第48話
四章第二
「ふう、これで全部ね……」
七海は小太刀を鞘へとしまいながら一息つく。
彼女の周りには【虚無】によって朽ちていきつつある幾体もの怪異の姿があった。
今晩も彼女の怪異討伐に同行させてもらった。集合場所から少し歩いた場所に怪異が出現し、七海はこれら怪異を瞬く間に討伐した。足もほとんど治ったのか、以前にも増して、その動きは俊敏だった。
「そうだな……」
戦闘が終わったのを確認して、俺は建物の陰から顔を出す。戦闘中は七海の役に立つことができない。むしろ俺がいることで七海が戦いづらくなる。そのため、戦闘が始まったらすぐにどこかに隠れるよう七海から言われていた。
「さて、それじゃあ、さっさと次に……」
そう言って、七海が体の向きを変えたそのときだった。
くう~
誰かのお腹がとても物欲しそうに鳴り響いた。もちろん、俺ではない。戦闘にも参加せず、腹だけすかしているのはさすがにみっともないから、事前に軽食をとって、お腹がならないようにしている。
となると、先ほどの腹の虫は……
「……」
俺は小太刀を携えたクラスメイトに目を向ける。
「っっ⁈」
視線を向けられた七海はとっさにお腹を押さえた。
「えっ、なにっ。言っておくけど私じゃ……」
しかし、彼女のお腹は素直だった。
くう~
再び可愛らしい腹の虫が音を立てる。さすがに今度のは誤魔化せそうになかった。
「……」
「……」
気まずくなってお互いが無言になる。
七海も事前に軽食を摂ってここには来ているだろう。しかし、今は日付をとうにまたいだ時間だ。軽食の消化も済んでいるだろうし、彼女は戦闘で動き回っているのだから、この時間になればお腹もすく。
七海は顔を赤らめながら自分のお腹を押さえていた。魔導師として数多の怪異をせん滅してきた彼女だが、やはり一人の女の子として、お腹の音を異性に聞かれるのは恥ずかしいらしい。
「えーっと……、よかったらお弁当を作ってきたから食べるか?」
身を縮こまらせる彼女に問いかける。
俺が少しだけ彼女に近づくと、彼女は警戒する猫みたいに鋭くこちらを睨みつけてきた。
「お、お弁当ってどういうこと?」
彼女は睨みつけたまま質問してくる。
どれだけ警戒してんだよ、と思いながら頬を掻いた。
「あ、えっと、俺は魔力を持ってなくて戦えないから、こういった形で少しでも七海の役に立ちたくて……。それで、怪異と戦っていたらお腹もすくかな、て、家で作ってきた」
持ってきたバックの中から風呂敷に包まれたお弁当を取り出す。そして、それを七海の前に差し出した。
出されたお弁当を見て、七海がゴクリと唾を飲みこむ。
「……それじゃあ、少し休憩しようか」
そうして、俺たちは近くで腰を下ろせそうなところまで移動した。
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