第34話 作戦

 熊本バスセンターの屋上は木々が植えられ、間に水も流れる広々とした空間だ。ここにオープンテラスのカフェがある。テーブルの間隔が広いので、周りに話は聞かれにくい。俺たちは周りに誰も居ない少し離れた場所に座った。


「今日、来ていただいてありがとうございます。DMでもお話ししましたが、要はルカっちを総選挙にランクインさせたい。それだけです。そのためにどんな作戦があるかをみんなで考えたいと」


「うん、それを聞いてルカ大天使様の力になれるなら、と来てみたよ!」


 ペルさんは明るく言った。

 だが、ダースさんは少し暗い表情で言う。


「正直、私は総選挙には興味が無いんです」


「え!?」


「総選挙にお金を使うぐらいなら、ルカっちのグッズを買ったり、遠征に行ったり、そういうお金の使い方をした方が幸せになるんじゃないかと思います」


 これは、人選を誤ったか?


「ですが、みなさんの情熱を見て、もし本気で頑張ったら何か変えられるんじゃなんかと思いました。私も現状には不満がありますので。でも、具体的にどうしたらいいのか、なかなか分かりません」


 やる気は持ってくれたようだが、やっぱり策無しか。


「分からないなりに自分なりの考えをまとめ、企画書の形で持ってきました」


 そう言ってダースさんは資料をみんなに配りだした。これは……


「え、すごいですね!」


「そうですか。こういうのを作るのが本業ですので。広告関係に居れば普通です」


「いや、すごいですよ!」


 その企画書にはさまざまなアイデアが書かれていた。


「少し説明しますね。まず、自分がなぜ総選挙に協力しようとしているかは今話したように、みなさんの情熱を感じたからです。であれば、そのような情熱が他の人にも伝われば協力してくれる人が多くなるのでは、と考えました」


「なるほど」


「そのための策が選挙ポスターです」


「ほう」


 選挙ポスターとは投票を呼びかける画像のことだ。オフィシャルのものもあるが、有志のものもある。


「ですが、それはどこの陣営でもやっていますよね?」


 前回の総選挙でもさまざまな有志のポスターを見た記憶がある。


「はい、そうです。ですが、それをより大規模にやれないかと考えました」


「大規模?」


「そうです。昨年最も多い陣営で30種類のポスターを作っています」


「そんなに?」


「はい。ですが、我々は最低でも100種類。出来れば200種類のポスターを投入できればと思います」


「え!」


 それほどの数があれば確かに注目は浴びるだろう。しかし、どうやって作るのだろうか。


「それだけ作れればいいですが……」


 適当に作るならAIにでもまかせれば作れるだろう。しかし、それでは情熱が伝わらない。俺たちがルカっちを本気で推していることが伝わるもの。それを200種類となると相当な手間だ。


「それなら、まかせて!」


 ペルさんが声を出した。


「私一人では難しいけど、絵師仲間にもルカっち推しはいるから。何人かで手分けすればいけるかも」


「そ、そうか。助かる」


「でも、ポスターのアイデアも出してよ」


「そうだな。できるだけ考えて送るよ」


 これは行ける。初めて手応えを感じてきた。

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