第9話 和解

「あなた、突然、自分があの場に落とされたらと考えてみなさい。普通、殺されると思うから」

 何故、逃げたのですかと尋ねたらこう返された。病み上がりの頭は、普段よりもすっきりとしていた。ベッドの上で、聖女様から窓外へと視線を移す。

「いや、うん…。え?」

 頭を抱えた。そりゃあ、そうだよなあ…。こっちにとっては聖女様でも、その実ただの少女である。

「何かしらの儀式だと直観したわ」

「まあ、正解です」

 その場でくるくる回る聖女様。ドレスの裾がふわあっとする。

「面白いわね、コレ!」

 ドレスも着たことがないとは。気の毒に思っていると、額を指で小突かれる。

「ふざけるなよ。私は、吉田よしだ家の姫だ」

「それは、申し訳ありません」

 上目遣いに見る。繊細なパーツに宿るは、荒ぶる魂。

「私のおじい様は、その昔、男子校で一等綺麗だったと聞くわ。そう、姫よ。姫! 学校中の生徒から、そう、何かアレな対象として見られていたのだから!」

「アレ…?」

 首を傾げる。

「皆まで言うまい。とにかく、そんなおじい様の若い頃にクリソツな私」

「まあ、顔は綺麗ですね」

 うっ、微妙な物言いだったか。唾を飲み込む。

「それはどうでもいいの。私、いけにえになるのは二回目なの。これでも慣れているのよ」

 手を当て胸を張る。

「……。良くないですよ」

「あなた方が呼んだくせに。で、私は何をしたらいいのかしら」

 溜息を吐く。

「勇者を呼んでほしいのです」

「それは、私みたいに?」

「はい」

 頷く。

「え?」

 ぱっと頬が赤くなる。可愛い。

「だったら、呼べるんじゃないの?」

 ぐっと顔を寄せて、その場で足踏みしている。

 いくつか確認する。おっ、おっ。聖女様は、万歳した。

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