第12話★

「どういうことー⁈」

「あ、あ、あああの櫻木さんと……」

「俺なんか話しかけることさえできてないのにーッ」

「ブヒーッ」

 女子からは黄色い声、男子からは怨嗟の声が聞こえる。あと、人外の声も……

 笹瀬さんの放った一つの質問により教室はカオスな状態になった。


「え、えっと、落ち着いて……」

 俺は目の前の混沌たる状況にたじろぐしかない。今目の前で何が起こっているのか、まったくもって理解が追い付かなかった。


 しかし、

「これが落ち着いていられるかーッ」

「転校早々、我々の女神に手を出しやがってッ」

「桂くん、桂くん、どういうこと?」

 みんなの興奮が冷める気配はない。なぜこんなにもみんな反応しているのだろうか。俺はただ困惑するばかりだ。


 パンパンッ


 その時、川島先生が両手を鳴らした。途端に、みんなが先生へと視線を飛ばす。

「はいはい、よくわからんけど、この質問は長くなりそうだからもう打ち切りなー」

 時刻は授業開始一分前。もうすぐチャイムが鳴るだろう。

「えー、せんせー、この質問だけー」

「けちー」

「ブヒー」

 みんなが先生の言葉に不満をたれる。あれ、やっぱり人外の声がする。

 先生は、困ったように笑う。

「だって、この質問許したら先生の授業、半分くらいつぶれそうだしなー」


 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン


 その時、ちょうどいいタイミングで始業のチャイムが鳴った。

「ほらほら、みんな静かにして。もうあきらめろよー」

「ちぇー」

 生徒たちは不満そうにしながらも、静かにし始める。


 このあと、絶対質問攻めにあうよな……。どうやら俺の五十分後の未来は決まったようだ。


「さて、桂の席だが……」

 先生は教室を見回す。そして、右後方のところで視線を止めた。

「お、あそこの空席にするか。桂はこれからあの席な」

「はい、わかりました」

 俺は、先生に示された席まで移動する。そして、自分の鞄をかけて椅子に腰を下ろした。

 窓際で後ろから三つ目の席。窓から外を見つめることができる窓際席というのは運がいい。


 不意に隣の席に目を向ける。長い黒髪をポニーテールに結んでいる女の子。その子は、机に突っ伏して寝ていた。

 さっきまであんなにうるさかったのに、よく寝ていたな。

 すると、彼女の体がズズっと動いた。どうやら目を覚ましたようだ。


「んん」

 机と一体となっていた上半身を起こす。目元をこすっているあたり、まだ若干眠そうだ。彼女は、鞄から授業で使う教科書を取り出そうと、俺の方に体をよじった。

 その時、俺は彼女と目が合う。


「「あっ」」


 二人の声がハモった。腰辺りまで伸びた長い黒髪に、端正な顔立ち。そう、昨日屋上で出会った彼女だ。同じクラスの子だったのか。

 そして彼女も俺に気づいたようだ。声を発した後、その端正な顔がどんどん赤くなっていく。

 しまいには、


「ッッ!」


 すごい勢いで教科書を取り出し、黒板の方を振り向いた。


 あー、もしかしてこれ、嫌われたパターンかも……


 目の前で女子に拒絶された俺は、気を落としながらも授業を受けることにした。ちなみに、授業中に何度か隣を見たが、彼女は時折、俺をまるで射殺すかのごとく睨みつけていた。

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