第47(3)話
いきなり姿を現した彼女に落ち武者たちの視線が集まる。
彼女は落ち武者たちの正面に立つや否や鞘に入っていた二本の小太刀を抜刀した。
「――【
彼女の凛とした声が鳴り響く。
「――《
漆黒の粒子が二本の刃へと収束し、一撃必殺の妖刀へと変える。
彼女から聞いたことなのだが、彼女の魔導は【虚無】なのだという。自分以外を拒絶する力。普通の武器を一撃必殺の魔剣に変える力。
彼女の魔導を目の当たりにして危機感を覚えたのだろうか、先手必勝と言わんばかりに落ち武者たちは彼女に襲い掛かった。
同時に、彼女もやつらに接近する。
一番彼女の近くにいた落ち武者が右手に持っていた折れた日本刀を振り上げた。
「……おそい」
しかし、その振り上げられた手が彼女に向って下ろされることはない。
七海は落ち武者が手を振り上げた瞬間、持っていた小太刀をがら空きとなった落ち武者の腹部に突き立てる。
「〇××◇■◇■◇○○~」
落ち武者の声にならない悲鳴が耳をつんざく。
ただ、俺とは違って、間近でその声を聴いているはずの七海は顔色一つ変えない。突き刺した小太刀を引っこ抜くと、魔導が侵食し、崩れ始めていた甲冑を思いっきり蹴りつけた。そして同時に、後方に跳ぶ。
直後、さっきまで彼女がいた地点に他の落ち武者が勢いよく槍を突き出した。
彼女の目の前を穂先が過ぎ去る。
「――ッッ」
地面に着地した瞬間、七海は方向を変え、槍を持った落ち武者に肉薄する。
いきなり懐に飛び込んできた彼女に落ち武者も対応しようとするが、それを彼女は許さなかった。
またもや甲冑の隙間から、自身の小太刀を突き入れる。
「〇××◇■◇■◇○○~」
落ち武者は奇声を上げた後、その場に崩れ落ちる。
残るはあと一体。
七海は小太刀を引き抜くと、最後の一体に体を向ける。
そいつは鎖鎌を自身の獲物としていた。一瞬のうちに仲間が二体もやられたことに戸惑っている様子だったが、すぐに気を持ち直し、七海に目掛けて分銅を投げつける。
鉛でできた重しが勢いよく彼女へと襲い掛かる。
七海はこれをわずかに顔を反らせることで回避。分銅が真横を過ぎ去るや否や、落ち武者に向かって突進した。
一瞬のうちに一人と一体の距離が縮まる。
彼女は落ち武者の数歩手前で地面を蹴って飛び上がった。
黒衣に身を包んだ彼女の身体が宙を舞う。落ち武者は鎌を振り回すが、彼女に当たる気配はない。
落ち武者が彼女の間合いに入るや否や、七海は小太刀を横に振りぬく。
小太刀は、甲冑と兜の間、つまり落ち武者の首へと吸い込まれ、バシュッと、肉と骨を切り裂く音を奏でる。
七海が地面に着地したのと落ち武者の頭と胴体が離れ、その場に倒れこんだのは同時だった。
落ち武者の生死を確認することもなく、七海は小太刀を鞘に納める。
倉庫街に静寂が訪れた。
「……」
「……」
彼女が戦っている間、いつかと同じように彼女の戦いから目が離せなかった。
やはり彼女の腕はすごい。使う魔導はあの一つだけだが、身体の動き、武器の使い方が洗練されている。無駄な動きは一つもなく、常に次の行動が考えられている。
まだ怪我の影響が残っているはずなのに、そんな気配はみじんも感じさせない。
これが怪異を討伐する魔導師なのか、とただ感心するだけだった。
少しして、七海がこちらに顔を向けた。
「桂君、もう出てきてもいいよ」
そう言われて、俺はようやく倉庫の陰から出てきた。小走りで彼女のもとに向かう。
「あっという間だったな」
俺は足元に転がった落ち武者たちに視線を向ける。
どいつもこいつも彼女の【虚無】が浸透し、身体はもうボロボロに朽ちていた。
「いちいち時間をかけていられないから。さ、次に行こう」
もう用は済んだと言わんばかりに、彼女はその場を後にしようとする。
「あ、ま、待ってくれよっ」
彼女に置いて行かれないよう、俺は急いで彼女の後を追いかけるのだった。
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