第四章 作戦

第32話 握手会

 今日はKIP初の握手会だ。場所は熊本城アリーナ。いつものKIP劇場の併設施設だ。ここの大ホールで行われる。会場にはすでに多くのファンが押し寄せていた。


 俺は奥山正樹と共に会場に到着。まずは糸島ルカのブースに並ぶ。糸島ルカの握手券を俺は20枚購入することが出来た。計140秒。結構話せることになる。奥山も数枚は糸島ルカを買っている。それ以外にも幅広く買っているようだ。既に長くなっているルカっちの握手待機列に並ぼうとすると、そこに吉川実香が並んでいた。


「2人とも遅いよ」


「早いな」


「鍵開けしようと思ってね」


「鍵開け?」


「先頭に並ぶことだよ。いの一番」


「あー、でも遅かったみたいだな」


「うん。3番目!」


 前には2人のファンが既に並んでいた。先頭のいわゆる鍵開けは背が低めの少女。うちわやグッズなどルカっちのものでフル装備の見ただけで分かるガチオタだ。2人目は社会人か。結構年齢は高めの男性だった。ルカっちの待機列はやや年齢高めの男性が多い。女性もある程度居る。若い男性は少なめか。


 他のメンバーの列を見てみると、後藤桃の列の長さが圧倒的だ。若い男性がずらりと並んでいる。あざとかわいさにやられたか。二期生の方の列を見ると現センターの島田美玲の列の長さはそうでもないようだ。むしろ、もう一人の2期生選抜メンバー浅田あさだえりの方が長い。この2人はライバルという感じなのだろうか。


 そんなことを考えていると、握手の順番がまわってきた。まずは2枚出して、挨拶からだ。


「2枚でーす」


 係員の声が響き、俺はルカっちの前に立ち握手する。春島珠子ではない糸島ルカがすぐそこに居た。


「ルカっち、来たよ!」


「……ありがとう」


 いつもの学校の春島さんと同じ感じで答えられてしまった。


「なんで、そっちのモード?」


「アハハ、今はルカっちだったね」


 そう言って笑う。ルカっちの輝きだ。


「ま、まぶしい」


 俺は糸島ルカのアイドルの輝きを間近で受けて、あまりのまぶしさに目を細めた。


「何それ。いつもありがとうね」


「うん、今日は何回か来るからね」


「待ってるね!」


 2枚の時間はあっという間だ。係員の「時間でーす」の声と共に俺は追いやられた。


 それにしてもやばい、春島さん。じゃなかったルカっちの輝き、やばすぎる!


 俺はその後、吉川実香のところに合流する。


「どうだった?」


「いやー、天使だった」


「でしょー」


 なぜか吉川がドヤ顔である。


 今度はちょっと長く話したいと思い4枚出しで行ってみた。


「ルカっち、学校で困ってることない?」


「学校でかー。まあ、いろいろ困ってるよね」


「え、そうなの?」


「うん、素を出せないし」


「それは、仕方ないね」


「放課後に遊べないし」


「すぐ公演あるからね」


「授業もついて行けてない」


「休み多いしね。でも、友達にノートは取ってもらったりとかはあるんだよね」


 吉川が春山さんにノートを渡しているのを何回か見たことがあった。


「うん。でも、あの友達も実はそんなに成績が……」


「あ、そうなの?」


 吉川は優等生っぽく見えるけど意外だ。


「これ内緒ね」


「うん、分かった。俺は勉強得意だからさ。なんとかできないか考えてみる」


「いいの?」


「任せて」


「ありがとう」


「時間でーす」


 吉川実香と再び合流した俺は相談してみた。


「授業のノートとかさ、分担できたらいいな」


 何のためとは言わなくても吉川には伝わる。


「え、協力してくれるの?」


「俺で良ければ」


「新田君の成績は?」


「一応一桁順位はキープしてる。吉川は?」


「内緒。じゃあ、できるだけまかせたい。もちろん、わたしもがんばるけど」


「よし、任せておけ」


 その後、お昼になり、俺は昼食を取るため奥山と合流した。握手会場には多数の売店も出ており、食事には困らない。俺たちは熊本名物の味戦ラーメンのブースに行くことにした。


「奥山、いろいろまわったんだろ。どうだった?」


「いやー、やっぱりKIPは個性の宝庫だな。後藤桃は上目遣いでかわいいし、千島夕子はお姉さんって感じ。露木アンは元気出し声でかいし面白い。保田暁美はクールビューティーだな」


「いろいろ行ってるな」


「でも、驚いたのは二期生の島田美玲だな。ありゃ、コミュ力お化けだ」


「コミュ力お化け?」


「うん、最初からグイグイ来る。すごいぞ。人気出るな、ありゃ」


「さすが、センターだな」


「うん。それにしても、ルカっちさあ……」


「ん、ルカっちがどうした?」


「俺とお前との扱い違わないか?」


「え!? 何がだよ」


 思わず冷や汗が出る。まさか、ばれていないだろうな。


「いや、俺には敬語なんだけど、お前とはタメ口みたいだったからさ」


 奥山は俺の後ろに居たから会話が聞こえていたようだ。


「あー、何でだろうな。ハハ。親しみやすかった? なめられてるかも」


「あー、そうかもな」


 ルカっち、他の人とは敬語で話してたのか。



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