第5話 完全犯罪

「お菓子をくれてやるから、いたずらするぞ」

「酷い…」

 嬉々として、ちびっこから吸い出されていく紅い血を見つめる女。残念ながら、聖女リコ様である。

 美味しいお菓子には、眠り薬が仕込まれていた。

 ソファで眠るユタカから、血を抜き取る医師。

「先生、五本!」

「いえ、この子はまだ子供ですよ」

 首を振る医師。

「三本!」

「二本にいたしましょう」

 満足そうに頷くリコ様。

「別に、本人に頼めばいいのに…」

「はあ?」

 私の呟きに、リコ様がつかつかと歩み寄る。

「完全犯罪を成すには、事情を知る人間は少ないほどいいの。ミステリの基本でしょ」

 ぷんすかしている。

「安心しなさい。ちびっこから盗り損ねた分は、あなたから徴収するから」

「まあ、それは良いですけどね」

 頭の中は、「犯罪?」「確かに、犯罪だよなあ」という想いで溢れていた。

 実のところ、代用血液の主たる原材料が、結局、魔術師の血液であることはトップシークレットである。そのため、日々、泣く泣く私は同僚を闇討ちするのである。

「最近、みんながそこらじゅうで寝ていると…。疲れているのかな」

 そう言うユタカもあくびをする。

「大丈夫か」

「聖女様とお茶して緊張したのかな」

 舌を出して笑う。断じて違う。それは、血液を抜かれたせいである。まあ、口が裂けても言えないが。

「さあ、ミカサ。花が摘めた。これで、代用血液ができるんだな」

 笑顔がまぶしい。泣いた。

「えっ、どうした?」

 わたわたしている。

「あっ、そうだ。お菓子! 残り食べるか?」

 ローブのポケットから取り出す。無言で首を振る。そのまま、ユタカを振り切り廊下を走ったのだった。

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