第29話★

 野球部のグラウンド近くにあった倉庫は、先ほどの体育倉庫よりも少し狭かった。ここには野球部が使う大型の器具や、体育の授業ではあまり使わない代物が保管されているようだ。


「あと確認できていないのは、バトンだけだったよね?」

「そうですね。ここにあるといいのですが……」

 俺たちは、バトンを探すため倉庫の奥に入る。

 すると――――――、


 ガタンッ


「「へっ?」」

 互いの声が重なる。

 続いて――――――、


 ガチャリッ


 既視感を覚える不吉な音が響いた。


「もう、今日は野球部の練習がないのに、開けたのは誰だよ。自主練で開けるのはいいとしても、ちゃんと閉めろよな……」

 扉の向こうから声が聞こえる。たしかこの声は、体育の授業を受け持っている佐藤先生のものだ。

 佐藤先生の足音はすぐに遠のいていく。


「ちょ、ちょっと、中に人がいますッッ」

 俺は声を上げて叫んだが、この倉庫の作りからして、倉庫内からの声は壁によく反射するようになっていた。したがって、中からの声が佐藤先生に届くことはない。


「閉じ込められましたね……」

「う、うん……」

 突然の事態に茫然となった。

 しかし、櫻木さんはすぐさま、スカートのポケットからスマホを取り出す。

「メッセージを送って鈴本会長たちに開けてもらいましょうか」

 彼女は自身のスマホをすばやく操作してメッセージを飛ばす。こんな不測の状況に陥っても彼女は冷静に物事を考えていた。さすがは櫻木さんだ。


「ふう、これで少ししたら会長たちがここに来てくれるはずです」

「ありがとう、櫻木さん」

「いえ、ちょっと驚きましたけど、私たちはこのままバトンを探しましょうか?」

「そうだね」

 俺たちは倉庫の中でバトンを再び探し始めた。どうせなら、会長さんたちがここに来るまでに見つけておきたい。幸いにも、ここの倉庫にある木箱の数は少ない。それに、木箱以外には野球部が使う大型の器具ぐらいしかないから、もしあるとすれば木箱の中だろう。


 そして、それから数分。

「あ、桂くん、バトンが見つかりました!」

 倉庫右側を調べていた櫻木さんが声をあげる。

「ほんと⁈」

 俺は中身を漁っていた木箱をもとの位置に戻すと、櫻木さんのもとに駆け寄った。

「はい、これです」

 櫻木さんは両手にバトンを持って、俺に見せてくれる。その手には赤、青、白、緑の四本があった。

「思ったよりも早く見つかって良かったね」

「はい、これでバトンの確認も終わりましたし、すべて確認し終えたことになります」

 櫻木さんは、一覧表に最後のチェックを入れた。

「じゃあ、あとは会長たちが来るのを待つだけか」

 俺たちは、今日の作業が終わり、ほっとする。もうじき、会長さんたちもここにやってくるだろうか。


 しかし、それから一時間以上経っても、会長さんたちはここに来なかった。

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