第29話 発表
春島珠子が東京から戻り、再び登校するようになった日、俺は何か違和感を感じていた。
学校ではいつも陰キャの春島さんだが、いつにもまして何か暗さを感じる。そこにはキャラを作っている以上のものを感じた。
「何か元気が無いのよね。でも、何も言ってくれないし…。外部に言えないことがあるってのは理解してるけど」
吉川もわからないようだった。
だが、次第に春島さんは普段通りになり、公演での糸島ルカはいつもと同じようにハッピーオーラ全開だった。
気のせいだったのかもしれない。
そして、3週間ほどたったある日の早朝。KIPの公式SNSで今夜KIPデビュー曲のMV公開があることが発表された。
その日の学校に登校してすぐ、前の席の春島さんに小声で言った。
「今夜公開だな」
「うん、楽しみにしててね」
春島さんは小声で答えた。うん、いい反応だ。俺はMVを心待ちにしていた。だが、昼休みの吉川の反応は少し違っていた。
「何か悪い予感がする……」
「そうか? はる……ルカっちはすごく楽しみにしているようだったぞ」
「そうだけど。MV撮影直後って、何か元気無さそうじゃなかった?」
「ああ、そういえばそうだったな」
「デビュー曲に関係したことじゃなければいいんだけど」
「不吉なこと言うなよ。それに、元気がなくなることって何だ?なんかひどい曲だったとか?」
KIPは全体的にアイドル色が濃いアイドルだ。できれば可愛らしい曲がデビュー曲には合っていると思う。これがコミカルソングだったりしたら俺も多少がっかりするだろうが、それでも応援することは変わらない。
「そういうのならいいんだけど。ポジションとかね……」
「え!?」
考えてもみなかった。糸島ルカはKIPのセンターだ。それは最初からずっとそうだ。だったら……
「後藤桃とダブルセンターとかか?」
「うーん……」
それでもいいと思う。いまや、このグループを代表する2人だ。
「気のせいかもしれないし、夜を待とうか」
そこに春島さんが帰ってきた。俺たちは口をつぐんだ。
◇◇◇
──その夜、ついにデビュー曲「アルエットの初恋」のMVが公開された。
そこでセンターに居たのは二期生の島田美玲だった。
その後列で糸島ルカと後藤桃が踊っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます