第27話 キャラクター

 衝撃の事実から、数日が経った。だが、俺たちの関係に大きな変化は見られなかった。


 公演翌日の朝には「昨日はお疲れ様」と他の人には聞かれないように春島さんに声を掛けるぐらいだ。もっとも、春島さんは下を向いたまま「うん」と小声で答えるだけだ。


 ただ、どうしても気になることがあった。それは、糸島ルカと春島珠子のキャラが全く違うことだ。確かに背格好は同じだし、マスクと眼鏡を外せば糸島ルカだ。しかし、ルカっちはハッピーオーラ全開の言わば陽キャ。それに対し、春島珠子は声をあまり出せないことは仕方ないにしても普段はあまりにも陰の者という感じがする。


 糸島ルカというアイドルは作り込まれた幻想のキャラクターということだろうか。誰にも聞かれないようにして吉川実香に聞いてみた。


「実はね……ルカの方が素のキャラクターなんだ」


「え?」


「びっくりした? 教室の春島珠子が作られたキャラクター。すごいでしょ」


「じゃあ、もともと春島さんはルカっちのようなキャラなのか」


「うん。中学時代はもちろん、珠子は教室でも明るかったよ。ウザイくらい。でも、それって反感も買いやすくてね。いろいろあったんだ」


「そうか……」


「だから、アイドルにならなかったとしても、高校では今の珠子のキャラになってたかもね」


「……いつか、素を出せるといいな。だが、同じ中学の子はここにはいないのか?」


「いないね。糸島ルカが天草出身って知ってるでしょ?」


 天草はこの学校からはかなり遠い。


「そう言えば公演でも言ってたな」


「うん、だから大丈夫」


 ある日の放課後、春島さんと一緒に帰ろうとする吉川実香が俺に小声で話す。


「珠子、今日から3日間学校お休みするんだ」


「え?」


「……東京で仕事」


「そうか」


「デビュー曲のレコーディングとMV撮影だって。内緒だよ」


「そうか、頑張ってな」


「うん」


 直接空港に向かうそうで、吉川実香と春島珠子は教室を出て行った。


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