第28話 レコーディング
私、後藤桃はKIPのメンバーとして唯一のJIP総選挙ランクインを果たした。その後は、メディア露出も増え、今では糸島ルカと共にKIPを代表するメンバーになっている。
今日はいよいよデビュー曲のレコーディングだ。ポジションもこのとき明らかになる。十中八九、センターはルカっちだろうけど、私のチャンスもあると思っていた。もしかして、ダブルセンターになるかも。
レコーディングブースがある施設にシングル選抜メンバー全員が集合した。このメンバーは一期生が6名、二期生が2名だ。二期生には注目の島田美玲もいる。普通に考えたら美玲は後列だが、高森プロデューサーはかなり評価しているらしいし、3番手、4番手もあるかもしれない。下手したら私のポジションよりいい可能性もある。シングルのポジションについては劇場支配人ではなく、高森プロデューサーとレコード会社が決定するらしいから、不安はある。
メンバーの前に渡辺支配人が現れた。いよいよだ。
「デビュー曲『アルエットの初恋』のセンターは…」
ルカっちかそれとも私か……
「島田にやってもらう」
「え!?」
あまりのサプライズにメンバー全員に衝撃が走った。
「……わかりました」
島田美玲は驚いたようだがすぐに受け入れたようだ。だが、一期生たちは納得できないようだ。ルカっちは下を向いたままだ。
「その後列に、糸島と後藤だ。後は……」
私がルカっちと並んで2列目になった。
早速、レコーディングが開始されたがルカっちの姿が無い。マネージャに別室に連れられていったようだ。
レコーディングが進んでいき、私の番になった。マイクの前で歌おうとする。が……
「ぁ……ぁ……」
声が出ない。どうして。さっきまで普通に出ていた声が出なくなっていた。ストレスで声が出なくなることがあるのは知っていたが、私はそこまでショックを受けていたのだろうか。
私は後回しになり、他のメンバーのレコーディングが続いていく。
ルカっちが帰ってきて私の隣に座った。私は何を言っていいか分からない。
(ルカっち、ショックだろうな)
ルカっちはKIP結成以降、ずっとセンターでグループを引っ張ってくれた。ようやく、デビューというのにここでセンターを下ろされてしまったのだ。
ふと、ルカっちを見ると、やっぱり涙の跡が隠せていなかった。
私が見ていることに気がついたのか、ルカっちが私を見て言った。
「いよいよデビューだね。私と桃で美玲ちゃん支えよ!」
笑顔だった。私はうなずくことしか出来なかった。
強いな、私は割り切れないよ。でも、ルカっちが切り替えている以上、私も頑張るしかなかった。
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