第25話 珠子とルカ

(どうしよう……。新田君に私が糸島ルカってばれちゃった)


 パニックになった私は階段を駆け下り、廊下をどこへともなく走る。


「あ、珠子?」


 すると、そこに吉川実香が登校してきた。私は立ち止まり、抱きつく。


「どうしたの? 眼鏡とマスクは?」


 私は慌ててポケットから眼鏡とマスクを出し、付けた。そして、実香を誰も居ない空き教室へ引っ張っていく。


「新田君に……見られちゃった」


「え!?」


「屋上で練習してたら……急に来ちゃって。鍵かけ忘れてたみたい。どうしよう!!」


「そっか……。でも、まあ、いい機会じゃん」


「!?」


 あっさり答えた実香を私は驚いて見る。


「別にみんなにばれたわけじゃないし。新田君なら口止めしておけば大丈夫だよ。あれだけルカにハマってるんだから。絶対、珠子の味方になってくれる」


 確かに新田君が言いふらすとは考えられない。けど……今までいろんなことを隠して、そばで黙って聞いてきた罪悪感はある。これは謝るしか無い。


「昼休みに時間作ってもらおう。いいね?」


「うん」


 そのまま2人で空き教室を出た。そこに新田君が現れる。私を探していたようだ。


「あ、新田君!」


 実香が呼び止める。


「吉川……。なあ、春島さんって…」


 私は実香の後ろに隠れてしまった。


「そのことは昼休みに話そう。この空き教室に来て。それまでさっき見たことは誰にも言わないでくれるかな」


 新田君はうなづいて、教室へと帰っていった。


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