第37話 作戦開始
次の日から俺たちは作戦を進めていった。まず、糸島ルカ選挙対策本部のWebサイトをペルさんが開設した。そこで、連絡先を公開し、投票作業を代行することを告知した。さらに、さまざまなSNSでこのサイトを宣伝する。ポスターも大量に作り始め、そこからQRコードやリンクで選挙対策本部へ誘導する。サイトの信頼性はダースさんやペルさんが他のルカっち推しにも話してくれていたので問題なかった。少しずつだが投票依頼が来ていた。
あとは速報当日への対策が必要だった。購入したCDを投票担当が投票するのだが、あまりにも量が多い。しかも24時間以内に行う必要がある。ある程度の人数とパソコン、それに場所が必要だった。しかも投票要員は信頼できる人物でなければならない。なぜなら糸島ルカに確実に投票してもらうためだ。見ていない間に違うメンバーに投票するようなやつを入れることはできないから、ネットでおおっぴらには募集できなかった。
東京ではダースさんが投票用の拠点を確保してくれていた。ルカ推し何人かで一気に投票するそうだ。
地元熊本では当然、俺たちが拠点を用意することになる。
「うーん、場所はやっぱりここしかないかな」
放課後の教室で吉川実香が言う。「ここ」とは学校のことだ。
「顧問に頼んでみるしかないか」
「顧問?」
「うん、ダンス部顧問」
「そんなの居たのか」
「そりゃいるでしょ。一応、正式な部活なんだから。じゃあ、行こうか」
「どこに?」
「職員室」
俺たちは放課後に職員室を訪れた。吉川が向かった先は吉田先生だった。俺たちの担任の女性教師だ。
「吉田先生、ちょっとダンス部の件でお話が……」
「わかった。場所移動しようか」
俺は小声で吉川に尋ねる。
「おい、吉川。吉田先生がダンス部顧問なのか?」
「当たり前でしょ。珠子のクラス担任だもん」
「……それもそうか」
吉田先生は全てを知っているということだ。
俺たちは空き教室に入った。
「先生、総選挙の投票開始日に場所が必要なんです」
「ん?なんで?」
俺たちは事情を説明した。
「うーん、深夜までやるのか」
「はい」
「校外の人も入るの?」
「……いえ、投票作業は私たちだけでやるしかないので。校舎には入りません」
「私たちだけって2人?」
「今のところは」
「それじゃ、たいして投票できないでしょ。それにパソコンは?」
「できれば学校のを使えればと」
「ならばパソコン室を使うことになるわね」
「いいんですか?」
「ただし、部活で情報処理部も使うのよね……。そうだ、情報処理部に協力してもらったら? 人手が必要なんでしょ」
「そうですけど、協力してくれますかね」
「それはあなたたち次第ね。交渉してきて」
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