第49話

 七海が先に腰を下ろし、俺がその隣に座る。ベンチみたいに立派なものではなく、俺たちが腰を下ろしたのはただの切り株だったが、意外と座り心地は悪くない。そもそもこんな山奥で座れそうな場所を発見できただけでも僥倖だろう。


「で、一体何を作ってきてくれたの?」

 七海は興味津々で尋ねてくる。

「ちょっと待ってくれ……」


 鞄の中から再び風呂敷に包まれたお弁当を取り出し、膝の上に乗せる。それから、ゆっくりと風呂敷を解き、弁当箱の蓋を開けた。

「……はい」

 蓋を開けると、そこにはたくさんのおにぎりが入っていた。他におかずはない。ただひたすらに黒い海苔に巻かれたおにぎりが並んでいた。


「……」


 七海はじっと俺の膝の上に置かれたお弁当を見つめる。

「えっと、七海のために何か作りたいとは思ったんだけど、俺、そんなに料理を作ったことがなくて……。それで、俺でも簡単に作れるものを考えるとこうなりました……」

 あまりにもモノクロなお弁当に少し恥ずかしくなった。

 七海はさっきから黙ってその白黒なお弁当を見つめて、やがて、


「あはは……」


 ふと笑みをこぼす。夜に会う七海が笑ったのはこれが初めてだった。

「なにこれっ、すっごい白黒じゃんっ。ただひたすらにおにぎりって、私、そんなに白米大好き人間じゃないんだけど?」

 七海は先ほどとは違った理由でお腹を押さえながら、クツクツと笑う。目の前のお弁当の光景がよっぽど受けたらしい。

「……」

 俺は目の前で笑う七海が新鮮でしばらく呆けていた。

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