第26話 空き教室
衝撃の光景を見た俺は午前中の授業はまともに頭に入ってこなかった。
そして、昼休み。急いであの空き教室に向かう。
少し待つと、吉川実香と春島珠子がやってきた。
「新田君……」
吉川が話し出す。
「屋上で見て、もうばれちゃったよね。うん、その通りだよ。ルカの正体は珠子なんだ。黙っててごめんね」
「やっぱり……」
そうだと分かっていても、やはり驚きは隠せない。
春島さんは眼鏡とマスクを外した。
「今まで秘密にしていてごめんなさい!」
春島さんは勢いよく頭を下げる。
「い、い、いやー、俺も知らないとはいえ、近くで好き勝手言ってごめん。全然気がつかなくて」
「いえ、私こそ。応援してくれているのに何も言わないで……」
そういう春島さんを見ると、どう見ても糸島ルカだし、声もそのままなのが、やっぱり何か信じられない。
「それでね……」
吉川が話し出す。
「珠子がルカだってこと、秘密にしておいて欲しいんだ。大事な時期だし、騒ぎになるのはね……。勝手なこと言ってると思うけど……」
「もちろん、言うわけ無い。俺はいつだってルカっちの味方だって吉川も知ってるだろ」
本人を目の前にして言うのはすごく恥ずかしい。もう春島さんの顔は見れなかった。
「新田君。いつも応援ありがとうね。言えなかったけどずっと感謝してた」
春島さんの言葉に俺は舞い上がった。
「お、俺は……好きでやってるだけだから。好きってそういう意味じゃ無くて。いや、そういう意味でもあるんだけど……」
「フフ、分かってる」
吉川がフォローしてくれる。
「じゃあ、吉川がルカっち推しなのは……」
「そう。珠子の幼なじみだから」
「お、おさななじみ……」
「うん。でも、それだけじゃないよ。私がアイドル・糸島ルカに魅了されたから。言ったでしょ。私は自称ファン1号なんだから」
「そ、そうか……」
少し事実を受け入れてきた。そういうことだったのか。
「……春島さん」
「?」
「俺、すごく応援してるから。もう知ってると思うけど……とにかく、すごく応援してる!」
「う、うん……ありがとう」
「その……できればさ。これからはちょっと話してもいいかな」
「え!?」
春島さんは驚いて吉川の方を見た。
「うーん、ダメとは言わないけど、必要最低限ね。もちろん、他の人に聞かれないようにしてよ。声で分かっちゃうから。それに珠子、ルカじゃなくて珠子としてしゃべってね」
「わかってるよ」
春島さんが吉川に言うのを見て思った。
「まるで、マネージャ、いや、お母さんだな」
「だよね」
「なんでよ。同い年よ!」
吉川が怒る。
「そっか。でも、吉川と春島さんの関係、すごくいいと思うぞ。それに、俺はルカっち推しでもあるが、春島さん推しでもあるからなあ」
「え!?」
「今まで以上に全力で推す! 困ったことがあったら何でも相談してくれ!」
「う、うん」
「張り切りすぎてバレないようにね。大変なんだから」
そういえば、なんで春島さんは屋上で踊ってたんだろうか。疑問に思い聞いてみた。
「私たちのデビューが決まったからもっと実力付けないとと思って、朝練してたんだ」
「いつも私も一緒だったんだけど、今日は忘れ物で遅れちゃって…。鍵はいつも私が管理してるから」
吉川さんが頭をかきながら答える。
「屋上の鍵を借りられたのか」
「学校側はもちろん珠子の正体を知ってるのよ。KIPと全面協力体制にあるの。だって、これからKIPのメンバーが増えていくし、この学校でも受け入れる予定だからね。だから、授業休んだりとか、練習場所とか、いろいろ融通きかせてくれるんだ。もちろん、先生全員が知ってるわけじゃないけどね。だからダンス部を隠れ蓑にしてるの。部員は私と珠子だけの部活」
「そうだったのか……。確かに二期生は中三が多いし、4月になったらうちに入学してくるのかもな」
「たぶんね。だから珠子はその最初のケース。いろいろ試行錯誤中。秘密で通す作戦は早速失敗しちゃったけど」
「ご、ごめん」
「でも、生徒側でも何人かは知っていた方がスムーズにいくんじゃないかなって私は思ってたんだ。というわけで、新田君。君も今日からダンス部に入部ね!」
吉川実香のウインクに俺は呆然とした。
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