第47話 久しぶり

 速報最上位になった糸島ルカは忙しさが倍増した。総選挙のKIPの顔として、さまざまなメディアに出まくっている。

 そのため、速報発表以来、ずっと学校に顔を見せることは無かった。


 しかし、速報から一週間後。学校に到着すると春島さんの机に鞄がある。今日は登校してきているようだ。こんなに忙しいのに朝練を欠かさないのか。


 俺は誰にも見られないように注意しながら屋上まで急いだ。もちろん、今日はドアに鍵がかかっている。秘密のノックの合図をすると、吉川が俺を入れてくれた。


「あんまり来ちゃダメだよ。見られてないよね?」


 吉川が言う。


「ああ、気を付けてる」


 屋上には春島さんだけではなく、島田美玲の姿もあった。一緒に練習しているようだ。


「美玲も一緒にやりたいって言って、時々やってるんだ」


「そうか。仲いいな」


「うん。総選挙ではライバルだけどね」


 島田美玲に総選挙では負けられない。だが、同じKIPを支える仲間だ。と同時に、糸島ルカからしたら可愛い後輩でもある。


「もう、ダメだー」


 突然、島田美玲が座り込んだ。


「ルカっちさんも休みましょうよ」


「私はもう少し!」


 糸島ルカは練習を止めない。あきれたように島田美玲はこちらに近づいてきた。


「はぁ。昨日の深夜帰ってきて、朝練はさすがにきついです」


「お疲れ」


「頑張ってるな」


 俺も声を掛ける。


「あ、実香先輩の彼氏さん。お久しぶりです」


「だから、彼氏じゃないって」


「私、お二人より桃ちゃんが言うことを信じてますので」


「「なんでだよ」」


 俺と吉川の声がかぶる。


「息ぴったりですね!」


 美玲がからかうので、俺と吉川はきまずくなって顔をそらした。

 そこに糸島ルカがやってくる。


「二人とも朝からイチャイチャしないで」


「してないから」


「春島さん、お疲れ様」


 俺は久しぶりの春島珠子の姿を見つめる。やっぱり、格好いいし可愛い。唯一無二だ。


「新田君、速報頑張ってくれて、ほんとにありがとう。おかげでめちゃくちゃ忙しいよ」


 それを聞いて美玲が言う。


「ですねー。私とルカっちさんが速報2トップだから、メディア仕事多くなっちゃって。昨日までずっと東京でした。そして、いきなり朝からこのハードレッスンはきついです」


「そう? 昼休みもやるよ」


「えー! 無理です…」


 吉川が心配して言う。


「珠子、今は大事なときなんだから無理はしないで。昼休みはお休みしてね」


「えー!」


 春島さんが不満そうに言う。


「そうだよ、春島さん。ここで怪我したら大変だよ」


 そう言った俺を見て美玲が俺に言う。


「え、『春島さん』って呼んでるんですか!?」


「……そうだけど。クラスメイトだし」


「吉川先輩のことは『吉川』って呼び捨てですね」


 それを聞いて、吉川も「ほんとだ」と気がついた。


「うっ……。俺は春島さんを呼び捨てなんて出来ない。珠子ちゃんとか言うのも変だろ?」


「珠子ちゃん……フフっ」


 春島さんはそれを聞いて笑った。


「なんで私は呼び捨てできるのよ」


 吉川は不満顔だ。


「あー、なんでだろう。不思議だ」


 俺がそう言うと吉川が腕を叩いてきた。ほんと、何でだろう。不思議だ。

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