第38話 情報処理部

 情報処理部。何人部員がいるかは知らないが、うちのクラスにも1人は部員が居ることを俺たちは知っていた。佐藤博さとうひろし。通称:ハカセ。パソコンにとにかく詳しく、情報処理の授業ではみんなお世話になっている。


 翌日の昼休み。俺と吉川はハカセを呼び出していた。


「2人そろって、何のようだ?」


「ハカセ、情報処理部って今何人居る?」


「俺含めて6人だな」


「そうか! 実はな…」


 俺たちは速報の日に糸島ルカへの投票に協力して欲しいということだけを伝えた。


「面白そうだな。俺は技術的にJIP総選挙には少し興味がある」


「ほんとか!」


「それに、お前たちが糸島ルカをいかに熱心に推してるのかも知ってるしな」


「え、知ってたのか」


 それは意外だった。


「あれだけ教室で騒いでればみんな知ってるさ。お前たちの本気度は分かってる。だがな、これは俺個人だけの判断では何とも……。部長に聞いてみないとな」


「そうだよな、部長って誰だっけ」


「2年の山田佐和やまださわ先輩だ。今日の放課後でもパソコン室に来たら会えるはずだ」


「そうか、分かった」


 俺たちは放課後にパソコン室を訪れた。山田佐和先輩は高身長の眼鏡の女性だ。ちょっと恐い感じがする。


「ハカセから事情は聞いたわ」


「すみません、できれば協力してもらえるとありがたいです」


 吉川が交渉担当になった。


「でも、無理ね。理由がないもの」


 やっぱり難しいか。


「なんで私たちが糸島ルカの投票に協力しなければならないの? あなたたちが推してるだけでしょ」


「でも!」


「何? 何か理由があるの?」


 もちろん、俺たちの学校に居るなんて言うことはできなかった。


「あなたたちがただ推してるだけでしょ? 例えば糸島ルカ本人がそれを頼んでくるというのなら、私だって協力してもいいけど……」


 ──糸島ルカ本人。それはできないことはないが、しかし…


「分かりました。本人を連れてくればいいんですね?」


「お、おい!?」


 驚く俺に吉川は目で(大丈夫)と伝えてくる。

 山田部長は驚いているようだ。


「そんなこと、ただのファンであるあなたたちができるわけないでしょ?」


「できるかわかりませんが、努力してみます。その代わり、なぜ糸島ルカ本人がここに来ることができたのか、とか事情は一切聞かないでもらえますか?」


「……それはいいけど」


「他の部員の方もいいですか? その条件で」


 吉川が後ろの方に居る部員たちにも尋ねた。


「そりゃ、いいけど呼べるわけないよ。相手はトップアイドルだぞ」

「テレビにも出てるし、いつも東京に居るんじゃないの?」

「ルカっち本人から頼まれたら全力でやるけど、そもそも無理でしょ」


 それを聞いて吉川は言った。


「もし、来ることが出来たら、です。まだお約束は出来ません」


「やっぱりなあ。期待しないで待ってるよ」


 俺たちはパソコン室を去った。


「吉川、さすがに難しいんじゃないか。正体は明かせないだろう」


「うん、明かせないけど。確か明後日はアレがあったはず……」

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