああ、イートンさんの件だろう?」


 声を掛けてきたのはソーカとクーの二人であった。


 ソーカは19才になり、身長も然ることながら、性格も大分落ち着いてきたが、相変わらず俺に勝負を挑んでくる悪癖だけは直らない。


 仕方なく相手をし続けていたが、彼女の才覚は凄まじく、それでも俺は辛うじて勝利し続けてきた。すると、何時しかソーカは俺の事をマスターと呼ぶようになった。丁度俺の身長が彼女を超えた辺りからだろうか?


 3年以上前に、俺は“闘技二刀流”という流派を軽い気持ちで立ち上げた。その流派の弟子にしてくれとソーカは頭を下げて頼んできたのだ。


 師匠となると何かと面倒だと考え、その話を俺は拒み続けていたが、それでもソーカは食い下がってきたので、「【風斬かざきり】を会得したら考えてやる!」と口を滑らせてしまった。


 そしたらなんと、ソーカより先にクーが会得してしまったのだ。


 仕方なくクーを弟子一号と認定した。


 それが悔しかったのかソーカも必死に修練し、クーから遅れること一カ月後には、彼女も【風斬り】をマスターしてみせたのだ。



 それ以降の勝負はもう大変であった。ソーカのスピードに【風斬り】の遠距離斬撃まで加わったのだ。俺も陰で必死に修行し、今でもなんとか連勝記録と師の威厳を保ち続けている。


 そういった事情で、現在“闘技二刀流”にはたった二名の門下生が存在していた。


 しかもクーがイートンにおねだりしたらしく、この屋敷のすぐ隣には“闘技二刀流”専用の武道場を建設中で、もう間もなく完成予定だ。たった三名しかいない流派にしては本格的な武道場が建てられると聞いて、開祖である俺が一番困惑していた。




 その三人でイートンのいる執務室へと向かい、扉をノックすると返事があったので、俺たちは入室した。

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