第28話★
「桂くん、次はゴールテープです。予備を含めて三本ありますか?」
「ゴールテープか……。えーっと、白色のやつで合ってる?」
「はい、そうです」
「うん、三本あるよ」
「わかりました。えっと、ゴールテープはおっけーっと」
櫻木さんがチェックボックスに印を入れる。
放課後、俺と櫻木さんは、体育祭で使用される備品の確認を体育倉庫で行っていた。
櫻木さんが当日使用する備品の一覧表を持っており、俺は櫻木さんが言った備品を探す。見つけたら、必要な数が揃っているか確認して、櫻木さんが一覧表に印をいれる流れになっている。
ちなみに、遼は牧原さんと一緒に体育祭のパンフレットを作成している。会長さんが気を利かせてくれたのだろう。
体育倉庫はかなりきれいに整頓されていた。そのため、目的のものを探すのも案外簡単で、作業は比較的スムーズに進んでいる。
「えーっと、次はリレーのバトンですね。赤、青、白、緑の四本が一セットで、それが二セットあれば大丈夫です」
「わかった。リレーのバトンだね」
手近な木箱の中をゴソゴソと漁る。しかし、そこにはソフトボール用の球が入っていただけだった。この木箱ははずれだったようだ。
次の木箱を見る。すると、四本のバトンが木箱の底から見つかった。そこにあるのは、赤、青、白、緑。櫻木さんに言われた四色が揃っている。
「櫻木さん、四本ともあったよ」
「ありました? えっと、バトンは二セットありますか?」
再び木箱を漁る。しかし、いくら漁ってもバトンはその四本しかなかった。
「いや、この四本だけみたい」
「うーん、他の木箱に入っているのでしょうか? 私も探しますね」
そう言って、櫻木さんもバトン探しに加わった。
それから、数十分後、一度探した木箱も見てみたが、どこにもバトンは見当たらなかった。
「どこにもないな……」
ついさっきまで中身を漁っていた木箱をもとの位置に戻す。
「そうですね……。ここの木箱は全て中身を見ましたし……」
「櫻木さん、バトンは二セットあるんだよね?」
「はい、本番用と予備の二セットありますね。一覧表も見てみますか」
櫻木さんの隣に並び、彼女が持つ一覧表を覗き込むようにして見た。この行動に俺はすぐ後悔することになる。
「たしかに、二セットある……。でも、この体育倉庫は全部見たしな……。ねえ、ここ以外に――――――」
俺は櫻木さんに一つ尋ねようとして、彼女の方に顔を向けた。しかし、その言葉を続けることはできなかった。
俺と櫻木さんは一つの一覧表を互いに覗き込むように見ていた。
つまり、顔を寄せ合って見ていたわけで……
振り返れば、彼女の顔がそれこそ息がかかるほど近くにあった。透き通るような白い肌に、長いまつげ、さらにはほんのり色づいた桜色の唇。間近で見る彼女はさらに綺麗で、なにやらいい匂いまでしてくる。
俺の思考はそこで停止していた。
「ん、どうかしましたか、桂く――――」
その時、櫻木さんもこちらに顔を向けた。
わずかな距離を隔てて櫻木さんと目が合う。
「「~~っっ」」
そこで俺の思考は戻り、瞬時に逆方向を向く。顔がすごくあつい。
「ご、ごめん、櫻木さん……」
「い、いえ、こちらこそ……すみません」
両者、顔を背け合ったまま謝った。
そのため、お互いの顔が赤くなっていることに気がつかない。
「え、えーっと、桂くん、さきほど、な、何か言いかけましたか?」
「あ、ああ。えっと、ここの他に倉庫みたいなところってあるのかなって。ほら、リレーのバトンって体育祭でしか使わないから、もしかしたら他の場所にあるのかもって思って……」
「な、なるほど……。あっ、そういえば野球部のグラウンドの近くにもう一つ倉庫があったと思います。い、行ってみましょうかっ」
「う、うん……」
俺たちは、体育倉庫を後にする。まだ顔に熱がこもっていたため、移動する間、隣を歩く櫻木さんと目を合わせることができなかった。
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