第13話★
五十分後、川島先生の物理の授業が終了する。
チャイムと同時に俺の席へと集まるクラスメイトたち。俺の席の周りはあっという間に人だかりが完成した。
「かつらー、櫻木さんと連絡先を交換したってどういうことだぁ?」
「桂くんって、櫻木さんと仲いいの~?」
「え、えーっと……」
授業が始まる前からこんなことになるとちゃんと分かっていたのに、やはり戸惑ってしまう。
「はい、はーい、ちゅーもーく」
その時、笹瀬さんがクラスメイトの波を割って入ってきた。
「ほらほら、桂君が困っているでしょ? まずは、一旦落ち着いてー」
すると、みんなの興奮が少し収まる。
助かった……。ん、いや、そもそもこの人がこの騒動の原因だった……
笹瀬さんは、俺の前で立ち止まる。
「自己紹介がまだだったわよね? わたしが、ここの学級委員長をやっている
七海はそう言って、俺に向かって右手を差し出す。
「俺は、さっきも自己紹介をしたけど、桂昂輝。七海、よろしくね」
俺はそうして差し出された七海の手を握った。まさか七海が学級委員長だったとは思わなかった。
「さて……」
どうやらこれからが本題のようだ。
「みんなが一斉に質問しても桂君が困って答えられないだろうから、わたしがみんなを代表して質問するわね。みんな、それでいいー?」
「まあ、笹瀬ならちゃんと聞き出してくれるだろ」
「うん、いいよー、七海ちゃん」
「ななみーん、新聞部の本領みせろー」
へー、七海は新聞部なのか……
「でッ」
七海の瞳が鋭く光った。
ゴクッ……。思わず身構えてしまう。
「桂君、昨日学園で櫻木さんと校内デートをした後に連絡先を交換した、との目撃情報があったんだけど、これは全部本当のことかしら?」
「「「「「「「「「「なにッ」」」」」」」」」」
女子は瞳をハートにし、男子は瞳を殺意で燃やしていた。
「ちょ、ちょっと、待って。そもそもあれはデートとかじゃなくて、ただ櫻木さんに学園の案内をしてもらっていただけだからっ。それに、連絡先も俺が困ったときのためにってことで交換しただけで……」
俺は今後の学園生活のため、みんなの誤解を解くのに必死だった。
すると、七海がふうっとため息をつく。
「あのね、桂君。櫻木生徒会書記はこの学園の天使とまで言われているような高嶺の花なの。そんな櫻木さんが、昨日、謎の男子転校生と談笑し、さらには連絡先まで交換した。櫻木さんは、誰にでも気安く話しかけてくれるけど、連絡先はなかなか人に教えてないのよ? これはまさに学園の一大事! そんな言い訳が通じると思っている?」
七海の言葉にクラスメイトはうんうんと頷く。
やはり櫻木さんは生徒のみんなから絶大な支持を集めているらしい。まあ、あれだけ可愛くて、性格もいいってなればそうなるか。
とはいっても、実際ただ学園を案内してもらっていただけだから、これ以上の説明のしようがない。
俺は、どうやったらみんなが納得してくれるか思考を巡らせていた。
「――ああ、桂が言っていることは本当だよ。俺も櫻木さんと一緒に学園を案内したからな」
その時、一人の男子生徒が俺のそばまでやってきた。背は一八十センチぐらいあり、飄々とした感じのイケメンだった。
しかし、櫻木さんと一緒にこの生徒がいたという事実はない。
すると、彼は俺の方をちらりと見やった。どうやら合わせろと言っているようだ。
「そうだった。彼も一緒だった」
「え、でも遼はなんで学園に来ていたんだよ? 遼は帰宅部だろ?」
近くにいた男子生徒がいぶかしむ。
「その日、俺の彼女が学校で用事があったから迎えにきていたんだ。そしたら、たまたま桂たちに会って、成り行きで案内していた」
「そういえば、遼の彼女、生徒会に入っていたな。その繋がりか」
どうやら、彼も合点がいったらしい。遼と呼ばれた青年は話を続ける。
「そうそう。で、生徒会の会議があって案内もそろそろ終わろうってなったとき、俺が連絡先を交換したらどうだって提案したんだよ。ま、俺はちょうど携帯を持って来てなかったから、桂と櫻木さんだけ連絡先を交換したけどな」
「へー、てことは、本当に学園の案内だけだったんだね」
「これでまだ安心して櫻木さんを狙えるぜ」
「良かった。僕はまだ人を殺さずにすんだ」
彼のおかげで、みんな納得してくれたようだ。なんか身の危険を感じるようなことも聞こえたけど、気にしないでおこう……
「ふーん、携帯を持ってなかったねぇ……」
そんな中、七海だけは懐疑の目を彼に送っていた。
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