第4話 ブラックホール
魔術とは、魔力を扱う技術の総称である。
魔力は、誰しも持ち得ている。ただ、魔力の総量は、生まれに由来することが多い。
また、魔力は基本的に無色である。視認できない。
魔力の素養ある者が体外に放出すると、温かさを感じる。これが厄介で、魔力をやたらめったら出しすぎると、熱中症になってしまう。
「ですから、魔術師の多くは、杖を使います。この宝石に、魔力を溜めるイメージですね。杖は、物理的な武器にもなりますし」
完成したての杖をリコ様に渡す。
「わあ、素敵。試しに、あなたを殴ってみても良い?」
素敵な笑顔で振り返る。
「止めて下さい。あなたが魔力付与した杖で触れられたら、私は即死します」
「ちぇ」
杖をくるくる回すリコ様。長椅子に腰掛け、こちらを見る。
「勇者を召喚するのね」
「そうです」
頷く。気が重くなる。そもそも聖女を先に召喚したのは、勇者召喚を手伝ってもらうためである。
それこそ、魔術師総出で、聖女召喚したのだ。
それなのに、一時、リコ様はその身を隠していた。今だから理解できるが、我々は聖女をまるで売国奴のように罵ったのだ。
暗澹たる想いで、一人の少女を見つめる。
「勇者には、可哀想。でも、仕方ないわ」
この国の人間でもないのに。
「要するに、召喚のための魔方陣というのは、ブラックホールなのね」
「ブラックホール?」
頭を傾けると、手招きされる。
机の上に、クッションを置く。更に、真ん中にりんご一個。
「こうすると、りんごの重みでクッションが歪むでしょう。そして、端にビー玉を置くと…」
もちろん、ビー玉はりんごに引き寄せられる。しばらく、呆けていた。
「どうしたの?」
「リコ様は、時々、賢い」
つまりは、落とし穴なのだ。
「だから、異世界の空間まで歪ませようと思ったら、大量に魔力が要るのね」
リコ様の目を見て、唾を飲む。
「しかし、王命では代用血液を使えと…」
「あなたたち、私を喚ぶのに、三か月かけたのですって」
それはもちろん、魔方陣が大きく複雑であったことも関係している。
「一番の理由は、貧血です。リコ様を喚んでから、まだ間もない。魔術師団にとってもこんな仕打ち…」
突然の舌打ち。顔を上げる。
「だから、それは大丈夫だって。私が相談したいのは、勇者召喚に必要な代用血液のことなの。解った?」
力が抜けて、床に座り込む。
「美味しいお菓子があるのよ。これで、ちびっこは喜ぶはずだわ」
「ああ、ユタカ…」
逃げて。私は、両手に顔を埋めた。
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