第30話 嵐

 今までセンターで支えてきた糸島ルカでも総選挙ランクインの後藤桃でもなく、まさかの二期生がセンターという事態に当然、ネットは荒れた。

 だが、公式サイトで糸島ルカのメッセージが公開されるとその嵐も次第に収まっていった。


─────

 こんばんは。糸島ルカです。

 デビュー曲のMV見てくれたかな? 私もハッピーな気持ちで見ていたよ!


 いろいろ思うところがある人もいると思うけど、どこにいても私は私だから。

 心配してくれてありがとう。


 私はKIPが大好き。その気持ちでは誰にも負けないから。必ずKIPを成功させたいんだ。

 だから、みんなも引き続き、応援よろしくね!

─────


 俺は自分の気持ちを落ち着けようと、ネットの声を深夜まで見ていたが、そこに吉川実香からのLINEが届いた。


「明日、朝。例の教室にダンス部集合」


◇◇◇


 俺が例の空き教室に駆けつけると、そこに吉川実香が一人で来た。


「春島さんは?」


「屋上でいつもの朝練。このあと来るから」


「そうか……。しかし、どうなってるんだ。おかしいだろ、KIPは。正直頭にきてるよ」


「うん、もちろん私もそうだけど、その気持ちは珠子にぶつけないであげて」


「分かってる。分かってるけど……」


「いちばん悔しいのは珠子だし。でも、もう乗り越えてるって言ってた。前向いてるからって」


「そうか……。悪いな、何も言われなかったら直接いろいろ言ってしまうところだった」


「うん。でも、奥山君は珠子がルカって知らないからいろいろ言っちゃうかもね」


「だな……」


 そんな話をしてると、春島さんが入ってきた。


「春島さん……」


「新田君、期待に応えられなくてごめんね」


「待ってくれ、春島さんが謝ることじゃない」


「……だけどね、すごくいい曲、すごくいいMVなんだ。私も気に入ってる」


 春島珠子は笑顔だった。


「俺はどんなことがあっても春島さん……ルカっちを応援してるから」


「ありがとう。私は大丈夫。負けないから」


「そっか。ハハ、強いな。春島さんは」


「うん。ルカっちはいつもハッピーだよ。じゃあね」


 そう言って春島珠子は出て行った。

 残った吉川が言う。


「強がってるのが見えちゃってるけど、何も言わないであげてね」


「俺はいいが、奥山がなあ。まあ、何とかするか」


 自分たちの教室に戻るともう奥山が来ていた。春島さんは席に着いている。


「おい! 新田! 見たかよ、昨日のMV、ショックだよなあ。なんでルカっちがセンターじゃないんだよ。おかしいだろ」


 奥山が大声で言い出した。


「うるせーな、朝から」


「なんでだよ。お前もショックじゃないのかよ。俺、頭にきてさあ、もう応援止めようかと思うぐらいなんだけど」


「そんなこと言うなよ。俺もショックだったけどもう切り替えたよ。やっぱりKIPを応援する。そして、ルカっちを応援する。絶対、総選挙にランクインさせる」


「そうかあ、お前がそう言うならそうするけどさあ」


「それに、ランクインすれば状況は変わるから」


「まあ、そうだな。総選挙で勝ってポジションを勝ち取ったメンバーはいままでも多いからな」


「ああ、気合いが入ったよ。絶対俺たちの力で変えてみせるから」


 俺は春島さんに聞こえるように、話していた。

 もちろん、春島さんは何も反応していない。だが、必ず聞こえているはずだ。


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