第48話 自宅

 総選挙の最終結果発表が近づいてきたある日、吉川実香が話しかけてきた。


「ねえ、新田君。総選挙はどこで見る?」


 速報の時は学校の協力があったのでパソコン室で見ることが出来たが、最終結果発表は日曜でもあり学校で見ることはできない。


「俺は普通に自分の家で見る予定だけど」


「そっか。そうだよね……」


 吉川は寂しそうな顔をしている。


「吉川は?」


「私も自宅だけど、速報の時にはみんなで見ていて盛り上がったから、1人で見ててもなんか寂しいなって」


 確かに速報の盛り上がりはすごかった。今回はせっかくの最終結果発表だが、1人で喜んでも盛り上がりは今ひとつだろう。


「確かにな。そうだ、じゃあ、うちに来るか?」


「え?」


「ただし、アニキとその彼女と一緒に見ることになるけどな」


「え? お兄さん、彼女いたんだ」


「カップルシートの子だよ。結局付き合いだしたらしい」


「そうなんだ」


 大学のアイドル研究会で知り合った福田夏紀さんとカップルシートでKIP劇場に行っていた兄。最初はただの友達だったが、結局、付き合うことになったと最近聞いた。


「でも、私が行ってもいいの?」


「ああ。アニキの許可が必要だが、まあ大丈夫だろう」


「じゃあ、お邪魔するね」


 こうして、吉川と一緒に総選挙の最終結果を見守ることになった。



◇◇◇



 そして、総選挙当日。


「お邪魔します」


 吉川が家に来た。


「いらっしゃい。さあ、どうぞ」


 テレビがあるリビングに吉川を通す。そこには、兄の聡と、その彼女である福田夏紀がいた。


「やあ、吉川さん。久しぶり!」


「どうも、お久しぶりです。」


「実香ちゃん、久しぶり」


「夏紀さん、どうもです。お二人は付き合い始めたんですよね?」


「アハハ、結局ね」


 あのアニキがリア充になるなんて。爆発しろ!


「いいなあ」


 吉川が言う。


「実香ちゃんだって、カップルシートで行ってるんでしょ?」


「私たちはただの友達です」


「えー」


 そう言って、吉川と夏紀さんはコソコソ話を始めた。


 アニキが俺に言う。


「お前たちって、まだ付き合ってないんだったっけ?」


「まだも何も付き合ってないから。俺はルカっち一筋」


「俺も桃ちゃん一筋だけど、それは推しであって彼女はまた別だろう」


「そりゃそうだけど」


「吉川さんといつも一緒にいるんだし、いけるだろ」


 確かに吉川とは気が合う。一緒に居て楽な存在だが、恋愛的なものとは違う関係だと思う。


「吉川は同志や戦友という感じだからなあ」


 そんな話をしていると、吉川が聞いてきた。


「何の話?」


「あ、いやあ、兄弟の話、かな?」


「ふーん。あ、始まるよ!」


 総選挙の最終結果発表が始まった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る